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「っていうかね。普通は、幼馴染に告白されたら多少動揺しながらも悩んで結局付き合うっていうのが、パターンなのよ?」「……なんだそれ」
 「だけど、あんたはそんな図式まったく当てはまんないわよね」
 「待て。なんで、幼馴染に告られたら発展するって決め付けてんだ? それはなんだ。当然なのか?」
 「確率的に言えば、ほぼ当然」
 「……あ、そ」
 ンなこと言われても、俺にはピンと来ない。
 確かに親友とも家族とも違う、幼馴染という不思議な関係。
 きっと誰よりも近くにいて、ヘタしたら家族が知らないようなことも知っている仲だろう。
 だが。
 そういう関係だからこそ、俺はアキに恋愛感情を持たなかったんだと思う。
 いて、当然。
 ずっと一緒に育ったようなもんだから、なおさら。
 「友達以上家族未満、って感じじゃない? 幼馴染って。ハッキリ言って、損よねー。この立場って」
 「……そうか?」
 「うん」
 いつもと同じ顔なのに、目だけが違う気がした。
 すごく真剣というか……なんていうか。
 だから、さっきまでは『冗談』としか思えなかったアキの言葉が、徐々に真実味を帯びてくる。
 「あー、葉月ちゃんが羨ましい」
 「は? なんで」
 「大事でしょ? 葉月ちゃんのこと」
 「そりゃそうだろ。従妹だし」
 「……ふぅん」
 「…………なんだよ」
 「別に?」
 意味ありげな視線と声色に瞳を細めるも、これといって何も言わずに首を振った。
 ……そうされると、なおさら気になる。
 「ま、そういうわけだから。葉月ちゃんによろしく伝えておいて」
 「は? なんでそこに、葉月が出てくるんだよ」
 にっと笑って『よろしく』と手を上げたアキに、眉が寄る。
 だが、そんな俺を見て瞳を丸くすると、一変して呆れたように口を開いた。
 「……あんた、相変わらず鈍いわね」
 「何が」
 「馬鹿じゃないの?」
 「はァ?」
 さも呆れてますとばかりにため息交じりに言われ、声が出た。
 どいつもこいつも、人のことを馬鹿にしすぎだ。
 その内、バチが当たるぞ。覚悟しろ。
 「いいこと教えてあげましょうか」
 「ンだよ」
 にやっと笑ったアキに、眉が寄る。
 いいことってなんだ。
 ……また、さっきみてーなことじゃねーだろな。
 若干身構えながら見ていたら、ぴっと人差し指を立ててからまっすぐ俺を指した。
 「あんた、葉月ちゃんのこと妹みたいに思ってる?」
 「ああ。……それが?」
 俺がうなずくのを見て、アキは『ふぅん』と再び意味ありげに呟いた。
 ……だから、なんだその顔は。
 いいから話せっつの。
 「いい? 自分がそう思ってるからって、相手もそうだとは限らないのよ?」
 「……何が?」
 「あんた、馬鹿でしょ」
 「るせーな! だから、人のことを馬鹿馬鹿言うなっつの!」
 アキの意図することが、まったく掴めない。
 つか、いったい何が言いたい。
 どうしてそこに葉月が出てくる?
 ジト目を向けつつその言葉の続きを待つが、結局そこで終わりらしく、それ以上何も言わなかった。
 ……すげー消化不良。
 つーか、ワケわかんねぇ。
 「で? それがどーしたんだよ」
 「あー。ヤダヤダ。だからあんたは、ダメなのよ」
 「はァ!?」
 「このニブちん」
 「……お前、喧嘩売ってんの?」
 「別に。っていうかね、普通ここまで言われたら気付くわよ?」
 「だから、何が?」
 「それくらい自分で考えなさい。馬鹿」
 「……だから、お前な……」
 自分に間違いなんてない。
 そんな顔で馬鹿呼ばわりされると、非常に腹が立つ。
 ……だいたい、言いすぎだ。
 人に失礼だぞ、お前。
 なんだ。
 そこまで俺が馬鹿だっつーのか? あァ?
 ワケわかんねーけど、売るつもりならその喧嘩とりあえず買ってやる。
 「まぁ、せいぜいがんばって悩むのね」
 「は?」
 「じゃあね。よいお年をー」
 「おい! アキ!!」
 とっとと背を向けて、ひらひら手を振りながら歩き出したアキに声をかけるが、振り返るような素振りも見せなかった。
 ……アイツはいったい何しにきたんだ。
 つーか、いきなり何を言い出すのかと思えば……。
 アイツのこともそうだが、なんで葉月が出てきたのかがまったくわからない。
 謎。
 ……なんなんだ? いったい。
 早起きは三文の得とか言うが、今日はむしろ損した気分だ。
 謎だらけで、すっきりしないことばかり。
 「……だから、なんなんだよ。クソ」
 せっかくの休みだというのに、朝っぱらから非常に気分が悪い。
 だいたい、アキもアキだ。
 あそこまで言ったら、ちゃんと最後まで言えよ。
 「……ったく」
 大きな欠伸をしながら階段を上がった猫を見ながら、ため息が漏れた。
 
 
       
 
 
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