「で?」
「え?」
抱いていたぬいぐるみをベッドへ戻し、代わりにたーくんは私をまっすぐに見つめなおした。
何か気になることがあるのかな。
って、もちろん彼にとってはたくさんあるとは思うけれど。
「お前、あンときなんつった?」
そう聞かれるということは、具体的な言葉を指しているんだろう。
あのとき。
んー……どのとき、かな。
でも、たーくんが言うのはさほど時間が経っていない気もするから、その中で交わした会話となると……やっぱり、彼女たちへ伝えたセリフかもしれない。
「de fact partner?」
「それ。どういう意味だ?」
「っ……」
たーくんを見つめたままでいたら、ふいに手をつかんだ彼が座りなおした。
距離が消え、ひたりと身体がそばにつく。
この距離でまっすぐ見つめられたら、すべて見透かされてしまいそう。
……ひょっとして、わかってるのかな。
そうされたら、私が視線を外せなくなると。
「その……ね? こっちでは、結婚してないけれど……一緒に住んでる相手のことをそう言うの」
「同棲、か」
「ん。ただ、私とたーくんの場合は、ちょっと違うと思うけれど」
でも、ほかにどう言えばいいかわからなくて。
まっすぐに見つめられたまま苦笑すると、小さくため息をついたあと、たーくんが私の肩を押した。
「っ……あ」
ほんの少しの力なのに、バランスが崩れてベッドへ横になる。
と、両手を顔のすぐ横へつき、まるで身体の下へ収めるかのようにたーくんが私を見下ろした。
「た……くん」
「こうならねぇように、恭介さんは男とふたりきりになるなっつったんだぞ」
「っ……」
部屋へ入ったときに窓は開けた。
だから、ドアは閉まっているけれど十分に風が通る。
エアコンは効きすぎるから少し苦手で、普段からこうして過ごしていた。
だから……外の音は十分聞こえるはず。
なのに、こくりと喉が鳴ったあとは、自分の鼓動の音がうるさくてほかの音は耳に届かなかった。
「っ……だ、め……!」
「何が」
「ねぇ、待ってたーくん。あの……あのね? そんなふうに見られたら、困るよ」
「へぇ。どう困る?」
「っ……」
「こんな胸元がっつり空いた服着るとか、あっちじゃ考えらんねぇな。夏だからって理由だけじゃねぇだろ?」
ベッドへ広がった髪を撫でた彼が、そのまま首筋から鎖骨へ触れた。
這うというよりも、まるで辿るように指先で触れられ、くすぐったさからひくりと身体が震える。
「中になんも着てねぇとかアウトじゃね」
「……もう。お父さんにも言われないよ? そんなこと」
「そりゃ、恭介さんはお前の胸元見ねぇだろ。つか、普段からこんなカッコしてんの?」
胸元で結ばれている細いリボンを解かれ、飾りではあるもののどきりとした。
「いつも、こんな格好してないでしょう?」
「日本と季節が違いすぎてわかんねぇんだよ。んじゃ、日本でも夏になったらこれ着るか?」
「着るかもしれないけれど……普段は、着ないよ?」
胸元が少し開いているワンピースだけれど、カーディガンを羽織っているからボタンを留めれば大丈夫だと思っていた。
でも……こんなふうにベッドへ横にされてしまったら、意味はない。
はだけるように服が広がって、確かに少しいけない気はした。
「普段着ないのに、なんで今日着た?」
「だって……かわいいって思ってもらいたい人の前でしか、着飾らないでしょう?」
「っ……」
「一度着たことはあったけれど、少しだけ胸元が強調されるデザインだから、ずっと着れなかったの」
処分してしまおうかとも思ったけれど、でも、デザインがかわいくて買ったからもったいなくて。
一応もう一着別の服を着替えとしてホテルに持参はしたけれど、どうせなら彼に見てほしい気持ちがあってこちらを選んでしまった。
「っ……」
「……ふぅん」
「ま……って、ねぇ、たーくん、待って?」
「何を」
「だって、もう……顔が、ずるいの」
表情が変わる。
ううん、正確には目つき。
キスしてくれる直前もそうなら、こんなふうに……私へ手を伸ばすときも、そう。
熱っぽい眼差しに、身体の奥が反応する。
「艶っぽいっていうか……妖艶て言ったらいい?」
「いや、知らねぇけど」
「目つきが違うっていうか……なんだか、欲しがってるみたいに見えるっていうか」
「……へぇ」
「っ……」
ぎりぎりまで顔を近づけた彼が、すぐここで笑った。
ひたりと頬に触れ、指先を首筋から鎖骨へと滑らせる。
いつもより、もっとずっと身体が敏感になっている気がする。
ああ……もう、そんな顔しないで。
まだ何もされていないのに、声が漏れてしまいそうで恐い。
「何を?」
「え?」
「何を欲しがってそうに見える?」
「っ……ん……!」
すぐここで口角を上げた彼が、目を合わせたまま口づけた。
ひたり、とまるで味わうようにキスされ、たまらずシーツを握りしめる。
濡れた音が大きく響いて。
漏れる吐息が、いかにも扇情的で。
……こんなことになるなんて、思わなかった。
指先が肩を辿りながらワンピースの紐をずらしたのがわかり、ほんの少しだけ身体へ力がこもる。
だけど、あえて私が動けないように察知してか、たーくんは肩口を押すと角度を変えてさらに深く口づけた。
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