「…………」
「やー、今日は天気もいいしごはん日和ねー」
「そうですね」
「さあさ、どんどん頼んでいいわよー?」
「ありがとうございます」
6人がけの大きな席。
そこに大人4人で座りながら、なんでだ、と思いきり非難めいた視線をさっきからずっと目の前の小枝ちゃんにぶつけている。
が。
だいたい、今日天気よくねーし。
今にも雨降りそうだったじゃねーか。
外見てねーの?
それとも、すげぇ適当?
どっちもアリだな、と思う相手だからこそ何も言わないでおく。
……それでも。
やっぱりイライラが治まらず、組んでいた腕を解いて立ち上がり、ため息残して小枝ちゃんに手を振る。
すると、怪訝そうな顔をして俺を見上げた。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「帰る」
「はぁ!? なんでよ!」
「気分悪い」
「ちょっ……待ちなさいったらー!」
ひらひら手を振って回れ右。
だが、出口まであとわずかというところで、ガッと遠慮なしに手首を掴まれた。
「……ってーな」
「あのね。そんな顔しないでよ! ていうか、せっかく奢ってあげるって言ってるのに!」
「嬉しくねーし。つか、騙しだろ? こんなん」
嘘じゃねーか。丸きり。
小枝ちゃんに眉を寄せ、思ったことを素直に吐く。
すると、渋い顔をしながらも目を逸らした。
モールまで車で向かい、飲食店街のファミレスであるここへ来たのは先ほどのこと。
中で待ってるっつーから入ってみたら、居ることは居たがひとりじゃなかった。
ほかに2名。
揃いも揃って、最近俺に関わっている人間ばかりよくもまぁ並べたよ。
奥の席に座る、小枝ちゃんと小川先生。
葉山の隣が空いていて、立ったまま目が合った途端、わずかに表情が強張った気がしたから……余計イヤだったんだ。
小枝ちゃんに当たってるだけなんだろうな。今の俺は。
ああ言えば葉山が自分から動くんじゃないかと思って期待なんかした、俺が間違ってたのに。
「ごはん食べたいでしょ?」
「別に」
「奢ってあげるわよ?」
「いらねーし」
顔を見ないまま首を振り、淡々と言葉を返す。
騙された。そんな気分でいっぱいの俺に、何を言っても今は無駄。
付き合いの長い小枝ちゃんだからどうやら理解したらしく、両手を腰に当ててフンとため息をついたのが聞こえた。
「あっそ」
「あてっ」
「もーいいわよ。ガキ!!」
「な……っ……誰がガキだよ!」
「ガキよ、ガキ! 中学生かっつーの!」
「ッ……るせーな! ほっとけ!!」
「ああもう、めんどくさ!! すっごいめんどくさい! アンタって!!」
「何!? そんなの小枝ちゃんに言われたかねーし!」
バン、と背中を思い切り叩かれ、じんじんと痛みが走る。
たちまち、言うまでもなくヒートアップ。
いつにも増して、デカい声での容赦ないやり取りにまで発展してしまった。
お陰で、何も事情を知らない一般人が、なんだなんだとこちらを気にし始める。
そのとき、視界の端に慌てて店外へ出てきた小川先生と葉山の姿も見えた。
「ああもう、ヤだ! もーーーやだ!! わかった! いいわ、もう決めた!!」
「なんだよ!!」
「アンタ、私と付き合いなさい!!」
「………………え?」
びし、と俺を指差した彼女が真顔で言った言葉。
セリフ。
……あれ。
今なんか、すげー言葉が聞こえた。
「何よ。返事は?」
「……何? は? ……はァ!?」
「いーでしょ? 別に。そもそも、この間言ってたじゃない。私と付き合いたい、って」
「言ってねーし!」
「言ってたでしょ!」
う。
そんな真顔で指突きつけなくてもイイだろ。
つーか、思いっきり記憶にはあんだけど。あんときのことは。
それでも、いざそんなふうにマジで受け止められると、ものっそい困るワケで。
「私が鍛え直してあげるわ」
「いや、いいし」
「おっけー。んじゃ、手始めにふたりにあいさつといきましょうか」
「え。……っ……ちょ、小枝ちゃん!」
ふふん、と笑った彼女がすんなり俺の左腕に張り付いた。
ぎゅ、と腕を引き寄せられた途端、彼女の胸が当たって思わず顔が引きつる。
「ねえねえ、ふたりともー。今日から私たち、付き合うことにしたから」
そのまま引っ張られ、よろけるような形で葉山と小川先生の前に連れて行かれた。
連行。まさにソレ。
……うわ。
そんな顔すんなよ、ふたりとも。
これは小枝ちゃんの冗談なんだから。100%。
「だからー、ふたりも付き合っちゃえば?」
「なっ……! それとこれとは――」
くす、と笑って小枝ちゃんがふたりを交互に指差し、最後に俺を見上げた。
「壮士も思うでしょ? ふたりならお似合いだ、って」
「っ……」
瞳を細めて、まるで挑発しているかのような口ぶり。
それが、ダブる。
6年前、こんなふうに俺を見上げて名前を呼んだ元嫁と、つい。
「さ。それじゃ気を取り直して、ごはんにしましょ」
「え? あ……」
「……はい」
「…………え。メシ食うの?」
ささ、と手で店内に戻るよう指示した小枝ちゃんに、文句も言わずうなずいたふたりを見て慌てたのは俺だけ。
なんで。
なんでそこで、つっこみがこねーんだよ。
おかしーだろ、絶対に。
「食べるわよ。ごはん」
「……何考えてんだよ」
「別にぃ? 何も」
きらり、と一瞬眼鏡が光ったように見えたのは、気のせいじゃない。
策士、その人。
小枝ちゃんは、昔からこーゆーヘンな知恵だけはすげー働くからこそ、内心ものすごヒヤヒヤしてる。
気が気じゃない、ってヤツだ。
いわゆる。
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