「うわ……キレイな人。っ……え」
ぽつりと呟いたのは、本音だったせい。
でも、その言葉が相手の耳にも入っていたようで、綜と対峙している彼はにこりと笑った。
ただその一方で、綜の舌打ちが聞こえたからびっくりしたわけよ。
だって、いつもと雰囲気が違うんだもん。
いつもならば、綜が誰かと話しているときは必ずって言っていいほど笑顔もあったし声のトーンも違っていた。
にもかかわらず、まさかの舌打ちとかどんだけなの?
てことは、繕う気ゼロってことだよね?
やー、意外。
綜って、お仕事でもそういう顔見せられる人いるんだね。
「初めまして、お嬢さん」
「っ……はじめまして」
にっこり笑った彼の髪が、さらりと動く。
金というよりは、クリーム色とでもいえばいいかな。
背も高くて、にっこりイケメンで、さらっさらの純な髪色。
それこそ、現実世界で出会える確率なんて小数点以下であろう人が、お嬢さんときたもんだ。
そんなふうに言ってもらったこと、営業の人にしかないなぁ。
「コイツは関係ないだろ。本題を話せ」
「いいだろう? 別に、挨拶くらい。それとも、僕が話すのが気に入らない?」
二度目の舌打ちが聞こえて、こっちがヒヤヒヤする。
なんでそんなに嫌そうなんだろう。
口調からして知り合いみたいではあるけれど、仲の良さまでは計り知れない。
なんて思っていたら、彼が私へ手を差し出した。
「僕は、ミハエル・フレンツェン。今日はピアノで参加するんだよ。よろしくね」
「あ、初めまして。佐伯優菜で――っ!!?」
差し出された手をつかんだ瞬間、引き寄せられたかと思いきやその腕の中にいた。
ん。ん?
んんん!?
「え、あのっ……えぇ!?」
うわ、うわうわー!
この人、すっごいいい匂いする!
綜と違って、すでに真っ白いタキシードを着ているのもあってか、目の前にはとにかく白しか広がっていない。
う、なんかまぶしい!
やらしくない品のいい香水の香りと、引き寄せられているのに苦しくないこの絶妙な感じ、絶対モテる人だわ。
しかもあんなにステキな笑顔とか、どんだけーー。
「わっ!」
「目障りだ」
ひどく不機嫌そうな声で、ようやく現実に引き戻された。
ばり、という音さえ聞こえた気がする。
そしてそして、本日3度目の舌打ちもね。
「いい加減にしろ。時間がないのは、お前もわかってるんだろ?」
「ずいぶん大切にしてるんだね? ひょっとして、綜の大切なお嬢さんなのかな?」
笑みを崩さないミハエルさんと違い、無表情に近い綜は、私の肩を掴んだかと思いきや後ろへ追いやった。
半分ほど綜の陰に入り、ミハエルさんが見えなくなる。
でも、そんな姿を見たからから、ミハエルさんはおかしそうに笑うと顎へ指を当てた。
「あの雑誌、お置いたのはお前だな?」
そんな中、ため息をついて先に口を開いたのは、綜だった。
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