「は……ぁ、まって……待って、たーくん……!」
「断る」
「だ、だって……! ねえ、だって……わたし……」
唇が離れてすぐ、大きく息を吸い込むと同時に彼の胸を押すべく片手を伸ばす。
けれど、まったく躊躇しない様子で、もう片方の肩からも紐が落ち、明らかに彼の目の前へ下着が露わになったのがわかる。
「っ……恥ずかしい、から……」
「……えろい」
「もうっ……たーくん!」
「正直な感想だろ」
「ん、んっ……! ぁ、ねぇ……まっ……」
「黒とか、すげぇ存外。お前がまず選ばなさそうな色なのに。……こういうギャップも悪くねぇな」
ブラの縁を辿るように指が這い、くすぐったさとは違う感覚に背中がぞくりと震える。
どうしたらいいかわからなくて、鼓動がうるさいくらいに強く聞こえる。
まさか、自分の部屋のベッドでこんなことになるとは思わなかった。
……思わなかった……よ?
ほんの少しだけ期待した自分は、すでに影を潜めた気がする。
「んっ……!」
「……こないだの続きだと思えば、どうってことなくね?」
「…………」
「そういう顔すんなって。だから。……やめねぇって朝も言ったろ」
シーツを掴んでいた手を、握るようにたーくんが重ねた。
指先が絡まり、ほんの少しだけ体重がかかる。
「っ……」
「いいよな? 少しだけなら」
「……もう……どう、言えばいいの……?」
「うなずいてくれりゃ、それでいい」
どこか悪戯っぽく笑いながら、たーくんが背中のホックに手を伸ばした。
――かと思いきや、途中で手が止まる。
あのときと……同じ。
だけど、決して“同じ”ではなかった。
「あ、まっ……ッ!」
「……うわ」
「もうっ……! や、だ……どうして?」
「いや、せっかくだからそのままもアリかなと思って。……ねぇな。すっげぇえろい」
「たーくんっ!」
鎖骨へ口づけた彼は、そのまま――肩紐を外すと、ホックを外さずに胸を露わにした。
もう……もうっ!
締めつけはあるのに、胸が……それこそ先端まですべて、見えてしまっている。
まだ十分に室内は明るい。
恥ずかしいどころじゃないでしょう、これじゃあ……!
捕われてない片手が隠そうと動き、恥ずかしさから涙が滲む。
「ぁ、や……ぁっ」
やんわりとすくうように胸へ触れられ、自分とはまるで違う触れ方にぞくりと身体が震える。
どうして、なんだろう。
まるで、どこをどうしたらいいか私以上にわかっているような手つき。
なのに……確かめるように、あえて少しずつ私の反応を見てもいるような感じがして、声が漏れてしまわないよう口元に手を当てるのが精一杯だった。
「っ……やぁ」
「……いい顔してる」
「もう……っ」
手首をつかんで口元から離され、見ると……胸のすぐそばで彼が笑った。
そのまま胸へ唇を寄せようとしているのが見え、慌てて目を閉じる。
「んっ……!」
そんなところを直接見てしまったら、もっとおかしくなってしまいそうで恐い。
気持ちいい、だけじゃないの。
身体中がぴりぴりして、どうしていいのかわからない。
「あ、あっ! そ、ん……はぁ、あ、あっ……んん!」
ぺろりと胸の先を含まれ、まるで何かを確かめるかのように舐められる。
温かい、濡れた感覚。
普段ならまずありえないことだけに、ひくりと身体が反る。
「っ……」
「おま……うわ。えろすぎね?」
「たーくん……っ! ん……ねぇ、やめて……? そんなふうに言われたら、困るよ……」
「いや、それはこっちのセリフだっつの。ガーターとかまじか。……うっわ、えろい」
「たーくんっ!」
身体に力が入らない。
だけど、ワンピースの裾をたくし上げられた瞬間に聞こえた彼の声で、恥ずかしさといろんな感情が混じったせいか、少しだけ大きな声が出た。
だって……だって、仕方ないじゃない。
今日、まさかこんなことになるなんて思わなかった。
「ガーターとはね。……すっげぇ。もしかしてお前、昨日もつけてた?」
「っ……だから……昨日のために、つけたの。今日はたまたま……短いストッキングしか、替えを持ってこなかったから……で」
まっすぐにたーくんを見て答えられるはずはなく、視線を落としながら唇を噛む。
だって……だってまさか、こんなことになるなんて。
この下着とセットで売られていて、確かに普段ならまず選ばない色なんだけれど……デザインがかわいかったの。
お母さんと一緒に買い物へ行ったときに見つけて、『これならサイズも合うんじゃない?』と言われたのもあって、記念にもなるかなって……思った、のに。
なのに、まさかこんな形でたーくんに見られるなんて。
片手で簡単にたくしあげられた今、下着を隠せるものは何もない。
どうしよう。
本当に、苦しくて……恥ずかしくて、心臓が壊れてしまいそう。
「んぁっ……!」
「脱がせてみたら、まさかこんなとはな。……無理だ。止まんねぇぞ」
下着のラインへ指先を這わせた彼が、もう片方の胸へ唇を寄せた。
そのまま太ももをなぞり、ふちを辿る。
「あ、ぁんっ……!」
「……は。すげぇ楽しくなってきた」
ぼそりとつぶやかれた言葉は、今まで聞いたことのないような声色で。
見たいような、見てはいけないような。そんな気持ちでいっぱい。
「んっ……!」
頬に手のひらが触れたかと思いきや、口づけられた。
いつものキスとは全然違う、もっと……もっと深くて、濡れた音がやけに耳につく口づけ。
「ぁっ……あ、まっ……!」
「いいからお前はこっちに集中してろ」
「んんっ」
下着がずらされたのがわかって唇を離すも、顎を取られ再度口づけられた。
だって、ねぇ待って。
いくら朝シャワーを浴びたとはいえ、今はもう日が高いんだよ?
それに、こんな……こんなに明るい部屋で下着を脱ぐ、なんて……そんなの……もう、本当におかしくなってしまいそう。
「あぁっ……! はぁ、あっ……んん、たーくっ……」
「……すっげぇ濡れてる。ンな気持ちよかったか?」
「もう……ねぇお願い……それ以上されたら、私……」
「されたら?」
「っ……もう……なんて顔をするの……?」
すぐここで、たーくんが笑った。
声すらも耳に届くと、身体が震える。
ぼそりとつぶやかれた声は低くて、どこか嘲るかのようで。
唇を舐めたあと、鎖骨から胸へと辿るように口づけられる。
たーくんに触れられるたび、身体中に電気が走るみたいに、ぴりりとした感覚が広がるの。
「あぁ……そ、んなっ……だめ、ぇ……」
きゅう、と彼の手を握り締めるものの、行為はやまない。
普段、お風呂へ入るときだってそんなふうに触ることはない場所。
躊躇なく触れられて、ゆるゆると指先を往復され、恥ずかしさと……感じたことのない感触で声が漏れる。
勝手に……身体が、震える。
腰のあたりがぞくぞくして、どうしようもなくて。
ああ、だめ。いけない。
声が漏れちゃう。
「はぁ、あっ……たーくん……っもう……もう、やぁ」
きゅうと喉が締まり、高い声が漏れる。
息が苦しくて、だけど私の反応をはかっているかのように、たーくんは耳元で小さく笑うとぺろりと舐めた。
身体のあちこちが、自由にならない。
力が……入らない。
「んんっ……! あ、あっ……!」
「……いい反応すんな」
「やっぁ……だめ、だめっ……」
秘所の一点を刺激された瞬間、背中が反った。
感じたことのない気持ちよさに、思わず首を振る。
だけど身体は動かせなくて。
たーくんは繋いでないほうの手で一度肩口を押さえると、胸の先をつまむように弄り始めた。
「やっぁあ……! ん、んっ……は、ぁ……!」
くちゅり、と濡れた音が耳にまで届く。
どうしてそんな音がするのか――なんて、わからないわけじゃなくて。
ずっと秘所で往復されている彼の指の感触が、ぬるりと含まれる。
私は知らない、自身そのもの。
ひだを辿るようにしていた指先が、動きを変える。
「はぁっ、あ、あっ……たーく、んっ……んん、そこっ……」
「……えろい」
「も……やぁあっ……そ、言わないで……っ」
ぼそりと耳元で囁かれ、身体がひくひくと震える。
円を描くように秘所の一点を刺激され、勝手に足が震える。
気持ち、よくて。
だけど……身体の奥を震わせる“知らない”快感が、少し恐い。
それ以上されたら……だって、だって、どうしたらいいの?
声が勝手に漏れて、腰が……動いてしまいそうになって。
だけど――やめてほしくないって思ってしまっている私は、なんていけない子なんだろう。
「んっ、んっ……ん、あ、っ……はぁあ、あっ待って……待ってぇ……!」
「は……もっと」
「たぁくっ……んぁ、あっ……あ、あだめっ……だめっ……! それ以上しなっ……」
「……葉月」
「ッ……んぁあっ……!」
首筋を舐めたたーくんの声が、いつもよりずっと低い。
私と同じくらい息が荒くて、名前を呼ばれた瞬間ぞわりと身体が震えた。
「あ、あっ……ぁああ、だめっ……だめ、も……! もうっ、もっ……んあぁああっ」
指の動きが速まった瞬間、身体の奥の奥からとても強い快感と熱がはぜた。
びくびくと身体が震え、ずっと繋いでくれていた手をさらに強く握る。
息が、うまく吸えない。
「んっ!」
うっすら瞳を開いた瞬間、“欲しい”顔のままのたーくんに口づけられ、また身体の奥が震えた。
舌が絡まり、自分とは思えない……思いたくないような、声が鼻を抜ける。
「ふ……ぁ」
身体が重たくて、自由にならなくて。
音を立てて唇が離れたとき、たーくんはすぐここで笑うともう一度口づけた。
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