出会ってすぐに仲良くなれる子がいたなんて、真姫ちゃん以外に知らなかったもんだから、久しぶりに初対面の友達と会話が弾んだ。
私だけこうして友達作っちゃって、真姫ちゃんの姿が見えないのが少し気になったけれど見つけたら真姫ちゃんにも二人を紹介しようっと。
   

「――――今宵、パーティに起こしていただいたお客様に素敵な時間をお送りします」
   

突如として、かかったクリスマス曲。
昔からたくさん流れてて、何人もの歌手がリメイクで毎シーズン歌われている「Last Christmas」。
鈴の音と共に降り注ぐその曲と共に、しっとりとしたアナウンスが場内に響いた。
 
「なんだろうね」
 
くすくすと、三人で顔を見合わせていると、ダークグレーのスーツに身を包んだ暁さん自身がマイクを取って先ほどと同じ声でアナウンスを担当していた。
その甘い声にびっくりしながら聞き惚れていると、どこで私を見つけたのか、真姫ちゃんがそっと隣に立っていた。
にっこり笑みを浮かべると、真姫ちゃんも私に腕を絡めて暁さんを幸せそうに眺める。
     



「―――幻想的なお菓子の世界へようこそ。…さぁ、ご存分に甘い甘い夜をお過ごしください―――――!」
       



最初のアナウンスで、場内の照明を少しずつ落とし、いたるところに置かれたキャンドルの火だけが灯されている状態になっていた。
そして、次のアナウンスで頭上から光る物体をゆっくりと下に向かって下降してくるのが見えた。
 
「えー、なにあれなにあれー??」
 
隣で羽織ちゃんと絵里ちゃんが楽しそうに声を上げた。
私もじっくりと頭上を眺めていると、蛍光塗料が塗られている小さなパラシュートに可愛い小箱が括り付けてある。
それらは頭上からたくさん下に落ちてきて、雪みたいに招待客全員の頭上に降りてきた。
 
ふわり、ふわり。
 
降りてきた小箱を両手で掴むと、そこには改めてラッピングし直されている例の「お菓子」。そして、その横には「Present for you」と書かれたまたしても小さな小箱。
     



「みなさまから頂いたお菓子に、クリスマスプレゼントをつけさせていただきました。ささやかなプレゼントですが、受け取っていただけると嬉しいです」
       



白いリボンに包まれた小箱を開けてみると、そこには小さな「四葉のクローバー」。
     


 
「我が社のブライダルチームから、幸せを呼ぶ四葉のクローバーのペンダントトップです。
 今日起こしくださいましたみなさまに、同じように幸せがたくさん降りますように、と願いを込めて送らせていただきます。
 それでは、引き続きパーティをお楽しみくださいませ」
     


 
「Last Christmas」が高らかに鳴り響いて、あたりはお菓子一色になった。
手元に残ったのは誰かが作ったクッキー。ほんのりアールグレイの香りがするから、紅茶のクッキーだ。
アールグレイの香りが、ふわんってして、ほんわかな気持ちになる。
 
「…尋未、クッキーだったんだ」
「うん。真姫ちゃんは?」
「私はねー、マフィン。なんか可愛いくてちっちゃいんだ」
 
真姫ちゃんが嬉しそうに微笑むと、傍にいた羽織ちゃんが喉を鳴らした。
 
「あ…」
「ん?」
 
二人でくるり振り返ってみると、羽織ちゃんが真姫ちゃんのマフィンを凝視してる。
 
「それ…」
「うん?」
「私が作ったのだ…」
 
これまたなんという偶然。
羽織ちゃんが作ったお菓子を、真姫ちゃんが受け取ったらしい。
そんな羽織ちゃんが手に持っているシュークリームは、私が作ったものだったけど。
 
「あー、羽織ちゃんが持ってるの私が作ったのだ…」
「え、うそ!!」
「どーしよぉ〜〜〜っ、あの、あんまり、お、美味しくなかったらごめ…ん…?」
 
気付けば、各々彼氏さんが傍にいて、女の子四人を囲むように周りにいた。
嬉しそうな微笑を各々彼女に向けて。
 
「…なんだ、尋未のは羽織ちゃんが受け取っちゃったのか」
「え、いや、あの、雅都さん…?」
「いいよいいよ。俺も、また尋未に作ってもらうし」
「ええええ!?私、下手くそだよ?真姫ちゃんのお墨付きもらうぐらいに下手…、むぐ」
「下手下手大きな声で言わない…」
 
きゃーと騒ぎそうになった私の口に、大きな手を当てて雅都が呆れてた。
でもその顔はいつも見せるような「しょうがないなぁ」って顔して、微笑んでる。
 
「さて、気に入ってもらえましたかな?雅都プレゼンツ、クリスマスパーティは」
 
雅都の隣にちゃっかり居座ってる暁さんが、悪戯を完了させたように口角を上げながらにっこりと微笑んでいた。
 
「えええ?こ、これ全部雅都さんが…?」
「ええ。気に入っていただきましたか?」
 
くすくす、同じように悪戯が完了した微笑で柔らかく羽織ちゃんに笑った雅都。
二人とも少し良い雰囲気だから、ほんの少し妬けちゃうな。でも、ま、祐恭さんがしっかりと羽織ちゃんの腰に腕を回しているから平気なんだろうけど。
 
「演出だって全然凄いです…!」
「そう言っていただければ、企画したかいがあります」
「本当に。パーティ参加ってあんまりしたことがなかったけど、初参加でも充分楽しめました」
「祐恭君にも言われると、なんか照れるな…」
 
あはは、と照れた笑いをみんなに向けると、みんなも笑った。
8人で楽しそうに笑った。
   


こうして笑えるっていうのが、とても幸せな時間に思えてきて、心の中が暖かい。
     


「…はい、尋未ちゃん」
 
羽織ちゃんから受け渡されたのは、綺麗に泡が立っているワインレッドの炭酸飲料。
彼氏四人組はなんだか意気投合して語り合ってるわけだから、残された彼女四人で静かに今宵出会えたことに喜びを感じつつ、会話を交わしていた時のことだった。
 
「ありがとう…。でも、これ、なに?」
「んー?絵里から手渡されたから、私にも解らないんだけど…」
「大丈夫じゃない?尋未でも飲める飲める」
「そうそう。私の言うことが信じられないのー?」
 
…と、この二人も妙に意気投合してるなぁ…。
とりあえず、困ってるであろう羽織ちゃんのグラスに自分のグラスを合わせて小気味良い音を響かせた。
 
「乾杯」
「…乾杯」
 
くぃっと飲んだ視界の端っこで、絵里ちゃんと真姫ちゃんが嬉しそうににたーっと笑ったのが見えた。
     


次の瞬間。
   


「羽織ちゃん!?」
「絵里!!!」
「ま、真姫…」
「…尋未…?」
 
彼氏の彼女を呼ぶ声。
 
 
はてさて、聖夜にいったいなにが起きるのか…?


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