「っ……あ……」
中味を取り出してから自身に纏わせ、葉月の足に手をかける。
途端、身体へ力が入ったのはわかった。
意識はするだろうよ。当然な。
これから何をするのか、わかってるだろうから。
「っ……!」
先端を秘部にあてがい、両手で葉月の腰を引き寄せるようにゆっくり沈める。
狭くて、熱くて。押し戻される感覚に、息が漏れる。
這入りたい気持ちはかなり強い。
が、無理に押し広げれば確実に反応するだろうから、できるだけじわじわと。
「っ……あ、あっ……つ……」
「……く……」
もう少し道を作っとけばよかった、と半分思いはした。
が、全部もう今さらのこと。
指を入れる前から、先へ先へと自身が動きすぎていて。
……焦り、じゃない。
もっと、本能に近いヤツ。
どうしても早く、コイツをこうしてやりたかったってのがまずあった。
「はぁ……っ……」
葉月が大きく息を吸い込んで吐き出した途端、身体に入っていた余計な力が一気に抜けて、ナカも柔らかくなった。
ぴったり自身を包む感覚に、肘を折り……顔を近づける。
すぐ、ここ。
鼻先がつく距離で髪を撫でると、うっすら瞳を開けた葉月と目が合った。
「たーく……ん」
「どうした」
どうした、じゃないのはわかってる。
が、普段とはまるで違い、それこそ不安げに名前を呼ばれて昔からの反射みたいなもので返す。
「……すごく……どきどきする」
「だろうな」
「なんか……ふふ。たーくんも、どきどきしてる?」
つい先ほど俺がしたように、葉月が頬から髪を撫でた。
その表情があまりにも柔らかくて、俺……ではなく自身が反応した途端、葉月が小さく声を漏らす。
「お前のことも十分わかンけど、俺が今どう思ってるかもなんとなくわかるだろ?」
「思ってる、っていうか……」
「…………」
「っ……た、く……」
頬に触れた髪を耳へかけてやると、くすぐったそうにしたせいかナカが反応した。
あー……動きてぇ。
と刹那的に思ったのが伝わったのか、自身も当然反応する。
こんな、まるで息を合わせるように過ごしたことはまずない。
“初めて”、か。
記憶にはある自分のそのときと、葉月の今とはまるで想いが違うんだろうな。
私は、たーくんじゃなきゃ……嫌なの。
「ん、んっ……」
ついさっきの葉月の声が蘇り、改めて口づける。
存分に期待して、思った以上に記憶へ残ればそれでいい。
いつしか窓の向こうの雨は静かになっており、もしかしたらいつの間にか雪に変わったのかもな、とは思った。
「……特別だね」
「何が?」
「こんなふうに……ひとつになるなんて、夢みたい……」
ちゅ、と音を立てて唇が離れると、葉月はまるで言葉をかみ締めるかのように笑った。
「ん、っ……」
「夢でたまるか」
「……え……?」
「どんだけ待ちわびたと思ってンだよ……もうずっと、お前をこうしたかった」
「っ……」
1週間じゃない、2週間じゃない。
きっとそもそも、葉月を意識した当時から。
キスだけじゃない、もっと先をずっと欲しがっていたんだろう。
何度も期待して、何度も実行して。
都度砕かれ、ようやくの今日。
……いや、今日だって諦めかけたのにな。
すべては、葉月自身が望んでくれたことで繋がれている。
「ん……んぁ、あっ……」
「く……」
わずかに身体を起こすと、たちまち葉月が反応した。
同時に濡れた音が広がり、ぞくりと背中が粟立つ。
ナカはキツい。
……が、少し動くたびにソコから伝わってくる快感で、息が漏れる。
熱さと、狭さと……そして、声。
コイツの喘ぐような呼吸が全身から伝わって来て、ゾクゾク背中が震える。
「あ、ん……!」
片手で胸を弄りながら、より深く欲してか腰を密着させる。
キツいのは承知の上。
だが今は、コイツから貰える悦で自制がほぼ利かなくなり始めていた。
「……葉月……っ……」
「っ! ……だ、めっ……名前っ……」
「なんでだよ……」
「だって……だって……! ……たーくんの声……えっち、なの……」
「俺よか、よっぽどお前だろ……!」
荒く息をつきながら、ゆっくりと腰を動かす。
そのたびに、自分と同じ動きで揺れる胸が目に入り、自然と手が伸びた。
「っん! あ、っ……は……ぁ、はっ……」
「……はぁ……すげ。……気持ちイイ」
「ん……っ……」
いつしか腕に触れていた手が、そっと肩に置かれる。
頼りなさげな小さな手が、まるで俺を引き寄せるように力がこもり、それが妙にコイツらしくてふと笑みが浮かんだ。
「あ、ぁあ……、っ……ん、気持ちい……」
「……へぇ」
「っ……! ん、んっ! たーくんっ……あ、っ……や……ぅ」
ぽつりと漏れた言葉を素直に受け取り、徐々に律動を早めていく。
途端に葉月の声が変わり、肩に触れた手にも一層の力がこめられた。
「っあ、ん……!」
「……は……っ……」
速さより深さを求め、自身をソコまで沈める。
そのたびに、じゅぷと濡れた音が響き、淫逸な雰囲気がより一層強調される。
……ソソられる、つったらいいか。
ヤバい、とひとことで表せるモンより遥かに上。
聞こえるたび、ナカにいる自身がどくどくと脈打つ。
「っ……あ、ぁあっん……ぁ、たーくんっ……たーく、んっ!」
「……名前は……どうしたンだよ」
「だっ……ふ……ぁ、ああっ」
一度呼ばれたあの感じがたまらなくてか、今は“いつもと同じ”く俺を呼ぶのが少しだけ気に入らないらしい。
揺れる胸も、眉を寄せて少しずつ訪れ始めた悦に反応する表情も悪くないのに、布団へ手をついたまま荒く息が漏れる。
もう一度。
どうしたらお前、口にする?
普段のときはまず言わないだろう呼び捨てが、もう一度だけ聞きたかった。
「ぁ、ああっ……た……んぁ、あっ……孝之……っ」
「く……っ」
うっすら瞳を開けた葉月と、目が合った。
泣きそうなものとも、戸惑っているものとも違う表情。
はっきり耳に届いた自分の名前で、僅かに口角が上がる。
「ワリ……行くぞ」
「えっ……や、あっ、あっ……!!」
ぐいっと両足に手をかけて軽く持ち上げ、突くように律動を送る。
締め付けるようにナカが纏わりつき、ひときわ水音が大きく上がった。
ぞくぞくする、この時間がたまらない。
だから……ずっと欲しかった。
コイツ自身を味わったとき、確実に手離せなくなるだろうと思っていたから。
「あ、あっ……だめっ……もっ……! んんっ……!」
「っはぁ……すげ……」
荒く息をつきながら律動を送り、瞳を閉じて快感を味わうように揺らす。
途切れることなく聞こえてくる、声。
そして、息遣い。
……何よりも、コイツ自身の反応。
それらすべてが自身を高みへ押し上げていく、直接的な原因であることに間違いない。
「っんあぁ、っ……あ……ぁあ、や、あ、あっ!」
「……ッ……イク……!」
息を詰まらせ、葉月に当てていた手へ力を込める。
そのとき、葉月もまた同じように俺の腕を掴んだ。
「あぁぁ、あんっ……!」
「……く……!」
奥歯を噛みしめ、欲そのものをナカで吐き出す。
この瞬間は、やっぱり絶頂って言葉そのもの。
……やべ。すっげぇ気持ちイイ。
久しぶりに、『最高』の二文字が頭に浮かびかけた。
「は……ぁ……」
「平気か?」
「……ん……大丈夫……」
くたりと腕を落とした葉月の頬に手を当て、顔を覗く。
熱は当然まだここにあって。
収縮を繰り返すナカから抜けるのは……まだ惜しい気がする。
「……これからは、優人ともアキとも……祐恭ともな。ふたりきりで会うな」
「え……?」
抱きしめるには角度がキツすぎ、さすがに悲鳴が上がりそうでやめておく。
時間も時間だろうし、何よりこんだけ喘いだあとだからな。
確実に意識が飛ぶ寸前だろうが……だからこそ、もう少し付き合え。
「特にアキはだめだ」
「……どうして?」
「アイツ、お前に本気で手ぇ出すだろ」
あのときのアキは、正直どっちかよくわからない言い方ではあった。
が、別にアイツとしなくたっていいだろ。つか、ほかのヤツは知らなくていいんだよ。
これから存分に教えてやるから、何もアキで覚える必要ねぇんだから。
「お前は俺だけ知ってりゃいい」
「…………」
「ンだよ」
「だって……もう。それ、返事に困るでしょう?」
「なんで」
「……もう。んっ……!」
「そこは素直に喜んどけ」
ゆっくりと離れ、欲のすべてを吐き出した自身を拭う。
が、その前にこっちが先か。
「ひゃ……! た、たーくっ……! 待って、ねぇ、自分でできるからっ!」
「……へぇ」
「もう……なぁに?」
ティッシュで触れた瞬間、慌てたように葉月が身体を起こした。
普段、まず見ない反応に、笑いが漏れる。
「んっ……!」
「お前がそういう余裕ねぇの、珍しいよな」
「……もう……顔が意地悪じゃない?」
「気のせい」
それこそ、布団の上で正座しながら。
当たり前のようにあぐらをかいた俺とは違い、ある意味真面目だなと笑えた。
「……あ……」
耳元へ手のひらをあて、当たり前のように引き寄せる。
唇が触れる瞬間の顔は、いつもと同じで……艶があって。
まさに、“俺”でいっぱいになってる顔が見れ、別の欲も満たされる。
「ん……」
「……そういや、褒めるの忘れてたな」
「え?」
「ピアノ。さすがだった」
一度離れ、目の前で笑う。
すると、葉月は意外そうに目を丸くしたものの、嬉しそうに笑った。
「さすが姫君」
「もう……たーくんまで、やめて?」
「なかなか似合ってんじゃん」
「そんなことないでしょう?」
「なんで。恭介さん知ったら、ドヤ顔しそうじゃん」
苦笑とともに首を振るが、簗瀬さんの口ぶりだと相当数がそう呼んでそうだ。
まぁ、おもしろくていいじゃん。
ネタには困ンねぇぞ。
「あ……」
「あ?」
「……ふふ。それじゃあ、たーくんは王子様だね」
「ンでだよ。姫の相手は必ずしも王子とは限ンねぇだろ」
くすくす笑われ瞬間的に舌打ちすると、葉月は『もう』とまた口にした。
お前と違ってガラじゃないし、きっと簗瀬さんは大爆笑しながら否定するだろうよ。
あの瞬間を見られてるからな。
彼とハイタッチした瞬間、『よっぽど気に食わなかったんだね』と笑われたんだから。
「……」
「なんだよ」
「えっと……」
葉月が浴衣を胸元へ引き寄せてから、まじまじと俺を見つめた。
室内は暖房が入っていることもあり、十分暖かい。
……それこそ、上半身裸でもな。
布団もあるし、外は相当冷え込んでるだろうが、出る予定はない。
「っ……」
「明日、何時に戻るって約束した?」
「ううん……約束はしてないの」
「へえ?」
「……もう。そんな顔しないで? でも……朝ごはんは8時って言ってたよ」
「んじゃ、それまでには起きねぇとな」
さすがに布団は1枚しか敷かれてないが、一般的なものより少しだけ大きい気はする。
だし……まぁ、こうしてくっ付いてりゃ問題ねぇだろ。
葉月を引き寄せたまま横になると、さすがにあくびがもれた。
「……たーくん」
「なんだ」
「…………ふふ」
「ンだよ」
すぐ、ここ。
くすくす笑う声はこれまでと同じはずなのに、違って聞こえる。
確実に、今日を経たからだろうな。
頬に触れた指先がくすぐったくて反射的に掴むと、まじまじ目を合わせたままひどく嬉しそうに笑った。
「大好き」
「…………」
「……え?」
え、じゃなくて。
目の前でンな顔されたら、何? もっかいシていいのか?
確実に数分で寝そうだが、付き合える体力あンなら考えてやってもいいぞ。
……ま、そんなつもりで言ったんじゃねぇだろうけど。
「I love thee」
「っ……そ、れ……」
“you”じゃなくて、“thee”だから言えるセリフ。
オーストラリアから帰国するとき、葉月が口にしたセリフ。
別れたあと“thee”を調べて、そういう使い方もあるのかとある意味納得はした。
だからこそ、使える。
コイツが先に言ったから、な。
「っ……ンだよ」
「もう……I really love you」
「……あのな」
「嬉しくて、どうにかなりそう」
胸元へすり寄ってすぐ、葉月が改めて直接口にした。
……そういう顔するなって。だから。
嬉しそうで、幸せそうで。
ほんと、お前がこんなふうに笑うなんて知らなかった。
「どうにかしてやろうか? もっぺん」
「っ……たーくん」
顎に触れ、少しだけ上を向かせる。
たちまち葉月は苦笑したが、これはこれで悪くないよなと自分自身を納得させるかのように同じく笑みが漏れた。
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