「ねー。ほんっと、子どもよねー」
「……うるせーな。いいだろ別に」
「そーなんだけどー。なんか……こうやって並ぶと、お子様ランチみたいじゃない?」
「人の好みをとやかく言うモンじゃねーんだぞ」
 目の前でデカいチョコパフェを食いながら、小枝ちゃんがにやにや笑う。
 その隣には、BLTサンドの小川先生。
 そして――……。
「でも、おいしいですよね」
「そお?」
「ドリア、私も好きです」
「まぁ……確かにね? でも、目玉焼きハンバーグにドリアに焼肉よ? カロリー摂りすぎだから」
「うるせーよ」
 俺の隣には、同じドリアを注文した葉山がいる。
 スプーンでちびちび食っている彼女とは違い、こちらはフォークで肉を食ってから、スプーンに持ち替えることなくドリアをつつく。
 つか、なんで小枝ちゃんだけメシじゃねーんだよ。
 ひとりだけティータイム状態じゃねーか。
 相変わらず、栄養がどうのっつってる割に自分は疎かだよな。
「…………」
 小さく聞こえる、音。
 それでうっかり隣を見てしまい、目が合って慌てて視線を戻したのはつい先ほど。
 ……かわいいな、お前は相変わらず。
 ドリアを冷ましながら食べている姿に、つい猫が浮かんで勝手にひとり悶える。
 あーもー、だからさ。

 首輪、着けてください。

「っ……」
 先日、若干潤んだ瞳で見上げられて以来、どうしてもコイツと子猫がダブって堪んないワケで。
 どーしよ。
 俺、今週末あたり倒れるかもしれない。
 フラストレーションで。
「で? ねぇ、このあとどこ連れてってくれるの?」
「は? ……帰れば?」
「馬鹿なの?」
「それは小枝ちゃんだろ?」
 コーヒーカップを両手で包んでから俺を見つめた彼女にフォークで指すと、ものっすごい怖い顔で睨まれた。
 それに気付いた小川先生が、なぜか彼女を気遣っている。
 ……まあ、わからないでもねーけどな。
 自分の隣でンな顔されたら、ストレスだし。
「つーか、なんで小川先生と葉山先生までいるんだ?」
 目玉焼きを米の上に乗っけて潰してから訊ねると、小川先生の皿にあったポテトをつまんだ小枝ちゃんが小さく肩をすくめた。
 え、なんだよソレ。
 すげー意味不明。
「会ったの。たまたま偶然」
「ンな偶然あるかよ」
「あら。偶然よ? ふたり仲良く歩いてたところを発見したから、一緒にごはん食べようって誘ったの」
「…………ふぅん」
「何? 不満げね」
「別に」
 全然、別にじゃない。
 なんだそれ。
 つか、それが本当だったら小枝ちゃんすげー邪魔じゃん。
 せっかく休みに、せっかくデートしてたってワケだろ?
 ……ふぅん。へぇ。
 途端にテンション急降下。
 鉄板に乗っていたブロッコリーを突き刺し、口へ放る。
 一瞬、小枝ちゃんに葉山が何か反応したように見えた。
 それでも、目配せした彼女に対しては何も言うことなく。
 ……あ、そ。
 誰だ、こないだ散々俺が好きだとかなんとか言ってたヤツは。
 所詮その程度ってことか。
 つか、なんだ?
 俺がなびかなかったから、やっぱそっちってことで小川先生に鞍替えってワケか。
 ……いい度胸じゃねーか。
 俺を相手に、よくもまぁそんな寿命縮める方法取るよ。
「…………」
 イライラする。
 メシとかいいや、もう。
 つか、この同じテーブルでメシを食うってのが、なんかキツい。
 居心地悪い。
 どう考えたって、俺と小枝ちゃんは邪魔な存在だ。
「……あら。どうしたの?」
「ごっさん。一服してくる」
「えー? どこでよ」
「そこにあったろ。喫煙所」
 残ったハンバーグをひと口で頬張り、財布から札を抜いてテーブルに置く。
 ほかの3人は当然食事中だったが、足並み揃えるとかできねーんだよな。俺は。
 まだまだ子どもだから。
 しかるべきところが、デキちゃいない。
「………………」
 誰とも目を合わせずに立ち上がり、入り口から通路へ出る。
 禁煙でもするかなんて思ったのは、随分前のことみてーだな。
 最近、吸う量がぐっと増えた。
 ……ストレス、ね。
 確かに否定はしない。
 今の状態こそ、間違いなくストレスフルだと思うから。

「まあまあだったわね」
「あ、そ」
 喫煙スペースから戻って来たところで、ちょうど店から出てきた3人と会った。
 小枝ちゃんを含めみんなが笑顔で、無愛想な俺は逆に目立つし違和感を覚える。
 なんなんだよいったい、ってな具合に。
 ……まぁいいんだけど。
 今後関わりたくない面子になったことだし。
「さて。それじゃこのあとどーする? せっかくだし、4人で遊びにでも行く?」
「帰る」
「もー。さっきからそればっかりね」
「本心だからな」
 肩をすくめ、通路の手すりにもたれる。
 すると、そこへ手を置きながら小枝ちゃんが小さく笑って顔を覗いた。
「ね。さっきの返事、まだ貰ってないんだけど」
「あ? 何が?」
「だから。付き合いなさいって言ったじゃない」
「……本気か?」
「そ」
 にっこり。
 この人のこーゆー顔は、正直あまり好きじゃない。
 理由は、大抵何か俺に不利なことを考えているから。
 ……絶対、ではない。
 だが、そうである可能性が高いと言える。
「だいたい、別に付き合っちゃったところで誰も困らないでしょ? 文句も出ないだろうし」
「……そりゃまぁ」
「ね。ならいいじゃない。付き合いなさいよ、私と」
「…………マジ?」
「マジ」
 くす、と笑うのを見ていると、とてもじゃないが本気には思えない。
 それでも、試すような表情でありながらも目は笑ってなくて。
 ……どっちなんだよ、小枝ちゃん。
 つか、なんでそーゆー話をわざわざ小川先生と葉山がいる前でするんだ。
 おかしーだろ、それ。
 本気だったら、俺とふたりのときにするだろうし。
 …………てことは。
 もしかしなくても、他意ありまくりってことか。
 それが、俺に対してなのかほかのふたりに対してなのかは、わからない。
 それでも、誰かの反応を試してるってのは確か。
「……ね」
「…………まぁ……」
「ホント? 言ったわね? 今」
「ああ。付き合ってもいいけど?」
 半分疑問形でもあった返事。
 だが、なんとなしに呟いた途端、それまで黙っていた葉山が手にしていたバッグをぎゅっと握ったように見えた。
「っ……だ……」
「あら。なーに? 葉山先生」
「……そんなのって……」
「はっきり言わなきゃわからないわよ?」
「ッ……だめ、です」
「……っ……え……」
「……いやです、そんなのっ……!」
 くす、と小枝ちゃんが笑った次の瞬間、葉山が俺をまっすぐ見つめた。
 思いつめるかのような、表情。
 だが、はっきりと聞こえたその言葉に、思わず目が丸くなった。
「あら。なぁに? 彼女候補に、葉山先生もまぜてほしいの?」
「まぜてください」
「……ふぅん。でも、甘くないわよ? 私、大人だから」
「っ……私、もう子どもじゃないです……!」
「あら。どんな手でも使える私に、勝てると思う?」
「……負けません」
 腕を組んで余裕めいた笑みを浮かべている小枝ちゃんと、バッグの持ち手を握り締めて正面から彼女に向いている葉山。
 その姿を見ながら、思わず喉が鳴る。
 …………なんだコレ。
 漫画かアニメかはたまたドラマか。
 異様な雰囲気に、とりあえず関係者ヅラしないでおく。
「っ……」
「それじゃ、最初は私からねー」
 くす、と笑った小枝ちゃんが俺の腕を取った。
 そのまま片手を挙げて『れっつごー』と小さく口にする。
 ……なんだコレ。
 改めて、妙な芝居めいた怪しいモンに付き合わされてるんだと自覚してしまい、ため息が漏れる。
 ――……そのとき。
「……いたいけな青少年を弄ぶのは楽しいわね」
 小さく小さくそんなセリフが聞こえた気がして、相変わらず小枝ちゃんが何を考えているのか計り知れずに、軽く疲れが出た。


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