「ッ!!」
とんとん、ではなく。
どちらかと言うと、がっしり、細い彼女の肩を後ろから掴む。
すると、反応良くばっちり俺を振り返った。
「壮士さ……っ!」
「な……んで泣いてんだ……!」
俺を振り返った彼女を見て、思わず目を見張る。
ぽろぽろと涙こそ流してないものの、彼女のその大きな瞳はうっすらと潤んでいて。
目を見た瞬間、ぐっと胸の奥が詰まる。
「っ……」
「どうした」
言うが遅いか、まず、彼女を抱きしめる。
鼻先に香る甘い匂いと、特有のあたたかさ、柔らかさ。
この感触が、ずっとずっと恋しかった。
「……さびしかったです」
ぎゅう、と珍しくすぐに背中へ手を回した。
少しだけくぐもって聞こえる声が、身体を通して響いてくる。
この感覚は悪くない。
いや、むしろ素直に『好きだ』と言うべきか。
「っ……」
「俺もだ」
ガラにもなく、すんなりと思っていた本音が漏れた。
ぎゅ、と彼女を抱きしめる腕に力をこめ、目を閉じる。
ずっと、ずっと。
そばにいるのが当たり前な状況だったからこそ、離れてみて改めてわかった。
やっぱり、そばにいなきゃダメなんだな。
瑞穂が俺のそばにいてくれることは、当然と思っちゃいけないのかもしれないが、必然であることは重々わかった。
……そういうのを再認識させるためのアトラクションなのか? これは。
それとも、単なる嫌がらせか。
まぁいい。どちらにしろ、こうしてまた会うことができたんだから。
「よかった」
思わずぽつりと呟いた言葉がどうやら聞こえたようで、顔を上げた瑞穂と目が合い、思わず互いに笑みが漏れた。
そのあとは、特に迷うことも、大がかりな仕掛けもないまま無事にゴールへたどり着くことができた。
今度こそ、ホンモノのゴール。
俺たちと同じようにコスプレをしたカップルが何組も歩いているのが見え、ようやく“脱出”を実感する。
「しかし、大掛かりなアトラクションだったな」
「ホントですね」
苦笑を浮かべた瑞穂を見ながら頷き、改めて手を繋ぐ。
繋いだ手のひらから伝わってくる、ぬくもり。
きっと、あの迷路の中では1時間も離れていなかっただろうが、数時間ぶりに触れるような気分だ。
「…………」
思わず繋いだ手に力をこめ、一歩ずつを踏みしめるように歩く。
すると、瑞穂もまた握り返してくれたように思えた。
「さて。それじゃ、次はどこがいい?」
「あ、えっと……それじゃあ、あの正面のアトラクションなんかはどうですか?」
指さした先にあったのは、“ドードーの瓶あそび”と書かれたアトラクションだった。
あいかわらず、名前だけではどんなアトラクションなのかまったくわからない。
そういや、さっき見かけた“帽子屋・マッドのイカレタお茶会”とかいうアトラクションも、さっぱりわからなかったな。
あの名前からわかったことは、鷹兄が扮していた格好が帽子屋だったのか、ってことだけだ。
「なんでも、ガラスでできたボートみたいなのに乗って、進んでいくアトラクションみたいです」
どうやら、先ほどの迷路のときに持っていたガイドブックにでも載っていたのだろう。
入り口に着くころには、にっこり笑った瑞穂が説明してくれたとおりの文面が看板に書かれていた。
「それじゃ、決まりだな」
「楽しみですね」
ひとりごとのような瑞穂のセリフに頷きつつ、手を繋いだまま通路に並ぶ。
さすがに、夕方ということもあってか、人の数もまばらになり始めていた。
……そういや、このテーマパークはパレードとかあんのかな。
ぽつぽつと外灯代わりのランプが灯り始めたのを見ながら、ふとそんなことが浮かんだ。
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