「……はぁ」
瞳を閉じてベンチに上半身を預け、大きく呼吸をする。
……ぐるぐる回った。
っていうか、あんなに回るなんて聞いてないのに。
……なのにどーして、彼はあんなに元気なんだろう。
なんか、乗る前に『俺、こういうの苦手なんだよね』とか言ってたような気がしたんだけど……。
あーもー、ホントにハメられた気分だわ。
「っ!」
「ほい、おまたー」
「……つめた……ぁ」
ぺた、とほっぺたに感じた突然のモノ。
それで、ぱっと瞳が開いた。
「みかりん、大丈夫ー?」
「……ダメ」
「ったく。……しょうがないなぁ」
「だって、中宮く――……っが!?」
ぐいっと身体を抱き起こされたかと思った次の瞬間、いきなり、彼が隣に座った。
それだけじゃない。
こともあろうに、彼は私を――……そのまま膝枕したのだ。
「ちょ、わ!? なっ……!! 中宮君!?」
「はいはい。いーから、気にしないで」
「だ、だって! ここここんなっ!!」
慌てて起き上がろうとするものの、彼はやんわりと頭を押さえつけると声をあげて笑った。
……わ……笑いごとじゃないんだけど!
「ベンチだと、ほっぺたに跡つくよ?」
「……そっ……それは別に……!」
「よかないでしょー。女の子なんだから」
「……別にいいもん」
「はいはい」
ぽんぽん、と頭を撫でられ、情けなくも顔が赤くなった。
……無性に、どきどきするじゃないのよ。
カッコ悪いだけじゃなくて、こんな――……こんなことになるなんて。
「…………」
ひょっとしたら彼にも聞こえているんじゃないかというくらいの鼓動をどうすることもできず、ただただ黙るほかない。
……なんでこんなことになったんだろう。
っていうか、どうして断らなかったのよ。私。
瞳を閉じてみると、不思議なもので周りの声が静かに聞こえた。
子どもが騒ぐ音も、ジェットコースターの音も。
……鳥の鳴き声も、海を進む船の音も。
「…………」
横浜なんかに、彼と来るなんて思わなかったな。
ふと、そんなことが頭に浮かんだ。
「みかりん、観覧車乗らない?」
「え゛ぇ゛」
「……そんなに嫌そうな声出さなくても」
とっぷりと日が暮れた、夜。
そんなときになって、彼がとんでもない提案をしてきた。
……だって、さ。
観覧車だよ? 観覧車。
「…………」
「ほらー、みかりんも乗りたくなってきたっしょ? すげーキレーだし」
……そう。
今、私たちの目の前にそびえ立っているのは、このあたりでも有名な観覧車だ。
きれいにライトアップされた観覧車のちょうど真ん中には、大きなデジタル時計。
時間によって観覧車の色が変わるのもそうだけど、何よりも、その観覧車から見える夜景がものすごくきれい――……らしくて。
……詳しくは言えない。
だって、私まだ見たことないもん。
「高校生2枚」
「って、うわあ!?」
ひとりで観覧車を眺めていたら、背後でそんな声が聞こえた。
「よっし。行くよー」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ! だって、私、まだ乗るなんてっ……!」
「えー? でも、ほら。買っちゃったし」
「うぐ」
「もったいないっしょ?」
「……そ……それは……」
「はい、決まりー」
「わぁ!?」
ぴらぴらと目の前でチケットを振られて眉を寄せると、途端ににっこり笑って再び私の手を掴んだ。
「っきゃー!?」
「いざ、出陣ー」
「ちょっ、まっ……!!」
半ば強引に引きずられながらスタッフの人が待つ場所へ。
……って、うわ。
見事に、周りはカップルだらけじゃないですか。
…………ありえない。
だって、私たち付き合ってもないのに。
「お気をつけて、どうぞー」
「どーもー」
「……嘘だ……」
乗り込むと同時に、ガチャンと大きな音で鍵を閉められた。
……ああ。
なんか、ものすごく閉じ込められた気がするのはどうしてだろう。
外で手を振っているお姉さんの笑みが、何かを企んでいるように見えて仕方なかった。
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