「は……ぁ」
唇が離れた途端、葉月が大きく息を吸う。
すぐ、ここ。
鼻先がつく距離に俺がいるとわかってか、うっすら目を開けると小さく笑った。
「……もう……困る」
「なんで」
「だって……なんていうのかな。こう、ね? まるで……えっと……」
「……まるで?」
「味わう、じゃないんだけど……ゆっくり口づけられると、それだけで溶けちゃいそうになるの」
それこそ、ぽつりとつぶやくように。
一度視線を外した葉月が口にしたのは、まるで告白のような言葉だった。
「んっ……!」
「味わう、ね」
「……もう……ヘンな顔……」
「失礼だぞお前」
「違うの。たーくんじゃなくて、私」
目を合わせたまま言われ、途端に眉が寄った。
だが、意図したことは少しずれたらしい。
首を振り、『そうじゃないの』と付け足す。
「顔とか……声、とか。なんか……どう反応したらいいのか、困るね」
俺を見て、葉月が笑った。
普段のコイツとはまた違う表情。
だが、それもなかなか新鮮で面白い。
……おもしろいといえば、コレもな。
コトの最中、こんなふうに喋るのも悪くない。
「ん……ん、んっ……」
ゆっくり口づけ、そのまま片手で胸に触れる。
もう片手でわき腹から太ももをなぞるように辿ると、そのたびにひくりと身体を震わせた。
「……は……ぁふ……んっ……ん」
ちゅ、と何度も濡れた音が響き、荒く息が漏れる。
だが、すでに素肌で俺の下にある葉月。
当然、手を伸ばさない理由はない。
「んやぁっ……あ、あっ……!」
胸を包むように揉みながら、徐々に唇の位置をずらす。
顎から首筋、そして鎖骨。
徐々に徐々に下りていき、最後に辿り着くのは胸。
「あぁっ……ん……!」
指先で弾くように弄っていたときとはまるで違い、含んだ途端声が変わった。
いつだって、普段から高い声。
甘い声。
幼さの残る、独特の耳に付くモノ。
だが、今はそんな普段の比じゃなく。
息遣いも、声も、言葉も。
何もかもが、耳から直接俺を揺らす。
「は……ぁ、あっ……ん……ぁ!」
舌先を絡め、キツく吸い上げる。
それを何度と繰り返すまでもなく、先端が自己主張した。
……いい反応するな。
思ったままにコトが運んで、次第に俺自身がコイツを操ってるような感覚がどこかで芽生え始めた。
「っ……! ひゃっ……あ、あっ……!」
下腹部を撫でるようにしてからショーツへ触れると、ふいに葉月が自分の口を押さえた。
……のが、おもしろくない。
たちまち声がくぐもり、音が変わる。
「え……?」
「声抑える必要ねぇだろ? 俺しか聞いてねーぞ」
「だって……なんだか、はしたないでしょう……?」
「全然。それが聞きてぇのに邪魔すんな」
「っ……」
手首をつかむと、小さく笑いが漏れる。
ああ、そういうことか? お前。
そっちに気ぃ払えるとか、余裕じゃん。
「ンなこと気にしてられんなら、もっと責めていいんだな」
「っ……ちが……! たーくんっ」
「なんだよ」
手首に口づけた途端、慌てたように葉月が俺を呼んだ。
……それな。
さっきから……つーか、前からずっと思ってたんだけど、いい機会だから教えとくか。
「名前」
「え……?」
「たーくん、じゃなくて。名前呼べよ」
普段ならなんとも思わないその呼び方が、ずっと急に耳についていた。
昔から、葉月は俺をそう呼んできた。
だからこそ、最近優人が馬鹿みてぇに真似てるが、どうしたってコイツを思い浮かべる。
……だが、今は少し違う。
この状況下でそう呼ばれると、自制めいたものが半分程度は起きている。
「……? どうして?」
不思議そうな顔をされたのがわかるか、『いいから』とだけ念押し。
まぁ、もっともな意見だとは思うけどな。
単なる、自分自身の都合でしかないことで、葉月にはなんの関係もないんだから。
「コトの最中に呼ばれたことが、そもそもねぇんだよ」
「え……そう、なの?」
「ああ。別に俺じゃなくてもいいヤツばっかだったし、そもそもヤるのが目的だったからな」
行為そのものを口にすることはあったし、感想程度のやりあいはあった。
が、名前も苗字も……まぁ愛称はねぇけど。
相手も俺も、呼ぶことをそもそもしなかったから、葉月が俺を呼ぶのがやけに耳についた。
「……不思議だね」
「何が?」
「だって……私は、たーくんじゃなきゃ嫌なの」
「っ……」
「たーくんだから……こうしてほしいって思うんだから」
ひたり、とまるで何かを確かめるかのように、葉月が顎から頬へ触れた。
熱い手のひらが、今のコイツ自身を示しているような気がして、悪くない。
……が。
それ以上にその眼差しが、想いが言葉で向けられて、小さく喉が動いた。
「……たかゆき……」
「っ……!」
1字1字、丁寧に呟かれた言葉が合わさって、自分の名前を作る。
これまで一度も、葉月は俺をそう呼ばなかった。
男女問わずいろんなヤツらがそう呼ぶのに、妙なもんだな。
これまでとは全然違う、かつて覚えたこともないような感覚が身体を走った。
「え……?」
「…………えろい」
「もう……たーくん、そればかりでしょう?」
「前も言ったろ。素直な感想だっつの」
まさか、葉月にそう呼ばれて、こんなふうに感じるなんて思わなかった。
どこか舌ったらずな発音のせいか、余計にそう思ったのかもしれないが。
「っあ……、あ、やぁ、ん……!」
頬へ口づけてからショーツをずらし、指先を忍ばせる。
たちまち潤みに触れ、くちゅりと音がやけに近くで聞こえた。
……音って、十分反応するだろ?
お前もわかっただろうな。当然。
だから声が聞きたいんだよ。欲しいんだよ。
……十分すぎるほど、自身が反応するから。
「あンときと同じだ。……お前は知らなくても、身体はちゃんとわかってンぞ。どうすればいいのかな」
ぼそりと囁いてから指先を動かすと、蜜音がより大きく耳へ届く。
「っ……ね、そこ……!」
「痛くねぇだろ?」
「そうじゃなくっ……んんっ! ……や……っ……あぁっ!」
俺の浴衣をつかんだ葉月が、ふるふると首を振った。
前回はこのまま、果てさせた。
……が、今回はその先。
ヤることがどういうことか、しっかりわかっとけ。
「んぁっ……!」
中指を突き立てるようにナカを探ると、まとわりつく胎内は十分熱と潤みを帯びていて、ごくりと喉が鳴った。
「は……ふ……ぁ、あっ……」
指を増やしながら動かすと、声の質も変わる。
顔を見ながら責めるのも、悪くない。
きつく寄せられた眉と、しっかり閉じられた瞳。
だが、薄っすらと開かれた唇からは、絶えず声が漏れる。
……まさか、コイツを抱く日が来るとはな。
我ながら、天ってヤツに遊ばれてる気がして少し笑える。
「……いい声」
「も……声がえっち……」
「それはお前だ」
「違うの……っ……! ……たーくんの声……だめ……」
「……だから、名前呼べっつってんだろ」
「だって……!」
葉月が目を開けたが、すぐここに俺がいたことに気付かなかったらしく、目が合った途端、まるでモノ言いたげに唇を噛んだ。
「……えっち……」
「してンだから、当たり前だろ」
「そうじゃなくて……っ……!」
瞳を細めてニヤニヤ笑うと、葉月は困ったように首を横に振った。
そんな姿に、口角が上がる。
「ま。……すぐ、ンなことどーでもよくしてやる」
「……え……?」
「すぐ、な」
何も知らないのはお前だけ。
……そして、すぐ知るハメになる。
ヤるってことが、どーゆーことか。
「っ……!? やめっ……!」
「ダメだ」
「あ、ま、待って! ねぇ、だってそんなっ……そこっ……やっ! やだっ! ねぇ、きれいじゃないから!」
「風呂入っただろ」
「ッ……そ、ゆ問題じゃ……!!」
少し弄っただけで、だるそうにぐったりしてるところを見ると、もうお前余裕ねぇだろ。
これでイカしたら寝そうだが、さすがにそれは勘弁してくれ。
……俺がもたない。
「や、やっ……! だめってば……!」
「ダメじゃねーよ」
「たーくん!」
「そう呼ぶな」
するり、と足首までショーツを下ろし、膝裏を持って足を開かせると、さすがに強く抵抗した。
が、力で俺に勝てるはずがなく。
必死に手で隠そうとする姿がコイツらしいとは思うが、当然顔を寄せる。
ほかのヤツに触られたことは愚か、見られたことすらない場所。
だからこそ……俺がもらっておいていいだろ?
「だめ、ねぇたーくっ……たーく……んぁあっ……!」
花弁をなぞるように舌を這わせ、広げるようにしながら埋もれてる芽を突つく。
恥ずかしさと、初めて感じる悦とでか、声が変わった。
そのどちらもあいまって、一層高みへ押し上げる。
「ひゃ……は、ふあ、あっ……やめ……てぇ……っ」
拒まれたことがないからか、喉から漏れる声がさらに劣情をそそる。
本当は嫌じゃないんだろ? これでやめたら、もっと嫌なんじゃねぇの?
そう言いたくなるが、聞こえ続ける嬌声こそが本音だと思いながら、舌先で蜜をすくって花芽を含む。
そのたびに、びくびくと小さな身体が小刻みに震えた。
『女の身体は、女が一番よくわかってる』
アキのセリフがふいによぎるが、内心で当然毒づいてはおく。
冗談。
コイツの身体は、俺のほうがよっぽど知ってるし……きっと今後もずっとな。
どこをどうされたらどうなるかを知る必要があるのも、この甘ったるい声を聞けるのも、俺ひとりだけで十分だ。
「あ、あっ……ん、だめっ……だめ……ぇ!」
息つぎが短くなり、切羽詰ったように懇願の間隔が狭まる。
……と思った途端、同時に責め上げていた胸の先を弄っていた俺の手をキツく握り締めた。
「あ、ぁあ、た、くっ……んあ、ぁああっ……だめぇ、いっ……!!」
全身が強張り、息を詰める。
そんな硬さが解けたのは、少しあとで。
……感じやすいヤツ。
つーか、早ぇ。
俺がすごいのかコイツがすごいのか、微妙なラインだ。
「はぁっ……は……ぁ、は……」
一気に息を吸い込んだ葉月が、徐々に徐々に荒くしていた肩をゆっくり上下させた。
顔を見ないはずがない。
これまでの俺がしたことで知った、まさに2回目の体験。
だが、コレでイカされんのは最初ってことは、初体験って言ってもいいか。
「はあ……もう……」
「お前、最後なんて言おうとした?」
「……え……?」
切羽詰った瞬間、葉月は“あること”を口にしようとしなかったか。
くたりと布団へ身体を預けるのを見ながら、ぎりぎりまで顔を近づける。
焦点は合っているが、あきらかに惚けた眼差し。
……えろい。
それこそ、とてもじゃないが俺より年下のヤツには見えない感じだ。
「…………」
「…………」
「……えろいやつ」
「もう……たーくん……」
「だから。名前呼べつってんだろ」
くすくす笑って頬へ口づけ、葉月から預かってきたエコバッグに手を伸ばす。
使わないと思ってたんだけどな。
まさか……ホントに出番がくるとは、誰も思わなかったんじゃねぇの。
念のためにと買ったものが、ちゃんと機能するとはね。
そういう意味でいうならば、随分と俺に運が向いてるってことなのかもしれない。
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