「あーあ…、これはまた…」
 
俺の頭の中に思い浮かんだのは闇鍋の時の一件。
絵里が酒を飲んだときに凄い勢いで酔っ払ったことが脳裏に蘇った。
 
「え、絵里!?」
 
あーあ、羽織ちゃんが慌ててるよ…。
こんなところに来てまで騒ぎたくないので、俺は絵里を引き連れて退散することにした。意気投合した真姫ちゃんも、ほんのり頬が染まって良い気分に酔っていたように思う。
         



「―――ほら、水、飲めるか?」
         



一旦ホテルから出て、駅のホームのコンビニで購入した水を手渡すと、けろっとした顔で絵里が「ありがと」と微笑んだ。
 
「…………」
「なによ。なんかおかしなものでもついてる?」
「…………おまえ、本当に酒飲んだのか?」
「は?飲んでないよ」
 
わけがわからん。
 
「どーゆーことだ?」
「羽織と、尋未ちゃんにお酒は手渡したけど真姫ちゃんと私は飲んでません。むしろ、テンションがハイになってほんのちょっぴり騒いだだけ」
 
祐恭くんがいること解ってて羽織ちゃんに抱きついて、ごろごろ懐いているのが、あれが「ちょっと」か?
と、思いつつも絵里の顔を見るとほんの少しだけ頬が赤い。
これは、半分嘘で、半分本当だと俺はみた。
 
「…顔、赤い。ちょっとだけ飲んだろ」
「……飲んでない」
「嘘ついたら、プレゼントあげないぞ」
「……純也はなんでも解るから、たまに嫌」
「そうか?俺、おまえは俺のそういうところも好きなんだと思ってたけど?」
 
にっこり微笑んでやると、図星のように顔を真っ赤にさせた。
そして黙ってしまう辺り、やっぱり本当に「図星」なんだろうなと思う。
 
「可愛いやつ」
「そういう純也も、今日は格好良かった…」
「お、珍しく素直だな」
「……今日はね」
 
駅のホームで二人手を繋いで電車を待ってる時間がとてつもなく心を穏やかにさせて、「永遠の時間」の中に存在しているみたいな気分になった。
ほんのり頬を染めた絵里が肩にもたれる。
それを愛しいと思った。
       





           
―――本当はね、早く帰りたかったんだ。
 
そんなことを言ってしまうと、パーティを披いてくれた雅都さん達にも悪いって思ったんだけど、…せっかくのクリスマスじゃない?
大好きな人と過ごしたかったの。
 
「…どした?」
 
純也が嬉しそうに微笑む顔。
自然と緩む口元に、自分でもどきどきしながら自宅への帰路を歩く。
冷たい風が頬に当たって少しだけ酔っ払った頭の中をクリアにさせてくれた。鼻が真っ赤になりながらも夜空を見上げると満天の星空。
 
「上ばっか見てると、こけるぞ?」
 
笑ってる純也をよそに、満天の星空に心奪われていると、いつしか帰路も短くなって気付けば家の前まで来ていた。
 
「…はい、どーぞ」
 
純也がレディファーストで先に家の中に入れてくれた。
こんなこともあるんだ、珍しいなーとか思いながら玄関で靴を脱ぎ、ひたひたと冷えるフローリングを歩いていく。
 
「絵里?」
 
純也の声など無視して、とりあえずはセッティング。
冷蔵庫からあるものを取り出して、炭酸のシャンパンを取り出して、ちっちゃいテーブルの上に乗っけた。
   

「―――頑張って、みちゃいました…」
   

たははー、と笑うと純也が目を丸くしてテーブルの上を凝視していた。
それもそうだ。
料理がそこまで上手じゃない私が、クリスマスケーキによく使われている「ブッシュ・ド・ノエル」なんて作ってごらんよ。
誰だってびっくりするでしょ。
 
「…これ…」
「ホントは、なにか残るものをあげたかったんだけど、…なかなか良い物見つからなくてさ…。食べ物の、しかもケーキになっちゃった…」
「絵里が作ったのか?」
「もちろん!だから、ちゃんと甘さも控えめにして、あ、そうそう。ほんのりコーヒーで――――」
 

  ぎゅぅ。
 
 
照れ隠しのつもりで説明をしようとした途端に抱きしめられた。
抱きしめる腕の力が強くて、それが純也の嬉しさに繋がってるようで、私も嬉しくて彼の背中を抱きしめ返す。
 
「…純也、まだコート脱いでないよ?」
「絵里が悪い」
「はぁ?」
「嬉しそうにケーキの説明なんかするから、……可愛くなって、抱きしめちまっただろ…!」
 
目の前で真っ赤になっていく耳に、どきどきしながら喜んでくれている純也が嬉しかった。
これもまた、羽織監修のもと作ったから上手に出来てると思う。…いや、思いたい。
 
「…ね、とりあえずケーキ食べてみてよ」
 
ゆっくり純也を離すと、既に瞳を熱くした彼がこちらを伺っていた。
熱っぽい純也の瞳に見られるだけでこちらもどきどきしてしまうこと、彼も知ってるのだろうか?
二人でソファに座って、まず先にフォークで純也が口に運ぶ。
もともと甘いものが好きじゃない彼のために、ビターチョコレートと香り付けにコーヒーを混ぜたスポンジを作った。
 結局ロールケーキみたいなものだから、そこまで甘くないと思ってるんだけど…。
 
「…甘い…?」
 
甘くさせないつもりで作ったが、いまいち自信が持てなかった。
もくもく、と食べている純也の横顔を覗くように見上げると、彼がフォークを置いて嬉しそうに微笑んだ。
 
「―――すっげー、甘い」
「う、―――んんんっ!!!」
 
そして、唐突に塞がれた唇。
唇から純也の食べたケーキの味がしたけれど、ほんのり甘いだけでそこまで甘いってわけじゃない。
ただし、今こうして交わしているキスが、とてつもなく甘い気がする。
唇を塞がれて、ソファに押し倒される。
完璧にキスの主導権は純也が握っていた。
咥内をまさぐられ、キスだけで体が堕ちるポイントを的確について来た。
 
「…ぁ…、じゅん…や…?」
 
あやしげな水音が途切れると、馬乗り状態でコートを脱ぎ捨てた純也の姿。
スーツのまま私の頬に手が滑り降りると、純也の体温が高いことに気付いた。何も言わずに頬から手を滑ると、柔らかな丘に辿り付く。
 
「ぁんっ」
「…絵里…」
 
きゅ、っと一瞬だけ強く揉まれて体をすくめた私に、再びキスが降りてきた。
キスの淫らな水音と、衣擦れの音だけが冷たい部屋に響いて聴覚を麻痺させる。
 
「ふ…ぅ…んんっ」
「絵里」
 
と、名前を呼ばれる声が艶っぽくて、いつものようにこちらも切り返せなかった。
悔しいと思う反面、こうして彼の自分を求める姿がたまらなく好きだと思う。こうして、年下の彼女は、年上の彼氏に「自分好みの女」にされるんだわ。
 
「…あっ…」
 
肩紐をずらされて下に降ろされると、胸の突起が自己を主張するように立っていた。
冷たい空気が火照り始めた体にひんやりと触れる。
 
「…あんっ」
 
ひんやり触れた冷気を充分堪能することなく、純也の熱い舌が突起を絡め取った。
突如として襲いくる暖かい感触に、体が否応なく仰け反る。
 
「ああっ…ふ、ぅん…っ」
 
ぺろぺろと、舐められ、吸われながら弄ばれ、仰け反る体を抑え付けられれば声も大きくなるというもの。
しかし、その声も純也の唇に全て阻まれて快感だけが体の中に埋まっていた。
 
「…う…んっ。じゅ…ん、や…」
「駄目。全部俺のだから」
 
耳元で優しく囁かれて、余計に体から力が抜けてしまう。
次第に彼の手が太腿の裏に回っていた。つつつ、と上にあがると蜜が溢れた蜜つぼにたどり着く。
ぷっくり膨れた花弁を撫でると、私の反応も尋常ではなくなる。
 
「ああああっ」
 
つぷ…、という音と共に彼の長い指が入ってきて、彼を抱く腕に力が篭もった。
 
「…じゅんやぁ…っ」
「ん。俺も限界」
 
生理的に流れる涙をこぼしながら見上げる純也の顔は、切なそうに歪められていて「一つになりたい」と言っていた。
何度もこっくりこっくり頷いていると、財布から四角い避妊具を取り出し自身に取り付ける。
 
「…え、り…」
 
少しずつ入ってくる彼の熱い想いを、拒否することなく私の体が全てを受け入れた。
苦悶に歪む彼の顔でさえ今では、強く抱きしめたくなるほど愛しい顔だった。
早く一緒に、一つになりたいと思っていた私に、その痛みと快感と熱は安らぎを与えてくれる。
 
「はぁ…んっ」
「入った…?」
「…ん」
「やべ…っ」
 
にっこり微笑むと、純也が苦笑するように体を曲げた。
 
「純也…?」
「…すっげ、イイ…」
 
自分の快感の欲望のままに腰を進め始めた純也に、既に潤みきった体が順応していた。擦れる水音を聞きながら、純也の熱に蕩けそうになる。
 
「あ、あ、…あぁんっ」
 
必死に抱きつく私に純也も時折切なそうに顔を歪めながら抱きしめ返してくれる。
しかし、すぐに二人の絶頂は迎えられそうになっていた。
 
「うっ…、絵里…」
「や、じゅん…ゃ…」
 
収縮を始めようとしている自分自身に気付きながら、強く純也を抱いてやると何度も突き上げられた。
 
「…も、…絵里」
「あ、はぁ…ン…」
「……くぅ…っ―――――」
 
解き放たれた熱が最奥に届いた気分で、純也が体を震わせながら私を抱きしめた。
     


「―――メリー、クリスマス…」
     


二人未だ繋がったまま、にっこり笑って呟くと幸せそうな笑顔が見えた。


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