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「っ……! たーくんっ……!」「ンだよ。散々ヤられたくせに、俺を拒むとかおかしくね?」
 「や、だっ……だって……! だって、ねぇそこっ……それっ……んん!」
 指を抜き取り、身体に足を開いて身体を割り込ませると、慌てたように手を伸ばした。
 邪魔だ。
 顔の前へ置かれた手を払い、膝裏を持ち上げる。
 それでも葉月は身体を起こそうとし、あとずさった。
 「……お前な」
 「だって……ねぇ、それっ……」
 「願ったろ? 本当はお前、誰に舐めてほしかったんだよ」
 「っ……」
 瞳を細めると、両手をうしろへついて緩く首を振る。
 拒否とは違うだろうが、それこそ昨日までと違いすぎだ。
 あっちならよくて、俺がダメってどういうことだ。
 惜しみもなく散々好意を示す言葉も口にしてたくせに、今はただの一度も聞いておらずそれも少しおもしろくなかった。
 「気持ちよかったろ? 昨日も」
 「……たーくん……っ」
 「ユキができることは俺が全部してやるどころか、それ以上のコトまで教えてやるから拒むな」
 まさに“穢す”わけにもいかず、毎回声をあげるのはコイツだけ。
 ま、さすがにあの状態でシたとしても絶対的に足りなくて中途半端だろうし。
 「だって……こんなの、本当は……」
 「本当は? ホントはなんだよ」
 「……いけないことでしょう……? その……だって、ちゃんと……お付き合いもしてないのに」
 ふるふる首を振った葉月は、最後の最後で視線を外した。
 ぽつりと、まさに漏れるようにつぶやき、唇を噛む。
 ……真面目だなお前。
 いや、むしろそうやって育ってきたからこそ、か。
 あの恭介さんがいろいろ教え込むはずもなく、これまでの様子からも物理的に遠ざけてきたはず。
 それを今、こいつは破ろうともしてるんだろう。
 この前と同じく『はしたないじゃない』と首を振り、小さくため息が漏れた。
 「お前が悪いんじゃない。悪いのは……ユキと俺だな」
 「え……?」
 「いけないことを教えこまれてンだから、お前に非はねぇぞ」
 髪を撫でてから触れるだけのキスをすると、まじまじ見つめはしたものの眉尻を下げた。
 抵抗はあって当然だし、きっとこれが正しいんだろう。
 付き合ってもない状態でコトに及ぶなんて、な。
 それこそ貞操観念の差。
 俺と違うが……それでも今は、どうしても欲しい。
 「ユキよりずっと気持ちよくしてやる」
 「……っ……」
 「だから……今だけ許せ」
 頬に触れ、目の前でささやくと、こくりと喉が動いた。
 だけでなく、視線を外しはしたものの、小さくうなずいたのがわかり、改めて体勢を変える。
 「っ……恥ずかしい」
 「どうせすぐ、ンなこと考えらんなくなる」
 膝を割って身体を割りこませ、唇を寄せる。
 それだけでソコは反応し、ひくりと震えた。
 「あ、ぁあっ……あ、んあっ……!」
 舌だけじゃない。唇だけじゃない。
 往復するように舐め上げ、ソコを吸う。
 たちまち身体が震え、腕に当てた手は強く反応した。
 「ひゃ、ああっ……そこ、やっ……あ、ああっんっ!」
 舌先で転がし、手のひらを胸に滑らせる。
 先端に辿り着くとたちまち身体が震え、声は一層高く響いた。
 「あぁあ、あっ……んん! たー、くんっ……ん、っそれ……あ、ぁあっ」
 泣きそうな声にも似ているが、悦の強さでもあるんだろう。
 一箇所だけじゃない、あわせての快楽。
 舐めるだけじゃない強い快楽を味わわせた今、コイツはもう戻れない。
 「んんっ……!」
 音を立ててソコを離れ、顔を覗く。
 くたりと身体をベッドへ横たえ、肩で息をしてはいるが、うっすら目を開くと俺を見て眉を寄せた。
 「こんだけのこと、ユキはしなかったろ?」
 「……もう……」
 「ンだよ。俺だからしてやれンだぞ。もっと欲しがれ」
 口元に手を当て、ふるふると首を振るのはどういう意味なんだろうな。
 これ以上耐えられないのか、それとももっとしてほしいのか。
 ……まあどっちにしろ、やめねぇけど。
 「どっちが気持ちいい? 俺とユキと」
 「っ……」
 足を開かせて先端をわずかに沈め、顔を覗く。
 たちまち、わかったらしく喉が動いたが、視線は逸らさなかった。
 今日は……このまま。
 何も隔てず味わったら、それこそ……戻れなくなるのは俺のほうか。
 「で? どっちがいい」
 「……たーくん……」
 「だろ? 人のほうがよっぽどイイんだよ」
 できることも多けりゃ、こうして話すこともできるしな。
 葉月にとっては、行為だけじゃなく言葉も大事な要素なんだろう。
 頬に触れると確かめるように葉月も手を重ね、すり寄るようにして目を閉じた。
 「っ……ふ、ぁ……」
 「……く……」
 腰を押しつけるように動き、ゆっくりと静める。
 息をするたびにナカが少しずつ柔らかくなる。
 あー……ヤバい。比じゃねぇな。
 これまで誰に対してもしなかったのに、誰よりリスクがあるコイツに対して望むあたり、ヤバい証拠。
 「んっぁ……ああ、あっ……!」
 「は……すっげぇ気持ちいい……」
 胸を弄るべく手を伸ばすも、ぶるりと背中が震える。
 ……夢、か。
 俺の? それともコイツの?
 どっちにしろ、もう戻れない。
 「気持ちいいだろ?」
 「ん……も、だめ……おかしくなっちゃ……」
 「お前の気持ちいいトコ、全部いっぺんに弄れるからな。……なっていいぞ。俺の前で存分にな」
 どくどくと脈打つ胎内にすべて沈みきると、飲み込まれるほどの熱さとまとわりつく感覚で息が漏れる。
 腰を密着させたままゆっくり顔を近づけると、唇が触れるか触れないかのところで、くらりと眩暈にも似た感覚に襲われた。
 
 「…………」
 息苦しさで目が開く……だけじゃない。
 ……あっちぃ。
 この時期らしからぬ汗をかいており、胸のあたりがやたら苦しく……って。
 「っく……」
 払うわけにもいかずじわじわ身体を起こすと、丸くなっていた黒い毛玉が音もなく床へ降りた。
 「…………」
 くっそ最悪。
 枕こそ作ったが、背中はがっつりフローリング。
 いくらラグがあれど、ンなもんで支えられる体重じゃない。
 「……あ。たーくん、何か飲む?」
 3月とはいえ、窓からさんさんと入ってきていた日差しを全身で浴びつづけたせいで、季節外れの汗をかいた。
 イライラの原因は、それ……だけじゃないのはよくわかってる。
 トレーナーを脱いで放ると、一気に熱は散る。
 あー……くっそ。最悪。
 返事すらしなかったのに葉月は冷茶をここへ置くと、膝をついたまま『大丈夫?』と顔を覗きこんだ。
 「っ! な……んんっ……!?」
 小さくため息をつくと同時に引き寄せ、無理矢理口づける。
 慌てたように多少暴れはしたが、顎をとらえてきっちり舌を絡めると、次第に力を抜いた。
 「は……ぁ。……っん! ちょ、ちょっと待って、たーくんっ」
 あぐらをかいた上で背中から抱きすくめて胸を弄ると、慌てたように腕へ触れた。
 が、当然チカラで俺に敵うはずなく。
 持ち上げるようにしながら先端を探ると、一点ですぐ身体を震わせる。
 「たぁ、くっ……ねぇやだ……なぁに? どうしたの?」
 どうしたもこうしたもあるか。
 ハナから夢だとわかってたのに、なんで最後の最後にアレなんだよクソが。
 ふざけんな。
 すげぇ中途半端だし、消化不良。
 現実で『ない』ことだけに、せめて最後までみれてもよくね?
 「はー……」
 今ここで十分ってくらい、こっちの準備は万端。
 腰を引き寄せたまま抱きしめると、葉月もわかったらしくわずかに身体は震えた。
 「…………」
 「や、だっ……あはは、やだやめてっ」
 両手で脇腹をつかむと、たちまち力が抜けた。
 へたりと力なくもたれ、髪が当たる。
 「もう。くすぐったいでしょう?」
 「ちょっとチカラ入れてみ?」
 「え?」
 「腹筋」
 顔だけで振り返られ、鼻先がつく。
 おかげで一瞬目を丸くするも、素直に力をこめ……へぇ。
 「お前、見た目と違うな」
 「どういうこと?」
 「体幹しっかりしてンじゃん」
 今の今と違い、瞬間的に感じたのは筋肉そのものの締まり。
 ただ細いわけじゃなく、いわゆる締まった状態だとわかり、改めて俺も筋トレしねぇとやべー気にはなった。
 「プランクできるか?」
 「プランクって……トレーニングの?」
 「ああ」
 「んー、何分もは無理だけど……少しなら、お父さんとやってたから」
 聞き覚えのあるセリフが聞こえ、少しだけ“今”が曖昧になりかけた。
 夢……だよな?
 あれ?
 それともなんだ、これも続きか? 延長か?
 はたまた……あれはこの間のエピソードからの作り話、か?
 「お前さ」
 「え?」
 「ユキ預かってンとき、されなかったよな?」
 ないだろうよ。当然だ。
 今見てたのは、俺の夢。
 俺の…………お前の、じゃないよな?
 現実じゃありえないことばかりなのに、なんだかすっきりしない。
 「えっと……何を?」
 「俺にされるようなこと」
 「たーくんに?」
 眉を寄せて首をかしげるも、意味はわからなさそうで表情は晴れなかった。
 こういうときに限って、察し悪いな。お前。
 それとも何か? 俺のこと試してンの?
 「んっ!」
 「こことか舐められなかったよな?」
 「や、だっ……もうたーくん、どうしたの?」
 今の今まで枕にしていたクッションへ引き倒し、服の上から胸に触れる。
 今日はわりと身体のラインがわかるカットソーを着ていることもあり、先端を探り当てるとたちまち声を漏らした。
 「もう……そんなの、たーくんが一番よくわかってるじゃない……」
 視線を逸らしてつぶやいた葉月は、ほんの少しだけ頬を染める。
 その口調も、表情も何もかもがはっきり届き、わずかに喉が鳴った。
 「…………」
 「……え?」
 「まだ平気だな……ちょっと付き合え」
 「え、えっ……? どこに……?」
 「ここでいい」
 「え? っ……あ、やっ……たーくん!」
 「平気だ。まだ誰も帰ってこねぇから」
 「そういう問題じゃ、なっ……んんっ!」
 瞳を細めたまま口づけ、カットソーの裾をたくしあげる。
 さすがにそのまま這入りはしないが、わきまえりゃいいだろ。問題ねぇよな。
 中途半端で目覚めたこともストレスだが、寝ぼけているのかよくわかんねぇのもストレス。
 ……もういい。どっちが夢でも構わねぇって。
 キスの感触は現実そのもので、胸に触れてすぐ聞こえた声も十分潤んでいて、満たされてはいく。
 だからもういい。
 このまま最後までできるなら、どっちが夢でもな。
 角度を変えて口づけると、身体を押していた腕が力なくすぐここへ落ち、代わりに甘い声が耳に届いた。
 
 
     
 
 
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