「おいで」
「……う」
 いたずらっぽい笑み全開でソファをとんとんと叩かれ、小さく俯いてからそっと姿を現す。
 ぺたぺたと響くスリッパの音が、やけに大きく感じられた。
「……へぇ。これはこれは」
 両手で裾を押さえながら歩いていくと、まじまじと彼が見つめた。
 ……うぅ。
 これだけで十分恥ずかしいんですけれど。
「1周回って」
「えぇ!?」
 とんでもない要望に、眉が寄る。
 な……なんていうことを言うんですか!?
 だけど、彼は手で『回れ』という仕草を見せた。
 ……ただでさえ見えそうなのに、そのあたりは考慮してもらえないんだろうか。
「……うー」
 下着が見えないようにゆっくりその場で回ってみせると、にっこり笑ってから手を伸ばしてきた。
「ん。いい子」
「……っ……あ」
 その手を掴むと、引き寄せられた勢いでそのまま膝の上に座らされた。
 ……だ、だから! 座ると危ないんですってば!
 たくし上がってしまった裾を両手で押さえながら彼を見ると、意地悪そうな笑みを浮かべて髪を撫でた。
「……ふぅん。相変わらず、どんな格好も似合うね」
「…………いじわる」
 恐らく顔は真っ赤だと思う。
 そのせいか、彼の指が首筋に当たるたびに、いつもと違った感覚がぴりぴりと伝わってきた。
「なんか、いけないナースって感じ」
「……だって……短いんだもん……」
 丈の短いナース服に、黒のハイソックス。
 ……なんか、この組み合わせって、確かにいけない感じがする。
 って、何を言ってるの私まで!?
 ああもう。
 絶対絶対、先生のせいだ。
「……もういいでしょ?」
「何が?」
「…………脱いでも」
「駄目」
 即答。
 ふいっと視線を逸らしてテレビを向いたまま、しっかりと後ろ向きに抱きしめられる。
 ……この格好、結構恥ずかしいんだけど。
「え?」
 ため息をついてそのまま抱きしめられていると、ふいに彼が立ち上がった。
 私を残してバスルームに向かってすぐ、水の音が響いてくる。
 ……お風呂?
 ついつい彼の向かった方向を見たままでいると、しばらくしてから彼が戻ってきた。
「じゃ、風呂行くか」
「……え?」
「だから、お風呂」
「……う……ん」
 小さくうなずき、先にそちらへ向かってしまった彼のうしろ姿を見ながら生返事。
「後から入っておいで」
「……うん」
 にっこりと笑みを浮べられ、きょとんとしたままうなずくしかできなかった。
 ……珍しく、一緒に連れていかれなかった。
 などと考えていると、シャワーの音が響いてくる。
「…………はっ」
 ぼーっとそのままニュースを見ていたのだが、ようやく我に返った。
 ……いつまでも、こんな格好でいるわけにいかない。
 そう思って、洗面所に入ったんだけど――……途端、鏡に映るナース姿の自分。
 なんか……ホントやらしい。
 などとつい思ってしまいながらボタンを外すと、ふいに後ろのドアが開いた。
「っ……」
 先に洗い終えたという感じの彼と目が合い、思わず身体が固まる。
「タオル取って」
「……あ、はい」
 何を言われるのかとドキドキしていたら、普通のことだった。
 ……ちょっと警戒しすぎなのかな。
 ため息混じりに少しだけ反省しながら服に手をかけ――……たところで、鏡越しに彼と視線が合った。
 それはそれは、いたずらっぽく笑っている彼と。
「……え? っ……!」
 意図が読めずに振り返ろうとしたら、いきなり彼の腕が伸びてきた。
 バスタオル1枚まとっただけで後ろに立った彼が、服のボタンを外し始める。
「じ、自分で脱げますっ」
「ん? サービス」
「そんなサービスいらないの!」
「いいから」
 ぶんぶんと首を振るものの取り合ってくれることはなく、最後までボタンを外された。
 鏡に映っているのは、下着姿の自分。
 思わずそんな姿から視線を落とすと、彼が耳元に唇を寄せた。
「……やらしい」
「っ……! せ、んせいが……いけないんでしょっ」
「そうやって、また俺のせいにする。……羽織ちゃんが着てくれたんでしょ?」
「そ、それは、だって! 先生が着ろって言うから……」
「……しょうがないだろ。見たかったんだから」
「っん…!」
 低い声で囁かれた次の瞬間、耳に舌を這わせた。
 ぞくっとする感覚に思わずよろけると、彼が私を抱きとめる。
「……ん、やだぁっ……」
「まだ何もしてないよ?」
「だけどっ……!」
 彼の手が身体に触れるたび、ぞくりとした感覚が背中を走る。
 こればかりは、どうしようもなかった。
 ……だって、自分でもどうすればいいのかわからないんだもんっ。
「…………なんか、こー……」
「……え?」
「イケナイ場面を見てる感じ」
「……?」
 彼が唇を耳元に寄せたままで囁き、そっと私の顎をとらえて鏡を見せた。
 そのときになってやっと、今、自分がすごい格好をしていたことに気付いた私は、もしかしたら少し残念な子なのかもしれない。
「っ……やだ……!」
 鏡には、いたずらっぽく笑う彼と、そんな彼に抱きしめられて赤い顔をしている自分がいた。
 服は肌蹴て、下着が露わになっていて――……ひどく、やらしい。
「……うぅ」
「なんか、新人ナースをいじめてるみたいだな」
「いじめてるでしょっ」
「でも、羽織ちゃんはナースじゃないでしょ?」
「……でも……」
「ほら、脱ぐ」
「うぅっ」
 子どものように『バンザイ』で服を脱がしたあと、髪のピンとナースキャップとを外してくれた。
 ……なんか……やっぱり、こう鏡にそのすべての工程が映っているというのは、妙にやらしい。
「自分で脱ぎます!」
「そう? ……まぁいいけど」
 下着に手をかけられて慌てると、苦笑を浮かべながら彼が中へ戻っていった。
 ……はぁ。
 なんか、疲れた。
 大きくため息をついてから脱ぎ、タオルを持って入る――……と、湯船に浸かりながら壁の操作パネルをいじっていた。
「へぇ、ジャグジーもあるんだ。すごいな」
 ……まるで、小さな男の子みたいに楽しそうな顔で。
 さっきとはまるで別人。
 思わず小さく笑ってから、自分も身体を洗うべくボディソープに手を伸ばす。
 すると、いきなり伸びてきた手に邪魔された。
「っ……え!」
「ん? 何?」
「なっ……んでですか。え? だって今、お風呂に入って……」
「入ってたけど?」
「……じゃあなんでここ――……っ!」
 心臓がばくばくしてることを悟られないよう、懸命に感情を押しとどめながら喋ったにもかかわらず、躊躇なくボディソープを手に取った彼が首に触れた。
「……細い首だな。折れそう」
「折れませんよっ! っ……うぅ」
「なんで呻いてるのかな? ほら、座る」
「わっ!」
 そう言って、床に敷いたビニールマットに腰かけさせられた。
 ふわふわしていて、ボートにでも乗ってるみたいな感じ。
 こういう広いお風呂だからこそできる体験、なのかな?
 なんだか、ちょっと不思議だ。
「もう! 自分で洗えますよ!」
「いいから」
「……もぉ」
 まったく手を離してくれない彼に小さくため息をついてから、自分でもボディソープを泡立てて腕を洗う。
 ――……その途端、彼がわき腹に手を滑らせた。
「やぁーーっ!? く、くすぐったいですよ!!」
「うわっ。そんな暴れることないだろ?」
「やぁだっ! く……っあはは、やだーっ」
 じたばたしながら首を振ると、彼が抑えるけるように後ろから抱きしめた。
「……ったく。そんなに暴れない」
「だ、だって……先生がくすぐるんだもん」
「くすぐってないだろ? 洗ってたの」
「あれは、洗うっていう手つきじゃないですよっ」
「……ふぅん。じゃあ、ちゃんと洗ってあげるよ」
「……え……?」
 次の瞬間、彼が手つきを変えて撫でるように肌に手を這わせた。
「んっ……」
 たまらず声が漏れ、慌てて手を口に当てる。
 だけど、そんな私をおかしそうに笑いながら、なおも彼は手を滑らせた。
「……ちゃんと洗ってるだろ……? そんな声出さない」
「だ、って……く……やぁっ」
 腕に力を込めるものの、泡で滑ってうまく彼の手を阻めない。
 背中を撫でるようにしてから両腕を彼の手が伝うと、そのまま胸を下から撫でるように包み込んだた。
「……んっ……ぁ」
「そんな声出したら、襲いたくなる」
「あっ、あっ……やぁ、んっ……!」
 指先で撫でるように胸を触っていたかと思いきや、ゆっくり先端を弄るように触れる。
 たまらず身をよじると、彼がそれを支えてくれた。
 ……でも。
 次の瞬間、背中の腰の辺りに感じる、感触は……これ、って……やっぱり……。
「……もう待てないかも」
「っ……ん!」
 ゆっくりとマットの上に倒され、彼が瞳を細めて顔をのぞき込んだ。
 どこか憂いのある瞳。
 視線が合うだけで、動けなくなるように射すくめられる。
「……ん」
 口づけられるとともに、柔らかく舌で撫でられ、舌を絡め取る。
 ……先生がしてくれるキスが好き。
 これだけで、意識がどこかへ行ってしまいそうになるくらい、心地よくて、特別。
 でも、口を塞いだままでも、彼は手の動きを止めてはくれない。
「は……ぁ」
 まるで摩擦なんてものがなくなってしまったかのように、スムーズに手のひらが身体を流れる。
 首筋を撫でてから、胸の間を通って下腹部へ。
 そして、膝から太腿の間を割って――……行き着いたそこを執拗に責め撫でる。
 足を閉じようにも彼に邪魔されて敵わず、結局はあっさりと足を開かされた。


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