「っ……ぅ」
 べったり身体を預けたまま、首筋をぺろり。
 自分と同じ匂いのはずなのに、やっぱり違う気がする。
 っていうか……いい匂い。
 甘くて、だけどキツくなくて、ついつい頬が緩みそうになる。
 『私が全部してあげる』なんて、大それたことを言うなーって自分でもおかしかった。
 でも、言ってみたかったセリフではある。
 これまで里逸に教えこまれたことを、復習という形で彼に見せてあげるのも悪くないな、なんて。
 って、そんなこと言ったら絶対嫌そうな顔するから、やめとくけど。
 そもそも、『そういうことを言うんじゃない』とかお説教になっちゃいそうだし。
「……すべすべ」
 パジャマのボタンを外しながら手をすべらせ、伝うように胸に触れる。
 自分とは違う肌質。
 それだけじゃなくて、なんかこう硬いっていうか……筋肉とかなのかな、やっぱり。
 普段、まったく身体を鍛えるとかスポーツとかやってないのに、自分みたいにむにむにできる場所がないのは、不思議。
 そういうのって、男女差もあるのかな。やっぱり。
「っ……」
 ずりずりと姿勢を崩して胸元へ唇を寄せると、ひくりと反応を見せた。
 やっぱり、男の人も気持ちいいのかな。
 自分とは違う身体のつくりだから、どこをどうすればいいのかよくわからない。
 それでも、きっと……触るのって、気持ちいいはずだよね。
 ……私、そうだもん。
 里逸に触られると、なんでもない場所も全部気持ちよくなる。
 だから……里逸も、そうでしょ?
 もしかしたら、そんな確認を無意識のうちにしたかったのかもしれない。
「ん、ん……んっ!?」
 ぺろり、と舌先で舐めていたら、ふいに里逸の手が胸に触れた。
 びっくりして胸から離れると、途端に…………う、その顔やだ。
 少しだけ潤んでるようにも見える熱っぽい眼差しに、どくりと鼓動が大きく鳴る。
「や……だ、ね……私、するって……」
「触らない約束はしてないだろう?」
「……そ、だけど……っん……!」
「…………いつもより、反応がいい」
「っ……ばか!」
 ぷつり、と音もなくブラを外し、ベビードールをたくしあげた里逸が両手で背中を抱き寄せた。
 もたれたままの里逸の顔の前に胸が寄る形になり、そのまま熱い舌が触れる。
「はぁ、っ……や……こ、れじゃ……舐めれない……」
「……構わないだろう……? 俺は……こうしたい」
「っ……んん!」
 掠れた声が妙に色っぽくて、身体がぞくぞくする。
 私だって……もちろん、してほしかった。
 私だけを見て、私だけでいっぱいになってる里逸を見るのは、何よりも好きだもん。
「っ……だから……」
「ふぁ……や、だって……私も……したい」
 指先で胸の頂を弄られるたび、身体の奥が疼く。
 ひくひくと喘ぎが漏れるのは、すごく気持ちいい証。
「あ、あっ……あ、んぁ……っ」
 舌が先端を舐め、吸うように刺激されるたび情けない声が漏れるけれど、里逸はそれも好きだって言ってくれた。
 ……私も好き。
 里逸のことが、全部。……何もかも。
「んんっ……!」
 ぐい、と肩を掴んだ里逸が私をベッドに倒し、覆いかぶさるように上へきた。
 布が摩れる音も、今はなんだかえっちに聞こえる。
 身体中をまさぐるように動いていた両手が一気に下着を引き下ろしたせいで、濡れた秘所はひんやりと冷たさを感じた。
「んぁっ……! り、ち……手……つめたっ……」
 右手と左手の温度が全然違うのは、なんで?
 胸を揉んでる左手はあったかいのに、中に入ってきた右手は……冷たくて。
 胎内の温度が熱いせいか、里逸の指がすっごく冷たく感じる。
 感じる……とかってレベルじゃない。
「ああ……やだもぉ……っん……つめた……ぃよぉ」
 つぷり、と長い指がさらに胎内の奥を刺激し始める。
 くちゅりと濡れた音がやけに耳について、いつもよりもずっとどきどきして。
 ……やばい、気持ちいい……かも。
 高く濡れた声が自分じゃないみたいで、だけどすごく……気持ちよくて。
 ふわふわする。
「……っはぁ……」
 指の数が増やされたせいで、音も一層卑猥に聞こえる。
 濡れそぼだつ花芽は、里逸の手がかすめるだけで、もうおかしくなるくらい気持ちよくて。
 ……もぉ……どうすればいいのよ。
 胸の先を含まれ、舌先で弄られるたびにひくひくと秘所がうずいて、ものすごく情けない顔になった。
「んっ……!」
 しばらくして、里逸が私から離れた。
 ……やばい、すっごい息上がってるんだけど。
 ていうか、今の自分の格好がものすごくえろくて……やばいでしょ。これ。
 下着は穿いてないし、ベビードールはたくし上げられて胸全開だし。
 もー。どうなのこれ。
「……え?」
 戻すべきかどうしようか悩みながらベビードールの端をつまんでいたら、こちらに向き直った里逸が眉を寄せた。
「なに?」
「……いかがわしい」
「…………ちょっと。今まで散々いかがわしいことしてたの、どこの誰?」
 でもまぁ、自分でもえろいなーと思ってたから、文句は言わないでおく。
 だって、このままの状況で放置とかされても、困るし。
 ……気持ちよくなりたい。
 知ってしまった以上、この先を求める。
「……いいか?」
「ん……きて」
 肩の少し上に両手をついた里逸が私を見下ろした。
 翳ったせいで、雰囲気ががらりと変わる。
 こういうときの里逸は、すっごい男っぽい。
 ……ぞくぞくする、とか言ったらヘンタイさん?
 でも、しょうがない。
 こういう、みんなが知らない顔を見れるときにこそ、優越感を味わえるんだから。
「んっ、ぅ……!」
「……く……」
 ず、と起立した里逸自身がゆっくりと胎内に入ってきた。
 ひとつになる、って考えてみるとすごいことなんだよね。
 別々の身体の器官があわさって、ホントの意味での“ひとつ”。
 神様は、人間をうまく創ったなって……こういうとき、強く感じる。
「あ、ぁ……っ……ん、里逸……」
 首に両腕を絡めて引き寄せ、耳元で囁く。
 こうすると、里逸はすっごい困ったような顔するから好き。
 ねぇ、いっぱいになってよ。
 私だけ感じててよ。
 だって――……今の私は、里逸でいっぱいになってるんだから。
「……好き」
「っ……」
 ぽつりと呟いてから耳たぶを舐めると、腰を掴んでいた里逸の両手が反応を示した。
「っんあ……!」
「……俺も好きだ」
「ん、んっ……り、ち……」
「穂澄……お前だけでいい」
「ふぁっ、ん、んっ……あ、や……!」

「……お前だけそばにいてくれれば、ほかには何もいらない」

「っ……」
「穂澄だけが……欲しいんだ」
 ベッドの軋む音だって、ちゃんと耳に届いてる。
 だけど、誰よりも近くで囁かれた言葉は、ずっと大きくて。
 それ以上に、深く身体へ入ってくる。
 ……もぉ。
 なんでこう、“ど”が付くくらいストレートなんだろう。
 英語の先生って、みんなこうなのかな。
 だとしたら、それって……ロマンチスト、って褒めるべきなの?
「ん、んっ……!」
「っ……」
 律動が早まり、濡れた音が一層大きく響く。
 同時に身体の奥から気持ちよさが溢れてきて、情けなくも唇は開きっぱなし。
 やばい……すっごい気持ちいい。
 冷たい里逸の指先が身体中を撫でるのに、熱くなりすぎてるのかそれすらも心地よくて。
「は、ぁっ……り、ち……っん……! そこ、や……ぁ!」
「……く……気持ちいい、のか……?」
「ッ……き、かないでよ……ばかぁ……!」
 そんな艶っぽい顔しないでよ。
 そんな……濡れた目で見ないでよ。
 キャンドルの淡い光を背負ってる里逸は、いつもとあまりにも違いすぎてキレイだと思った。
 だから……なんだからね。
 どうしようもなく欲しくて、胸の奥が詰まって、自分から奪うように口づけたのは。
「ん……ん、ふ……」
 舌を絡め、吸い尽くすようにキスをくり返す。
 何度も……何度も。
 吐息さえも逃がしたくなくて、全部、何もかも私だけのものにしたくて。
 ……これってワガママ?
 それとも…………好き、だから?
 だとしたら、『好き』の感情ってちょっとだけ怖い。
 この人のすべてを欲しがるなんて、きっと思ったらいけないだろうに。
「……愛してる」
 濡れた唇を指で撫でると、目を合わせたまま笑っていた。
 驚いたように目を丸くされたけど、まぁ、いつもの私らしくないような顔でもしてたんだろうね。きっと。
 だから、もう一度キスしてごまかしておく。
 ……だって恥ずかしいじゃない。
 自分でもまさか、こんなに里逸のことを好きで好きでたまらなくなるなんて思わなかったんだから。
「……俺もだ」
 大きな手のひらが頬を撫でた。
 さっきまではあんなに冷たかったのに、今はすっかり温かいと感じるくらいの右手。
 大きくて、私を丸ごと包んでくれる、大好きなもの。
 すごく安心するから……好き。
 実際、私のことをいつだって守ってくれる。
「愛してる」
 少しだけ掠れた愛の言葉は、胸の奥を震わせるには十分すぎるもので。
 目を見たまま笑うと、瞳を細めた里逸も不器用に小さく笑った。


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