「うっわ……すごい人」
「まぁ、花金だからね。そりゃあ、まっすぐ帰る人ばかりじゃないでしょうよ」
 目的地である、藤沢駅の北口。
 そこには、たくさんの人たちが待ち合わせをしていたり、集まったところで移動を始めていたりと、かなりごった返していた。
 この中からターゲットを見つけ出すのは大変だけど、でも、あの目立つ彼女を見つけるのはたやすい。
 センリさんの腕を取りながら北口を流すと、壁際にお花のワンピースを着て立っている彼女を見つけた。
 若いからっていうのだけじゃなくて、なんかこう、ちょっと『ん?』な感じ?
 かわいいんだけど、キレイとは違う。
 はやりを追ってる感じじゃないけど、まわりの子とは違う。
 しいて言うなら、そんな感じだ。
「……もうじきですね」
 センリさんの腕を借りて時計を見ると、18時までは5分を切っている。
 愛しの彼女のためなら、きっと走ってくるに違いない。
 あんな崩れた顔をする男だ。
 今日1日中ヤることしか考えておらず、きっと浮き足立って仕事もままならなかったに違いない。
「っ……え……!?」
 あとちょっとかー、なんて北口の階段を振り返った瞬間。
 そこに、あるべきじゃない人の姿が見えて、思わずセンリさんの腕を引いていた。
「ちょっ……あれ、奥さんですよね!?」
「……あーあ。シビレ切らしたか」
 階段をつかつかと降りて、女性のほうへ歩いて来たのは、間違いなく奥さん。
 険しい表情をしていて、明らかに女性を睨みつけている。
 だけど、女性は当然彼女に気づいていなくて。
 ……ううん、もしかしたら彼女は奥さんを知らないのかもしれない。
「けど、まだ旦那さんきてないし、これじゃ証拠に弱いですよ?」
「まぁそうなんだろうけど。しょうがないんじゃない? 来ちゃったんだもん」
「でも、そんな……!」
 せっかくここまでやってきたのに。
 毎日ちょっとずつ張って、情報つかんで……それで結び付けたのに。
 なんだか、最後の最後で台無しにされた気分だ。
 ……確かにまぁ、自分の旦那がよその女とホテルに入るのを見届けろ、なんていうほうがよっぽど無理だろうけど。
「ちょ、センリさん! なんとかしてくださいよ!」
「なんとかって? ヘタに声かけたって、なびかないでしょ? あのタイプは」
「そうですけど! でも、だからこういうときは『ドギッシュ・アシスト』の名前を出して……」
「まぁそれでもいいんだけどね。ただ、彼女の目的は“離婚”じゃなくて“復讐”なんだよ? 忘れてた?」
「っ……それは……」
 たしかに、彼女は言った。
 『離婚はしない。でも、目にもの見せてやりたい』と。
 報復。
 自分に恥をかかせ、馬鹿なことをした旦那をひと泡吹かせてやりたい、という思いからの。
「……でも……っ」
 カツカツと高いヒールが響き、それこそ般若みたいな顔をした奥さんが、女性まで2mと迫った。
 そのとき――……。

「ごめんねー、待ったぁ?」

 能天気な声が私たちの横のから駆け抜けて行き、結果として欲望丸出しの顔をした男は、奥さんの目の前へ飛び込むことになった。


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