「どーぞー」
「……あ……ありがとう」
割と広めのリビングに通されて、割と質のいいソファに座らされて。
……そうしたら、今度は高そうなカップに入ったコーヒーでもてなされた。
「…………」
「んー? どしたの?」
「……あの、さ」
「ほいよ」
「この散らかりようは、何?」
「あっはっはっ。やっぱ、気になる?」
……そうなのだ。
広くてきれいな壁紙のリビングなのに、なぜか、あっちこっちに服やらタオルやら何やらといった物が散乱していた。
……なんていうんだろう。
こう……取り込んだ洗濯物を、そのまま置いてあるみたいな。
言うなれば、そんな感じ。
口に出そうかどうしようか迷ったけれど、やっぱりそれが目に付いてしまって。
対面に座ってお弁当を食べ始めた彼に、ついつい漏れてしまった。
「ごめんなー。いやー、お袋が出てってからさー、家の中片付かなくて」
……はた。
「…………は?」
「ん?」
「ん、じゃないってば!! 今、さらっとものすごいこと言わなかった!?」
「え? 言った? 俺」
「言ったでしょ!! お母さんが出てったって!!」
とんでもない爆弾発言をした彼に立ち上がって指をさすものの、『あ、それか』とか言ってから、彼はまた普通にお弁当を食べ始めた。
……ちょ……ちょっとーー!!?
どういうこと!?
っていうか、そんな普通に言っちゃっていいの!?
大爆弾発言じゃない!
芸能人だったら、スクープよ!? スクープ!
特ダネ!!
「まぁ、別に隠すようなモンでもねーし。……あ。うめー、コレ」
「ちょっ……中宮君!!」
思わず口を開けたまま彼を見るものの、まったく気にせずに彼はお弁当の続きを食べ始めた。
……っていうか。
「もしかして……ずーっとコンビニ弁当ばっかり食べてるの?」
「お!さすがは、みかりん。俺のことよくわかってるぅ」
「ちがーう!」
『さすが』とばかりに私を指差した彼に首を振り、あちこちにあるモノを順々に指差してやる。
――……そう。
誰が見ても容易に想像つくくらいのお弁当の容器が、あっちこっちに散乱していたのだ。
……っていうか、数がおかしい。
ひとつふたつなんかじゃなくて、見えているだけでも……十数個。
…………ありえない。
この汚さもそうだけど、この数はありえない。
…………あれ、もしかして……。
「1週間、ずっとこれなの……?」
「まーね。俺、料理とかできねーし」
やっぱり。
こんな予想が当たってもまったく嬉しくないけれど、当たってしまった。
「……身体壊すよ?」
「へーきへーき。若くて頑丈だから」
「そういう問題じゃな――……って、コラー!!」
ひらひらと手を振って床へ空になった容器を置いた彼を見たら、当然ながら声があがった。
「ほい?」
「ほい、じゃないわよ! そうやって、食べたものをそのまんまにしてるから散らかるんだよ!?」
「……ああっ!」
「ああ、でもない!」
「そっかそっかー。みかりん、賢いなぁ」
「そーゆー問題じゃないでしょ!」
軽く睨んでやってから容器を袋に入れ、ついでに……ほかの容器もまとめてやる。
……こうなると、止まらない。
お節介だとは思うけれど、こう……ぐちゃぐちゃーっとなってるのを見ると、無性に片付けたくなるのよね。
食べっぱなし、飲みっぱなし、脱ぎっぱなし、読みっぱなし。
そんな『ぱなし』ばかりのものをひとつひとつ拾いながら、それぞれまとめていく。
……あーもー。
何しに来たのよ、私は。
彼が脱いだであろうTシャツを拾いながら、深いため息が漏れた。
「……お袋みてぇ」
ぽつり、と。
小さく。
本当に小さくそんな言葉が背後で聞こえた瞬間、時間が止まったように思えた。
「……中宮君……」
「いやー、関心関心。みかりんは、やっぱ偉いなぁ」
すっくと立ち上がってこちらを見ずにキッチンへ向かい、ペットボトルのお茶を飲む彼。
……だけど。
今の声は、明らかにいつもの彼のものとは違っていた。
だから、私は気になったんだ。
こちらを見ようともしない彼の姿が、ひどく寂しげに映ったから。
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