「……さて、と。それじゃ、風呂入るか」
「え!?」
ぽん、と肩に手を置かれると同時に、思わず大きな声が出た。
「あ」
慌てて口元を手で覆ってから首を振るものの、やはり彼は怪訝そうな顔を見せた。
……しまった。
だけど、まさかこのタイミングで言われると思わなかったから、つい大きな反応をしてしまったのだ。
「……何?」
「え、えっと……あの……」
……だってぇ……。
まだ心の準備ができてなかったから……もう少し、あとでもいいのに……。
だけど、まさかそんなことを彼に言えるはずもなく。
じぃっと見つめたまま、しばらく考え込んでしまった。
内容はもちろん……あのこと。
言うか、言わないか。
たったそれだけだけど、私にとっては最大の問題で。
……言わなかったら、絵里……何か言うかな……。
あ、でも。
もしかしたら、先生はそんなこと聞いても『別にいいけど?』とか言ってくれるかもしれない。
……そうだ。
そうだよ……!
きっと、そう。
先生ならば、きっとそんなことを聞いた程度じゃ怒ったりしないと思う。
「……何? どうした?」
思わず瞳を見たままでいつの間にか笑みが浮かんでいたらしく、彼は不思議そうな顔をしていた。
その顔を見て、ますます確信へと変わっていく。
……言える。
うん、大丈夫。
こんなことを聞いても、きっと彼は笑ってうなずいてくれるはずだ。
「先生」
「ん?」
「あの……お風呂、なんですけど」
「うん」
「……もう、一緒に入らなくてもいいですか?」
ぴし。
そんな音が聞こえるくらい明らかに、彼は表情を変えた。
「っ……!?」
「……なんでだよ。え?」
「せっ……先生……!?」
驚く暇もなく彼が肩を両手で掴み、ぐいっと顔を近づけてきた。
……え……。
えぇぇええ!?
だ、だって!
ちょ……ちょっと待って!
なんで?
どうして、こんなことになってるの?
先生は、お風呂がどうので固執するなんて、ないと思ったのに!
「……誰かに何か言われた?」
「えぇ!? ち、違う……けど……」
「じゃあ、どうして急に一緒に入らないなんて言い出すんだよ。え?」
「そ、それは……あの……」
瞳を細めて顔を近づけられ、吐息がかかる。
……うぅ……。
まさか、こんなに怖い顔するなんて思わなかった。
あーもーぅ!!
先生がこんな顔するってわかってたら、私、言わなかったのに!
ただただ首を振りながら彼を見るものの、一向に取り合ってくれそうな気配はなく。
どうやら、しっかりばっちりと、彼の機嫌を損ねてしまったようだ。
「駄目だ」
「……な……なんでですか……?」
「なんで? そんなこと聞くワケ?」
「っ……それは……」
先ほどから、彼はまったく笑みを見せてくれていない。
それどころか、かなり機嫌が悪くなっているらしく、怖いこわーい顔をしたまま。
……どうしよう。
今さら、『言ってみただけ』なんて言える状況じゃなくなってしまった。
だって、もしここでそんなことをバラしたら……。
……ああもう、絶対ダメ!
そんなことしたら、私には……明日が来なくなってしまう気がする。
怖い。
っていうか、ほんっとうにどうしよう……!!
「……コラ」
「はいっ!?」
「聞いてた? 俺の話」
「あ……えっと……」
「…………」
どうやら、彼から視線を外してあれこれと考えている間に、彼が何かを話していたようだった。
もしかしたら、何か訊ねられていたのかもしれない。
なのに、私が答えないから……こんなふうに、怒って……?
……うぅ。
先生、かなり機嫌悪いんですけど。
背にあるソファに逃げられるだけ逃げてみたんだけれど、すぐに限界は出てくるわけで。
……まずい。
先生、すごく怒ってる。
それは手に取るようにかなり分かるんだけど、でも……。
今ここですべてを告白しても――……丸くは収まらない気がする。
……どうしよう。
私……どうしたらいい!?
「っ!?」
「強制収容」
「あ、え!? ちょ、ちょっ……! 先生、ねぇ! 待って!!」
「強制って言ってるだろ? 待たない」
「だ、だって! あ……わ!? 先生!! ねぇ、先生ってば!!」
ぐいっと手首を掴まれて立たされ、そのまま引きずられるように洗面所へと連れて行かれてしまった。
途中でつまづきそうになったにも関わらず、彼は一向にこちらを振り返る気配がない。
……すごい怒ってる。
それだけは、手に取るようにわかる。
うぅ……どうしよ……。
手首を掴んでいる彼の力が強くて、一瞬だけ見えた彼の顔が笑ってなくて。
どうしようもなくこれが現実で、かなりの悪条件に陥っていることを……まざまざと現していた。
この続きは、はねか嬢のHPにて公開中(*´▽`*)
…だったのですが、2009年現在、休止中との事なのでこのまま公開させて頂いております。
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