「ロン」
 ふーっと、天井を見ながら煙を吐き、向かいに座っていた真治を見る。
 すると、今切ったばかりの牌と俺とを見比べてから、笑みを見せた。
「……なかったことに」
「なんねぇよ」
 手を伸ばして取ろうとした真治の手を叩いてから、『中』を取って手牌に加える。
 ……ふ。
「うわ。……やらしいなお前」
 にやりと漏れた笑みを祐恭に指摘されてそっちを見ると、ものすごく嫌そうな顔をしていた。
 つーか、こういう顔だってしたくなる。
 なんせ、今回はいい具合に牌が揃ったんだから。
「国士無双」
「マジで!?」
 手牌を倒して連中に見せてから、再び笑みが浮かぶ。
 おーおー、どいつも期待通りの顔してくれるじゃん。
「ほら、さっさとよこせ」
「……まけてくんない?」
「ねぇな」
 手のひらを差し出してひらひら見せると、渋々ながらも真治が点棒を差し出した。
 ザラっと手元に集まったそれを見ながら、あれこれと考えを馳せる。
 ……うん。
「今年は俺の勝ちだな」
「いや、ありえねーし! ていうか、今のは俺がわざと勝たせてやったんだからな!」
「そりゃどーも」
 悔しそうな顔をした真治に肩をすくめると、ばったり後ろへ倒れた。
 ……ま、気持ちはわからないでもねぇけどな。
 きっと、逆の立場だったら放棄してる。俺は。
 年内は……特に年末はいろいろと自分の身に起こったが、幸先のいいスタートを切ることができたので、今年こそは大丈夫だろう。
 ……と、思いたい。
 日付が変わった瞬間の大打撃は、すでになかったことにした。
「ん? どこ行くんだよ」
「ちょっと水もらってくる」
「早めに戻れよ」
 立ち上がった祐恭を見送ってから、ジャラジャラと音を立てて牌を混ぜ、山を積む。
「……ぜってー、負けねぇ」
「ま、せいぜいあがけ」
「お前、自分が勝つと人格変わるよな……」
「そうか? 孝之はいつもこんなだろ?」
「……なんで優人が答えるんだよ」
 さらりと答えた優人を見ると、『気にすんな』と小さく笑った。
 腑には落ちないが、煙草の灰を灰皿へ落と……。
「って、誰だよ、こんなに吸ったヤツ」
 いつの間か、吸い殻が灰皿へぎゅうぎゅうになっていた。
 つーか、こぼれてるし!!
「……人の部屋だと思って、好き勝手しやがって。誰が片付けると思ってんだよ」
 渋々新しい灰皿を取ってそこに灰を落とし、ついでに転がった吸殻も入れる。
「片付けてくれば?」
「そーゆーお前が片付けてこいって」
 さも当然とばかりに灰皿を顎で指した優人に眉を寄せるが、まったく気にしない様子で人を指差しやがった。
「だって、汚れたら困るのお前だろ?」
「誰が親だと思ってんだよ。え?」
「いや、親とこれと関係なくね?」
 ぴらぴら手を振られ、何も返せなかった。
 いや、まぁ、確かにそうなんだけど……だな。
 どうしたって、腑に落ちない。
 ……くそ。
 来年は、優人ン家でやってやる。
「ほら、ついでに祐恭呼んで来いって」
「わーったよ」
 仕方なくそれを持って立ち上がり、部屋の外へ。
 ドアを開けた途端、やけに空気がうまく感じられた。
 ……(よど)んでる証拠か。
 パチンコといい勝負かもな。
 危うく灰皿ごと落としそうになりながら階段を降りると、やけに楽しそうな声が階下から聞こえてきた。

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