「……出ました」
髪を乾かし、リビングへ戻る。
すると、私が言うよりも先に彼と目が合った。
……その、瞳。
それがなんだかいつもと違うように見えて、思わず声が小さくなる。
なんか……なんだろ。
雰囲気が、違う。
でも、具体的にどこが違うのかはわからなくて。
……ただ、どきどきして。
見つめられたままでいたらこの気持ちが彼に伝わってしまいそうな気がして、思わずキッチンへと向かっていた。
逃げた、と言われたら何も言えない。
……でも、だって。
少しだけ熱っぽい視線であのまま見られていたら、どうにかなってしまいそうな気がしたから。
「……っ……!」
彼に、背を向けていた。
見えないように、見られないように。
そんなふうに、取った行動だった。
……なのに。
「せ……んせ……」
振り返ったら、目の前に彼がいた。
先ほどまでと同じ――……熱っぽい眼差しで私を見下ろす、彼が。
「え……?」
ゆっくりと伸ばされた、大きな手のひら。
それが、そのまま……持っていたグラスへと伸びる。
「……あ……」
私から彼の手へと移ったグラス。
紅茶を飲もうと思ったんだけど……もしかしたら、先生も飲みたかったのかもしれない。
なんて思っていたら――……彼が、私へグラスをかたむけた。
…………飲め、ってことなのかな……。
まじまじとグラスを見てから彼を見上げると、じぃっと見つめられたままで、やっぱり口元へとグラスの縁を当てられた。
「…………ん……」
なぜか、どうしても彼を見つめたままで飲む格好。
……だって……視線を外してくれないんだもん。
しかも、その――……彼の顔。
まるで、私の口元を見つめているような彼の表情は、薄っすらと唇が開いていてなんとも言えない艶っぽさがあった。
「……ん、く……」
少しずつ、少しずつ。
口内に入ってくる、冷たい液体。
……ぅ……。なんだろ。
なんかやっぱり、ものすごくドキドキするんだけれど。
ただでさえ、彼の唇が目に入るたび、どきどきするのに……。
「っ……!」
なんてことを考えていたら、唇の端から、つ……と零れた。
「っん! ………やぁ……あ」
一瞬だった。
つぅっと零れた紅茶が首筋を伝った瞬間、私よりも先に彼が動いた。
舌が首筋を這い、そのまま胸元へと落ちる。
「……は……んぁ……!」
彼の髪が、肌に当たる。
舌の感触が、強くわかる。
……吐息が……いつもよりずっと熱くて。
どれもこれもを感じ取るたび、ぞくぞくと身体がおかしくなりそうなほど震えて、熱い何かが目覚めるんじゃないかと怖かった。
「……ぁ……」
片腕で私を支えていてくれた彼が、ごく近い距離で口角を上げる。
……気持ち、いい……の。すごく。
思わずそんな、とろんとした瞳で彼を見つめると、少しだけ荒い息のままで彼が口づけた。
「は……ぁふ……」
深くまで舌が絡み、苦しさまで覚える。
でも、それ以上に気持ちよくて。
いろいろな感覚が麻痺するほどに心地よくて、本当にとけてしまいそう。
「……ぁ……や、だめっ……ここじゃ……」
上から順にボタンを外されて、慌てて彼を止める。
でも彼はまったく気にしない様子で、さらに舌で首筋を何度も往復した。
「……どうして?」
「んっ……!」
吐息とともに甘い声で囁かれ、ぞくりと背中が震える。
低い声。
それはいつもと同じなのに、なんだか……やっぱり、違う。
「だ、だって……ここじゃ……」
艶っぽい彼の態度そのもので、おかしくなりそう。
それほどまで自分が戸惑っているのがわかって、視線が下に落ちた。
――……途端。
「っきゃ……!」
有無を言わさぬうちに、彼が私をいとも容易く抱き上げた。
「せ、せんせっ……!」
「……こっちなら、文句ないよな?」
彼の上着へしがみつくよう握り締めながら、何も言えなかった。
……その、声。
言い方。
ちらりと1度だけ私を見下ろした彼の瞳には、絶対的な何かがあって。
……逆らえないって言ったらいいかな……。
思わず、小さく喉が鳴る。
「っきゃ……!」
寝室に着くなり、少し高い位置からベッドへ降ろされ、勢いで身体が弾んだ。
……いつもと違う。
ううん、正確には『これまで』と。
今までだって、何度か抱き上げられたことはあった。
だけどそれはいつだって優しくて。
……こんなふうに乱暴にされるなんてこと、なかったのに。
「っん! ん、っ……あぁ……!」
戸惑いながら彼を見ていたら、覆いかぶさるように来られた。
貪るように首筋へ唇が寄せられ、執拗なまでに舐められる。
「……っ……!」
するり、とボタンの外れた上着をそのまま脱がされた。
すぐに彼の熱い手のひらが私を掴み、ベッドへ倒す。
「は……ふぁ……あ、あっ……」
素肌を手のひらが行き交うだけでも、ぞくぞくしておかしくなりそう。
……何……?
なんか……ヘン……。
まだ何をされたわけじゃないのに、気持ちよくて、本当にどうにかなってしまったようだ。
「ん……あっ……! せ、んせっ……」
胸を揉みしだきながら鎖骨を舌が撫で、ぞくりと身体が震えた。
いつしか彼の身体を押すように手を宛てていたけれど、まったく気にもしていないようで。
むしろそれどころか、一層スピードが速まっているような気もする。
「……もう駄目だ」
「え……?」
「……これ以上待てない」
「……ッ……!」
掠れた声でまどろっこしそうに囁かれ、何も言えなかった。
耳元に吐息交じりの甘い声が響き、ぞくぞくと身体の内から震える。
「あっつ……」
「……え……?」
少し苛立ったような声で瞳を開けると、片手で乱暴に上のボタンをふたつ外した彼がそのまま上着を脱いだ。
熱っぽい視線で捕えられ、たまらず息が漏れる。
「っ……あ!」
手のひらがまさぐるように胸を這い、先端を指先が弾く。
これまでにないほど強い刺激が身体を貫いた。
「は……ふぁ、あっ……ん……!」
規則正しいようなリズムが、身体に伝わった。
片手で柔らかく胸を包まれ、愛撫が続く。
……だけど。
唇が徐々に降りてきたかと思いきや、すぐに胸の先をぺろりと舐めた。
「ッ……ひぁ……」
「……気持ちいい?」
「ぅ……は……ぃ」
びくっと身体ごと反応したのがいけなかったのか、すかさず彼が訊ねた。
……さすがに、顔を見ることはできない。
だってもう、本当に恥ずかしくて……泣きそう。
普段と違って、お互い服を着ていない状態で。
ときおり触れる彼の肌で、ぞくっと震えてしまう。
……気持ちいい……けれど。
なんだか、自分じゃなくなってしまいそうで……そして、彼が彼じゃないような気がして、ほんの少しだけ怖かった。
「っぅ……ん、んあ!」
胸に触れていた手が下腹部を滑り、パジャマのズボンにかかった。
――……途端。
「っきゃ……!?」
有無を言わさず、下着ごと取り払われた。
さすがに驚き、反射的に上半身を起こす。
「んっ……!」
でも、まるでそんな私の反応を見越していたかのように、彼がすんなりと口づけた。
「……ん……ん、ふ……」
とろけるような、熱い舌。
躊躇なく深くまで吸われるように絡められ、身体に力が入らなくなる。
……気持ち……い……。
ふわふわと身体が漂うような感覚に陥り、唇が離れるのを拒むように勝手に腕が動く。
「……は……ぁふ……」
一瞬離れた瞬間に大きく息を吸い込み、そのまま再び彼を求める。
……濡れてる、音。
それと彼の息遣いが交じって、妙に興奮しているのに気付いた。
「……あ……あ、んん……っ」
枕に頭を沈めると、同時に大きな彼の手のひらが髪を撫で付けた。
耳たぶを甘く噛み、その唇が首筋を伝う。
と、同時に。
「あ、ぁあっ……!!」
彼の指が、充血し始めていた花芽を捉えた。
「や、ああっ……あん、あっ……」
短く息を吸い込むしかできず、どくどくと一層鼓動が早鐘のように打ち付けるのがわかる。
でも、どうしようもなかった。
……だって……すごく、気持ちいい。
身体の自由があまり利かず……ううん。
きっと、自分でもわかってるんだと思う。
嫌がりたくない。逃げたくない。
もっと……もっと、してほしい。
与えられ続ける快感を、すべてそのまま受け入れたくて。
「……待ってた……?」
「ふあ……っあ、……せんせ……」
掠れた自分の声。
耳元で囁かれた彼の声と対照的に、自身に響く。
「っ……んん……!」
彼の長い指が中に這入って来た途端、きゅっと自身が反応するのがわかった。
「……気持ちいいんだ」
「ぅあ……っ……あ、ふ……あぁっ……」
小さく嘲るように笑われ、かぁっと身体全体が熱くなる。
でも、もちろん否定なんかできない。
……だって、本当のこと。
ただ彼が触れてくれているだけでもすごく気持ちよくて、崩れそうなほど……自分が、感じてるのはわかってたから。
恥ずかしくて言えないけれど、でも、ヘンなのはもしかしたら先生じゃなくて私なのかもしれない。
「あぁ、あっ……はぁ……ん、んっ……は……」
奥まで探られているわけでもないのに、濡れた蜜の音がとめどなく溢れていた。
弱い部分を撫でるように、もしくはさらに探るように。
徐々に秘所へ触れている指が増え、同時に中で感じる悦の量も増える。
「っ……!」
だけど。
それらを全身で感じながら息をついていたとき、彼が指を引き抜いてしまった。
「……や……! ……せんせぇ……っ」
思わず、胸に触れられていた彼の片手を掴む。
「………っ」
それは、反射でもあったと思う。
離れてほしくない。
行ってほしくない。
……もっと。
そう思った、私の本心。
「……せんせ……」
でも、そのときの彼の顔が、堪らずヤラしくて、艶っぽくて。
……や……。
ぞくりと身体の奥深くが反応したのがわかる。
「……少しも待ちたくない、って顔してる」
「だって……」
「随分積極的だな」
「………だ……ってぇ」
いつしか、私の腕を掴まれていた。
ベッドへ足を崩して座り、すがるように彼を見上げる。
……行かないで。
欲しくて……欲しくて。
彼を見つめているだけで、そんな言葉がどんどん溢れてしまう。
「……あ……」
「少しだけ、我慢ね」
「っ……でも……」
「……参ったな」
これじゃ、聞きわけのない子でしかないってことくらいわかってる。
……でも、欲しいの。
今ならば――……きっと、間違いなくこのままでと言ってしまいそうだった。
わかってる。
先生がどうして離れたか、ってことは。
……でも……。
「え……?」
「開けて」
くすくす笑った彼が、ベッドの棚に手を伸ばした。
目の前に再び、その手が戻ったとき。
そこには、先ほどまでなかった、四角い箱が握られていた。
「これは……?」
「優人からのバレンタイン」
「……優くんから……?」
意外な人物の名前に、瞳が丸くなった。
……しかも……バレンタイン? あの、優くんが……?
「……?」
どうしても彼の言葉が腑に落ちなくて、再び見つめる。
でも、先生はそれっきり何も言ってくれなくて、ただただ楽しそうな顔で私を見ていた。
「…………」
いったい、何が入ってるんだろう。
でも、バレンタインってことはきっと……チョコ、とかなんだよね……?
だとしたら、どうして今?
なんでこのタイミングで、これを私によこしたんだろう。
――……そんなこtを考えながら、ラッピングの封を静かに開いたとき。
「っな……!」
中からは、予想もしなかった物が出てきた。
「……っと」
びっくりして、つい、落としてしまった。
な……んで、こんな。
ごくっと喉が鳴ると同時に、視線が落ちる。
でも先生は、それを片手で拾うとすぐに包装を破いた。
……だ、だって。
だって、だよ?
全然予想してなかったっていうか、こ……こんなのがあるってこと自体、知らなかったっていうか……。
「はい」
「っ先生……!」
「どうした? ……いつもと同じだよ?」
「……ち……違いますよぉ……」
「そう?」
小さな小袋を目の前に差し出され、たまらず首を振る。
でも、彼は相変わらず楽しそうな顔のまま口角を上げた。
「…………」
……わざとだ。
はっきりとそうわかるほど、彼が目の前で封を切った。
途端――……ほんのりと、甘い香りが広がる。
「……すごいな」
ぽつりと漏れたその声にさえ、身体が反応を見せる。
……やだ……。
ぞくっと背中が粟立って、鼓動がまた早くなった。
「っ……!」
「ほら」
いきなり鼻先にそれを突き出され、嫌でも――……匂いが、わかる。
「……チョコ……」
「うまそう?」
「っ……先生!」
彼を見たままで呟いた私に、にやっと楽しそうな顔を見せた。
堪らず眉を寄せ、思いきり否定する。
……でも。
確かにコレからは……その……ち、チョコの匂いがしてて。
…………。
……うぅ。
だからって何も、そんな言い方はないと思うけれど。
「さて、と」
「……っ……」
吐息混じりに呟いた彼が、そのまま……ベッドへ横になった。
「え……?」
思わず、瞳が丸くなる。
……ぅ。
まるでそんな私の反応を待っていたといわんばかりの顔で、彼がまた笑った。
「おいで」
「……え……?」
どくん、と鼓動が大きく鳴る。
……そのセリフの意味。
それは確かに、間違いなく……ひとつしか、ない。
「……でも……」
「欲しいんだろ?」
「っ……せんせぇ……」
あまりにもストレートな言葉に、眉が寄った。
そんな私に手のひらを差し出し、彼がまた『来ないの?』と目で訴えかける。
……なんでこんなに楽しそうな顔をするんだろう。
意地悪で、ずるくて。
……だけど。
「……ぅ……」
誘われるまま従ってしまう私も、どうかと思う。
……でも……やっぱり、欲しい……って言うのがあって。
「…………っ……」
彼を跨ぐように足を開くと、内側を彼が手のひらでなぞった。
そしてそのまま――……秘所へと向かう。
「やぁん……!」
「……ほら。こんなになってるじゃない」
「やっ……せんせ……! ……言っちゃ、やだ……」
「ホントのことしか言ってない」
指先がまた往復し、そのたびに濡れた音が響く。
……そして。
「ッ……あぁあっ……!」
貫くように、彼が一気に這入って来た。
ぞくぞくっと身体が震え、胎内が快感でひくつく。
「ん……んっ……んぁ……はぁ、ふ……」
揺さぶられるように突き上げられ、同時に身体の奥からびりびりと痺れるような感じが広がる。
……でも、何よりも根底にあるのは、当然……快感。
気持ちよくて、たまらなくて。
しどけなく唇が開いたまま、荒い息が漏れた。
「は……、はっ……ぁっ……ん、気持ち……い……」
いつもよりずっと……強い、彼自身。
硬さを普段よりずっとダイレクトに感じて、それを思うたびに身体の奥が濡れてくる。
「……せんせっ……ん、せん……せぇ……っ!」
腰を支えている彼の手のひらを握り締め、唇を噛む。
すると、その手を彼が胸に這わせた。
「っきゃ……! ぁ、……うあっ……あぁ」
再び悦が大きくなり、自身を責めやる。
……気持ちいい。
本当に頭の中がそれを感じるだけしかなくて、くらくらする。
ちゃんと……息が吸えない。
…………ううん。
それ以上に、もう、彼以外のことを考えるのすらもったいないような気がする。
全身で感じたい。
……もっと……できることなら、もっとたくさん。……もっと、ずっと。
「あぁあっ……!」
悲鳴のような声が漏れた。
と同時に、閉じていた瞳が徐々に潤む。
「ん、んっ……んん……!」
「……気持ちい……」
「はあっ……私……も……っ」
ため息とともに漏れた彼の声が、一層身体を熱くさせる。
突き上げられるたびに身体の奥を刺激され、しどけなく開いた唇からは嬌声が漏れる。
「すごい……吸いついてるの、わかる?」
「っ……わか、んな……っ……」
「……全部持ってかれそう」
囁きが、これほどまでに艶っぽいなんて思わなかった。
なんて声だろう。
やらしくてやらしくて、たまらないくらい自身が刺激される。
「っ……あ、あっ……せんせ……も……!」
「……まだ」
「だ、だっ……て……! あぁあっ……だ、ってぇ……!」
ぞくぞくと高まり来る波を感じて彼の手を握り、ぎゅうっと眉を寄せる。
すると彼は、一層動きを早めた。
「きゃ……ぁあ、あっ……ん、ん……せんせっ……! せんせ……ぇ……!!」
「……く……ぁ、最高……」
「あ……あ……っいっちゃ……! んんっ……イっちゃうぅ……ッ……!!」
泣き叫ぶような、濡れた声。
背を反らしながらたまらず声をあげると、彼の動きが緩んだ。
「はあっ……は……ぁ……はぁ……っ」
何度も荒く息をつき、震える手をきゅっと握る。
「ッ……!!」
でも彼は、すぐにまた動き出した。
「ひ……あぁあっ……だ、めっ、んんぁ! 先生……ッ」
「……まだ」
「だ、めっ……だめっ……そんなに、動いた、ら……!」
低い声とともに彼が上半身を起こし、途端にびくびくと何度も秘所がひくつく。
走る、強い悦。
身体全部が飲み込まれて千切れてしまいそうで、声にもならない。
「っ……ん……ぁああっ……!」
ひときわ高い声があがり、同時に彼が1度離れた。
身体から力が抜け、どっとけだるさが押し寄せる。
どくどくと激しい鼓動と、荒い自身の呼吸。
相変わらず寄った眉のまま彼を……見る、と。
「っな……!」
ベッドへ私を横たえてから、そのまま覆いかぶさるように彼がまた――……這入って来た。
「きぁ……あぁあっ……!」
「……っは……」
すぐ近くで短く息を吐かれ、声とともに私へかかる。
「ん、んっ……! ……だ、めっ……駄目、先生……っ……! も、ぅ……もうっ……!」
「……まだ。まだ欲しい」
「っやぁ……ん……!」
緩く首を振って懇願するも、彼は依然として聞き入れてくれなかった。
その間も容赦なく責め立てられ、果てたばかりの身体に強い悦を送り込まれる。
「……ふえ……も、やっ……」
気持ちいいよりも、強すぎて痛いほどの刺激。
堪らず、瞳の端から涙が零れる。
「……っく……」
「ッ……!!」
律動を送り続けていた彼が、さらに体勢を変えた。
弱い部分をきつく突かれ、瞳が開く。
「っは……」
「やぁあっ……! せんせ、先生っ……もぉ、やっ……ダメ……ぇ!」
「……は……すげ……」
「ん、んんっ……せんせぇ……もぉっ……もぉ……!!」
壊れるんじゃないか。
身体も、そして頭までも。
脳まで鋭く貫く快感になぶられ続け、耳に届く濡れすぎている卑猥な音。
……そして、彼の声。
互いに荒い息をつきながら繰り返されている行為は、どう言ったらいいだろう。
「……もぉ……っ……ダメ……!」
無理矢理またあの強い波を呼び覚まされているようで、首を振りながらそんな言葉しか出てこない。
「っ……!」
「く……っは……」
「あぁあっ……や……や、ぁ……っ……!」
早まった律動とともに、彼の荒い息が間近で聞こえた。
でも、それはこちらも同じ。
身体全体で息をしながら、与えられ続けている快感に流されてしまいそうな自身を懸命に押さえつける。
……だめになっちゃう……!
中で感じる彼がさらに勢いを増したような気がして、声にならない声があがった。
「ッ……く……! っは……!!」
「やぁあ……ああ!」
途端、何かが弾けるように膨れ上がった。
最後に1度奥まで深く貫かれ、たまらず……声があがる。
「っはぁ……はぁ……っ……!」
「……っは……」
ぎゅうっと痛いほど抱きしめられ、一気に身体から力が抜けた。
もう……指1本すら、自由にならない。
それくらいまでに、身体が重たくてだるくてたまらなかった。
「……あ……」
荒い息のまま瞳を閉じていたら、彼が瞼をそっとなぞった。
「……怖かった?」
ふと瞳を開くと、鼻先が付くほどの距離で彼が覗き込んでいた。
……優しい、顔。
それは本当に、いつもと同じ彼の顔で。
「少し……だけ。…………でも……」
「……ん?」
「でも……平気。もう、怖くないから……」
指先で簡単に涙を拭ってから首を振ると、同じように笑みが浮かんだ。
それを見て、彼が柔らかく笑う。
……嬉しい。
そんな思いをどうしても伝えたくて、思い切りぎゅっとしがみつく。
確かに、怖くなかったといえば嘘になる。
あれほどまでに激しく求められたのは、今までなかったから。
……でも……今は、違う。
単純、なのかな。
でも、本当に『嬉しい』という感情しかなかった。
「もう……ずっと、したかった」
「……え……?」
「欲しくて、たまらなかった」
「っ……」
髪を撫でてくれていた彼が、囁くように笑った。
「風呂に行くって言われたとき、どうしようかと思ったよ。……風呂場にまで押しかけそうだった」
「っ……ほんと……ですか?」
「うん。……だから、風呂から出た羽織ちゃんを見たとき、もう押さえられなかったんだ。……欲しくて欲しくて……たまらなくて」
優しく触れてくれているのに、言葉は少し違う。
なんだか……まだ、荒っぽさがあるというか、強いというか。
…………でも、喜んでる自分もいる。
そんなに求められていた、っていうのがわかって、嬉しくないはずがない。
「それにしても……」
「……え……?」
離れた彼が、すぐ隣へ横になった。
天井を見上げているかのような眼差しに、私は映らない。
……でも。
「……なんか……ホント『危ない』って思ったんだよな」
「……え……?」
「俺自身が、ね」
ぽつりと漏らした彼が、私を見て苦笑を浮かべた。
「あ……」
「……泣かせるほど……っていうか、もう何も考えられなかった。……欲しくてたまんなくて」
頬に触れた彼が、熱を帯びた瞳で唇から……瞳へと視線を這わせてきた。
それがどうしても、また……疼くようで。
思わず、きゅっと絡めた彼の指を強く強く握り締めていた。
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