「……あ……っ」
無防備という言葉が、まさにピッタリな彼女。
……そう。
少なくとも、俺の前ではいつもそうだと思うが、こうして眠っていると、より一層そんな思いが強くなる。
彼女の耳元へ再び唇を寄せてから、片手は当然――……首筋から胸元へ。
「ん……」
柔らかな胸を包むようにすると、案の定声だけでなく、身体でも反応を見せた。
布地越しに感じる、柔らかな胸。
……直にオイシイ思いをすることができて、非常に楽しい。
「っ……ぅん……」
ぺろっと耳元を舐めながら揉みしだき、そして、指先で頂を探る。
すると聞こえたのは、ほんの少しだけ鼻にかかったような甘い声。
……楽しい。
わずかに眉を寄せた表情と、この声と。
それでこんなふうに笑みが出るんだから、やっぱり俺にとってはこの彼女がベストだということだろう。
「…………」
いつもならば、ここで一言二言何か出てくるんだが……さすがに、このときばかりはむしろ逆。
彼女を起こさないように――……ただそれだけを念頭に置きながら、じんわりと愛撫を続ける。
……どうしても、したいことがあるから。
いや。
『してほしいことがあるから』のほうがしっくりくるか。
「ん……んん……」
はぁ、と息を吐くのが聞こえ、そっと顔を覗き込んでみる。
しかし、ここにいる彼女はやっぱりまだ寝たままだった。
……しめしめ。
「っぁ……!」
胸に触れていた手を下へ滑らせ、そのまま――……太股を撫でる。
いつもだったら、間違いなく素肌へ直に触れる場所。
……なのだが、今日ばかりはさすがにそれはできないだろう。
ここで起きられたら、元も子もない。
ってワケじゃないが、直に触れてしまえば、彼女が起きる確率だって高くなるわけで。
我慢。
……そりゃ、誰だって素肌がいいに決まってる。
だけど、我慢。
「…………」
彼女のなんともいえない表情と、漏れる吐息と……そして、反応。
それらで衝動的に手を進めたくなる自分を抑えながら大きく息を吐くと、ほんの少しだけ迷いが生じた。
……なんか、むしろ自分自身で生殺し状態を作り出してるんじゃ……。
我ながら今ごろ気付くというのは遅すぎるとも思うが、仕方ないか。
「っぁ……ん」
気持ちを切り替えて、再び彼女を撫でる。
太股の内側を撫でるようにしてから、そのまま……秘部へ。
きっと、俺の予想通りのことが起きているだろうとは思う。
自分の行動と、それに伴う悦によって濡れているであろう場所。
……それが予想できるだけに――……ああ。
やっぱり、いっそこのまま手を進めてしまおうか。
いや、待て。それじゃ、この先に起こりうるであろうことに辿り着けない。
――……が。
「ぅ……ん……」
わずかに身体をよじって向きを変えた彼女を見たら、迷いが消えた。
今ここにあること。
ここで起きている、見紛うことなき事実。
……そうだよ。
今も、あとも……どっちも味わえばいいじゃないか。
そうして浮かんだ笑みは、やはり俺らしいモノだと我ながら思った。
「……ぁ……」
胸元のボタンの隙間。
そこから手を忍ばせてしまおうかとも思ったのだが、それじゃ何も変わらないじゃない。
そう思い直し、ぐっと堪える。
……くそ。
布1枚なのに、どうしてこうも分厚く感じられるんだろう。
同じ彼女の“胸”のはずなのに、まったく違う物に感じられて仕方がない。
……いやまぁ、全然違うとは思うんだが。
なんせ、素肌はやっぱり特別で極上。
パジャマ越しじゃ、ウマさも半減。
――……なんてことを思いながらも、まぁ、しっかりと唇を寄せるわけだが。
「っや……ぁ」
『感じている』ことを主張してくれているかの如く、ぴん、と硬さを持ったソコ。
……を、軽く唇ではさむようにして口づける。
「……ん……」
ぴく、とわずかに反応してから、こちらに背を向けるかの如く寝返りを打とうとする彼女をさりげなく手で押さえ、もう片方の手は当然下腹部に伸ばしたまま。
だからこそ、イイ反応を見せてもらえているワケだ。
「ふぁ……ぅ……んっ……」
撫でるように指を往復させ、敏感な部分に刺激を送る。
そして、唇ではやんわりと胸を責めている状態で。
……やらしー。
寝た子をどうこうしようなんて思いはこれっぽっちもないんだが……これじゃ、言い訳できないな。
ふと、今さら苦笑が浮かぶ。
……だが、寝ているのにこんなイイ反応してくれる彼女も彼女だぞ?
別に、『彼女のせいだ』とまでは言わないものの、でも……なぁ。
やはり、少しは彼女の影響ってヤツがあるかもしれない。
「ん……にゃぅ……」
――……にゃう?
ふと聞こえた言葉に、動きが止まった。
身体をよじって懸命に逃れようとしている腕の中の彼女……が、言ったんだろう。間違いなく。
だが、まさかそんな反応が出るとは…………かわいい子。
眉を寄せて頬を赤くしている彼女を見たら、イケナイコトの気持ちが削げた。
……わかった。
わかったよ。俺の負け。降参。
そこまでかわいい反応してくれたんだから、許してあげてもいい。
「……はは」
たまらず漏れた笑い声で口元を押さえてから彼女から離れるも、やはり簡単に笑いが止まることはなかった。
……参ったな。
我が彼女ながら、イイ意味でことごとく俺を裏切ってくれる。
こういう裏切りなら、大歓迎。
ふと、先ほどまで見ていた夢のことが頭に浮かび、目の前の彼女とのギャップでまた笑みが漏れた。
……さて。
それじゃあそろそろ、お嬢さまにご起床願おうか。
「……ん……」
彼女の頬へ手のひらを当て、改めて身体の下に彼女を捉える。
先ほどより、幾分かは安らかな寝顔になりはしたものの、やはりまだ息は荒い。
……しめしめ。
アレだけ煽ったことが、結果として結びついてくれそうだ。
「…………ぅん……」
唇を合わせて、久々に彼女を起こすための口づけを落とす。
さすがに眠っているだけあって最初は反応がないに等しかったが、徐々に……やんわりと彼女が応え始めた。
歯列を舌で撫でるようにしてから、奥深くまで探るように口づける。
……相変わらず、気持ちいいキスだな。
なんてことを、彼女の髪をすくように指を通しながら軽く角度を変えさせつつも、ふと浮かんだ。
「……ふ……」
ちゅ、と音を立てて唇を離せば、すぐそこにはまだ寝ぼけた感じがアリアリの彼女。
何度かまばたきをしながらも俺とはしっかり目が合っているので、恐らく見えてはいるんだろう。
……感覚的にはどうかわからないが。
「……ぅん? ……せんせ……?」
「ん。おはよ」
ものすごく眠そうな声で呼ばれ、ワザとらしく笑みを見せてやる。
……これまで、まったく何もしてなかったみたいな、そんな偽善的なものを。
「……おはよ……ございます」
だけど、やっぱり彼女はなんら疑うことなく、素直にあいさつをくれた。
「よく寝てたね。……そんなに疲れた?」
「……っな……! そ、んなんじゃないですよ……!」
「へぇ」
身体を起こした彼女にさりげなく囁くと、しばらく間を空けてから、慌てたように首を振った。
……かわいい子だね、相変わらず。
「暖房入ってるから、起きておいで」
「……あ……。はい」
ひと足先にリビングへと足を向けて、間仕切りの戸で振り返る。
未だに、どこか眠そうに目を擦っている彼女――……だが、きっと、先ほどまでのまさに“密事”は覚えているはずだ。
……たとえ彼女が忘れていたとしても、彼女の“身体”が、ね。
「……ふ」
幾日ぶりかに自分で湯を沸かしながら、そんななんとも言えない気持ちから彼女が言う“意地悪な笑み”ってヤツが浮かんだ。
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