「……は」
フットライトだけがついている、室内。
ほかに音がないからか、吐息までもがはっきりと聞こえる。
布がこすれる音、ベッドがわずかに軋む音。
そして――……俺じゃない、彼女の息遣い。
ほどよい反発のあるベッドの上へ身体を移し、まさに組み敷いている今。
長い髪が手のそばに広がり、くすぐったくもあったが、やはりそれ以上に嬉しさのほうが大きい。
……俺の好きな髪。
長い、キレイな髪だ。
「……どうした?」
何度となく口づけ、すぐそばで囁く。
息遣いが伝わってきてつい口角が上がるが、もしかしたら彼女にも見えているかもしれない。
俺には、彼女の表情が見えている。
まっすぐに俺を見つめ、長いまつげでまばたく、丸い瞳。
柔らかいまなざしを俺に向けながら、何かを言いたげに頬を緩めた。
「鷹塚先生が……」
「名前」
「っ……すみません」
「いーけど。慣れろ。な?」
「……はい」
そうでしたね、とでも言わんばかりに小さく笑った彼女が、俺に手を伸ばした。
細い、白い腕。
頬へ触れるようにした手を甲からつかみ、ひたりと重ねる。
久しぶりの温もり。
自然と目が細まり、笑みがにじむ。
「信じられないんです」
「何が?」
「……壮士さんが、ここにいるのが」
まるで小さな子にでもするかのように、彼女が頬を撫でた。
眼差しがあまりにも愛しげで、喉がわずかに動く。
幸せそうというより、満足げというより……心底嬉しいって顔だな。
「すぐ、嫌でも信じる羽目になる」
「嫌なんかじゃっ……ない、です。嬉しいから……嬉しくて、顔が戻りません」
「平気だ。かわいいから」
「っ……そんな」
「そこは素直にうなずいていいぞ」
子どもみたいな反応をした彼女に笑い、頬へ当てられていた手のひらをずらして、指先をくわえる。
細い指先。
舌で先を舐めると、ひくんと反応をみせた。
「壮士さんがいてくれたから……今の、私があるんです」
「……俺が?」
「はい。過言じゃないのはもう、わかってもらえましたよね?」
「…………そうだな」
小さいころからずっと、彼女の中には俺という存在がどこかにあったのは確からしい。
何げない瞬間に思い出すようなこともあったんだろう。
幼い彼女が一生懸命に考えてひねり出した、自身の存在を俺の中へ強く残す方法。
……大成功だな、まさに。
結果として、12年以上経っても彼女を忘れなかったし、今は今で違う形を迎えている。
面影は残っているが、姿かたちは違う。
背も伸びた、髪もそうだ、そして――……身体つきは、紛れもなく女性そのもの。
口づけたときに聞こえる声は、普段よりもずっと甘くて自身を十分すぎるほどあおり立てる。
「泣くなよ」
「泣きません」
「無理なら無理ってすぐに言え。やめてほしかったら、やめてって。……わかったな?」
「はい……」
髪をすくように指を通すと、さらさら音が聞こえるんじゃないかと思うほど滑らかだった。
一切拒むことなく、指の間を通ってベッドへ。
柔らかい髪。
俺とは何もかも違う。
「……俺は優しくないぞ」
「そんなことは……っ」
「お前の思ってるほど大人でもない」
「っ……そんな――……」
「余裕がないんだよ。……余裕なくなる。お前見てるとホントに、全部……したくなる。最後まで」
ごく、と喉が動いた。
心底自分は、子どもだなと何度思ったことか。
……俺なんかより、お前のほうがよっぽど大人だ。
対応も、考え方も、何もかも。
「泣かすかもしれない。……いや。泣いても、途中で止まれない。無理なんだ。強引に……無理やり最後までヤるかもしれないんだぞ」
「それでも……っそれでも、構いません」
「……ホントにいいんだな?」
「はい」
ひたり、と今度は俺が彼女の頬へ手のひらを当てる。
わずかに残っている、笑み。
柔らかな表情を見ていると、たまらなくどうにかしたくなる。
……えげつねぇな、俺は。
性格が悪いというか、いろいろ歪みっぱなしだ。
白を黒に染める心地よさを知ってるから、だろうか。
……そういえば、お前たちにそこは教えなかったな。
無意識のうちに、俺のような人間になるなと思っていたからだろう。
「……ぁ、っ」
首を撫でるように手のひらを這わせ、浴衣の合わせを開く。
ホント、昔の人間ってのは便利なモンを考えたな。
これなら、帯を解いて脱がせずとも、ヤることがヤれる。
「ん、んんっ……」
ちゅ、と首筋へ唇を当て、舌先で舐めながら鎖骨まで辿る。
滑らかな感触が、心底ウマい。
……ウマいのはそれだけじゃないけどな。
耳から入る甘い声。
コレがずっとずっと欲しかった。
聞きたかった。見たかった。
痺れるような甘い声を。身体を震わせる音を。
……快感に揺さぶられる顔を。
俺だけの、モノ。
「瑞穂……」
「っ……ん」
掠れた声で名前を呼び、浴衣の上から胸へ触れる。
彼女を組み敷くのは2度目。
だが、前回とはまるで違うスピード。
今回は……徐々に、ゆっくりと。
それこそ、堪能する。
味わう。
ようやく手に入れた、大事なモノだから。
「は……ん、んっ……ぁ……」
唇を舐めとり、深く舌を差し込む。
絡め取れば漏れる、甘い声。
……あー、たまんね。
つか、えろすぎ。
時ってのは、怖くもあり――……オイシすぎる。
「ひゃ……ぁあ……っ」
ふっくらとした、昔なかった場所にあるふたつの膨らみ。
両手でやわやわと揉みしだきながら鎖骨のラインを舐めると、ひくひく身体を震わせた。
「っ……ん!」
浴衣のあわせから片手を差し入れ、素肌へじかに触れる。
エアコンが利きすぎているせいか、彼女らしからぬ冷たさ。
だが自分の手は熱く、その違いが心地いい。
「……は……ずかし……です」
「何が」
「だ、って……」
きゅっと目を閉じているにもかかわらず、しどけなく開いた唇が困ったようなセリフを囁いた。
恥ずかしい、ね。
まぁわからないでもないが、ここは余計なことを考えずに感じてもらいたいトコで。
「んっ! ん、あ、あ……っ」
「……反応いいな」
「ひゃ……ぅあ……や、……だ、め……っです」
「ダメじゃねーだろ。……エロくてかわいい」
「っやぁ……!」
浴衣を開き、両肩を出して胸まで露わにする。
……うわ、えろい。
この格好、ヤバいな。
自分でやっておいてなんだが、たまらん。
自身が反応するのがわかって、我ながら正直だなと思った。
「あぁあっ……んぁ、あっ……」
片方の胸を指先で弄り、もう片方へは口づける。
滑らかな肌が、舌先に心地よくて。
そのまま頂を舐めると、声が変わった。
甘さが増す。
より、艶っぽくなる。
……エロい。
どくどくと身体を血が巡る音が聞こえて、ほんっとに余裕がなくなるかもしれないと一瞬思った。
「……胸……小さくて、恥ずかしいです」
きゅ、と浴衣の合わせを戻すように動いた手をつかんだら、ふるふると首を振った。
……わかってねーな。
もしかしなくても、世の中の女ってのは勘違いしてることが多い。
確かに、デカいのが好きなヤツもいる。
花山とか、花山とか、花山とかがその類。
だが、大抵はサイズの問題じゃねーんだよな。
……そこをきっちり教える必要はアリらしい。
「あのな。大きさじゃねーんだよ。胸で大事なのは、ブランド」
「……ブランド……ですか?」
「そ」
「っ……ん!」
柔らかな胸をすくうように持ち上げて支え、ぴんと上を向いて自己主張するソコをぺろりと舐める。
ぴくん、と反応するその姿が、かわいすぎ。
さて……この余裕ない理性でどこまでじわじわと慣らしてやれるか。
「瑞穂の胸っつーだけで、すげぇ……クル。普段は服の下に隠れてて、だけど胸だってしっかり主張してて見てすぐわかるモノ。だけど……普段は絶対見れないだろ? だから、トクベツなんだよ」
「……それは……」
「誰も見たことがない、見たくても見たくてもそう簡単に見れないモノ。それが、1番デカい」
女性ならではの、モノ。
服を着ててもしっかり見えるソコだが、直接見れるワケがない。
だからまぁ……俺の隣で仕事してるおっぱい大好き人間は、いろいろ考えながら悶えてるらしいが。
一歩間違えりゃ、犯罪だぞ。アレ。
たまに額を平手打ちして押さえてやっているが、俺がいなくなったら誰がアイツの面倒みてやるんだか。
そのうち、新聞に載ってしまうんじゃないかという不安もあるほど。
……ま、基本俺がアイツをしばくのは、瑞穂を見てにやにやしてるときだけど。
頭の中とはいえ、人のモンに手ぇ出したら承知しねーからな。
当然の処置だ。
「……お前だからだ」
「っ……」
「お前だから触りたくなる。弄り倒したくなる。……まぁ、強いて言うならもうひとつ。感度、だな」
「感……? んっ……!!」
「その反応。……ソレだ、ソレ。そーゆー反応されるとたまんねぇ。ゾクゾクする」
指先で胸の先端をつまむように弄る。
ひくん、と反応する身体もイイが、何よりその甘い声と表情がイイ。
エロい。
それしか言えねぇな。
「ただの胸じゃない。瑞穂の、って冠がつく。立派なネームバリューだろ? みんな、欲しくたって手に入れられない。欲しがればもらえるってワケじゃない。……特別だ。選ばれた俺だから、こうして触れる。許される。……それがたまんねぇんだよ」
「ゃ……ぁ、あっ……ふぁ……」
やわやわと胸をもみながら、唇を寄せて吸うように含む。
舌先に心地いい、滑らかな素肌。
ずっと、ずっと欲しかったモノ。
いったい何度、無理やりにでもと思ったことか。
「ん……ん、ん……」
目を閉じたまま眉を寄せ、身をよじる。
そのたびに聞こえる声は、自分を煽る何よりのモノ。
敏感で大いに結構。
つか、大歓迎。
俺で感じてるってのが、何よりもうれしい。
……たまんねぇな。ホント。
すっげぇ楽しくてどうにかなりそうだ。
「やぁ……っ……ふあ、ああっ……」
胸を寄せ、舌先で包むように舐めてから吸いつく。
キツくすると聞こえる、淫らな声。
まさに『女』の反応。
……あー、たまんね。
もっと――……そうだな。
乱したくなる、以上の感情。
どうにかしてやりたい。
俺だからできること。
彼女に与えられること。
いろいろな特別であり限定的な関係だからこそ、の想いがつのる。
ずっと、欲しかった。
欲しくてたまらなくなった。
……当然だけど、昔じゃ考えらんねぇな。
欲しいとか、どうのってのは。
…………どうやら、今の俺はよっぽど彼女をどうにかしたくてたまらないらしい。
犯罪者、だろう。間違いなく。
俺と彼女の関係を聞かれたら、そう口にされても仕方ない。
が、今だから胸を張れる。
だからどうした、と。
だからなんだ、と。
俺が欲しいと望んだ相手。
で、いったい何が悪い? と。
「んっ……!」
「……気持ちよくしてやる」
「は……壮士、さ……」
「言ったろ? どんなヤツよりうまい、って」
頬へ口づけると、彼女がうっすら瞳を開いた。
わずかに潤んでるような気がするが、快感ゆえかはたまたほかの理由からかはわからない。
……だが、どんな理由であれ、もう止まらないのは事実。
欲しい。
頭の中で、理性と本能が逆転した。
タガが外れたってのは、こういう状態をいうのかもしれない。
|