「リーチ!?」
「っ……お前……! どうしてここにいる!?」
いやいやいやいや、それを先に言いたかったのは俺のほうだっつの。
俺を見るなり目を丸くして口を開けたリーチを見ながら、思わず立ち上がっていた。
「やっぱそーだよな。鷹塚、お前高鷲センセと知り合いだろ?」
「いや……まぁ、知り合いっつーか……腐れ縁っつーか」
目を丸くしたままうなずくと、新藤が俺とリーチとの間に入ってきた。
「俺の結婚式でふたりが仲良さそうだったからさ、どーせなら……と思って」
あはは、と笑った新藤にはまったく邪気がなかったが、対するリーチはなぜか不機嫌そのもの。
……つーか、お前。
俺は今日まで、まったく見ることがなかったんだ。
イコール、詳細はまるで聞いてない。
……その隣の女は、もしかしなくてもお前の彼女なんだよな?
だとしたら――……だ。
「リーチ、おま――」
「え……鷹塚先生?」
「……え」
「何!?」
きょとん、とした顔で俺を見つめた彼女は、俺が反応したのを見てみるみる笑顔になった。
「うっわぁ、すっごい久しぶり! やだ、ちょ! すごい! すごーい!! え、ホントに? ホントに鷹塚先生なんですか? やだーー! どうしよ、すっごい嬉しい!!」
「っ……!?」
いきなり声をあげたかと思いきや、彼女が俺の手を両手でつかんでぶんぶん振り回し始めた。
やたら高いテンションと、声。
だが、張本人ながらも完璧“置いてきぼり”状態で、反応をしようにもできない。
――……が。
「穂澄! お前……っ……ちょっと待て! 何!? 知ってるのか!? コイツを!」
ばり、と音を立ててリーチが俺の手を剥ぎ取り、ぐいっと彼女の両肩に手を当てた。
途端、大きな瞳をぱちくりしてから、にっこりとうなずく。
……つか、マジか。
コイツの噂の彼女はてっきり二次元なんじゃないかとばかり思っていただけに、まさかに本物登場……どころか目の当たりにしてしまい、やはり頭がついていけそうになかった。
つーか、だ。
「…………」
リーチが思いきり怪訝そうに見つめている相手は、見た目からしてもかなり若いであろうことがわかる。
明るい色のウェーブがかった長い髪に、身体のラインがしっかりわかるTシャツ。
そして何より――……その足。
ほかの連中のツレはショートパンツでもレギンスとかってのを穿いていたが、彼女は生足。
すらりと伸びた白い足には海に似合うビーチサンダルと、色鮮やかなペディキュアをまとっている。
…………で、だ。
何より、この顔。
うっかりすると、元はギャルか? と思えるような、華やかで派手さの残る顔立ち。
メイクもしっかり施されており、いつぞや聞いたことのある“つけま”もばっちり装備されていた。
……でも、不思議なもんだな。
あンときの教え子はパンダみてーに見えたが、今目の前にいる彼女はまるでそんなふうに見えない。
やっぱ……こういうのは技術の差なのか?
どちらかというと雑誌なんかに出てきそうな雰囲気がある子だけに、ぶっちゃけ生来の“かたぶつ”リーチは絶対に選ばないような相手だと思った。
「ね、ねっ、覚えてないですか? 私っ」
「……え?」
ぐだぐだ息巻いていたリーチから、ぱっとこちらに向き直った彼女が、わずかに首をかしげた。
その仕草は、普段葉山で見慣れているだけに、少しだけダブって見え――……あ、れ?
「…………ちょっと待った」
相変わらずにこにこしている彼女と、顔に手を当てて俯いているリーチの前に片手を出し、瞳を細める。
……このテンションの高さ。
そして、華やかさというかきらびやかさというか……まぁ、ギャルっぽい感じ。
…………デジャヴか。
なんかこう、昔どこかで会ったことがあるような気もする。
この若さだと同業者っつっても、どっちかっつったら新任とかってレベルじゃねーか?
だとすると、ほら。
もしかしたら俺なんかより、葉山とのほうが年齢差はかぎりなく近い――……どころか、そういえば、感じるのはそのくらいの年代特有の雰囲気だ。
……てことは――……。
「っ……穂澄……!?」
「え?」
葉山を振り返ろうとした瞬間、背後で驚いたような声がした。
顔だけを向けると、俺ではなく、明らかに彼女を見て目を丸くしている葉山が見えて。
「やっだ、みぃじゃん! え、なんで? なんでここにいるの!?」
「なんでって……え? えっ!? どうして!?」
うそ! と続けた彼女が、俺から葉山へと視線を移した。
対する葉山は、俺の隣に並んでから、まるで信じられないものでも見たような顔で彼女に手を伸ばす。
――……が。
「……はぁ」
「あ? なんだよ」
「…………別に」
別に、って感じじゃねーけどな。
これまでまったく介入してこようとしなかったリーチが、そこでようやく俺を見た。
だが、明らかに視線をさまよわせていて、はっきり言えば『らしくない』。
……ってまぁ、コイツがこんなきゃぴきゃぴの彼女連れてきたって時点で、そもそもらしくねーんだけどよ。
だがどうやらコイツの思いは違ったようで、口元に当てていた手を離すと、ため息を付いてから腕を組んだ。
「……コイツもだったのか」
「は? ……何がだ」
なかば睨むような目をされ、反射で眉を寄せる。
すると、改めて小さなため息をついてから顎で彼女らを指した。
「お前の教え子は、冬瀬にどれだけいるんだ」
「……え……?」
リーチの言葉のすぐあと。
葉山とひとしきり喋っていた“彼女”は、邪気のない顔で俺に笑った。
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