「っあ……あ、んんっ!」
 膨らみを確かめるかのように、大きな手のひらが胸を包む。
 かと思えば、何かを探るかのように指先が動き、敏感な箇所が擦れて甘い悦が身体に広がった。
「は……ぁ、あっ……」
「……あんまりかわいい声出すと、いっぺんに欲しくなるだろ」
「っん……祐恭さ……」
「ずっと欲しかったんだから、全部……ゆっくりもらう。だから、我慢して」
 いつもより語調が荒いのが、妙に彼らしくなくてどきどきする。
 こんなふうに強く言われたこと、なかったもん。
 心底渇望されてるようで、身体の奥が痺れてしまいそうだ。
「……ぁ……っ」
 Tシャツの下に入り込んだ手のひらが、しっとりと汗ばんだ肌を伝って胸に触れた。
 下着をずらされて直接弄られ、反射的に身体が跳ねる。
「明るいのは嫌?」
「……だ、って……恥ずかしい」
「じゃあ、消さない」
「っな……!」
「その顔、かわいすぎ」
「う……祐恭さんっ……もぉ……」
 なんでそんなに意地悪なんですか。
 小さく小さくつぶやいたのを、どうやら聞かれてしまったらしい。
 口角を上げた彼が瞳を細め、ひどく意地悪そうな顔を見せる。
「あっ……!」
「いけない子だな。本当に」
「や、ぁ……あぁっ……そんっ……!」
「意地悪いよ? 俺は。だから、優しくしない」
「んんっ……やぁあっ……そんな……ことっ……」
「羽織が悪いんだろ。誰がどう意地悪だって? ……こんなに優しいのに」
 Tシャツをたくし上げられ、明かりの下に胸が露わになる。
 指先で転がすように弄られる感触と、ふぅ、と吐息がかかる感触とに、頭がくらくらしてきた。
 じれったい、って思うのは……私がいけない子だからなのかもしれない。
 もっと触れてほしい、もっと――気持ちよくしてほしい。
 妙なもどかしさのせいで思わず唇を噛むと、小さく笑った彼が頬に触れた。
「じゃあいっそ、意地悪するから」
「……え……?」
 うっすらと涙が滲んだ瞳を開けると、すぐ目の前で彼が笑う。
 でも今、なんだかとんでもないセリフが聞こえたような気がするのは、気のせいじゃない。
 いつもより声が低いせいか、彼のはずなのに彼じゃないようにさえ錯覚し始める。
「欲しがって。そうしたら、してあげる」
「なっ……ななっ……!?」
 これ以上のとんでもないセリフなんて、そうないだろう。
 一字一句をはっきりと告げられ、目が丸くなると同時にぱくぱくと口が開いた。
 でも、息を呑んだのは次の瞬間。
 祐恭さんはまるで、今をひどく楽しんでいるかのような笑みを浮かべた。

「Don't hesitate,Honey?」

「ッ……!!」
 きれいな発音と、セリフと。
 そして、ひどく楽しそうなその顔と。
 すべてが在りし日の彼とダブって、デジャヴを覚える。
 もぉ……どうしてそんなこと言うんだろう。
 しかも、よりによってこんな状況で。
 やっぱり祐恭さんは、祐恭さんなんだ。
 わかっていたことだけど、実際に体験したことで、より強いものになった。
「もぉ……祐恭さぁん……」
 根柢の部分は何も変わっていなくて、いつだって自信があって。
 意地悪だけどとっても優しくて、私だけを愛してくれる。
 本当に……なんて人だろう。
 もう、生涯離れられない特別な人。
「I can't take it anymore...」
「っ……」
 いつだっただろう。
 ああそうだ。確か、3月のころ。
 珍しく葉月がため息をついたと思ったら、小さなひとりごとが聞こえた。
 どうやら私に気づいてなかったみたいなんだよね。目が合ったら驚いた顔をしてすぐ『がまんできないの』と笑った。
 あのころ、葉月は葉月なりにお兄ちゃんとのことを悩んでいたらしい。
 以降、葉月がため息をついている姿は見なかったから、わりと早く解決したみたいだったけれど、珍しいなぁって思ったんだよね。
 だから、すごく印象強かったの。
 takeにはそんな意味もあるんだ、って。
「あっ……んあぁっ!」
「羽織が悪い」
「う、きょうさっ……あ、ぁ……そこ……っ」
「……は……気持ちいい?」
「んんっ、ん……もぉ……やぁ」
「嫌じゃないクセに。いけない子だ」
「っ……あぁあっ!」
 ちゅう、と強く胸の先を吸われ、ひくひくと身体が震えた。
 舌先で転がされ、否応なしに身体が敏感になる。
 揉みしだかれて、舌で弄られて、頭がくらくらした。
 こんなにも欲しがってもらえるなんて、思わなかった。
 だって、まさか……これほどまで、強く求めてもらえるなんて。
「ん、んっ……祐恭さん……」
 すぐここにある彼の髪に触れ、そっと頭を撫でる。
 でも、小さく名前を呼んだつもりだったのに、ぱっと顔を上げて見つめられ、たちまち恥ずかしくて身体が熱くなった。
「……かわいい」
「ッ……」
「全部、ちょうだい」
「もぉ……何も言えません……っ」
 かわいい、と言ってくれた瞬間の顔が、あまりにも優しくて、柔らかな笑みで、もう絶対に顔が真っ赤だと思う。
 口元へ手を当ててもごもごとしゃべるのが精いっぱいで、おかしそうに笑った彼は頬へ改めて口づけた。
「……あ……」
 つつ、と胸からお腹を通って指先が下腹部へ触れた。
 触られた箇所が、じんと熱を帯びる。
 まるで表情を伺っているかのように目を逸らされぬまま指が降り、しどけなく唇が開く。
「っ……」
 下着の縁をつつ、となぞられて思わず目が閉じた。
 まぶたの裏は明るい。
 でも次の瞬間、ふいにかげったかと思うと、唇が重ねられた。
「ん……っんんっ……」
 太ももを撫でるように這う手のひらが、そっと内側へ回る。
 目を閉じているせいか、感覚が鋭くなっていて、彼の動きすべてが身体を支配する。
「はぁっ……ん!」
 くちゅり。
 濡れた音が耳に届き、かぁっと身体が熱くなった。
 声が漏れてしまいそうだけれど、口づけられ、舌を絡め取られている今は反応ができない。
 聞こえるのはただ、くぐもった吐息と、自身の卑猥な音。
「あ、ぁっ……ん! そこ……は……」
「……ここ?」
「っん! やっ……祐恭さっ……」
 秘所を触れられた途端、どくどくと熱を帯びたかのようにうずいた。
 わずかに指をかすめられただけで、いやらしい声が漏れる。
「あぁっ……んぁ、そこ……っそこ……!」
「気持ちいいんだ」
「んあ、あっ!」
 濡れた指先で花芽をなでられ、高い声が漏れた。
 そのまま何度も往復されて思わず唇を噛むと、そっと彼の指が伝う。
「傷になる」
「ん……っ……そ、んなこ……」
 薄く瞳を開けると、祐恭さんが眉を寄せたのが見えた。
 でもそれは、一瞬のこと。
 愛しげに口づけられ、舌が唇を舐める。
「ん、んっ……ん……っ」
 何度も角度を変えて口づけられ、身体から力が抜けた。
 下着を下ろされ、直接指が秘所を撫でる。
 ひんやりとした空気が一瞬触れると、それさえも快感に感じとる身体が、妙にいやらしくて恥ずかしい。
 でも……嬉しい、んだもん。
 祐恭さんに求めてもらえたことが、何よりも嬉しい。
「っ……ぁあっ!」
 胎内に感じる彼の指に、たまらず声が漏れた。
 奥へ奥へ刺激され、ひくひくと秘所が脈打つ。
「ここが……いいんだ?」
「も……やぁ、祐恭さ……っ……言わな……」
「かわいい顔してる」
「ん、んんぅっ……は、ぁっ……そこ……っ!」
 指が増やされ、さらに悦が増える。
 と同時に当然濡れた音が大きくなり、恥ずかしさで思わず首が振れた。
「はぁっ、は……ぁっ……ん」
 ぬるりと指が抜き取られ、身体が一気にけだるくなった。
 大きく息をつき、うっすら瞳を開ける。
 すると、一度身体を起こした彼が、改めてこちらへと向き直った。
「もう少し、慣らしてあげたいところなんだけど……ごめん、そろそろ限界」
「……え……?」

「もっと気持ちよくしてあげる」

「っ……!」
 ぎし、とベッドを軋ませ、彼が私を改めて組み敷いた。
 そっと足を開かされ、たまらず恥ずかしさから目を閉じるも、祐恭さんがゆっくりと身体を割り込ませたのはわかる。
 明るい下。きっと全部見えてしまっているだろうけれど、でも、今さら何も言うことはできない。
「……いい?」
「ん……っ……きてください」
 消えてしまいそうな小さな声だったけれど、こくんとうなずくことができたから、ちゃんとした意思表示にはなったかな。
 どくどくと苦しい鼓動のまま彼へ手を伸ばすと、秘所へあてがわれた屹立した彼自身を感じて、改めて喉が鳴った。
「は……ぁ、ああぁっ……!」
「……く……っ」
 ぐ、っと力がこめられ、身体のナカに彼自身を感じ始める。
 どうしよう。もう、何も考えられない。
 身体も頭の中も彼でいっぱいで、苦しいくらいだ。
「はぁ、あっ……あっ!」
 濡れた卑猥な音が響き、ぞくぞくと背中が震える。
 ゆっくり、ゆっくり。
 彼でじわじわと満たされるのを感じながら目を開けると、ひどく艶やかな顔をした祐恭さんがすぐここにいて、ぞくりと身体が震えた。
「っ……く」
「ひゃ……ぁっ」
 ぐぐっと押し広げられると同時に、花芽がこすれて秘所が震える。
 頭がくらくらする。
 もう、本当に何も考えられない。
「は、ぁっ……」
 大きく息をついた祐恭さんが、ゆっくりと私を抱きしめた。
 けれど、そうされることで角度が変わり、奥までいっぱいに満たされる。
 漏れてしまう、甘い声。
 自分でも恥ずかしいくらいのものだけれど、彼は優しく髪を撫でると笑みを見せた。
「……俺だけだ」
 わずかに掠れた声を聞いた瞬間、胸の奥がひどく震えた。
 ずっと、ずっと言ってほしかったのは間違いない。
 彼だけのものだとわかってはいるけれど、実際に言われることほど強い影響力はないんだから。
「祐恭さんも……私だけですよ……?」
 頬に触れられた手のひらが熱い。
 そっと左手を重ねると、ひどく優しげに笑った彼が、改めて口づけた。

「じゃあ……いこうか」

 ぽつりとつぶやかれた言葉は、なんだかいろいろなものを含んでいるような気がして。
 目を見つめたまま笑われたのが気恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、視線を外すのも忘れて自然とうなずいていた。


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