「……あ?」
今週はまだ大学自体が休みのため、開館は17時まで。
お陰で、仕事を終えて家に着くころはまだ18時前だったんだが……珍しく親父と車で鉢合わせ。
……すげぇ久しぶり。
ハザードをたいて端に寄せたままでいると、ガレージから親父が出てきた。
「お疲れさん」
「ただいま。……今日休みじゃなかったけか」
「んー……。まぁ、そんなところだな」
「……あ、そう」
苦笑を浮かべて言葉を濁したのを見てから、自分も車庫入れ。
相変わらず、親父の停め方はキレイだ。
なんつーかこう……真面目な雰囲気が……。
俺とはえらい違いだな。
エンジンを切って車を降り、シャッターの鍵を閉める。
すると、親父がまだそこに立っていた。
「先入ればいーじゃん」
「いや、玄関の鍵がなくてな」
「……鳴らせばいいだろ?」
「まぁそう言うな」
苦笑を浮かべて先に階段を上がったのを見てから、自分もあとを追う。
いつもなら、とっとと先に上がるクセに。
……俺のこと待ってたワケでもねーだろうし……。
すべてがなんとなくいつもと違って、眉が寄った。
「…………」
玄関へ先に立ち、鍵を開ける。
——と、親父が中へ声をかけた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
反射的と言ってもいいようなタイミングで、葉月がリビングから顔を出した。
が、あきらかに親父へはにっこり笑ったくせに、俺と目が合った途端あからさまに表情を変える。
……なんだよ。
お前、そういうのを差別っつーんだぞ。
「おかえり、なさい」
「ただいま」
親父とは雲泥の差。
笑みどころか、浮かべているのはものすごく微妙な表情で、いかにもこちらの出方を伺っているように感じる。
「葉月」
「……え?」
親父のあとに続いてリビングへ入ろうとした背中へ声をかけ、預かってきた書類を封筒ごと渡す。
すると、まじまじそれを見てから、ちらりと俺へも視線を向けた。
「不備があるらしいから、直しとけ。明日、連れてってやるから手続きしてこい」
「え……」
「いつがいい? つっても、朝か夕方しか動けねぇけど」
俺はかなり譲歩したつもりだし、どちらかといえば、だいぶ気は使った。
絶対的に非があったのは俺で、それは認めてる。
だが、しばらく待っても返事はなく、何か言いかけた言葉を飲み込んだように見えて眉が寄った。
「朝一でいいか?」
「あの……大丈夫だよ、私、ひとりでも行けるから」
「……何?」
「大学までバスが出てるでしょう? 春からは自分で通うんだし、確認しておきたいから私のことは気にしないで」
返事があったと思いきや、明らかに壁があるような対応をされ、さすがにカチンときた。
譲歩したのに歩み寄ってこなかったからじゃない。
言い方が、まるで『ほっといて』と言っているように聞こえて、だ。
「そんなに俺が嫌か?」
「え……?」
ため息をついて葉月を見ると、一瞬瞳を丸くしてから唇を結んだ。
しばらく待つも、反応はなし。
……あっそ、へえ、そーゆーつもりか。
お前が頑固なのは知ってたけど、そんなに毛嫌いされるとはな。
もういい。たくさんだ。
「勝手にしろ」
「っ……あ! たーくんっ!」
吐き捨てるように呟き、背中を向けて階段を上がる。
誰かに、ここまで拒否されたのは正直初めて。
付き合いの浅い人間なら、縁を切ることは容易。
もともと、去る者追わず主義だから、他人がどうなろうと知ったこっちゃない。
だが、相手は葉月。
これまでの十数年間『従兄妹同士』だったのに、まさかこれほど嫌われるとは思ってもなかった。
かわいさ余って、憎さ100倍。
……とは言わないが、まるで飼い犬に手をかまれた気分だ。
「っくそ……!」
部屋のドアを閉めると同時に、思わず持っていたバッグをベッドへ放り投げていた。
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