いただきもの。
2019.07.31
「おかえりなさい」
「ただいま。……って、またずいぶんデカい荷物だな」
玄関のドアを開けたら、デカイ箱を両手で抱えるように葉月が持っていた。
が、見覚えあるといえばある。
それも、決まって毎年この時期に。
「あ。あー、りかこさんか」
靴を脱ぎながら思い当たった人物の名を口にすると、葉月は意外そうに目を丸くしてからくすくす笑う。
なんだその反応。
そんなに意外か? 俺が、誰からのモンか聞く前に当てるのが。
「たーくん、おいしいものはちゃんと覚えてるんだね」
「なんだそれ」
「だって、普段フルーツなんてほとんど食べないのに、すぐわかったじゃない」
まあ、それは否定しない。
お袋やら羽織やら葉月やらは、夕食後であろうとなんだろうと甘い果物をよく食べてるのを見かけるが、俺にはさっぱりわからない習慣。
そういや、葉月と住むようになってからは、果物が朝食で出ることが多くなったな。
季節柄のモンが並ぶのは、こいつがちゃんとしてるってことなんだろ。
そういや今朝は、隣のおばちゃんにもらったとかって、カットスイカが並べられてたか。
「メシは?」
「もうできてるよ。なす、たくさんいただいちゃった」
「……お前、ほんっとよく物をもらうよな」
「ご近所さんって、ありがたいね。なかなかお礼できなくて、申し訳ないんだけど」
「いーんじゃねーの? 向こうだって別に、ハナから礼期待してねーだろ」
「そうかもしれないけど……」
「今度会ったら俺も礼言っとく」
「ん、そうしてね」
これまでも何回か近所のばーちゃんたちへ礼を言ったことはあったが、そのたびに『あの子、よくできた子ね』とか『この間いただいたお菓子おいしかったわよ』なんてセリフをもらう。
葉月は葉月なりに近所へ溶け込んではいるし、ある意味ではもちつもたれつなんだろうな。
こないだは、抹茶のシフォンケーキをおすそわけしたとかって聞いた気もするし。
鞄を持ち直して部屋へ向かうと、どこからともなく吹いてきた風が、意外と冷たくて心地よかった。
「で?」
「え?」
「お前、もう食う気?」
「えっと……本当は、ちょっぴり冷やしたほうがいいのかもしれないけれど……」
「いや、別に冷たかろーが常温だろーがどっちでもいいけど」
メシを食う気満々でダイニングへきたら、ガラスの器へ白桃がカットされており、麻婆茄子の匂いよりも先に、桃の甘い香りが鼻へついた。
最近、葉月は夕飯を多少なりとは食うようになったが、今日はひょっとしなくても、これだけで済ませそうだな。
実際、俺の席には白米と味噌汁のセットがあったが、対面にはグラスに入った薄桃色の液体しかなかったし。
「それは?」
「ざくろのアイスティーなの。いい香りなんだよ」
「ふぅん」
相変わらず、知らないモンが我が家には存在するんだな。
そういう意味で言えば、見聞は広がったか。
椅子へ腰かけ、早速箸を手に——取りつつも、桃をひときれ。
すると、同じように座った葉月が小さく笑う。
「とってもいい香りで、食べたくなっちゃったの」
「珍しいな。お前がそんな風に言うとか」
「いい香りでしょう?」
「甘い」
「ふふ。冷えてないから、余計に甘みがわかるのかもしれないね」
頬張った途端、桃の香りと甘さが口の中へ広がる。
うまいとは、素直に思う。
が、そう言う前に目の前の葉月の顔を見て、小さく笑いが漏れた。
「なぁに?」
「いや、幸せそうに食うな、と思って」
「だって、おいしいんだもん」
「まぁな」
もうひとつつまんでから、ガラスの器を葉月へ押すと、意外そうな顔をして首をかしげた。
「もういい」
「おいしいのに?」
「いや、俺は普通にメシ食いたい」
口元へ手を当てて不思議そうに問われるも、茶碗を持って箸を振る。
と、『お行儀悪いよ?』と相変わらずなセリフがとんできた。
承知はしてるが、気にはしてない。
しばらく残っていた桃の香りも、味噌汁を飲んだらすぐに消えた。
……目の前で、自分以上にうまそうに食うヤツがいたら誰だって譲るだろ。
フォークを再度桃へ伸ばしたのがわかって視線を向けると、すぐにまた葉月は、それはそれは幸せそうな顔で笑い、噴き出しつつまた同じセリフを口にする羽目になった。
というわけで、ねこ♪さんにいただきものへのお礼です〜!
ありがとうございました( ´ ▽ ` )
「ただいま。……って、またずいぶんデカい荷物だな」
玄関のドアを開けたら、デカイ箱を両手で抱えるように葉月が持っていた。
が、見覚えあるといえばある。
それも、決まって毎年この時期に。
「あ。あー、りかこさんか」
靴を脱ぎながら思い当たった人物の名を口にすると、葉月は意外そうに目を丸くしてからくすくす笑う。
なんだその反応。
そんなに意外か? 俺が、誰からのモンか聞く前に当てるのが。
「たーくん、おいしいものはちゃんと覚えてるんだね」
「なんだそれ」
「だって、普段フルーツなんてほとんど食べないのに、すぐわかったじゃない」
まあ、それは否定しない。
お袋やら羽織やら葉月やらは、夕食後であろうとなんだろうと甘い果物をよく食べてるのを見かけるが、俺にはさっぱりわからない習慣。
そういや、葉月と住むようになってからは、果物が朝食で出ることが多くなったな。
季節柄のモンが並ぶのは、こいつがちゃんとしてるってことなんだろ。
そういや今朝は、隣のおばちゃんにもらったとかって、カットスイカが並べられてたか。
「メシは?」
「もうできてるよ。なす、たくさんいただいちゃった」
「……お前、ほんっとよく物をもらうよな」
「ご近所さんって、ありがたいね。なかなかお礼できなくて、申し訳ないんだけど」
「いーんじゃねーの? 向こうだって別に、ハナから礼期待してねーだろ」
「そうかもしれないけど……」
「今度会ったら俺も礼言っとく」
「ん、そうしてね」
これまでも何回か近所のばーちゃんたちへ礼を言ったことはあったが、そのたびに『あの子、よくできた子ね』とか『この間いただいたお菓子おいしかったわよ』なんてセリフをもらう。
葉月は葉月なりに近所へ溶け込んではいるし、ある意味ではもちつもたれつなんだろうな。
こないだは、抹茶のシフォンケーキをおすそわけしたとかって聞いた気もするし。
鞄を持ち直して部屋へ向かうと、どこからともなく吹いてきた風が、意外と冷たくて心地よかった。
「で?」
「え?」
「お前、もう食う気?」
「えっと……本当は、ちょっぴり冷やしたほうがいいのかもしれないけれど……」
「いや、別に冷たかろーが常温だろーがどっちでもいいけど」
メシを食う気満々でダイニングへきたら、ガラスの器へ白桃がカットされており、麻婆茄子の匂いよりも先に、桃の甘い香りが鼻へついた。
最近、葉月は夕飯を多少なりとは食うようになったが、今日はひょっとしなくても、これだけで済ませそうだな。
実際、俺の席には白米と味噌汁のセットがあったが、対面にはグラスに入った薄桃色の液体しかなかったし。
「それは?」
「ざくろのアイスティーなの。いい香りなんだよ」
「ふぅん」
相変わらず、知らないモンが我が家には存在するんだな。
そういう意味で言えば、見聞は広がったか。
椅子へ腰かけ、早速箸を手に——取りつつも、桃をひときれ。
すると、同じように座った葉月が小さく笑う。
「とってもいい香りで、食べたくなっちゃったの」
「珍しいな。お前がそんな風に言うとか」
「いい香りでしょう?」
「甘い」
「ふふ。冷えてないから、余計に甘みがわかるのかもしれないね」
頬張った途端、桃の香りと甘さが口の中へ広がる。
うまいとは、素直に思う。
が、そう言う前に目の前の葉月の顔を見て、小さく笑いが漏れた。
「なぁに?」
「いや、幸せそうに食うな、と思って」
「だって、おいしいんだもん」
「まぁな」
もうひとつつまんでから、ガラスの器を葉月へ押すと、意外そうな顔をして首をかしげた。
「もういい」
「おいしいのに?」
「いや、俺は普通にメシ食いたい」
口元へ手を当てて不思議そうに問われるも、茶碗を持って箸を振る。
と、『お行儀悪いよ?』と相変わらずなセリフがとんできた。
承知はしてるが、気にはしてない。
しばらく残っていた桃の香りも、味噌汁を飲んだらすぐに消えた。
……目の前で、自分以上にうまそうに食うヤツがいたら誰だって譲るだろ。
フォークを再度桃へ伸ばしたのがわかって視線を向けると、すぐにまた葉月は、それはそれは幸せそうな顔で笑い、噴き出しつつまた同じセリフを口にする羽目になった。
というわけで、ねこ♪さんにいただきものへのお礼です〜!
ありがとうございました( ´ ▽ ` )