―――――16時30分  
   
クリスマスパーティの会場は、都内の大型ホテル。  
もちろんのこと、そのホテルというのは総帥である雅都が所有し、音羽グループ系列の中で一番人気のあるホテルだ。  
お客様をお出迎えするに当たって、パーティのクオリティを高いものに仕上げたいと思う気持ちは雅都も稔も人一倍強かった。 
むしろ、上にたつ人間としてもこれぐらいの気持ちの計らいぐらいなければ務まらないだろう。  
ホテル側も、本来ならばクリスマスシーズンの恋人達に甘い夜を過ごしてもらうべく、いろいろとホテル側でも企画を考えてはいたのだが、 
急遽音羽グループ総帥からの命により、今日一日、クリスマスパーティのために忙しく動き回る役ところに変わったため、 社員達も慌ててパーティの準備を行っていた。  
  
  
  
「―――お待ちしておりました」  
  
  
尋未を伴って、雅都が最初にパーティ会場にやってきた。  
パーティは夕方18時から始まるため、その直前準備として企画責任者である雅都が、装飾や料理の視察に来ることになっていたのだ。  
それが終わってから尋未を迎えに行く時間がないので、申し訳ないことに尋未にはパーティの内容で我慢してもらって、 
装飾などの飾りつけは今堪能してもらうことになってしまった。 
彼女の喜ぶ笑顔や驚きの顔を見たかったが、仕事の都合ならばしょうがない。  
しかし尋未は「それでも良いから、連れて行って」と幸せそうに言うので、連れて来るしかなかった雅都は、不本意ながら一緒にパーティ会場に向かったのだった。  
仰々しく出迎えられた雅都と尋未は、ホテル内を係員に誘導され完璧に装飾が終わったパーティ会場へ。  
   
「…う、わぁ…」  
   
驚きの声を上げながら、豪華な装飾にどきどきさせている尋未を横目に、満足そうに微笑みながら係員の話を聞いているのは雅都。  
不本意ではあったが、彼女の驚いた顔と嬉しそうな笑みが見れたから良しとしたらしい。  
パーティ会場の中心には大きなクリスマスツリーがあり、その下にはたくさんのプレゼントが山積みになっている。  
このプレゼントはホテル側のバイトも含め社員達への雅都、稔からのプレゼント。 
粋な図らないがあるからこそ、音羽グループは大きくなったのかもしれない。  
   
「雅都、これ、本物!?」  
   
嬉しそうにはしゃぐ尋未の姿を見ながら、微笑んでいると変わりに係員がにこやかに「そうですよ」と答えてくれた。  
   
「アラスカから、直輸入してきた本物のもみの木でございます」  
「すっごーーい…」  
   
興奮を抑えられない尋未が、装飾された会場内を見て回るのを横目に雅都は最後の仕事をするべく係員とともにある場所へ向かった――――  
  
  
  
  
 
 
  
「―――と、尋未ちゃん?」  
   
  
  
  
   
ぽんぽん、と肩を叩かれ、尋未が振り返ると、そこには見知った顔が二つ。  
ダークグレーのスーツに身を包んだ稔と、胸元にピンクのぼんぼんをつけた真っ白いワンピースに、ピンクのショールをかけた真姫の姿。  
   
「暁さん、それに…、真姫ちゃんっ!!!」  
   
うきゃーっと、尋未は真姫に抱きついた。  
なにせパーティ前に一人でしばらくこの大きな会場の中に取り残されると思っていたので、ここで見知った顔に出くわすなど、 
尋未にとっては嬉しくもあり、彼女にとってとても心強いことだった。  
ごろごろと、大好きな真姫の腕に抱かれてる尋未を見ながら、稔はにこやかに話し掛けてくる。  
   
「尋未ちゃん、雅都は?」  
「最後の仕上げだーとか言って、あっちに行きましたよ?」  
「そか。…じゃ、俺も最後の仕上げの手伝いに行って来るので、お姫様達は会場内見ながら遊んでてよ」  
   
嬉しそうに口角を上げる稔をよそに、真姫は真っ赤になって反論。  
   
「…あ、遊んでてって、私達子供じゃないもんっ」  
   
赤く照れた真姫を見ながら、稔は逡巡した後、いつもの意地悪な笑みを向けた。  
   
「子供じゃないのは、カラダだけだろ?」  
「…み、稔…!!!」  
「…ま、真姫ちゃん…。あの、い、今は殴らないほうが…」  
   
すぐに手が出るところだったのを、すんでのところで尋未が抑え付け、顔を真っ赤にしている真姫を宥める。  
ま、無理だとは思うが。  
   
「だ、だって稔のアホがぁああっ!!!」  
   
それでも必死になって彼に食いかかろうとしている真姫を、尋未も必死に抑え付けた。  
目の前で不思議な事が起こってる、という顔をしている稔は面白そうに笑いを堪えている。  
その様子に余計怒り度数を上げていく真姫を知ってか知らずか、  
   
「騒いでないでいい子にしてたら、ご褒美あげてもいいぜ?」  
   
それだけ言って、真姫の頭をぐりぐりして、稔もさっさと雅都が消えた場所に向かって歩いていってしまった。  
意地悪そうな顔して、彼女を愛しい目で見つめながらこんな台詞を吐かれてみろ、真姫じゃなくても誰だって押し黙ってしまう。  
その後姿を眺めながら、真姫、尋未共々は頬をほんのり赤くした。  
   
「…ダークグレーのスーツ…。暁さん、似合うね」  
   
じぃーっと抱きしめながら尋未が真姫の顔を伺うと、真姫も真っ赤になりながらこっくり頷いた。  
その素直な反応が可愛くて、真姫を抱く腕に力が篭もった。  
   
「真姫ちゃんかーわいー」  
「そ、そういう雅都さんは?今日はなに着てるの?」  
   
顔を真っ赤に照れながら聞いてくる真姫をまず離して、今度は真姫の手を握りながら、尋未は歩き出した。  
   
「雅都?んー……真っ黒」  
「ぷ。…いつもと一緒じゃん」  
「違うよー。うっすらと、ストライプ入ってるもん」  
   
にへーって笑うと、真姫も幸せそうに尋未を見やった。  
   
「…結局私達、彼氏大好きなのよね」  
「だねだね」  
   
くすくす笑いながら、今夜これから起きる特大素敵なクリスマスパーティに思いを馳せる二人は、まっすぐ「お菓子置き場」に向かって歩いていった。  
お菓子交換のためのお菓子、を置くために。  
 
 
 
 
 
  |