「ふんふんふーん、ふんふんふーん、ふんふんふーんふふーん」
スタンドではいつもFMを流してるんだけど、今日は案の定“クリスマスソング特集”だった。
お陰で、朝からずーっといろんな定番ソングを聴き続け、今ならみんなに的確なアドバイスができるに違いない。
洋楽邦楽、どっちも。
昔懐かしのーから、最新ものまで幅広くピックアップされたこの数時間、かなり楽しいバイトになった。
でも、だからって今鼻歌交じりに帰宅してるわけじゃない。
今日は、そこへさらなるプラスアルファがあったんだもん。
「穂澄ちゃん、よかったらこれ持って帰って」
珍しく16時半きっかりにバイトを上がれてにんまりしていたら、着替えようとしたところでマネージャーがひょっこり顔を出した。
これ。
その単語が示したものは、予想以上の大きなもので。
右手にぶら下げていた紙袋が白かったのもあってか、一瞬サンタの袋みたいに思えた。
「んもー、お陰で今日の売り上げもばっちりよ! やっぱり、若い子のサンタさんっていうのは効果絶大ねぇ」
「ホントですか? だったら嬉しいですけど」
でも、何気にマネージャーも店長もサンタの格好気に入ってるよね。絶対。
にこにこしながらサンタ帽をかぶりなおしてるのを何回も見かけて、そのたびに噴きそうになったほど。
でもま、気持ちがうきうきするっていうのはいいことだよね。
大人だって子どもだって、やっぱりこういうハッピーなイベントは好きに違いないんだから。
「うちの子がバイト先からチキンをいっぱい貰ってきたのよー。でも、食べきれないでしょ? 3人ぽっちだし。だから、これ。よかったら食べて」
「うっわ、ちょー嬉しい! ありがとうございますー!」
ドン、と重たそうな音のする紙袋を彼女がテーブルに置いた途端、あのなんともいえないおいしそうなチキンの匂いが漂った。
あーもー、ちょーおいしそう。
今日の夕飯は決めてたけど、あれはあれで別に回せるから、今日はこっちを食べるのが先。
『ありがとうございますー!』を再度口にしてにんまり笑うと、マネージャーはさらにごそごそとサンタ服のポケットを探った。
「それとね、これ。おすそわけ」
「……えっ」
「ほんのちょっとなんだけどね。何かに遣って」
「え、やだ! いいんですか!?」
「もっちろん! なんせ、今日の売り上げはやっぱり穂澄ちゃんのお陰だものー」
マネージャーが取り出したのは、小さなぽち袋。
だけど、まったく予想だにしてなかったのと、このいかにも“大入り袋”みたいな紅白の包みに、目が丸くなる。
「今日はクリスマスだもの。それは、私と店長からのプレゼントってことにして。ね?」
「っ……ありがとうございます!」
「いいのよ。いっつも、本当によくがんばってもらってるから。ありがとうね」
「とんでもない! っうー……もぉ、どうしよ。ちょー嬉しいんですけど」
「あらあら、よかったわー」
思いがけないプレゼントに、思わず泣きそうになった。
慌ててまばたきの回数を増やし、赤くなりかけた鼻を隠すように手を当てる。
もー、本当にここのオーナー夫婦はいい人なんだから。
今年のお正月にだって、なんだかんだ言いながらお年玉もらっちゃったし。
うちの親以上に、私を大事にしてくれてる。
それがわかるから、なるべくしっかり働いてきっちり恩返しをしたい。彼らには。
「…………えへへ」
そんなこんなで、帰宅した現在。
アパートの外階段を上がりながら、ついうっかりジングルベルを口ずさんじゃうのだって、やっぱりしょうがないと思うんだよね。
今日1日でいろんなクリスマスソングを聞きはしたけれど、コンビニの前を通ったときに聞こえた“ジングルベル”が何よりも耳に残って、ついまた歌いだしそうになる。
「……ん?」
この時間ともなると、すっかり薄暗くなっているから外灯はついている。
だけど、階段を上がりきったすぐここの部屋の窓から明かりが漏れていて、『あ』と思った。
そういえば、里逸が何時に帰ってくるか聞いてなかったんだっけ。
…………さて。
クリスマスは、今夜が本番。
片手にはどっさりチキンの入った紙袋。
そして――……部屋の中には、何も知らない里逸がひとり。
「……ふふ」
部屋の鍵を取り出すとき、音がしないように気をつけた自分がおかしくて、ちょっとだけ笑いが出る。
今夜は、昨日とは全然違う夜にしてあげるね。
鍵を差し込みながら、ついつい普段の里逸曰く『そういう顔をするんじゃない』といういたずらっぽい顔になり、我ながらしょうがないなぁと思いもした。
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