「…………」
意地悪な顔だなぁ。
なんだか、先生が帰ってきてから、その顔しか見てない気がする。
なんて、眉を寄せて彼を見ていたら、手早くシャツを脱いでから、ベルトを外してズボンを脱いだ。
いつもならば視線を逸らしてしまうものの、先ほど見たAVが頭から離れない。
……先生も……あんなふうにしてほしいのかな……。
ついつい、考えてしまうのはあのこと。
だって、あのAVの男の人の声……すごく気持ちよさそうで……。
「……どこを見てるのかな」
「……え? あっ……ち、違うもんっ」
「違わないでしょ。ヤラシイな」
「違うのっ!」
慌てて手と首を振ってみるものの、彼はいたずらっぽい瞳で私を見下ろしていた。
ざっとシャワーで身体を流してから、彼も湯船に入ってくる。
――……と。
「わっ!?」
「羽織ちゃんは、ここ」
器用に向きを変えられ、彼にうしろから抱きしめられる格好になった。
「……もぅ……」
「あー、あったかいな」
浴槽の縁に頭を乗せて呟く、彼。
……ん? なんか……あれ?
もぞもぞと動いていると、彼がぎゅっと腕に力を入れて耳元に唇を寄せてきた。
「わっ!?」
「……何?」
「っん……!」
1度果てた身体に、再び火が点いてしまいそうだった。
だって……お、お尻のあたりに……。
「これ?」
「っきゃ!?」
ぐいっとお尻を突き上げられて、思わず焦る。
そ、それって……やっぱり……。
「……あんなにかわいく見られたらね……男として無反応ってワケにはいかないでしょ」
「っ! あっ……」
そっと彼の手が、首筋から胸、そして秘部へと滑っていくと、それにあわせてもう1度快感がぞくりと背中を走った。
「……まだ足りない……?」
「んっ、そ……んな……やぁんっ」
お湯と混じって、ぬるぬるとなんだか変な感触。
お風呂でなんて……もぅ……AVと一緒じゃない……!
なんて考えていたら、彼の指がゆっくりと入ってきた。
「んっ!! やっ……せ……先生っ……!!」
「今度は、俺の番」
「……え……?」
「羽織遊び」
「っ……」
ぼそっと呟くと、途端に指を中でくちゅくちゅ動かし始めた。
そのたびにお湯が少しずつ入って、妙な感じを覚える。
「んっ……! はぁ……はっ……ぃやっ……!」
「嫌? 羽織ちゃんが見てたのと同じだよ?」
「だ……からっ……やなの……!」
「どうして? あんなに楽しそうに見てたじゃない」
「っ! そ……それは……っ……はぁんっ!!」
耳元で囁く彼の声は、やっぱり楽しそうで。
まだまだ、許してくれそうにはない。
「……じゃあ……男の人はああやって……女の人に……」
「ん?」
「……して、ほしいものなんですか?」
「え」
そっと彼を振り返ると、動きが止まった。
「……だって……違う……の?」
「……」
相変わらず、こちらの呟きに反応はない。
……? 怒っ……た?
改めてまじまじ見てみると、口元を手で押さえて頬を染める彼の姿があった。
「先生?」
「いや、あれは……」
「あれは?」
困ったように眉を寄せる彼に、今度は私がいたずらっぽく笑う。
すると、案の定視線をそらした。
「ずるいっ。私だっていろいろ言わされたのに……。先生は何も言わないなんて……ずるいですよ?」
「だから、あれはいいんだよ。俺は別にそこまで望まないから」
「でも……気持ちいいんじゃ、ないの……?」
「…………はぁ」
恐る恐る彼に訊ねると、小さくため息をついて指を抜いた。
「っん……」
「あれは……。確かに、してほしがるヤツもいるけど、俺はいいよ。……むしろ、してほしくない」
「……どうして……? だって……」
「羽織ちゃんには、ああいうことはしてほしくないの」
ため息混じりにそれだけ言うと、彼は目を閉じて浴槽の縁に頭をもたげた。
……んー?
しばらく彼を見ていれば目が合うんじゃないかと思ったんだけれど、彼は結構な間そうして瞼を閉じていた。
……だからこそ、余計に気になるのに。
彼が今、どんなことを考えているのか、が。
――――……あんなことされたら、それだけで狂いそうだ。
しかも、アレをするのが彼女だろ……?
困ったように眉寄せて、潤んだ瞳で見つめられてみろ。
それこそ、自制なんて利かなくなる。
たまらなく彼女が欲しくなるし……何より、そうなったら優しくしてやる自信ないからな。
……でもまぁ、それはそれで見てみたいっていうのはあるけど……男ですから。
「……先生?」
「え? あぁ、何?」
何やら考えこんでいるようだった彼にそっと声をかけると、姿勢を戻して目を合わせてきた。
むー……。
その顔。
絶対、何かよからぬことを考えていたはずだ。
「……えっちなこと考えてたでしょ」
「まさか。俺は羽織ちゃんとは違うの」
「違わないもんっ! だって、あんな……あんな意地悪して……」
自然に、彼から視線が外れる。
少し俯いてから、もごもご言葉を濁すと、彼が顎に手を当ててから唇を合わせてきた。
「……ん……」
ゆっくりと、角度を変えて何度も落とされる口づけ。
そのたびに、浴室内にその音が淫らに響く。
……わざと音立ててるんじゃ……。
そう思うと、さらに頬が赤くなる。
でも、彼ならばやりかねない。
「あんなって……そんなに意地悪した?」
「……したじゃないですか」
ちゅ、と音を立ててから離れてすぐ、優しい眼差しで見つめられ、思わず語尾がしぼんでしまう。
そんな私を小さく笑うと、もう1度うしろ向きに抱きしめた。
背中越しに彼の鼓動が響いてくる。
それが伝わってくるからか、私もいつの間にか脈が速くなっていた。
「……っ……んっ!」
再び彼が秘所を指で弄り、ゆっくりとそのまま入ってくる。
指の感触。
角度があるせいか、いつもと違ってきつさを覚える。
「……まったく。俺ばかり悪者扱い? 目の前でヤらしい顔してAV見てたのは意地悪じゃないの?」
「う。だ、だって、あれは……先生がいるなんて思わなかったし……」
「へぇ。じゃあ、俺たちが戻ってこなかったら、最後までふたりで見てたんだ?」
「な……! そ、それが意地悪って――っや……ぁ」
途端に、彼が指で敏感な所を責めた。
……うぅ。いじわる。
声が出せないまま身じろぎし、緩く首を振る。
すると、楽しそうに耳元で笑ってから、彼がうなじをぺろりと舐めた。
「……俺がどんな思いで羽織ちゃん見てたか……知らないでしょ」
「え……?」
どんな思いで……?
あのときの先生、すごい怒ってたけれど……。
「っ……んんっ! ……ぁ」
「すぐにでも家に連れて帰って……こうしてやりたかったんだよ」
「んっ……は……ぁ」
ぐちゅぐちゅとかき回され、もう身体に力が入らなくなっていた。
すると、それを察したのか、彼が私の腰を掴んで浮かばせると、何かを秘所にあてがう。
そして、私を座らせるかたちでそのまま一気に彼が突き上げた。
「……ッ! やっ……あぁっ……!!」
「……く……」
……熱い……。
すごく熱くて、脈打っているのがわかる。
でも、こんな格好でされるなんて……もぅ……やだぁ。
恥ずかしくて、思わず唇を噛む。
だけど、彼が休む暇を与えてくれない。
ゆるゆると動きながら胸を掴み、揉みしだきながら首筋に唇を這わせる。
「っ……んんっ……も……だ……めぇ」
ぞくぞくと快感が身体を駆け、もう1度果ててしまいそうだった。
「っく……マズいな……すごい」
彼が苦しげに呟くと、耳元に息がかかる。
そのたびに新しい快感が生まれて、翻弄されていった。
いつも、そのままの彼が入ってくることはない。
大抵きちんと着けているんだけれど……水の中は平気? ……って、そんなわけないよね。
などと考えていると、一層彼が動きを早めた。
「あっ、あ……! ん……そんな……っあ、そこっ……!!」
「……ん? ここ、が……どうした……?」
「ひゃぁん……っ」
苦しそうに言いながらも、彼は動きを止めなかった。
いつもよりも深く責められ、敏感な部分に容赦なく快感を送られる。
途端に、大きな波がぞくりと生まれつつあった。
「っ! も……あぁっ……だ、だめっ……!」
「……っ……いいよ……イってもッ……!」
「あ……あぁっ! はぁ、も……ぁ……だめ、ぇ……!!」
「くっ……!」
途端、目の前が白く弾けた。
ふわふわと漂う感じがして、びくびくと快感が押し寄せる。
だけどたまらなく愛しくて、このまま彼と離れたくなかった。
「……あれ?」
「ん?」
感触がいつもと違った。
いつもはもっと苦しくて、なんか……。あれ?
ふっと彼を振り返ると、苦しそうに息をつきながらうっすらと瞳を開いていた。
……と、そこで何がおかしいのかやっと気付く。
いつもはなかなか離れてくれない彼が、今日はあっさりと離れていたのだ。
…………あれ?
「なんか……お湯、減ってません?」
「そう? 気のせい」
「……嘘! 気のせいじゃないですよっ! ……あ、先生……お湯抜いちゃったの?」
「さてと。身体洗って出るかな」
「え!? ち、ちょっ……先生!?」
だるそうに浴槽から出てシャワーを頭からかぶると、彼は聞こえない振りをしてすぐに髪を洗い始めた。
お湯の抜けていく浴槽の中から彼を見ているものの……やっぱり、減ってるよね。お湯。
じぃっと見ていたら、彼と視線があった。
……ぱっと逸らされたけど。
「もぅ。……どうしてお湯抜いちゃったんですか?」
「まぁ、いろいろね。ほら、羽織ちゃんもおいで。洗ってあげるから」
「っ……大丈夫です。この前で、もう懲りたもん」
「それは残念」
頬を染めて彼を見ると、ふっと笑ってからシャワーで髪を洗い流した。
いつもと雰囲気の違う彼を目の当たりにすると、なんだか違う人みたいに見える。
いつもはさらさらで少し長めの髪が、今はお湯に濡れてしっとりと彼の頭のかたちにまっすぐなっていた。
「……髪……伸びましたね」
「え?」
浴槽の縁に両腕を乗せ、さらにその上へ顎を置きながら見つめると、そっと前髪をつまんでから彼が振り向いた。
「……そうかな」
「うん。……髪切ったんですね、って言ったときから」
懐かしい、あの言葉。
あのとき出た言葉は、本心だった。
髪形が変わった彼が、本当にカッコ良かったし。
……でも。
ああ言ったそのあとすぐ、彼に怒られる羽目になる。
……でもあれは、お兄ちゃんが悪くて……。
…………。
そうでもないのかな。やっぱり。
「……そうだね」
ふっと笑って前髪をかきあげると、彼が私の横に手をついて鼻先をつけた。
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