ピンポーン
「………………」
「………………」
部屋に響く無機質なチャイムの音。
おずおずとまぶたを開けると、先ほどより少し離れた位置に彼のしかめつらがあった。
小さなため息とともにインターホンまで歩いていき、受話ボタンを押す――……かと思いきや、上げた手を下ろす。
そのまましばらく画面を見つめた彼は、無言でこちらへと足を向けた。
「え……出ないんですか?」
「出ない」
「どうし……っ、祐恭さ……!」
「いいんだよ。ほっとけば」
「でも、お客さんがっ」
「客じゃない」
ぱたぱたと彼の元まで向かうものの、大きな手のひらにはばまれた。
でも、液晶パネルは見える。
どうやら、ふたりと思われる人影――……あ。
「出ましょうよ!」
「いいんだって」
「よくないですよ! だって、紗那さんと涼さんじゃないですか!」
そう。
そこにいたのは、彼の妹と弟であるふたりなのだ。
……でも、だからこそ合点がいく。
彼の、この不機嫌そうな顔の。
「……もぅ。せっかく遊びにきてくれたのに、嘘ついちゃだめですよ」
「いいだろ別に。そもそもせっかくの休日だからこそ、どうして俺がアイツらの相手をしなきゃならないんだ」
「それは……でも、もしかしたら、何か相談とかかもしれないじゃないですか」
「それなら電話で済むだろ」
「でも、電話だとうまく伝わらないこともあるし……」
「だからって、連絡も入れずにいきなり押しかけてくるなんて、常識がない」
「……でも……」
うぅ。
さらりさらりと言い返され、思わず言葉に詰まる。
確かに彼の言うことはもっともだと思うし、兄弟だからってなんでもかんでも許されるわけじゃないというのも、わかる。
もし、訪ねてきたのがお兄ちゃんだったら、開けなかったかも…………って、それはないかもしれないけれど、でも、あの……うん。
ここは彼の家なんだから、彼がルールでもいいと思う。
……というか、そこまで嫌そうな顔をされると、何も言えないんだよね。
でも、別に彼らの仲が悪いとかってことはなくて、むしろかなり仲がいいほうだってことは知ってるからだけど。
「……ったく。わかったよ。出ればいいんだろ」
「え? あ、別にそういうわけじゃ……」
「いいよ。別に」
黙ったままインターホンを見つめていたのが気になったらしく、小さなため息のあとで彼が受話ボタンを押した。
途端、向こうから『ね? 絶対居るって言ったじゃん』という紗那さんのセリフが聞こえ、思わず笑ってしまう。
「なんの用だ」
『ひどーい。せっかくきたのに、そんなセリフはないでしょ!』
「連絡も入れずに、いきなり来るほうが悪い」
『だって、本当に留守だったら帰るもん』
「……あのな。そういう問題じゃないだろ」
まったく引かない彼女の隣で、うんうんとうなずいているのは、彼女の双子の弟……あれ。どっちが上だったっけ。
双子の場合はどっちがどっちか重要だって話も聞くけれど、そういえば、このふたりの場合はあまり耳にしない。
……んー。
でも、もしかしたら紗那さんがお姉さんになるのかな。
なんだかんだいって、いつも祐恭さんは彼女に根負けしているし、彼女は彼女で、彼がどんなことを言っても決して引き下がったりしない。
そういうところ、ふたりとも似てるんだよね。
だから、見ているととってもおもしろいんだけど、それはもちろん、彼には内緒。
『ねえ、羽織ちゃん居るんでしょ?』
「わかってて来たんじゃないのか?」
『さっすがお兄ちゃん。よくわかってるじゃない!』
インターホンごしに聞こえた、ぱちん、という指の音。
かわいい顔でウィンクした紗那さんが、姿勢を正して両手を腰に当てる。
『そーゆーことだから。お兄ちゃん、ここ開けて』
にっこり、というよりは何やら自信満々な笑みで。
さすがの祐恭さんもこれ以上何を言っても無理だということはわかったらしく、大きなため息をついたあと、解除ボタンに指を伸ばした。
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