「……むー……」
 思わずリビングのテーブルで、ひとりうなる。
 目の前には、さっき淹れたばかりのコーヒー。
 だけど、考えごとばかりに気をとられて、まったく進まない。
 ……いや、だってさ。
 考えごとの内容が内容なのよ。
 私にとっては、っていうか多分、こんな状況に陥ったら私じゃなくても真面目になっちゃうって。
 なんていうのかなぁ。
 ある意味、深刻とも言えると思う。
 だって――……。

「今月……もう終わっちゃう……」

 ぽつりと呟いた言葉の重さは、私自身が1番よくわかっていた。
「…………」
 私だって、別に最初からこのことを考えてた訳じゃなくて。
 たまたま……そう。
 ホントに、たまたまだった。
 あれは、ほんのついさっきのこと。
 コーヒーを淹れてのんびりしながら、手帳に予定を書き込もうとしたとき。
 今週は、綜のスケジュールが結構ハンパなくて、時間刻みで動くこともあった。
 だから、そのあたりもしっかりしとかなきゃマズいってことで、こと細かに……それこそ、超極細のペンで書こうと思ったワケよ。
 ……それなのに。
「はー。どうしよっかなぁ」
 ため息が出ると同時に、ぺちんっと音を立てて額に手を当てる。
 気付いちゃったんだな。
 そういえば……あれ? って。
 そんな感じで、すっと頭に浮かんだ。
「…………」
 間違いない、事実。
 でも最初は、勘違いかなって思った。
 だけど、気になって仕方なくて、2回目はちゃんと日にちを指差して数えたから、絶対だ。

「今月、まだ来てない……よね」

 ぽつりと呟いた言葉。
 それは、アレです。アレの到来を意味するんです。
 ……来てない。
 計算上は、もう2週間以上前にあるべきなのに。
 今月も、もう終わっちゃう。
 それこそ……前回いらっしゃったときから、1ヶ月以上経ってるワケで。
 …………ってことはアレよ。
 もしかしたら、もしかする……ってこと?
「…………」
 …………。
 ………………。
 ……え?
 いや、ちょ、待って!?
 だ、だって私、まだ、結婚してないんだよ!?
 そりゃまぁ、一緒に住んでる人はいるし、それなりに……ごにょごにょ……。
 いや、でも、でもさ!
 だからって、決め付けるのはよくないと思うのよ?
 でも…………でもね。
 もしかしたら、そうかもしれないじゃない。
「…………」
 そう思ったら、なんとも言えない気持ちでいっぱいになった。
 ……ヤバい。
 顔が、緩んでる。
 思わず頬に手をあて矯正にかかるものの、当然そう簡単にいくわけがなくて。
「そうだったら……どうしよ……」
 にんまりした顔を押さえながら、つい、スマフォを見つめる。
 操作すれば、すぐに繋がる人。
 履歴にも一番多い、彼の名前。

 電話……する?
 
「…………いやいや、ちょっと待って」
 ふと手が伸びそうになって、思わず自分で自分を止める。
 だってさ、ちょっと考えてもみてよ。
 結果が出たわけでもないのに、いきなり切り出したって、彼に伝わるワケがない。
 そもそも、彼はそれこそ……も、もしかしたら、
 私に将来的なプランを抱いているかどうかもわからないじゃない。
 ……って、抱いてなかったら、ちょっと……いや、だいぶ切ないけど。
 でも、少なくとも、私がアレでンーだったら、そうなわけでしょ?
 も、もしも……もしも、よ?
 もしかしたら、私のお腹に……その……。

「赤ちゃんができたかもーっ!!」
 
 いろいろ考えていたら、思わず声に出していた。
 恥ずかしいなんて、言ってられない。
 だってこれってば、一大事よ!? 一大事!!
 大変なことじゃない! 人生左右しちゃう、でっかいことじゃない!!
 これはっ……これはやっぱり、早急に事実確認をするべきよね。
 動かない証拠を突きつけてやれば、きっと、あの万年鉄仮面男にも、多少の動揺が見られるかもしれないし!
 そうなったら、善は急げだわっ。
 今すぐ、確認しなきゃ!!
「…………」
 はた。
 そう思って立ち上がったはいいけれど……でも、えっと……どうしたらいいんだろう。

1:やっぱり、病院へ突撃。
2:いやいや、やっぱり直接彼氏にアプローチ。
3:とんでもない! おめでたいもの、お赤飯炊かなきゃ!
4:いやいや! とにもかくにも、検査薬を買うべきでしょ!