「……う……っん……」
 シャツをたくし上げられ、彼が直に肌へと触れた。
 ……す……ごいどきどきする。
 まるで撫でるかのように往復され、感じる……彼の大きな手のひら。
 ……熱い。
 それが、私だけじゃなくて彼もどきどきしているんだって言われてるみたいで、一層どきどきしてしまう。
「ひぁ……!」
 腕を曲げてシーツを掴むと同時に、ぎゅっと瞳が閉じた。
 どうしよう。
 鼓動が速すぎて、苦しい。
 だけど、それ以上に――……彼が、肌を、舐めたこと。
 それがやっぱり、1番こんなふうに心臓がばくばくしてる原因だと思う。
「……ん……んんっ……」
 くぐもった声と、漏れてしまう吐息。
 ……こんな声、出るんだ。
 やけに色っぽくて、いかにも……えっちしてるときっていう声。
 これまで想像もしなかった、こんな状況だけど…………何も知らなかったのに、身体は知ってるのかな。
 荒くなる息をつきながら軽く唇を噛むと、なんともいえない気持ちが身体中に溢れた。
「やっ……!!」
 ぴくん、と身体が反応してしまう。
 ……む……胸に……触られたから。
「……嫌?」
「あ……えと……っ……」
 途端、顔を覗き込んだ彼と目が合った。
 ……うわあ。
 なんか、ものすごく気まずいっていうか、ものすごく恥かしいっていうか……。
「……や……じゃないんだけど……」
「けど?」
「……は、恥かしいっていうか……その……」
 ぽりぽり、と頬をかくと、小さく苦笑が浮かんだ。
 ……かっこ悪いなぁ。
「っ……!!」
「……俺だけに、見せて?」
「…………み、つぐ……」
 彼は、私をまっすぐに見つめたまま――……胸に触れた。
 まるで、とっても大事な壊れ物に触れるみたいに、柔らかくて……優しく包み込むみたいな。
 ……そんなふうに触られたら……っ……。
「は……ぁっ……ん」
 ぎゅっと瞳を閉じると、情けない声が漏れた。
 ――……だけど、なぜか彼から聞こえたのは、満足げに笑った声。
「ぇ……?」
「……実花、すっげぇ……かわいい」
「か……かわいくないってば」
「かわいいって。……ヤバい」
 くすくす笑っている彼の顔は、とっても優しい顔だった。
 ……ヤバいのは、こっちだよぉ……。
 どきどきしているこの鼓動は、きっと彼にも聞こえているだろう。
 なのに、そんな顔されたら――……もっと苦しくなる。
「あっ……!」
「……いい?」
「い……いいって……そん……な……」
 するり、と彼の手が撫でた場所。
 そこは、スカートの下なわけで。
 ……ということは――……そう。
 お……女の子の大事なところ……!
「ぁっ、あっ……!」
 これまで、自分以外が触ることなんてなかった場所に、男の子――……好きな人に、触られた。
 ……だけど。
 自分が触ったことあるって言ったって、こ……ここここんな……!
 こんな、ふうには……もちろん触ったりしないわけで。
「っや……ダメ、そんっ……なトコ……!」
 いきなりショーツの下へと指が入ってきそうになって、思わず上半身を起こしていた。
「……ダメ?」
「っ……だ……だって……」
「……ん。嫌なら、しないよ?」
「…………え……?」
「実花が嫌なら、俺は我慢する」
「っ……」
 ……我慢、って……だって、だって……!
 明日にはもう、いないんだよ?
 この家にも、この町にも――……学校にも。
「実花……?」
「……もう……言わない。言わないから……やめないで……」
 また泣いてしまいそうになって、彼に精一杯腕を伸ばしていた。
「……でも――」
「平気……だから。……だからっ……して……?」
「ッ……!」
 最後の言葉が掠れていたのは、泣いてたせいなんかじゃないと思う。
「んんっ……!」
 ――……その途端、彼が……キスをしてくれた。
 さっきまでの、軽いキスなんかじゃなくて。
 ……ホントの……キス。
 唇を舐めてから、今度は口内をしっかりと舌で舐め取られる。
 ……ディープキスって、こういうのなんだ。
「ん……んっ……」
 少し荒っぽくて、だけど……やっぱり嬉しい。
 ……大人の階段、ってこういうことなのかな。
 ふと、昔耳にしたような言葉が、頭に浮かんだ。
「ぁあっ……!」
 キスをされながら、秘部へ彼が触れた。
 途端に、指……の感触を全身で感じ取ってしまう。
 ……そんな場所、困る。
 だけど、今そんなことを言えば――……きっと、今度こそ彼はやめてしまう。
 それがわかるから、絶対に言わないと決めた。
 ……こうなることも、彼とならば……構わないって決めたんだから。
「……すげ……濡れてる」
「っ! そ……んなぁ……やだっ……」
「なんで? ……気持ちいいって証拠でしょ?」
「……そ……だけど……っ」
 耳元で囁きながら、ゆるゆると指があちこちを撫でる。
 そのたびに、身体が情けなく震えて、腰のあたりがぞくぞくする。
 ……感じるって、これ……なんだよね。
 胸に触られたときも、首筋を舐められたときも――……こうして直に触れられているときも。
 考えるのはどれもこれも彼のことで、感じるのは……彼にしてもらっていることすべて。
 だから、すごく恥かしいけれど、でも、それでもやっぱり……嬉しかった。
 彼がそう言ってくれることで、彼によってされていることすべてが私にとってプラスになってるような気がして。
「っん!」
 何かを探り当てるように動いていた指が、急に止まって――……ぐいっと突き立てた。
「……あ……いっ……」
「ごめっ……! ……痛い?」
「い……たいっていうか……なんか、変な感じっ……」
 身体の中に、何かが急に入ってきちゃったみたいな。
 そんな、妙な感じがする。
 ……っていうか、そ……そんなところに、指なんて入るの?
 理屈として頭ではわかっていても、何もかもが初めて。
 だから、なんていうんだろう。
 友達が『痛い』とか言っていても、『そうなんだ』くらいにしか思ってなかった。
 痛い……っていうか、なんだろ……すごくすごく、変な感じ。
 …………だけど……嬉しいって思う。
 ……変かな。
「ぁ、あ……っ……ん」
 くちゅくちゅと濡れた音が次第に耳へ届き、それに伴って声も大きくなる。
 ……えっちな声だけじゃなくて、こんな……えっちな音。
 すごい恥かしい。
 だってこれ、自分の身体……なんだよ?
 なのに、そんな――……。
「実花……」
「……え……?」
 赤くなっているであろう頬を軽く押さえていると、少し掠れた彼の声が聞こえた。
「なに……?」
「……這入っても、イイ?」
「え……っ……?」
 は……這入る……?
 それがどういう意味か、は、その……し……知ってるけど。
 ……でも、あの……心の準備がっていうか、なんていうか……っ……!
「み……つぐっ!?」
「……ごめ……。……ちょっ……抑えらんない、っつーか……」
「あ、ちょっ……!?」
 切羽詰ったような声。
 そんな声、これまで聞いたことなんてなかった。
 ……しかも。
 こんなふうに、ぎゅうっと体重をかけて抱きしめられるなんてことも……初めて。
 ……え……?
 ええ?
 えぇえ!?
 微かに聞こえてくる、何かの音。
 ……何か、なんだろ……。
 なんとも形容しがたい、音なんだけど……。
「……いい?」
「へ……!? あ……えっ……と……」
 こちらに背を向けていた彼が、びっくりするくらい『オトコ』の顔でこちらを振り返った。
「う……う、ん」
 ……だから、私も自然にうなずいていたんだと思う。
「ッいっ……ぁ……!」
「……実花っ……息……して……っ」
 ぐいっと何かが当たり、身体が貫かれるような痛みが来る。
 ……何か、っていうのは当然わかってる。
 わ……かってはいるけど……!
「っは……ぁ、はっ……!」
「……ごめ……痛いよな?」
「……へいきっ……」
 そうじゃない。
 つらそうな彼を見るのが、何よりもつらい。
 ……そんな顔、してほしくない。
 だから、首を横に振っていた。
「い……からっ……大丈夫……」
 荒く息をついて、彼を迎えられるように身体から力を抜く。
「……ありがと」
「んんっ……!!」
 途端、彼がうまくタイミングを合わせて、一気に這入って来た。
 ……すご……い。
「うぁ……っ……すっげ……」
 アレだけ痛かったのに、今は……全然違う。
 気持ちイイとは言えないけれど、でも、痛くなくて……むしろ、なんだか……いい。
 ……だって、すぐ目の前で彼がとっても色っぽい顔をして、息を荒くついているんだもん。
「実花……?」
「……なんか……嬉しい……」
 彼の頬に指先で触れると、一瞬瞳を丸くしてから――……彼らしい、だけど、すっごくかわいい笑顔を見せてくれた。
「俺だって、嬉しいよ」
 そう言ってくれた言葉は、やっぱり何よりもどんなことよりも嬉しくて。
 ……心底、こうして彼とひとつになれて、幸せだと思った。
「……ねぇ、未継」
「ん……? ……なに?」

「……高校卒業したら、また……こっちに戻ってくる?」

 口に出してしまうのが、正直怖かった。
 ……だけど、聞きたかった。
 彼に……ひとことだけ、たったひとことだけの返事が欲しかったから。

「実花が行く大学に、俺も行くよ」

「っ……!」
 にっこり笑って頬に触れられ、思わず涙腺が緩んだ。
 ――……本当は、違う返事だったの。
 そんなに具体的なことじゃなくて、ただひとこと『うん』って言ってさえくれれば、私は救われたのに。
 ……なのに……。
「実花っ……!?」
「ふぇ……未継っ……み……つぐっ……!」
 行ってほしくない。
 離れたくない。
 ……一緒に、卒業したい。
 一気にそんな思いが溢れて、止まらなくなった。
「……必ず、戻ってくるよ」
「…………絶対……ぜったい、だよ……?」
「当たり前じゃん」
 彼と繋がったままで抱きしめられ、より一層安心する。
 ……温かい身体。
 そして、こうしてひとつになれたことが、たまらなく幸せだと思った。
「未継……大好き……」
「……俺も」
 ぐしっと不器用に涙を拭って呟くと、彼もうなずいてにっこりと笑った。
「――……でもね、実花」
「え……?」

「こういうときは、『愛してる』って言うモンだぜ?」

「…………キザ……」
「そう言わない!」
 ……きっと、ね。
 彼とあったどんなに小さなことも……私は絶対に、色褪せさせたりしない。
 お互いに笑って抱き合ったこのときも、絶対に、きっと一生忘れたりしないって誓う。
 ……いつもみたいに彼と笑みを見せあいながら、心の中で強くそんなことを思ってまた涙が溢れそうになった。


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