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2020.11.11
誕生日おめでとう、瑞穂ちゃんーてなことで、鷹塚センセの小話。
ぬあー。
スタバ行きたい。
てか、今日ラジオで「今年もあと50日です」ってうっかり聞いてしまって戦慄している。
皆様にもシェアさせてくださいませ……という名の、共有……。
1年が終わる!! 早い!!
「あ」
「……あ?」
授業中まさにど真ん中。
3時間目が始まり30分ほど過ぎたところで、不意に聞こえたセリフへうっかり反応した……ら、ふりむきざまに妙な光景が広がっていた。
「何してんの?」
「せんせー知らないの? 今日……てか、あー! 今! 今だし!」
「は?」
ひとりじゃない、ふたりじゃない。数人の児童が俺の真上を指さしたかと思いきや、そのまま人差し指を立てる。
しかも両手。まるで何かを表すかのように同じポーズを取っており、明らかに意味深でしかない。
「何して……あー。そういや今日か」
「でしょ! 先生もやった? 子どものとき!」
「やった気はする」
いや、やってないかも。確かにソワソワもしたし、目配せ程度に反応はしたが、お前たちのようにがっつり反応はしなかった気がする。
両手の人差し指立てて、いかにもじゃん。ついでだから、そのまま問題に答えてもらうか。
「そんじゃ、楽しくイベントこなしたところで、そのまま(1)の答えは?」
「え! なんで⁉︎」
「なんでってそりゃ、今が算数の時間だからだろ。ほら、1:3になる比はどれだ?」
「おーぼーじゃん!」
「正統です」
最初に声を出した男子を指すと、ならうように指を立てていた面々がサッと引いた。とはいえ、おかげさまで誰が挙げたかはちゃんと覚えてるから安心してほしい。あと4問は、期待を裏切らず答えてもらうからそのつもりで。
「……11月11日、ね」
年代が違っても通じるのは、ある意味すごいな。
個人的には、すっかりプライベートと紐づいた日に変わっただけに、去年までと全く違う気持ちでいる自分も少しだけおかしかった。
「なんだこれ」
掃除のあとの短い昼休み。5時間目に使うプリントを取りに一旦職員室へ戻ると、自席の対面の机にはまるでお供えかのように様々なパッケージの箱が置かれていた。
ネーミングこそ違えど、種類は同じ。チョコのついてる棒菓子、それ。
「愛よねー、愛」
「どのへんが?」
「よく見なさいよ。これ、地域限定のやつよ?」
「は? あー……確かに」
この養護教諭は、このあたりでも割と有名で。塩対応がメインなのに子どもからは一定の評判を得ているという、なんとも不思議な現象も起きている。
そんな彼女とは初任のころから顔を合わせているから、もはや腐れ縁レベル。今ではなくなったが、サシで飲みに行ったこともある仲で、ある意味戦友にも似たような関係。
「で?」
「は?」
「まさか、かわいい彼女のプレゼントが同じお菓子じゃないでしょうね」
「おかげさまで、もちっとマシなもん買える程度には稼いでるんで」
「あらそう。それじゃ、今夜のディナーはおしゃれなレストラン予約したんでしょうね?」
「なんで詳細を先に暴露しなきゃなんないんだよ。守秘義務だっつの」
今日は水曜。この机の主である、俺のかわいい彼女の勤務曜日ではないが、今日はウチにくる約束にはなっている。
レストランというよりも、ビストロの雰囲気漂うお馴染みの店はきっちり詳細伝えて予約済みだし、今日の俺の仕事はある意味終わったと言っても過言じゃない。
明日、同伴出勤したらさすがに噂になるだろうが、もはやいいんじゃないかとは思っている。センセイだって人間。
公の顔だけでなく、当然私生活もがっつりあるんだし。……ってま、さすがに子どもたちには見られないほうがいい気はしてるけど。
「ちょっと。顔」
「え?」
「だいぶヤバい顔してるわよ。職場で反芻しないで」
「してない」
「してた。すっごい緩んでたわよ? こんなトコで考えちゃいけないこと考えてたでしょ」
「失礼な。人をなんだと思ってンだよ」
ずびしと人差し指を向けられ、身長が大して変わらないこともあってかより圧力を感じる。勝手な想像でハラスメント発言しないでもらいたいもんだな。まあ、うっかり脳内で服に手をかけるか否かってレベルには及んだけど。
「あー、仕事仕事」
「あ。またそうやって逃げる」
「ちょ、なんか当たりキツくね?」
「そう感じるのはやましさがあるからでしょ」
ああいえばこういうの典型じゃないが、彼女に口喧嘩で勝てたためしはない。引けばいいんだろ? どうせ。ああ、わかってるよ。これでも分別ある大人ですから。
「…………」
ちらりと時計を見ると、定時上がりまであと4時間を切っていた。
もうじき、会える。ああ、そういやそんな歌詞の曲もあったなと、らしくもなく思い出した。
「え? あ。そういえば今日は、そんな日でしたね」
おかげさまで、再会するまでの何年もの間も、俺はずっと彼女の誕生日だけは覚えていた。
11月11日。いわゆる菓子にちなんだ日として浸透しているせいか、忘れたことはない。
俺が彼女に会ったのは、12年前。
今、目の前でかわいらしく微笑む姿より、ずっと幼いまさに“子ども“だった。
「……何?」
「これ……なんか、恥ずかしい」
「なんで」
「だって近いじゃないですか」
振り返った彼女に差し出すのは、くわえたままのポッキー。素直に反対側をかじったものの、目を合わせてすぐくすぐったそうに笑った。
「…………」
実際にやってみてわかったことは、ふたつ。案外、顔の筋肉使うんだなってことと、想像よりも確かに恥ずかしい気がすること。あえて目を合わせたままかじると、眉尻を下げた彼女は笑いをこらえるかのように唇を閉じた。
「っ……ん」
「久しぶりに食べた」
残り数センチが待てず、大きめのひと口とともに触れると、チョコ特有の甘さが先に立った。まあ、ギリギリまで焦らすのもある意味オツかもしれないが、明日も休みじゃない以上、もう少し近づいておきたい気持ちのほうが強い。
「割といい時間だし、一緒に風呂入る?」
抱き寄せたまま、顔を見ずに耳元でささやくと、わずかに身体は反応を見せた。問う形ではあるが、実際はそうじゃないことをわかっているんだろう。わずかに俺へもたれた彼女は、ちらりと視線を向けるとさっきと同じように小さく笑う。
「……先に入っててもいいですか?」
「もちろん。大歓迎」
“今日“が終わるまで、あと少し。だが、存分に堪能できる時間は残されてもいる。……大人の時間の過ごし方ってのは、何に縛られるでもないからいいもんだよな、ほんと。
誕生日プレゼントは、どうせなら風呂上がりに渡したい。“身につける“意味では、まさにベストだろうから。
でも——もう少しだけ。
「ぁ……」
「そういう反応、ほんと好き」
わずかに触れるだけで、それはそれは嬉しそうに笑い、漏れる声は甘く柔らかい。
知らなかったよ、何もかもホント。自分の誕生日以外でこんなにワクワクすることも、待ち遠しさを感じるのも、こうして一緒にいられるようになってからなんだから。
ちなみに。
翌日出勤した彼女が机上の大量の箱菓子を見て若干困っているところで、『帰り車で送るよ』としれっと公言したときの顔がよほど芝居がかっていたとの指摘は、甘んじて受けておいた。
ぬあー。
スタバ行きたい。
てか、今日ラジオで「今年もあと50日です」ってうっかり聞いてしまって戦慄している。
皆様にもシェアさせてくださいませ……という名の、共有……。
1年が終わる!! 早い!!
「あ」
「……あ?」
授業中まさにど真ん中。
3時間目が始まり30分ほど過ぎたところで、不意に聞こえたセリフへうっかり反応した……ら、ふりむきざまに妙な光景が広がっていた。
「何してんの?」
「せんせー知らないの? 今日……てか、あー! 今! 今だし!」
「は?」
ひとりじゃない、ふたりじゃない。数人の児童が俺の真上を指さしたかと思いきや、そのまま人差し指を立てる。
しかも両手。まるで何かを表すかのように同じポーズを取っており、明らかに意味深でしかない。
「何して……あー。そういや今日か」
「でしょ! 先生もやった? 子どものとき!」
「やった気はする」
いや、やってないかも。確かにソワソワもしたし、目配せ程度に反応はしたが、お前たちのようにがっつり反応はしなかった気がする。
両手の人差し指立てて、いかにもじゃん。ついでだから、そのまま問題に答えてもらうか。
「そんじゃ、楽しくイベントこなしたところで、そのまま(1)の答えは?」
「え! なんで⁉︎」
「なんでってそりゃ、今が算数の時間だからだろ。ほら、1:3になる比はどれだ?」
「おーぼーじゃん!」
「正統です」
最初に声を出した男子を指すと、ならうように指を立てていた面々がサッと引いた。とはいえ、おかげさまで誰が挙げたかはちゃんと覚えてるから安心してほしい。あと4問は、期待を裏切らず答えてもらうからそのつもりで。
「……11月11日、ね」
年代が違っても通じるのは、ある意味すごいな。
個人的には、すっかりプライベートと紐づいた日に変わっただけに、去年までと全く違う気持ちでいる自分も少しだけおかしかった。
「なんだこれ」
掃除のあとの短い昼休み。5時間目に使うプリントを取りに一旦職員室へ戻ると、自席の対面の机にはまるでお供えかのように様々なパッケージの箱が置かれていた。
ネーミングこそ違えど、種類は同じ。チョコのついてる棒菓子、それ。
「愛よねー、愛」
「どのへんが?」
「よく見なさいよ。これ、地域限定のやつよ?」
「は? あー……確かに」
この養護教諭は、このあたりでも割と有名で。塩対応がメインなのに子どもからは一定の評判を得ているという、なんとも不思議な現象も起きている。
そんな彼女とは初任のころから顔を合わせているから、もはや腐れ縁レベル。今ではなくなったが、サシで飲みに行ったこともある仲で、ある意味戦友にも似たような関係。
「で?」
「は?」
「まさか、かわいい彼女のプレゼントが同じお菓子じゃないでしょうね」
「おかげさまで、もちっとマシなもん買える程度には稼いでるんで」
「あらそう。それじゃ、今夜のディナーはおしゃれなレストラン予約したんでしょうね?」
「なんで詳細を先に暴露しなきゃなんないんだよ。守秘義務だっつの」
今日は水曜。この机の主である、俺のかわいい彼女の勤務曜日ではないが、今日はウチにくる約束にはなっている。
レストランというよりも、ビストロの雰囲気漂うお馴染みの店はきっちり詳細伝えて予約済みだし、今日の俺の仕事はある意味終わったと言っても過言じゃない。
明日、同伴出勤したらさすがに噂になるだろうが、もはやいいんじゃないかとは思っている。センセイだって人間。
公の顔だけでなく、当然私生活もがっつりあるんだし。……ってま、さすがに子どもたちには見られないほうがいい気はしてるけど。
「ちょっと。顔」
「え?」
「だいぶヤバい顔してるわよ。職場で反芻しないで」
「してない」
「してた。すっごい緩んでたわよ? こんなトコで考えちゃいけないこと考えてたでしょ」
「失礼な。人をなんだと思ってンだよ」
ずびしと人差し指を向けられ、身長が大して変わらないこともあってかより圧力を感じる。勝手な想像でハラスメント発言しないでもらいたいもんだな。まあ、うっかり脳内で服に手をかけるか否かってレベルには及んだけど。
「あー、仕事仕事」
「あ。またそうやって逃げる」
「ちょ、なんか当たりキツくね?」
「そう感じるのはやましさがあるからでしょ」
ああいえばこういうの典型じゃないが、彼女に口喧嘩で勝てたためしはない。引けばいいんだろ? どうせ。ああ、わかってるよ。これでも分別ある大人ですから。
「…………」
ちらりと時計を見ると、定時上がりまであと4時間を切っていた。
もうじき、会える。ああ、そういやそんな歌詞の曲もあったなと、らしくもなく思い出した。
「え? あ。そういえば今日は、そんな日でしたね」
おかげさまで、再会するまでの何年もの間も、俺はずっと彼女の誕生日だけは覚えていた。
11月11日。いわゆる菓子にちなんだ日として浸透しているせいか、忘れたことはない。
俺が彼女に会ったのは、12年前。
今、目の前でかわいらしく微笑む姿より、ずっと幼いまさに“子ども“だった。
「……何?」
「これ……なんか、恥ずかしい」
「なんで」
「だって近いじゃないですか」
振り返った彼女に差し出すのは、くわえたままのポッキー。素直に反対側をかじったものの、目を合わせてすぐくすぐったそうに笑った。
「…………」
実際にやってみてわかったことは、ふたつ。案外、顔の筋肉使うんだなってことと、想像よりも確かに恥ずかしい気がすること。あえて目を合わせたままかじると、眉尻を下げた彼女は笑いをこらえるかのように唇を閉じた。
「っ……ん」
「久しぶりに食べた」
残り数センチが待てず、大きめのひと口とともに触れると、チョコ特有の甘さが先に立った。まあ、ギリギリまで焦らすのもある意味オツかもしれないが、明日も休みじゃない以上、もう少し近づいておきたい気持ちのほうが強い。
「割といい時間だし、一緒に風呂入る?」
抱き寄せたまま、顔を見ずに耳元でささやくと、わずかに身体は反応を見せた。問う形ではあるが、実際はそうじゃないことをわかっているんだろう。わずかに俺へもたれた彼女は、ちらりと視線を向けるとさっきと同じように小さく笑う。
「……先に入っててもいいですか?」
「もちろん。大歓迎」
“今日“が終わるまで、あと少し。だが、存分に堪能できる時間は残されてもいる。……大人の時間の過ごし方ってのは、何に縛られるでもないからいいもんだよな、ほんと。
誕生日プレゼントは、どうせなら風呂上がりに渡したい。“身につける“意味では、まさにベストだろうから。
でも——もう少しだけ。
「ぁ……」
「そういう反応、ほんと好き」
わずかに触れるだけで、それはそれは嬉しそうに笑い、漏れる声は甘く柔らかい。
知らなかったよ、何もかもホント。自分の誕生日以外でこんなにワクワクすることも、待ち遠しさを感じるのも、こうして一緒にいられるようになってからなんだから。
ちなみに。
翌日出勤した彼女が机上の大量の箱菓子を見て若干困っているところで、『帰り車で送るよ』としれっと公言したときの顔がよほど芝居がかっていたとの指摘は、甘んじて受けておいた。