「幸せにできるっていう根拠がないと、付き合っちゃいけないのか?」
「は?」
「第一、お前はじゃあこれまでそんなふうに考えながら付き合って来たのか? ……あんなホイホイ遊んでたクセによく言うよ」
 ぐ。
 痛いところを突かれて、思わず口がへの字に曲がる。
 確かに、これまで付き合ってきた相手にはそういう考えをしなかったような気がしないでもない。
 だが、今回だけは別だ。
 なんつっても、相手はあの葉月なんだから。
「それに、お前じゃダメだってなんで決め付けるんだ? 小さいころからお前を見てきた彼女が、それでもやっぱりお前がいいって選んだんだろ?」
「……それは……」
「第一、ダメかどうかは彼女が決めることだ。お前じゃない」
 きっぱりと告げられ、二も句も継げなかった。
 確かに、正論といえば正論かもしれない。

 『一度だってお兄ちゃんみたいに思ったことはないよ』

 先日の葉月の言葉が、頭に響く。
 けど、それは……それは、恋愛感情云々から来るものだったのか?
 祐恭が言う通り、俺にとってアイツは妹みたいだったが、アイツにとっての俺は……違ったってことか。
 アイツは、俺を小さいころからずっと知っている。
 それを踏まえた上で好きになったのであれば、俺が言うことは何もない……なんて、言うのは簡単。
 だが、肝心の俺の気持ちはそうもいかない。

「俺は、アイツをそういう対象に見たことない」

 それが正直なところ。
 俺にとって、葉月は葉月だった。
 ずっと自分のそばにいたし、妹みたいだったし。
 いくら血の繋がりはないと言っても、女として見たことなんて一度たりともなかった。
 だからこそ、まさかアイツが俺を好きだなんて思いもしなかったし、こうしていざ聞いてみても、それ以上の気持ちは俺にない。
 ……葉月を傷つけるのは、正直御免だ。
 だが、嘘をついてまで応えたところで、アイツが幸せになるとは思えない。
 アイツは、昔から人の気持ちや雰囲気を敏感に察してきた。
 だからこそ、嘘なんてつけばすぐにわかるだろう。
「じゃあ、ちゃんと断れよ」
「……わーってるよ」
「中途半端が、1番卑怯で1番酷だからな」
「だから、わかってるっつの!」
 ジト目で同じことを繰り返され、しっしと払うように手を振ると同時にため息が漏れる。
 断る、とはいえ。
 この場合は、俺にはどうしようもない。
 ……そうだろ?
 葉月は、俺の返事を待っているわけでもなんでもないんだから。
「……葉月は、俺のことをもう従兄として見てるはずだ」
「は?」
「いや、その……なんだ。葉月は、もう俺のことをそういうふうに見てないと思うんだよ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「アイツの、俺に対する態度、だな」
「……態度?」
「ああ」
 てっきり祐恭が好きなんだと思っていたクリスマスから今日までの間、葉月は俺に対して特に変わった様子を見せなかった。
 いつもと同じ姿。
 ……いつもというか……昔と同じというか……。
 だから、きっと葉月はすでにカタをつけたんだと思う。
 自分自身の中で折り合いをつけたんじゃないのか。
「あ、そう」
 それだけ言うと、珍しくそれ以上は何も言わず祐恭が椅子にもたれた。
「…………」
「…………」
 痛い、沈黙。
 ……を先に破ったのは、俺。
「ンだよ」
「いや、別に。お前がそう言うなら、俺はもう何も言わない」
「……あっそ」
 肩をすくめてから立ち上がった祐恭に、ジト目を送る。
 ……たく。
 いきなり態度変えるな。わけわかんねぇ。
「あ?」
 同じく立ち上がると、こちらへ背を向けた祐恭が振り返り、俺に向かって人差し指を立てた。
 眉を寄せるものの、浮かべているのはやっぱり性格の悪そうな口元だけの笑みで。
「手に入らないってわかると、人間は余計欲しくなるんだぞ」
「……は?」
「ひとつだけ忠告しといてやる」
「あ……おい!? ちょ、待てよ!!」
「じゃあな」
「おい! 祐恭!!」
 つい、ここにあった椅子を蹴飛ばしかけ、大きく音が立った。
 が、『早く帰りたい』とぬかしたこともあってか、祐恭は言うだけ言うと俺を振り返らずに駐車場へ向かう。
「は……ァ?」
 手に入らないって……葉月のことか?
 いや、だから。
 俺はアイツをそんなふうに見てねーし!
 ……ワケわかんねぇ。
 つか、アイツ何様のつもりだ。
「…………」
 謎が解けたような気もするが、逆に謎が謎のまま残ったようにも思う。
 とはいえ、いつまでもここで時間をつぶしてるわけにもいかず。
「……はぁ」
 仕方なく店を出てから、祐恭と同じく駐車場へ。
 ふと左手首を見ると、そこには葉月がくれた時計が遅れることなく時を刻んでいた。
 20時すぎ。
 これから帰って、メシを食って……あとは、とっとと寝るか。
 ……なんかな。
 結局アイツ、なんの役にも立ってねーじゃねーか……相談した俺が馬鹿だったのかもしれない。
 車の鍵を開けると同時に、なんとも言えない気分からまたため息が漏れた。

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