「はー……まどろっこしい」
「っ……」
 ベルトを外した彼が、スラックスとともに下着を脱いだ。
 それこそ、目の前で。
 まったく気にすることなく目についてしまい、かえってこちらが慌てる。
「た……っ……」
「ンだよ」
「だ、だって……もう……っ」
 ベッドの棚に手を伸ばした彼は、いつもそうするように小袋の封を切った。
 躊躇なく中身をあてがい……ってもう。
 照度は低いけれどしっかりわかる光量だから、どれもこれも目に残ってしまう。
 かぁっと、顔だけじゃなく身体まで赤くなってるんじゃないかな。
 見てしまった顔を慌てて逸らすも、たーくんはあえてそうするかのように私の顎を片手で押さえた。
「……や……恥ずかしい……」
「何言ってんだお前。今何してンのか、わかってんだろ?」
「っ……それは……そう、なんだけど……」
 だからといって、何も見せたりしなくてもいいと思うよ?
 ……もう、どうしたらいいのかよくわからない。
「んっ……」
 切っ先がひだをなぞり、腰に両手を当てた彼が身体を引き寄せた。
 これまでこんな明るい場所で手を伸ばされたことはなく、電気がない部屋でばかりだったから、影でしかわからなかった。
 ……なのに……。
「…………」
 形も、色も。
 何もかもがダイレクトに頭に飛び込んできて、思わず喉が動いた。
 ……そう。
 今、私……たーくんと、えっちなことしてるんだよね。
 自覚するとさらにどくどくと鼓動が鳴って、少しだけ息苦しかった。
「ん、ぁあ……!」
 身体を貫かれるかのように彼自身が這入って来て、秘部が締めつけた。
 ゆっくり、ゆっくり。
 まるでじわじわと切りひらくかのように挿入され、ひくりと身体の中がうずく。
「……っん……」
 欲しがる顔、ってそういうことなんだとわかったのはいつだっただろう。
 うっすら唇を開いた彼に口づけられ、同時に身体のあちこちを撫でられる。
 気持ちいいのが止まらなくて、どこもかしこも……もう、おかしくなりそう。
 わずかに秘所がひくついた気がして、一層恥ずかしくなった。
「ふ、んぁっ……! あ、あっ……!!」
 突き上げるように刺激され、びくりと身体が震える。
 胸を刺激するように大きな手のひらが動き、繋がったそこは濡れた音を大きく響かせる。
 身体いっぱいに広がる、快感。
 たーくんの動きに合わせて濡れた音が嫌でも大きく響き、声にならない声が漏れた。
「だめ……っ……も、っ……あ……あ……ん!」
「ダメじゃねぇだろ。……すげ。吸いつきヤベぇな」
「あ、あっ……んん、たーくっ……たぁ、く……んんっ!」
「すっげぇ気持ちいい……つか、えろい」
「っ……も、やだ……」
 律動を送られるたび、胸が大きく揺れる。
 口角を上げて両手でわしづかまれ、指先が先端を躊躇なく責め上げる。
 もう……おかしくなっちゃう。
 しどけなく声は漏れて、快感が全身を震わせて。
「っ……」
「……く……すげぇ」
 だけどそれ以上に、目の前の彼が見せる表情がとても淫らで、身体の奥が震える。
 気持ちいいの。とっても。
 私以上に気持ちよくなってほしくて、伝わればいいなと無意識から腕に触れると、力が入っているせいか、いかにも男の人のたくましさがあった。
「んんっ! ……あっぁ、あっ……!」
 貪るように胸の先端を舐められ、舌で転がされる。
 ちゅ、と濡れた音が耳について、離れない。
 ……だって、そこだけじゃないんだもん。
 こんな、えっちな音を立てているのは。
「やぁあっ……ん、だめ……ぇ……おかしくなっちゃ……!」
「どうせなら、もっと欲しがれ」
「あ、あっ……! ん、んんっ……はぁ、ん……!」
 目を閉じると、たちまち悦が大きくなる。
 たーくんの声が耳に届くだけで、胸の奥が震えて。
 もう……本当に、どうにかなってしまいそう。
 たちまち悦が大きくなり、しどけなく声が漏れる。
 ……どうしたらいいの?
 気持ちよくて頭がくらくらする。
 身体の奥がじんじんして、苦しいくらい気持ちよくて。
「っ……ん、あっ……あぁっ……! たーくっ……ん、ん……!」
「……は……あー、ヤバい。すげぇイイ」
 角度が変わり、より一層深くまで刺激された。
 秘所の音は卑猥なほどで、音と比例するかのように快感も強くなる。
 首へ腕を絡めると、たーくんはそのまま耳たぶへ口づけた。
 首筋をきつく吸われ、ぴりりと肌が震える。
 でも、距離が縮まって角度が変わった分、また嬌声が漏れた。
「ひゃ、あ、あっ……! あ、ああっ……いっ……ちゃ……」
 胸と、秘部と。
 身体の全身をくまなく撫でるように刺激され、薄っすら涙が滲んだ。
 我慢しようにもできないほどの快感に、息が上がる。
 だけど、どこかで『もっと』とねだる自分がいるような気がして、それが恥ずかしくて。
 ふるふる首を横に振ると、たーくんの髪が肌に当たり、それにさえ感じているような気がした。
「ッ……あっ! だめ、いっちゃ……! んん、たーくっ……!! あぁあっ……!!」
 ぎゅうっと彼にしがみ付くようにした途端、まぶたに白い光が見えた。
 途端に背中が粟立ち、びくびくと淫らに秘所が彼を締め付ける。
「きゃぅ……っ……あ、んぁあっ……!!」
 それでもなお身体を揺さぶる彼に、たまらず首を振る。
「も……だめぇ……っ……」
「……よかったんだろ?」
「ん……気持ちよかった、の……」
 ばくばくとうるさい鼓動は、こうしているときっと伝わっているだろう。
 指先で目尻を拭い、惚けた顔でたーくんを見る。
 こくん、と素直にうなずいてしまう自分は、いったいどこから来たんだろう。
 さっきまでは、恥ずかしくて恥ずかしくて、たまらなかったのに。
「っ!! だめっ……いっ……! ……んあっ」
 ようやく落ち着き始めた身体を、再びたーくんが揺さぶり始め、たまらず眉が寄った。
 びくびくと秘部がひくつき、強すぎる痛いような悦が急速に広がる。
「……すげぇ音」
「っ……や、ぁ……」
 さっきまでと比にならないような、淫靡な音をわざと響かせながら、彼が笑った。
 まっすぐ私の目を見て、そらせないように頬に手を当てて。
 本当にもう、なんて人なんだろう。
 楽しそうに笑われ、だけど……嫌じゃなくて。
 もう。ずるい。
「っ……ん……」
 目を見たまま口づけられ、胸の奥がじんわり特別な気持ちでいっぱいになる。
「……も少し付き合え」
「あ、っ……んっ!」
 わずかに掠れた声で囁いてすぐ、唇が塞がれた。
 歯列をなぞるように舌が動き、絡め取られる。
 ふ、と漏れた短い吐息すら、なんだかいつもとまるで違うような気がして。
 ……もう。本当にいけない人なんだから。
 これ以上されたら身体がおかしくなってしまいそうなのに……離れたくない気持ちのほうが強くて、本当におかしくなってしまったのかもしれない。
「は、ぁっ……ふ……んんっ……ぁ、あっ……!」
 ようやく静かになり始めた身体が、再び熱を帯びる。
 さっきまでとは、まるで違う感じ。
 悦の広がり方が一気に身体全体を包んで、足までも震える。
「……く……っ……」
「あぁっ……あ、あっ……!」
 苦しげに漏れた彼の声が、一層私を煽り立てているように思えて。
 中にある彼自身の動きを感じながら、迫り来る快感の波にもう1度飲み込まれそうになった。

「……ふ」
「眠そうだな」
「ん……どうしてたーくんは平気なの?」
「体力の差だろ」
 家に着いたときは、いつも寝るのとほぼ同じ時間になっていて。
 手を引かれながら外階段を上がるも、なんだかいつもよりずっと身体が重たく感じる。
 夕方、この服に着替えるために戻ったときとは違って、外灯だけでなくリビングの明かりもついている。
 もう、伯父さんも伯母さんも帰ってきてるんだ。
 んー……あいさつしたら、寝ちゃいそう。
 玄関の前に立った彼に並ぶも、小さなあくびが漏れて目は閉じそうになった。
「やっぱ風呂入っとけばよかったんじゃねぇの」
「っ……だって……」
 いたずらっぽく笑われ、驚きから少しだけ目が醒めた。
 ……もう。意地悪。
 あのあと、たーくんはシャワーを済ませたけれど、私はどうしようか悩んで結局動けなかった。
 だって、『入ってこい』って言うんだよ?
 もう。そんなふうに言われたら、どきどきするじゃない。
 本気かどうか考えているうちに時間が経ってしまい、だけどどんな顔で入ればいいかわからなくて、結局お風呂を覗いたらちょうど出てくるところだった。
 残念な気持ちが半分と……でも、ほっとしたのも半分。
 明かりのついた場所で身体を重ねたとはいえ、お風呂はまだハードルが高いと自分でもよくわかった。
「……え?」
「…………」
 玄関の鍵を差し込もうとしたところで、たーくんが躊躇した気がして。
 でもやっぱり気のせいではなく、鍵を持ったままたーくんはなぜか私を見下ろしてため息をついた。
「なぁに?」
「いや。そのカッコ見られたらめんどくせぇなと思って」
「え?」
「……まぁいい。あいさつはいいから、お前はそのまま2階上がれ」
 テキトーにごまかしとく。
 よくわからないけれど、どうやらたーくんとしてはバツが悪いらしい。
 いいな? と念を押され、どう答えればいいのか悩んだけれど……でも眠たい気持ちもあって、こくりと首は縦に振れた。
 ……シャワー、明日浴びようかな。
 くるりと巻いた髪もそうなら……この身体の感じも、そう。
 今日は1日がとても長くて、たくさんの特別があって……ずっとどきどきしっぱなしだった。
 冬女の制服を着れたことも嬉しかったけれど、こんなふうにずっと過ごしてきた高校の制服で彼とデートできたこともそう。
 本当に、二度とない特別な日。
 ……ふふ。
 プリクラも撮れて、楽しかった。
 明日改めて、アルバムに整理しよう。
「にしても、こういうことか」
「え?」
「教師と生徒って、こんなだろ?」
「っ……」
 にやりと笑われ、目が丸くなる。
 そ、れって……羽織と、絵里ちゃんのことだよね。
 結果的にスーツ姿のたーくんと、制服を着て出かけたのは事実。
 これまでにない格好だけに、改めて自分の姿を眺め……そして、つい先ほどまでの情事を思い出すと、また身体が熱くなりそうだった。
「っ……なぁに?」
「その顔もかわいいぞ」
「ッ……! ……もう……」
 極力音が立たないようにドアを開けた彼が、すぐここで笑った。
 いつもと違ってどこかいたずらっぽい顔をしていて、瞬間的に目が覚めたものの、違う意味でどきりとして。
 後ろ手でドアを閉めた彼は目の前で笑うと一瞬だけ唇を重ね、わずかに聞こえた音で改めて頭は冴えた気がした。

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