「んっ……!」
 ひときわ深く、彼に口づけをされた。
 口内を舌で探られ、舌を絡め取られる。
 ……気持ちい……。
 なんだか、頭がふわふわする。
 喉から漏れる声とともに、身体の中からはこれまで感じたことのない感情が溢れ出てくる。
「……っふ……ぁ」
 ちゅ、という小さな音とともに離された唇で、大きく息を吸い込む。
 すると、鋭いきれいな瞳で彼が私を見つめた。
「羽織」
「……なに……?」
「……いい?」
「え……?」
 ぼぅっとした頭では、彼が何を言っているのか判断できなくて。
 優しい彼の顔を見たまま、瞳が揺れた。
 ……いいって……何が…?
 彼の意図することが掴めず、しばらく彼を見つめてしまう。
 すると、彼が小さくふっと笑った。
「……ひとつになる、って言ったらわかる?」
「っ……え……」
 とても、とっても優しい顔。
 そんな彼を見ていたら、声が漏れた。
 ひとつ。
 ……ひと……つ……?
「ッ……ぁ……」
 ようやく、彼が何を言おうとしていたのかわかった。
 ……聞き返すなんて……私、すごく恥かしいことした……?
 慌てて彼から視線を外し、そして口元を手で覆う。
 ……だけど。
 だけど、彼が相変わらず優しく笑ったまま、髪を撫でてくれた。
「……羽織」
 さらりと揺れる髪を見ながら、落としたままだった視線を上げる。
 すると、ゆっくり親指で唇をなぞった。
「……返事は?」
 優しい、瞳。
 大好きな……人。
 だもん、返事なんてもちろん決まってる。
 …………彼に、優しく触れられたときから。
「……いいよ……」
 こくん、とうなずいてから彼の首に両腕を回すと、優しく髪を撫でてから、頬に口づけをくれた。
 大好きな人と、ひとつになること。
 それは、知識としては……これまで持っていたけれど、やっぱり、いざ実際に体験するまではどんなことかなんてわからなくて。
 ……だけど、これだけは言える。
 私は、絶対に後悔しないということだけは。
 …………だって、彼は私の本当に好きな人だから。
「……あ……」
「おいで」
 ゆっくりと身体を起こされ、これまでとは逆に彼がソファへもたれる。
 ……なんか……まっすぐ顔を見れない。
 これまで自分が見下ろされていたのに、今は自分が彼を見下ろす形。
 それがすごく違和感があって……すごく恥ずかしかった。
「……どう……したらいい……?」
 彼の肩に手を置いてから瞳を合わせると、腰を引き寄せるように彼が手を回した。
「座るだけでいい。……わかるな?」
「……う、ん……」
 どきどきして、苦しい。
 ……恥ずかしくて、やめてしまいたい気持ちがある。
 ……でも……やっぱり。
 彼とひとつになりたい思いのほうが強くて。
 今は、その気持ちだけで身体が動いていた。
「……こう……?」
「ん。……いい子だね」
 おずおずと彼の膝に座るような形で両膝をソファへ乗せると、小さく笑ってうなずいてくれた。
 彼の両肩に手を置き、身体を支える。
 すると、しばらくしてから彼が顔を上げて腰に手を当てた。
「……おいで」
 まっすぐに見つめられたまま呟かれた短い言葉に、喉が鳴る。
 ゆっくりと座るように促され、そのまま――……秘部へ何かが当たる感触が生まれた。
「……え……」
 つい彼を見てしまうと、再び笑みをくれる。
 ……優しくて、安心するような彼のもの。
 …………正直言えば、怖い。
 だけど……。
「っ!! ……ン……はっ……ぁ!」
 ぐいっと中へ何かが這入ってきた。
 ……もちろん、わかってる。
 それが、彼自身であることくらいは。
「……あ……、あっ……つ……ぅ」
 ぎゅうっと瞳を閉じて彼にもたれると、抱きしめるように腕を回してくれた。
 わずかに、身体の中へ何かが埋め込まれていくような感じ。
 それが……思考を働かせてくれない。
「……力抜いて……息、吸えるな……?」
「ん、んっ……」
 こくこくうなずきながら、言われた通り息を吸う。
 そして、ゆっくり吐く――……と同時に身体から力が抜け、そして――……。
「んっあ……あ……!!」
 ぐっと彼が動いた。
「……っは……上手だ」
 ぎゅうっと抱きしめると同時に彼が耳元で荒く息をつき、身体が震える。
 背中がぞくぞく粟立って、手だけじゃなくて身体にも力が入らない。
 だけど、彼はそれをわかってくれているかのように、私をちゃんと支えてくれた。
「すごい……気持ちいい」
「……ほんと……?」
「もちろん。……嘘なんてつかないよ」
 吐息交じりに聞こえた言葉で彼を見ると、艶っぽくてすごく優しい笑みを見せた。
 ……嬉しい。
 彼がそう言ってくれたことと、こうして彼とひとつになれたことが。
 ……これが……これが、結ばれるってことなんだよね……?
「……動くよ?」
「っ……ん……」
 自分の中で脈打つ彼がわかって、なんとも言えない幸せな気持ちになる。
 大好きで大好きで、ずっと背中を見てきた人。
 これまでは、たとえ何があってもそばにいてくれると思っていた人。
 ……だけど。
 今回わずかな時間とは言え離れたことで、彼の大切さを知った。
 ……そして、私の中には彼へ好意以上の気持ちがあるんだということも。
「あ、やっ……ぁあっ……!」
 彼に腕を回されたままで揺さぶられ、声が大きくあがった。
 鈍い痛みと、そして静かに広がる悦。
 そのどちらともわからないもののせいで、セーブが利かない。
「んんっ……あ……あっん……! お……にいちゃっ……」
「……っく……羽織……すごい……イイ」
「あ、あっ……ッ……!」
 聞いたことがない彼の声が、身体と心を刺激する。
 ……こんな気持ち、初めて。
 そして、こんな快感を味わうのも。
「ふぁ……っ……お兄ちゃんっ……なんかっ………やぁ……」
「……嫌……? 何が……?」
「なんかっ……身体が、ヘン……な」
 くちゅくちゅと淫らな濡れた音が耳に届き、それと同時に足や秘部が震える。
 ……なんか……ヘン。
 そして……っ……怖い。
「や……あっ……! あ、あっ……んんッ……もぉっ、なん……っ!」
 ぎゅうっと彼に抱きつき、荒く息をつく。
 知らない、何かが来る。
 そして、そのせいで自分がおかしくなる。
 なんとなくそれを感じて緩く首を振ると、彼が抱きしめてくれながら首筋へ唇を寄せた。
「……っあ……!」
「俺がいるから……平気」
「ふ……ぅあ……っや……おにいちゃッ……だめっ……!」
 ちゅ、と音を立てて彼が首筋から胸元、そして――……胸の頂を舐めていく。
 繋がっているだけでおかしくなりそうなのに、そんなふうに刺激されたら……っ……!
「や……ぁん! もっ……怖いっ……!」
「羽織……っ」
「もぉっ……ああっ……ッふ……! ぁ、あっ……お兄ちゃんッ……!」
「俺がいるから……ッ……」
 律動が早まると同時に、秘部が淫らに締まる。
 気持ちよくて、どうしようもない身体。
 身体の奥から何かが湧いてきて……今はもう、快感しかなかった。
「あ、あっ……!! お兄ちゃん、おにいちゃっ……! やっ……ああぁ……!!}
「ッく……羽織……!!」
「んんッ……っやぁあ!」
 泣きそうな声と同時に、ぎゅうっと身体に力が戻ってきた。
 と同時に身体が震え、激しく強い快感が頭まで突き抜ける。
「っやぁん……もぉっ……あっあ……!」
 びくびくと彼を締め付け、たまらず彼にもたれる。
 だけど、彼は私をしっかり抱きしめてから――……口づけをくれた。
「ん……んっ……」
 ちゅ、という音のあとで見えた彼の顔は、すごく優しくて、すごく……愛しいと思った。
「……おにいちゃん……」
「羽織」
 朦朧とする意識の中彼を呼び、腕を伸ばしてすがるように抱きつく。
 身体に力が入らず、あまりにもだるくてこのまま寝てしまいそうだった。
 大好きな人。
 ……すごく、愛しい人。
 兄妹だって……構わない。
 今は、そう思う。
 ……彼さえ、変わらずそばにいてくれるのであれば。
 これまで願いをかけた多くの神様に、背を向けられ、罰を科せられても構わないとさえ思う。
「……愛してるよ」
 閉じてしまいそうになる瞳と意識の中、耳元で聞こえた声と言葉は……きっと……彼だったんだろう。


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