Morning coffee in the car
2019.04.19
折りたためるかの実践と、小話。置いておきまーす。
今朝の仕事前に、ふと思いついたネタ。
出てくるのは、里逸×穂澄。
「おはようございます。今日は暖かいですね」
「え? ああ、確かに」
いつもと同じ店、いつもと同じ店員。
ほぼ顔なじみともなったためか、レジ前に立った瞬間、彼女はにっこりと笑った。
いつ以来かは覚えていないが、出勤途中にあるこの店に寄るのはほぼ同じ時間。
平日の朝とあって人もまばらだが、店内で飲んで過ごすことはなく、テイクアウトですぐに出てしまうため、俺には関係ない場所か。
「季節のイチゴメニューもあるんですけれど……いつものでよろしいですか?」
「ええ、それで」
キャラメルマキアートの、クリーム少なめ、ショット追加。
そういえば、イチゴやらチョコレートやらは出るが、キャラメルはあまり出ないな。
季節には出てこないシロモノだからか、少しだけ残念ではある。
何年か前、一度だけキャラメルの季節コーヒーが出たが、そういえばあの時は飲んだな。
ホットもアイスも、なかなか美味かったのは覚えている。
「えっと、お名前うかがってもよろしいですか?」
「名前?」
「はい。間違えちゃうといけないので、ここに記載させてください」
にっこり笑った彼女は、俺がここに立つと大抵応対してくれるスタッフ。
おそらくかなり年下で、自分とは違うキラキラした世界を生きていそうな印象を初対面の時から受けている。
普段、街ですれ違う程度の関係なら、まず言葉を交わすこともなければ関係さえ持たないであろう相手。
大きな瞳でまっすぐ見つめられ、惜しげもなく笑顔を向けてくるあたり、接客という職業柄のものはあるのだろうが、それ以上に彼女自身の持っているものの影響が大きいように感じる。
「里逸です。読めるかな」
幼い頃から、名前を正確に呼んでもらったことはない。
苗字とて同じ。
どちらかが難解なら、もう一方は読みやすいものにしてもらいたいものだが、親の過度の期待か何かはわからないが、ここまで生きてきた。
大人になってからは、名前を覚えてもらいやすいという利点はあるが、おそらく子どもには付けないだろうな。
……と、こんな自分が結婚し家族を持つことなど遠いどころかありえないかもしれないが。
「里逸さん!すてきなお名前ですね」
カップとペンを手にした彼女が、まさに表情を輝かせた。
そんな笑顔をむけられたら、きっとどんな人間でも印象はよくなるもの。
思わず目を丸くすると、「ごめんなさい、嬉しくて」と意味深なセリフを言われ、何も言えなかった。
「ご用意しますね。あちらでお待ちください」
にっこり笑った彼女に曖昧な返事しかできず、普段と同じはずなのに違う気がしたまま移動する。
苦手なのはあるだろう。
幼い頃から、敬遠されることはあっても歓迎されることは少なかった。
性格であり、感情表現の乏しさであり、言い方や態度であり……といろいろ指摘されればうなずけるものばかり。
幼馴染は俺とまったく違い、今の彼女に似ている万人を受け入れるような人間なので、いつも言われたものだ。
『お前もう少し笑えば?』と。
「おまたせしました」
にっこり笑った彼女が、コーヒーを俺へ差し出した。
光沢のある、春らしい色味の爪に目が行き、さすがだなとある意味感心する。
「里逸さん、いってらっしゃい」
「っ……どうも」
まさか名前を呼ばれるなど思わず、喉が鳴る。
きっと、ヤツならそこで『名前は?』と聞くんだろうが、受け取って逃げるようにドアへ向かってしまった自分には、できないこと。
……なんだったんだ、今日のは。
これまでも何度となく訪れた店ながらも、同じようなことは一度もなかった。
応対してくれた彼女の笑顔がやけに目につき、車に戻った今も、なんとなく落ち着かなかった。
「ッ……な……!」
ドリンクホルダーへコーヒーを載せてすぐ、ありえないものに目が丸くなった。
『ご連絡お待ちしてます 穂澄』
はっきりと書かれている文字の下には、090で始まる携帯電話の番号。
名前といい番号といい、思い切り個人情報が記載されたカップを凝視したまま、喉が鳴った。
どう、いうことなのか。
何が起きているのか。
そしてーー意図は?
情けなくも早まった鼓動は、そう簡単に落ち着きそうにはなかった。
今朝の仕事前に、ふと思いついたネタ。
出てくるのは、里逸×穂澄。
「おはようございます。今日は暖かいですね」
「え? ああ、確かに」
いつもと同じ店、いつもと同じ店員。
ほぼ顔なじみともなったためか、レジ前に立った瞬間、彼女はにっこりと笑った。
いつ以来かは覚えていないが、出勤途中にあるこの店に寄るのはほぼ同じ時間。
平日の朝とあって人もまばらだが、店内で飲んで過ごすことはなく、テイクアウトですぐに出てしまうため、俺には関係ない場所か。
「季節のイチゴメニューもあるんですけれど……いつものでよろしいですか?」
「ええ、それで」
キャラメルマキアートの、クリーム少なめ、ショット追加。
そういえば、イチゴやらチョコレートやらは出るが、キャラメルはあまり出ないな。
季節には出てこないシロモノだからか、少しだけ残念ではある。
何年か前、一度だけキャラメルの季節コーヒーが出たが、そういえばあの時は飲んだな。
ホットもアイスも、なかなか美味かったのは覚えている。
「えっと、お名前うかがってもよろしいですか?」
「名前?」
「はい。間違えちゃうといけないので、ここに記載させてください」
にっこり笑った彼女は、俺がここに立つと大抵応対してくれるスタッフ。
おそらくかなり年下で、自分とは違うキラキラした世界を生きていそうな印象を初対面の時から受けている。
普段、街ですれ違う程度の関係なら、まず言葉を交わすこともなければ関係さえ持たないであろう相手。
大きな瞳でまっすぐ見つめられ、惜しげもなく笑顔を向けてくるあたり、接客という職業柄のものはあるのだろうが、それ以上に彼女自身の持っているものの影響が大きいように感じる。
「里逸です。読めるかな」
幼い頃から、名前を正確に呼んでもらったことはない。
苗字とて同じ。
どちらかが難解なら、もう一方は読みやすいものにしてもらいたいものだが、親の過度の期待か何かはわからないが、ここまで生きてきた。
大人になってからは、名前を覚えてもらいやすいという利点はあるが、おそらく子どもには付けないだろうな。
……と、こんな自分が結婚し家族を持つことなど遠いどころかありえないかもしれないが。
「里逸さん!すてきなお名前ですね」
カップとペンを手にした彼女が、まさに表情を輝かせた。
そんな笑顔をむけられたら、きっとどんな人間でも印象はよくなるもの。
思わず目を丸くすると、「ごめんなさい、嬉しくて」と意味深なセリフを言われ、何も言えなかった。
「ご用意しますね。あちらでお待ちください」
にっこり笑った彼女に曖昧な返事しかできず、普段と同じはずなのに違う気がしたまま移動する。
苦手なのはあるだろう。
幼い頃から、敬遠されることはあっても歓迎されることは少なかった。
性格であり、感情表現の乏しさであり、言い方や態度であり……といろいろ指摘されればうなずけるものばかり。
幼馴染は俺とまったく違い、今の彼女に似ている万人を受け入れるような人間なので、いつも言われたものだ。
『お前もう少し笑えば?』と。
「おまたせしました」
にっこり笑った彼女が、コーヒーを俺へ差し出した。
光沢のある、春らしい色味の爪に目が行き、さすがだなとある意味感心する。
「里逸さん、いってらっしゃい」
「っ……どうも」
まさか名前を呼ばれるなど思わず、喉が鳴る。
きっと、ヤツならそこで『名前は?』と聞くんだろうが、受け取って逃げるようにドアへ向かってしまった自分には、できないこと。
……なんだったんだ、今日のは。
これまでも何度となく訪れた店ながらも、同じようなことは一度もなかった。
応対してくれた彼女の笑顔がやけに目につき、車に戻った今も、なんとなく落ち着かなかった。
「ッ……な……!」
ドリンクホルダーへコーヒーを載せてすぐ、ありえないものに目が丸くなった。
『ご連絡お待ちしてます 穂澄』
はっきりと書かれている文字の下には、090で始まる携帯電話の番号。
名前といい番号といい、思い切り個人情報が記載されたカップを凝視したまま、喉が鳴った。
どう、いうことなのか。
何が起きているのか。
そしてーー意図は?
情けなくも早まった鼓動は、そう簡単に落ち着きそうにはなかった。