ゴールデンウィークだー!
わーい!
アウトレットへ買い物に行って、おいしいお菓子屋さんに寄って、お茶飲んでまったりして、ついでにさわやかのハンバーグ食べて帰ってこよーっと!!
って生活をしたいんじゃぁぁあああ!!!!
おうちこもり生活、2ヶ月突破。
やばいっすよ。筋力もやばいけど、精神がやばい。
あと少し……あと少し、なのよね……。
もはや、ここまできたら5月いっぱい子どもたちが毎日だらけてようと、もう何も言うまい。
緊急事態宣言がどうかはわからないけれど、わたくしは5月からは出勤が確定しましたので、お仕事へ行ってきます。
さらば、ひきこもり瀬那家のみんな。
私は外へ行くー
「……いや、さすがに飾る年じゃなくね?」
「そうかな?」
「お前、俺をいくつだと思ってんだよ」
「でも、ずっとしまわれてたらかわいそうでしょう?」
「…………」
今週は早い企業がゴールデンウィークだと聞いた。
知り合いも数人は在宅勤務からの休みに突入しており、昨日の夜は自宅飲み会を開催したこともあって、近況を聞きはした。
もともとカレンダー通りの休日とは異なるが、土曜は隔週で出勤していたこともあり、もともと連休にはあまり縁もない。
まあ、そのぶん平日休めるからいいんだけど。俺は。
今年は当然ゴールデンウィークもすべて閉館となるが、まぁ、一応は休み。
じゃあどこかに……ってわけにもいかず、ガレージでも片付けるかなって気にはなった。
「お前、マメだな」
「あ、鯉のぼりもあったよ。飾る?」
「飾るな」
丁寧にほこりを払われたあと飾られた兜は、それこそもう何年も見ていないシロモノ。
床の間にはお袋が高校時代までは飾ってた気がするが、まだあったんだなって思う程度には懐かしくもなる。
弓矢とともに飾られた日本刀がホンモノだと知ったのは、小学生のとき。
友達と遊ぶつもりで抜こうとしたものの抜けず、お袋へ文句を言ったら『抜けないようにしてあるのよ』と理由を説明されたときは、さすがに足がすくんだ。
じーちゃんが道場で教えている居合道に興味を持ったのは、もう少し前だったかどうだったか。
最近めっきり顔を出していないが、正月に会ってきっちり小言はもらったから、そろそろ顔を出さないとまずい気もする。
「立派な兜だね」
「初孫だったからな」
親父は5人兄弟の長男とあって、俺が最初の孫だった。
当時は相当かわいがられたらしいが、記憶にはあまり残ってない。
それでも、あまり見かけない数段の飾りであり兜だけでなく鎧一式の五月人形は、迫力がありすぎて小さかったときは正直怖くもあった。
「小せぇときは、恭介さんが一緒じゃないとこの部屋に入れなかったんだよ」
「え?」
「それこそ、ガチの武将っぽいじゃん? 仮面の奥が光ったらどうしようつってな。怖かった」
小さいとはいえ、いかにも人型の甲冑飾りが動き出すんじゃないかと思ったこともあった。
ま、幼稚園ときの話だけど。
「……なんだよ」
意外そうに見られたのはわかったが、柔らかく笑われて居心地が悪い。
普段、ほとんど入ることのない部屋と化した和室にいるってのもあるだろうが、なんとなくテリトリー外な気もして少しだけ声が小さくなった。
「私と同じだなって思ったの」
「お前も?」
「ん。私もね、おばあちゃんに買ってもらったお雛様があるんだけど……7段飾りの、とってもきれいな雛壇なんだよ。小さいころは私の身長よりも高いところにお雛様とお内裏様がいて、お父さんに手伝ってもらいながら飾るんだけど、少しだけどきどきしたの」
意外なセリフに葉月を見ると、苦笑してから立ち上がった。
すでにすべての飾りは終えられていて、あとはまぁ収納されてた箱を片付ければ完了ってとこか。
つか、ひとりで飾りきるとかどんだけだよ。
言えば手伝いくらいはした。多分な。
……もしかしたら、出すって言った時点で反対してたかもしんねぇけど。
「見下ろされているのが、緊張したのかもしれないね。何もいけないことをしてるわけじゃないのに、お雛様の前で遊ぶときは少しだけ背筋が伸びてた気がするの」
「あー、それはあるかもな。なんかこう、夢で説教されそうじゃん」
「ふふ。たーくんもそんなふうに思うんだね」
「いや、むしろそれは俺のセリフ。品行方正っぽいお前がンなこと思ってるなんて意外だ」
「私、そんなにいい子じゃなかったよ?」
「どーだか。少なくとも俺よか、よっぽどいい子だろ」
いい子、の定義ははたして。
だが、恭介さんが躾けてきたと思えば、まぁいい子だったんだろうよ。
俺みたいに、あえて禁止されてることをしようとはしなかっただろ。お前は。
……まぁ興味はあるから、具体的にどのへんがいい子じゃなかったのか、いっぺん聞いてみてもいいけどな。
「鯉のぼり、おじいちゃんちへ持って行ったらどうかな? 併せて飾ってくれるんじゃない?」
「いや、あっちはあっちであンだろ。そんな何匹も泳がせてどーすんだよ」
「複数のほうが、賑やかだよ?」
「まあそうかもしんねーけど」
あ、と口にしてから両手を合わせた葉月が、きらきらした目で俺を見た。
さすがに噴き出し、一応は阻止しておく。
が、もしかしたら恭介さんへも言いそうだなと少し思った。
そーなったら……まあ、考えなくもないけど。
つか、鯉のぼりこそ小学生以来出してないシロモノ。
カビのひとつやふたつありそうだが、とりあえず黙っておく。
「今日のおやつ、柏餅にする?」
「買いに行くのか?」
「柏の葉はないけど、上新粉と小豆はあるよ。たーくんも作る?」
「いや……つか、それじゃただの大福じゃねーか」
そもそも、柏餅を自宅で作る発想がなかった。
小さいころは、ばーちゃんちで食ってたけど、ひょっとしてあれ手作りだったのか……?
あー、そういや柏の木があった気もする。
んで、従兄弟たちと『葉っぱを取っておいで』と言われて行った気が……。
「ばーちゃんちにあるかもな。柏の木」
「え、そうだった?」
「ああ。聞いてみて、今もあるなら……まぁ取り行くか」
別に柏餅が食いたいわけじゃないが、まぁどうせ暇だし、行ってもいいかとは思った程度。
あそこなら間違いなく人はいないだろうし……つか、人ん家の敷地内だし文句も言われねーだろ。
家の中に入るわけじゃなし、今流行りのソーシャルディスタンスにも該当せず。
……しかしまぁ、急に言い出したよな。
なんだよ、ソーシャルディスタンスって。
呪文じゃねーんだから、日本語でよくね?
「お天気いいし、ちょっとしたお散歩にはなるかな?」
「まぁな。ついでにコンビニでコーヒー買ってくか」
うちと違い、本家は庭だけでも十分広い。
そんでもって人もいない。
池の鯉に餌でもやって帰ってくるか。
「あ、羽織も誘ってみる?」
「どっちでもいいけど……あー、アイツもコンビニ行きたいつってたな」
「じゃあ、声かけてくるね」
「おー」
葉月が廊下へ向かい、律儀にも階段を上がっていく音がした。
俺なら間違いなく、のぼらずに声かけて終了。
アイツ、ほんとマメだな。
「…………」
数年ぶりに見た鎧兜は、昔見たときよりもずっと小さく感じた。
葉月と同じく、昔は見上げるしかなかった屏風のてっぺんでさえも、今では見下ろせる高さ。
細々したことはいろいろあったが、それでもここまで何事もなく育ち、就職もして社会人の仲間入り。
そういう意味じゃ、厄は払えていて護られてもいるんだろう。
「羽織も行くって」
「あー。鍵取ってくる」
またもや律儀にも和室の入り口へ姿を見せた葉月は、嬉しそうに笑った。
果たして、帰宅した両親がこの兜を見てなんつーのかは想像もできないが、まぁこんな状況だからこそ、たまには昔から伝わる習わしに触れるのもいいのかもな。
厄払い、ね。
ひとりは小さくても、みんなでやればそれこそチカラになるんじゃねーの。
古来の妖怪も流行ってるらしいし、それに乗じてとっとと日常が戻るなら、げん担ぎの一種と思ってやってみてもいいかもな。
「鯉のぼりも、一応持って行っていい?」
「……ひょっとして、お前見たいのか?」
「ん。だってほら、うちで鯉のぼり飾らなかったから」
少しだけはにかんで笑った様が、いつもと違ってやたら子どもっぽく見え、つい吹き出す。
あーあー、わーったよ。好きにしろ。
無理って言われたら、しょーがねーからベランダから吊るせ。
……って、これ言ったら怒りそうだから言わないでおくけどな。
「とりあえず、ばーちゃんに聞いてみるからちょっと待ってろ」
スマフォを取り出してパネルへ触れると、意外な姿を見たせいか、少しだけおかしかった。
と思ったんじゃよーーー。
うちも、すっかり埃をかぶってしまった、鯉のぼり。
ステイホームで開かずの納戸を片付けたら、出てきた数メートルの鯉のぼり。
飾る……?
それとも、寄付する……?
とりあえず、虫干をかねて物干し竿へくくってみてもいいかなと思いました。