我ながら、ひどく大胆なことをするようになったなーとは思う。
ううん、もしかしたら『馬鹿なこと』に分類されるのかな。
今までは、知識で持っていても絶対に実行するはずないと思っていたようなことを、自分からしでかそうとしてるんだから。
「…………」
揺らめく明かりで浮かび上がる影が、寝室の壁にいくつも浮かんでいる。
大きなベッドの上には、何が始まるのかと少し困惑気味の里逸。
……や、困惑だけじゃないか。
ちょっとは、もしかしたら期待してくれてる?
真正面に立ったまま小さく笑うと、喉が動いたように見えた。
「里逸に、もいっこプレゼントあげるね」
「……もうひとつ?」
「うん」
もらったばかりのバッグを、丁寧に不織布で包みなおしてショップの袋へしまってからリビングに保管したのは、ついさっき。
でも、ごはんを食べ終えて、お風呂にも入って片付けも終わった時間だからこそ、クリスマスの夜を満喫するには、もってこいだと思うんだけどどうなんだろう。
……って、自分で言い出すとは思わなかったけどね。さすがの私も。
寝室まで、手を引いて連れこむまではまったく意味がわかってなさそうな里逸だったけど、さすがにベッドへ座らせたら意図がわかったらしく、口をつぐんだあの瞬間は正直忘れられない。
「…………」
まじまじと里逸を見つめたまま膝でベッドへ上がり、ちょこんと座る。
やばい。ほっぺた赤くなりそう。
でも、決めたんだもん。
やろうって思ったんだもん。
あの――……里逸が、嫉妬してくれたときに。
私のことだけ、見てくれてるってわかったときに。
「っ……」
もこもこのあったかいルームウェアの上着に手をかけ、じりじりとチャックを下ろす。
さすがに、直接的なんだからどんなに鈍い里逸でも意味はわかっただろう。
小さな音を立てて最後まで外した途端、ふわりと赤い薄布が広がった。
その瞬間、里逸は明らかに反応したから……あー、満足しちゃったじゃない。
そういう顔してくれるかなーって思ったから、どうしてもやってみたかったんだもん。
「……これね、今年のクリスマス限定なんだって」
小さく呟いたつもりが、いつの間にかくすりと笑っていたらしい。
言いながら上着を脱ぎ捨て、同じようにズボンにも手をかける。
だけど、里逸は何も言わない。
それって、もしかして期待してくれてるってこと?
だとしたら、何よりのプレゼント。
私がどうしても欲しかった反応をくれるなんて、あながち恋人はサンタで間違いないのかもね。
「…………へへー」
ズボンと上着を脱いでしまうと、さすがに暖房が入っているとはいえ肌寒い。
だけど、こんなふうにキャンドルの淡いオレンジの光に照らされているなんて、非日常的ですっごいエロチックなんだけど。
って、やってる自分で言ってたら世話ないかな。
両手をベッドについて里逸の元まで行くと、ヘッドボードにもたれていた彼は何か言いたげに開いた唇を結んだ。
「…………」
いつもだったら、文句のひとつやふたつくらい言いそうなのに、何も言わないとかえってどきどきするのはなんでかな。
それってやっぱり……この、視線のせいっていうのもちょっとはある?
舐めるようななんて下劣な言葉は言わないけど、なんかこう……ちょっと絡んでくる気はするわけで。
ふりふりの真っ赤なベビードールと、白いレースが付いた下着のセット。
これに赤い帽子でもかぶれば、十分サンタのコスプレにはなるかもしれない。
でも、里逸がそれを好きかって言ったら、わからなかったからさすがにそこまではしなかったよ?
今回は――……ね。
ただ、この反応を見れた以上、次からはもうちょっとやっても平気かもしれない。
ていうか、個人的なことを言わせてもらうならば、私だから許してくれてる部分は絶対的に大きいと思うし。
だってそうでしょ?
これはうぬぼれでもなんでもない、目の前の里逸の反応すべてから算出したちゃんとした数値にもとづくもの。
きっと、里逸は私だから許してくれてる。
こんなふうに、あえて里逸を試すような挑発的な格好をしていても、だ。
「里逸」
体重をかけたせいか、ギシ、と鈍くベッドが鳴る。
だけど、当然目線を外したりはしない。
まっすぐ見つめて、射抜くように合わせる。
最初に逸らしたほうが負け。
目を合わせたら、逃げちゃいけない。
「Meowy christmas(クリスマスおめでとうにゃん)」
「……お前は……」
にっこり笑って招き猫よろしく手を招くそぶりを見せると、たちまち嫌そうに顔をしかめた。
あー、おもしろい。
ていうか、やっぱり里逸のこの反応っていちばん好きかもしれない。
今までとは、全然違う顔。
たちまち雰囲気が崩れ、いつもみたいになる。
「……? ほず――」
「今日は、全部私がしてあげるね」
「な……」
だからこそ、あえての顔。
ふっと瞳を細め、にっこり微笑む。
今日はクリスマス。
もうひとつのプレゼントをあげると告げた以上、ここから先の時間は全部私のものなんだから。
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