「ユキ? お父さん、ユキ見なかった?」
「さあ。さっきまでラグにいたが……トイレじゃないか?」
「……見たけれどいなかったの。どこ行ったのかな」
ドアの向こうからふたりの会話は聞こえてくるが、今は当然吠えたりしない。
つか、夜も遅いしな。
することしたら出てくから、心配すんなって。
……しかしまぁ、個室がこんなにも安心するとは思わなかった。
さすがにオープンな場所で用を足すとか、どんだけ羞恥プレイだよ。
「っ……ユキ、あなた……トイレにいたの?」
しっかりレバーを押して流したあと廊下に出ると、驚いたように葉月がまばたいた。
“俺”用にしつらえられたトイレコーナーは1階にある。
けど、トイレの使い方は当然がっつり身についてるし、こっちのほうが快適。
あー、すっきりした。
やっぱ人間、プライベートって大事だぜ。
「っ……」
「なんて賢いの? もう、本当に偉いのね。お父さん、ユキったらちゃんとトイレを使えるのよ。シェインさんが言うとおり、私たちと対等だと思ってるんじゃないかな」
「ほう。それは賢いな。……お前、なかなかやるじゃないか」
ぎゅうっと葉月が首へ抱きつき、これでもかというくらい頭を撫でた。
恭介さんも恭介さんでぽんぽんと背中を叩き、笑顔を見せる。
あー……なんか、トイレトレーニング覚えた子どもの気分だな。
当たり前ながらも、まぁ当然当たり前じゃないんだろうよ。
だが、居心地が悪いというよりも、多少バツが悪い気もして、素直に喜べはしなかった。
「ふふ。ユキ、一緒に寝る?」
「ダメだ」
「……もう。お父さん」
「お前は俺と寝ればいいだろう? もしくは、ベッドも預かってきてる。どうする?」
いつもするように葉月が目の前で首をかしげたが、恭介さんはぴしゃりと否定した。
腕を組んで目の前に立たれ、選択肢はだいぶ狭まる。
つか、さすがに恭介さんと寝るくらいならひとりを選ぶって。もちろん。
せっかくの夢なら、楽しいほうを選ぶ。
……こうなったら、アレしかねぇだろ。
「あっ」
「あ! おま……ったく。アイツ絶対言葉わかってるだろう」
隙をついて階段を上がり、一番手前の部屋のドアをくぐる。
さすがに瞬間的な行為で恭介さんは首輪をつかめず、おかげで無事目的は達せた。
「いいかユキ。お前、絶対葉月を舐めるなよ!」
「……もう。ユキはそんなことしないったら」
「さっきから散々してただろう! いいか? 葉月。ソイツは犬とはいえ男なんだからな。気を許すんじゃない!」
「もう……お父さんっ!」
階下から恭介さんの声はがっつり届いていたが、今は当然知らぬ存ぜぬ。
てか、心配しすぎだって。ホントに。
まるで“俺”に対して言われてる気が多少して、まぁ……半分程度は合ってるけどな、とはうなずいておく。
「…………」
「ベッドじゃ狭いかな……でも、一緒がいい?」
見覚えのある部屋に、見覚えのあるベッド。
壁際にあるそこへ先に葉月が腰かけたのを見てから、ジャンプするように飛び乗る。
人間ふたりで寝るのは多少手狭だろうが、今の俺となら問題ねぇだろ。
背中を撫でられ足元付近へ丸くなると、くすくす笑った葉月も横になった。
「おやすみ」
頭を撫でたあと、額へ触れるだけのキスをされた。
あー……お前、いつもと雰囲気違わねぇ?
話し方もそうなら、接し方もそう。
いつもとまるで違う対応がおもしろくもあり、多少どきりとする。
そういや、その格好もそうだな。
ワンピースタイプのパジャマは、先日見たものよりも生地が薄く、わずかな風にもふわりと動きを見せる。
普段よりずっと視線が低いこともあり、足元どころか太ももまでがっつり見えることがあって、そのたびに反応しそうにはなった。
……いや、さすがにしねぇけど。
AVにもないヤツを展開するわけにいかず、大人しくしておく。
「…………」
それでも、甘い香りは続いていて。
香水でもシャンプーでもない、きっとコイツ自身の香り。
クセのようなもので足をすり合わせたのがわかったが、そのときふわりと甘い香りがして、鼻がひくついた。
「ん……くすぐったいよ」
足首をぺろりと舐めると、くすくす笑いながら葉月が寝返りを打つ。
だが、膝丈のワンピースはふわりとなびき、膝裏から……ちょうど太ももまで見えた。
「っ……ユキ……!」
匂いを辿るわけじゃない。
きっと、どこもかしこも甘いだろうし、探したところで意味はないだろうからな。
何もしない、って約束はしてない。
忠告は受けたが、守らなくても……お前は怒らないよな?
「……っ、だめっ……」
鼻先でワンピースをくぐり、わき腹までめくりあげる。
わき腹から胸へかけてのラインが見え、舐め上げると声を漏らした。
……えろいぞ、お前。
さすがにこの展開には頭がついていかない様子で、声はかなり抑えられている。
だが、恭介さんのように無理矢理首輪をつかもうとはせず、そういう優しさが命取りになるのは知っておいたほうがいいんじゃねぇの。
「ん、や……っ」
ワイヤーのない柔らかなブラは、鼻先ですぐにまくりあがった。
甘い香りが強くなり、鼻先で探り当て……先端を舐める。
たちまち声が変わり、だが漏らしてすぐ戸惑ったように布の上から頭を押さえた。
「ユキ……、ねぇだめ……! そんなことしないで」
懇願にも似たセリフだが、困惑の色は十分伝わってくる。
が、ンなセリフでやめられたらどれほどいいか。
胸を舐めた瞬間、ひくりと身体が反応したのはわかってる。
……どうせ夢。
現実じゃありえねぇしまず許されないものの、今ならよくね?
「ん、んっ……」
鼻先でさらにワンピースをたくしあげ、前足で押さえる。
背丈はないが、力は十分強い。
それを葉月もわかってはいるようで、慌てたように前足を両手でつかんだが、おかげさまでまだこっちのほうが勝っているようだった。
「は……ぁ、やっ……」
何もついてないのに甘く感じる。
匂いは十分すぎるほどだから、そのせいかもな。
先端だけでなくぐるりと回りから責めるように舐め上げると、より声は変わった。
……はー。えっろい。
そういやお前、十分胸弱かったもんな。
いろいろ言ってやりたい気持ちはあるが、今は何を言おうとしてもわふわふ言うだけ。
だったら、舐めてやってるほうがよほどイイ。
押さえようと口元へ手が当てられてはいたが、息遣いも声も十分すぎるほど漏れていて、意味をなしてるようには思えなかった。
「んんっ……」
もう片方の胸を舐めると、すぐに先端が反応した。
硬く屹立したソコを丹念に舐め、吸う代わりに鼻でつつく。
そのたびにひくりと背中を震わせ、甘く声が漏れた。
「……も……やぁ、ユキ……どうして?」
どうしてだと思う?
あんだけ恭介さんに言われたのに、俺を招いてくれたのはこうなるって予想して……ねぇよな。さすがに。
最初はこうするつもりじゃなかったが、どうせならと思い立っただけ。
12月。
この時期はまだ、俺どころか誰にもこんなふうに触れられてないとき。
だったら……知っといてもいいんじゃねぇの?
どうせ夢なら、楽しまねぇとな。
さすがに交わりはしないが、だったらできることで楽しんでおきたかった。
「ぁ、あっ……や……」
ぴちゃぴちゃと音を立てて舐め上げると、いつの間にか首輪のあたりをつかんだ手が震えた。
だが、恭介さんのように無理に引き離そうとしているわけではなく、緩さはある。
抵抗と迎合と半々ってところか。
知らないことを知るのは、悪くねぇだろ?
ホンモノは追々知ればいいが、自分の身体がどうなるかくらいは知っておいて損はないだろうよ。
「ッ……ユキ、だめっ……!」
ひとしきり胸を舐めたところで、伝うように腹から腰へ辿る。
たちまち矛先が変わったことを知って起き上がろうとしたが、お前さっきも勝てなかったろ?
ふにふにと腹のあたりを前足で押さえ、代わりに鼻先でショーツをひき下ろす。
……跡は付けねぇから安心しとけ。
くわえるようにしてわずかにずらすと、蜜の香りはより強くなった。
「だめ、ねぇだめったら……! ユキ、お願い……!」
嫌だつったら?
喉をしぼったせいで、声が高くなる。
少しだけ荒く息をつき、灯りのない室内ながらも、まっすぐにこちらを見ているのはわかる。
お願い。
目を見て懇願され、ぺろりと鼻先を舐める。
……こんだけ香らせといて、それはねぇだろ。
まばたいてから下を向くと、半分泣きそうな声で『ユキ』と呼んだ。
「んっぁ……!」
十分すぎるほど蜜はしたたり、わずかに舌を動かしただけでかなり濡れた音が響いた。
まさに水音。
拒むように足へ力を入れるが、鼻先が細いこともあって意味は成さない。
花芽を舐めると、ひくひく身体だけでなく足も大きく震えた。
声が甘い。
聞こえる音すべてが、煽る要素でもある。
……できねぇんだから、せめてヤらせてくれてもよくね?
ひだにそって蜜だけでなく舐め上げると、鼻にかかる声はより高くなった。
「んぁ、あっ……やぁ……そこ、ユキ……ユ、キぃ……」
足を開かせるように前足をかけ、角度を変える。
すると、たちまち首輪をつかんでいた手に力がこもり、息が上がった。
「は、あ、あっ……ユキ、だめっ……だめ、そこ……っ……んん、そこっ……やぁん」
ひくひくと足が震え、声がより切羽詰る。
ダメじゃなくて、ここがいいんだろ?
そう口にする代わりに深くまで舐め上げると、呼吸はさらに乱れた。
「あぁあっ……や、そこっ……あん、ぁっ……だめ……ぇ!」
あと少し。
まさに手前の息の上がり方で、ぴちゃぴちゃと音を立てて舐め上げる。
そういやお前からまだ“イク”って聞いてねぇな。
どうせならそれは、夢じゃないときに聞かせてもらうか。
……だから今はいい。
初めてこのベッドでイカされたときと同じように、悦で十分おかしくなっとけ。
「あ、あっ……それ以上された、らっ……あ、ああっ……んぁああぁ!!」
鼻先に強い蜜の香りが広がり、舌先がからめ取られた。
ひくひくと収斂を繰り返すソコから離れ、ぺろりと鼻先を拭う。
くったりと身体をベッドへ預けた葉月の顔を覗くと、言いかけた何かを飲み込むように唇を噛んだ。
「もう……どうして?」
泣いてはいないが、今にも泣きそうには見える。
荒く息をついたまま肩を上下させ、けだるそうに首輪……ではなく両手で頬を包んだ。
「……ユキ。こんなことしちゃだめでしょう? ……きれいじゃないんだよ?」
こんなときでさえも怒らないとか、お前どんだけだよ。
……実は望んでた? なんてありえないことを想像しかけ、答える代わりに指を舐める。
すると、それさえも悦に変わったかのようで、小さく声を漏らすと慌てたように口元へ手を当てた。
「はぁ……こんなのいけないのに。もう、あなた賢い子でしょう? なのにこんな……シェインさんが知ったら、悲しむよ?」
知られないから安心しろ。
あとはまぁ、もちろんだが誰かに言うわけがない。
……犬にイカされるとか、ありえねぇことだぞ。
きっと誰も信じてくれないだろうが、恭介さんだけは耳に入り次第間違いなく去勢手術されるだろうよ。
「なんでこんな……あっ」
律儀に説教する葉月を見ていたら、大きくあくびが漏れた。
満足した。
大きく伸びをしてから足元へ座り直し、くるりと尾を抱いて丸くなる。
今日はもういいや。また明日な。
そんな意味を込めて足を尻尾で叩くと、ため息をついたのはわかったがそれ以上何かを言うことはなかった。
……ま、どうせ夢だし。
鼻先に残る蜜の香りを舐め取ると、またあくびは漏れた。
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