マンションの下に停められていた、見慣れたナンバーのRX-8。
彼がロックを解除して助手席を開けると、何も言わずに目で告げられた。
『早く乗る』、と。
……気まずい。
すごーく、気まずい。
だけど、こんなところで抵抗することはできず、助手席へ身体を滑り込ませると、彼も運転席へと乗り込んだ。
荒っぽくエンジンをかけてギアを入れ、そのまま彼のマンションへ向う。
そんな彼の横顔は、あのコンパの夜のように、なんだか怖かった。
「…………」
「…………」
……うぅ。そ、そんな怒ってるのかな……。
数時間前まではあんなに優しかった彼が、今では明らかに怒っているとわかる顔。
せっかく、彼とこうして過ごせるのに……なんとなく、手放しで喜べない感じだ。
車を駐車場に停めてから荷物を持ち、そのまま中へ。
無言でエレベーターに乗り、部屋へ着いてから少し乱暴に門扉を開けると、鍵をまどろっこしそうに開けてから私を先に通した。
「……っ、んんっ!?」
玄関に入ってすぐ唇を塞がれ、うしろ手に彼が鍵を閉めたのがわかった。
転びそうになりながら靴を脱ぎ、そのままずるずると廊下をうしろ向きのまま進んでいく。
「んっ……はぁっ」
顎をつかまれたまま、何度も繰り返される口づけ。
……こんなの初めて。
こんなふうに彼に口づけされるなんて、思ってもなかった。
熱い舌でなぞられると、それだけでぞくぞくと背中を何かが走る。
彼の熱い口づけで、そのままとろけてしまいそうだった。
「は……ぁっん! んっ」
鞄を放った彼が服をたくし上げ、器用に一瞬唇を離して脱がす。
っ……もぅ……なんで……!?
そんな疑問で、頭がいっぱい。
でも、ふわふわして、頭がうまく働かない。
つ……と唾液が喉を伝って胸元を濡らす。
それほど、彼は私を離してくれなかった。
「っきゃ……!?」
足に何かが当たってそのままうしろに倒れると、そこはベッドの上だった。
こんなところまで……キスされたまま連れてこられたなんて……。
慌てて体勢を整えて彼を見ると、眼鏡を外してから片手でネクタイを外していた。
ふと自分の姿を見ると、上はもう下着姿で。
慌てて肩を抱くようにしてから、彼をうかがう。
「せんせ……っ。なんで? 怒ってるの……? だったら、私っ……」
「……いいこと教えてあげようか」
「え……?」
「羽織ちゃんが知りたがってたこと」
「っ……」
表情を変えずに呟き、シャツのボタンをひとつ外してから彼が覆いかぶさるようにしてベッドに乗った。
吐息がかかるくらいまで顔を寄せたところで、にやっと笑みを浮かべる。
「……いいことって……なんですか……?」
心臓がどきどきと大きく鳴る。
途端、手首を片手で掴まれられて、そこに彼がネクタイを巻き始めた。
「なっ……え、……えっ!?」
慌てて手を抜こうとするものの、彼の握力には太刀打ちできない。
いくらがんばってもがいても、彼が気にするほどの行動を起こすことはできなかった。
「え、えっ……!?」
きゅっと締められてしまい、いくらやっても腕は抜けない。
それどころか、余計きつさを増したようにも思う。
「……先、生……?」
眉を寄せて彼を見ると、瞳を細めてこちらを見ていた。
その口元には、意地悪そうなうっすらとした笑みがある。
「……さっきのと同じ。手を縛って自由を奪ってから、ゆっくり味わう」
「っ……!」
ふ、と耳元に息がかかり、思わず顔を背けていた。
両手が自由にならないということが、こんなにもぞくりとさせられるものだったなんて。
「気になってたんじゃない? 手を縛られて責められることが、本当に気持ちいいのかどうか」
「っ! み、見てたんですか……!? なんで……? だって、それって……!」
「純也さんが声をかけたのは、結構経ってからだよ。それまで、あまりにもふたりが画面にかぶりついて見てたから、声をかけづらくて」
「……っ」
そんな……!
意地悪そうな顔で見られ、頬がかぁっと染まるのがわかった。
だ、だって……すごかったんだもん。
なんてことを言ったら、恐らく『じゃあ同じことしてあげようか』とでも言いかねない。
……あぁもう。どうしよう……。
今の状況って、すごく不利だ。
「……でも、羽織ちゃんもああいうの興味あったんだ。じゃあ、今度借りてきて一緒に見ようか」
「えぇ!? や……そ、そんな」
「でも、すごい楽しそうだったよ? ……見ながら、自分と重ねてたんでしょ」
「っ!! そ、そんなことないです!」
慌てて彼から視線を逸らすと、顎を掴まれて無理やり瞳を合わせられた。
……うぅ。
こんなとき、先生の目なんて見れないのに。
いじわるなんだから。
「ひぁっ!?」
などと考えていたら、途端に彼の指が下着に滑り込んで、秘部をなぞった。
突然の行為に、とんでもない声が出る。
「……ほら……こんなに濡らして。……絵里ちゃんの横で、何を考えてたのかな?」
「なっ、なんにもっ……か……んぁっ……がえてないっ」
ゆるゆると指で弄ばれ、身体からどんどん力が抜けていく。
緩く首を振るものの、声にならない声が漏れて。
しどけなく唇が開く。
「ふぅん。何も考えてないにしては、ここはずいぶん正直だね。……えっちな身体」
「んっふ……ぁっ……もぉ、……やだぁ」
恥ずかしくて泣きそうだった。
もう……先生、意地悪すぎ。
もしかしたら、あのAVの男の人より、ずっとずっと意地悪かもしれない。
……でも――……彼の言うように、無意識のうちにあのDVDと自分とを重ねていたのかもしれない。
じゃなきゃ、こんな……。
「んっ!!」
いきなり、彼の指が中に入ってくる。
だけど、痛いとかはなくて……うぅ、自分が感じてたのがバレちゃう……かもしれない。
そんな不安のほうが、大きい。
「……何を考えてたのかな。こんなにして……すごい熱いよ。……ヤらしいこと考えてた?」
「やぁんっ……もぉ……そんなんじゃっ、んんっ!」
びくんと身体が反応して、思わず倒れこんでしまいそうになるところを、彼が片手で受け止めた。
そのまま縛った両手を首にかけてから、容赦なく唇を寄せてくる。
同時にブラのホックを外し、胸を舌で舐め上げられた。
「あっ! あぁっ……も、ぉ……! ん、……せんせ……」
「気持ちいい……? そういうとき……彼女はなんて言ってた?」
「……ぇ……?」
朦朧とする頭のままふと彼を見ると、ものすごく楽しそうな顔をしていた。
うぅ……意地悪。
気持ちいいとき……? あの女の人、何か言ってたっけ……。
我慢できなくなったとき……?
……っ!!
「なっ……なんにも……言ってないもん」
「言ってたよね? ……羽織ちゃん、いつも言わないし。……聞きたいな」
「ぅあっ……んんっ」
唇を耳に寄せて息をかけながら呟かれ、そのまま舌で耳たぶをなぞる。
相変わらず彼の舌は熱くて……もうダメかも……。
なんてことを考えていたら、彼が1番敏感な部分に指を当てた。
途端に、快感が強くなる。
「あぁっんっ!! も……やぁっ……!!」
「……まだ、ダメ。……なんて言うの?」
びくびくと足が痙攣する。
なのに、すんでのところで彼は指を止めてしまう。
もう……ひどい……っ。
思わず、涙がこぼれた。
「っ……もぅ……はぁっ……意地悪しないで……」
「意地悪なんかしてないよ。……気持ちよくなりたいんでしょ?」
「う……っく……」
子どもみたいに、しゃくりが上がり始めた。
ギリギリのところで、責めるのをやめてしまう彼。
なんだかもう、なぶり殺しみたいで酷くつらい。
「……お願い……やめないで……」
「……どうして?」
それでも、彼は許してくれない。
どうしても言わせたいらしい。
私の口から、あの言葉を……?
恥ずかしくて、今まで言ったことはなかったのに。
……だって……あまりにもストレートすぎて……えっちなんだもん。
でも、今の自分には、恥ずかしさよりも快感を得たいという淫らな欲求のほうが勝っていたらしい。
ふっと目を合わせたままで、自然と唇が動く。
「……もぅ……イっちゃいそう」
「……ん。許してあげる」
「っ! あっ……! あぁぁんっ!!」
ふっと彼が微笑むと、そのまま指でそこをしごき始めた。
いつもよりもじらされたせいか、やけに刺激が強く伝わってくる。
少し触れられただけでも十分に快感を与えられるのに、そんなに強くされたら……!
「あっ、あっ……!! も、……だめ……!! んっあぁあっ!!」
きゅっと彼の首にしがみつくようにして叫ぶと、同時に大きな快感が全身を駆け巡ってきた。
いつもより激しく責められたせいか、1度目の波のあとにさらなる余波がびくびくと身体を震わせる。
「……っはぁ! はぁ、ん……っ……っく……ひ……っく」
「……よくできました」
ちゅ、と彼が目元に唇を当ててから、涙を舌で拭ってくれる。
そっと目を開けて彼を見ると、いつもの優しい微笑みだった。
その笑顔を見た途端、ほっとしたからか涙がぼろぼろとこぼれだす。
「……っく……もぉ……いじわるっ……」
「ごめん。つい……ね。怖かった?」
申し訳なさそうな声に、首を横に振る。
そうじゃない。
彼が怖かったから、泣いてるわけじゃないから。
「……じゃあ、どうして?」
「っ…………だって……すごく、気持ちよかったんだもん……」
自分でも、驚く言葉が唇から漏れた。
だけど、彼はそれを聞いて少し驚いたものの、嬉しそうに笑う。
「……そっか。でも、俺に隠れてAVなんか見るからいけないんだよ?」
「だっ……てぇ……」
子どもをあやすようにして背中を撫でてくれてから、ネクタイをようやく外してくれた。
そして、その手首に唇で触れる。
「痛かった?」
「……ううん。大丈夫です」
ゆっくり首を振ると、自然にしゃくりも収まっていった。
それを見て、彼が困ったように苦笑を浮かべる。
「まったく。羽織ちゃんは、あんな物見なくていいんだよ」
「……もうしないもん」
こんなふうに毎回責められては、身体がもたない。
そう思ったから、彼を見ながらふるふるとしっかり首を振っていた。
「さて、と」
「っわ!?」
「雨に濡れたし、お風呂入ろうか」
「やっ、せ、先生っ! 下ろしてっ!」
「それはダメ。風邪引くよ」
「やぁ、んっ! 引かないですよっ!」
いきなり抱きかかえられて抵抗してみるものの、彼はいたって平然としていた。
うぅ……悔しい……。
そのまま浴室に連れて行かれ、お湯が溜まっている浴槽へ入れられてしまう。
温かいお湯に触れた途端、ぞくっと全身鳥肌が立った。
「……いつ、お風呂入れたんですか?」
「さっきキッチンを通ったときにね。……気付かなかった?」
「っ……う」
その顔は、まるで『キスされてて気付かなかったんでしょ』と言っているようだった。
……もう、いじわる。
たまらないくらい恥ずかしくて、口元をお湯で隠すしかなかった。
|