まっすぐに目を見られて、そのままで名前を呼ばれて。
 すごくすごく大好きな人にそうされて……何も感じない人はない。
「……ん……」
 静かに重ねられた唇は、今にも溶けるんじゃないかと思うくらいに柔らかくて。
 ……キスって、すごく好き。
 嬉しくて、どきどきして……1番の、意思伝達手段。
 めいっぱいの『大好き』って気持ちを、これでもかってくらい詰め込めるし。
「ぁ……」
 するりと綜の手が服の上を這い、ぴくっと身体が反応した。
 ぞくぞくする、っていうのと同じ、あの感覚。
 だけど……やめてほしい、とは思えないアレ。
 気持ちいいって知ってるから、求めるように手を伸ばす。
「……綜」
 ぽつりと名を呼び、手のひらに触れた彼の髪をすくうように撫でる。
 一方で、綜は首筋を舐め、そのまま耳たぶを甘く噛んだ。
 途端、開いていたはずの瞳がきゅっと閉じる。
「ぁ、あっ……く……」
 いつもの自分より、ずっと高い声。
 『声を出す』というよりも、自発的にというか……無意識にというか。
 どこからか漏れてしまうので、なんともしようがない。
 ……だけど。
「っ……ん……!」
 気持ちいい、ってこと。
 それだけは、確かな気持ち。
「は……ふぁ、あっ……」
 撫でるように、さするように。
 たくし上げられたシャツの下に、綜の手のひらが触れる。
 冷たくない、温かい手。
 優しくて、少しだけ……独特。
 ただ肌に触れられているだけなのに、すっぽりと全身を包まれたみたいな感じ。
 ……毎回思うけれど、やっぱり、すごく特別なんだよね。
 ホントに好きだ。
「はっ……あ、ん……!」
 ブラをあっさりと外された途端、彼が胸を手のひらで包んだ。
 転がすように揉まれ、同時に長い指で先を弄られる。
 敏感なだけに、一層声は漏れるわけで。
 当然のように息が荒くなった。
「あ、あっ……は……ぁん……っ……そぉ……!」
「……優菜」
「ん……っく……ぅ……あ、あっ……! やぅっ……!」
 ぽつりと聞こえた、自分の名前。
 それが、まるで特別な呪文みたいに聞こえる。
 でもそれは、別に比喩とかそんなんじゃない。
 だって、実際に少し掠れた声で名前を呼ばれた瞬間、身体がかぁっと熱くなったから。
「はぁ、は……ん……や……きもち……ぃ……」
「……正直だな」
「だ、って……ふぁ……っ!」
 ぺろりと胸を舐められ、ヘンな声が漏れる。
 それと同時に、気持ちも昂ぶる。
 ……どんどん、自分がヘンになってく。
 それはわかるけれど、でも、敢えて止めたりはしない。
「っ……は……」
 せめて、何か私にもできないか。
 そう思って綜に手を伸ばした途端、彼は器用にジーパンのボタンを外した。
「んなっ……! っきゃ……ぁう……っ……はあ、あ、やっ……」
「……こっちも正直か」
「やだっ……やだぁ……あんっ!」
 びっくりしたのは、当然。
 でも、身体を起こす前に、あっさりと綜に阻止される。
 ……なんでこんなに器用なんだろう。
 ヘンな意味で感心してしまうほど、器用に動く……長い指。
 それが、まるで的確なポイントを突いているかのように自在に動き、私を簡単に翻弄していく。
 ……えっちぃなぁもぉ。
 きゅっと瞳を閉じたままいろいろなことを考えていると、むくむく浮かび上がった妙なことが、どんどんと自身を煽っているように思える。
 でも私は、綜と違って器用じゃないから。
 どうにもこうにも、手の施しようがない。
「ふぁあっ……!」
 なんの前触れもなく、いきなり綜の長い指がナカに入って来た。
 身体がすごい反応をするのがわかって、思わず背が反る。
「は、はっ……あぁっぁ……ん……」
「気持ちいいだろ……?」
「ぅぁっ……えっち……ばかぁ……っ」
「……随分だな」
「だって、だっ……てぇっ……はぁっん!」
 喘ぐので精一杯だから、言葉よりも息を吸うほうが先。買い  苦しくてたまらない。
 息をするのもままならないほど、自分が翻弄されてるってわかる。
 ……そりゃあ……い……嫌じゃないけど。
 でも、やっぱりちょっとズルい気がする。
 いつもよりずっと優しいのに、でも、こんなときだけは同じ。
 きっと今目を開けたら、まるでほくそ笑んでいるかのように、口元を少しだけ上げて瞳を細めた彼がいるんだろう。
 …………。
 ってまぁそれは…………それで、仕方ないようなほっとするような……そんな複雑な感じだ。
「っきゃぅ……!」
「……そんなに締めるな」
「やっ……馬鹿っ!」
 少しだけ楽しんでいる声が聞こえて、軽く彼の腕を叩いていた。
 ……うぅ。
 これじゃあ、ホントにいつもと同じじゃない。
 …………いつも、と……。
「はぁ……っ……」
 大きく息をつくと同時に、ゆっくりと瞳を開く。
 そのとき涙が滲んでいたらしく、一瞬視界がぼやけた。
「綜……」
「……どうした?」
 吐息混じりに彼を呼ぶと、予想以上に近い距離で反応があった。
 そう言って私を見た彼は、いつもと同じ顔。
 でも、違う……んだよね。
 だって、いつもだったら間違いなく綜は『なんだ』ってそっけなく言うはずだから。

「……ねぇ……ちゃんと、来て……?」

 懇願か、おねだりか。
 微妙なラインでどちらとも取れる言葉を口にすると、一瞬だけ、彼が少し驚いたような顔をした。
 ……へへ。
 私、綜のこういう顔見るのってすごく好きなんだよね。
 してやったり、って思うんだ。
 普段は、カンペキで何もかもが計算尽くされた上に成り立ってるみたいな顔してるからこそ、それを崩してやりたくてたまらなくなる。
 だって、現実ってそうでしょう?
 何もかもが自分の思い通り、予想通りになんて進まない。
 だからこそ、面白くて楽しいんだから。
「っ……あん!」
「……は……」
 ぎゅっと抱きしめられると同時に、首筋へ彼の吐息がかかる。
 そして――……ナカにいる起立した彼自身を感じて、身体が震えた。
「ん、っく……は……ああっ!」
 抱きつくように腕を回し、彼にしっかりとしがみつく。
 誰よりも、何よりも1番近い距離にいる。
 どうしてもそれを感じたくて……そして、ほかの誰も得られない優越感に浸るために。


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