増税前の大決算
2019.10.01
んはー!!10月になってしもた!!!
間に合わなかったけど、増税小話。
……って、どんななんだか。
うぅ。本編書きます……。
「……それ、必要か?」
日曜の午後。
昨日の広告をまじまじ見ていたお袋へ告げると、すごい顔で睨まれた。
「アンタはいいわね、生活のことこれっぽっちも考えなくて済むんだから」
「失礼だぞ。俺だってちったぁ考えてる」
「あらそう。これっぽっちは考えてるのね。ふーん」
「……腹立つ」
冷茶のグラスを持ったままソファへ座ったのが、そもそも間違いだったらしい。
いつもみたいに、冷蔵庫から注いですぐ飲みきってくりゃよかったな。
そうしたら、こんな目に遭わなかっただろーに。
「つか、8%が10%になるだけって……たかが2%上がるだけだろ? デカい買い物するわけじゃねーし」
車や家の購入を検討してるなら、かなりデカいだろうけどな。
1000万ならそれこそ80万か100万の差だから、そりゃ今月までに契約すんだろーけど、たかが400円のトイレットペーパーだぜ?
32円と40円の違いって、そんなにデカくねーじゃん。
「だいたい、つい先週も同じこと言って買い溜めしてなかったか? どこに置くんだよ、紙ばっか。納戸いっぱいじゃねーの」
「あーやだやだ。これだから生活観念のない独り者は嫌なのよ。あのね、チリも積もればって言葉知らないの? たかが8円、されど8円よ? トイレットペーパーなんて、絶対使う必需品なんだから、安いうちにまとめて買っておいたらいいじゃない。腐るもんじゃないんだから」
「けど、置き場がなかったら邪魔でしかねーだろ? 今すぐ売り切れるようなもんでもねぇし、都度買いに行けよ」
「……あのね。買いに行けってアンタ、そもそもそのセリフが間違えてるってなんで気づかないの? 暇じゃないのよ私は!」
「なんでそーなんだよ。ンなこと言ってねーじゃん」
「買いに行けじゃなくて、買ってきなさいよじゃあ! アンタが! 帰りにドラッグストアのひとつやふたつ、あるでしょ!?」
ダン、とテーブルへ勢いよく湯呑みを置いたお袋が、あからさまに舌打ちをした。
うわ、やだやだ。
そーゆー反射すんから、俺がこーゆーふうに育ったってのに。
「買えたら買ってきてやるっつの」
「そのセリフじゃ、する気ゼロね」
「なんでだよ」
「行けたら行くってのと同レベルじゃない。絶対買ってこないわね、アンタ」
「……あのな」
つか、たかがトイレットペーパーごときでなんでここまで怒られなきゃなんねーんだよ。
それこそ、とばっちりでしかねーだろ。増税に対する。
しょーがねーじゃん。上がるもんは上がるんだから。
「…………」
ふとテレビを見ると、そこを流れるワイドショーでも『増税前の大量購入!』と題した内容を流していた。
トイレットペーパーに箱ティッシュ。紙おむつに洗剤……とまぁ、今しがたお袋が口にした『腐らないけどかさばるモノ』ばかり。
つか、こーやってテレビで煽るから余計買わなきゃって気になるのもねーか?
ある意味、暗示みたいなもんで。
「どうせなら新車購入に踏み切る連中取材しろよ。そのほうがよっぽどおもしろい」
「そーゆー高いものはいいのよ。生活必需品だから大変なんじゃない」
「けど、食品は据え置きなんだろ?」
「だから買ってないでしょ」
「……あ、そ」
けろりと言われ、まあそうなんだけど……なんだ。まあいいや。
どうせ、お袋としては『増税前に買わなくちゃ』より、『買うのが楽しいから買わなくちゃ』のほうが近い気もするしな。
好きにしてくれ。どーでもいい。
俺としては、有意義な休みを大事にするだけ。
「あ、ちょっと。はいこれ」
「は?」
「メモ作ったから、買ってきて」
「……はァ? なんで俺が。断るに決まってんだろ」
「暇なんでしょ? 行ってきなさいよ。そんでもって、いかに生活を支える主婦たちが忙しいか身をもって知ってきなさい」
「なんで俺が」
「暇でしょ。そして、主婦を馬鹿にしたでしょ」
「いつ俺がンなことしたよ。してねーだろ」
「言ったじゃない、買ってきてやるって。いつだってね、誰かのために自分の時間削ってまでやってくれてる人がいることに感謝するものよ。だから今日は、アンタが行ってきなさい。私はこれから、ドラマのまとめ再放送見るから」
「すっげぇ暇じゃん」
「暇じゃないって言ってるでしょ! 見逃したドラマ見るのに忙しい!」
「ち。うるせーな」
まさかの展開に眉を寄せるも……つか、ひょっとして最初からその気だったか?
だとしたら、乗せられた感ハンパない。
……くそ。やっぱリビングに来たのが間違いだった。
ここはひとつ、なかったことにするか。
「あ、そうそう。発泡酒もうないからね」
「……何?」
「昨日、私が飲みきったので終わったから。欲しけりゃ買いに行きなさい」
「ンで買い置きしてねーんだよ! 腐るモンじゃねぇんだから、まとめて買ってきとけよ!」
部屋へ戻ろうといたところで告げられ、大きな声が出た。
ちょうど洗濯物を取り込んできたらしい葉月が、出ようとしたリビングのドアから入ってくる。
「あらやだ、アンタ自分で今言ったばかりでしょ?」
「は!? 何を!」
「あいにく買い置きするとかさばるのよね。段ボールって」
「っ……」
「それに、アレって重たいのよね。だから、せいぜい2箱までしかまとめ買いなんてできないし」
「…………」
「ま、たかが何十円の差だし? 私はこの間もらったワインがあるから、それでちびちびするわー。これからの時期、発泡酒飲むと身体も冷えちゃうしね」
「……くそが」
「あら何? 何か言った?」
「言ってねーよ」
しっかり毒づいた上で反応はしたが、からから笑ったお袋は、宣言通り始まったドラマらしきものを見ると俺を振り返ることはなかった。
腹立つ。
つか、せっかく今日はダラダラしようと思ったのに。
読みたい本もあったし、なんなら洗車とパーツの下見にって思ってたのに……めんどくせーのが増えた。
「お前、ひま?」
「え?」
「ルナちゃんを巻き込まないでちょーだい。忙しいわよ」
「お袋には聞いてねーだろ!」
振り返らずに反応され、腹は立つ。
だが、葉月は小さく笑うと首をかしげた。
「買い物へ行くの?」
「しょーがねーだろ。酒がない」
「たまには禁酒したらいいのに」
「ンな、言うほど家で飲まねーだろ」
俺と違って、ガバガバ空けるそいつのほうがよっぽど飲んでるっつの。
「本屋さんへ行ってもいい? ずっと読みたかった本を買っておきたいの」
「何読むんだ?」
「えっと……言わなきゃだめかな?」
「いや、別にいーけど」
まあ、どうせ本屋行きゃわかるし。
葉月の口ぶりからして、恐らくは俺がひとことふたこと言いそうなやつなんだろ。
増税前の……ね。
いや、そもそもコイツも同じ考えかどーかは知らないが、まあ……そりゃま、いいんじゃねーの。経済回すって意味ではな。
「金」
「アンタ、チンピラかなんか?」
「いや、メモだけじゃなくて渡せよ。買ってきてやるから」
「レシートと交換で払ってあげるわよ。じゃなきゃアンタ、余計なもんまで買ってくるでしょ」
「買わねぇっつの」
「そう言って、先週新しいルアーとテグス買ってきたのどこの誰? 馬鹿じゃないの?」
「あーわかったわかった」
これ以上張り合っても、俺の労力になるだけなのがわかったから、せめて大人しく行くとするか。
レシートと交換、ね。
んじゃ、食品売り場にあるもんなら買ってもバレねだーだろ。
「今日の飯は寿司にしよーぜ」
「もう。どうしてそうなるの?」
「買い出し手数料」
葉月の背を押してリビングから脱出し、財布を取りに行くべく階段へ向かう。
すると、俺を振り返りながら葉月が苦笑した。
「伯母さん、きっと明細もチェックすると思うよ?」
「そこはテキトーにごまかしとけって」
「もう。そんなことしたら、叱られちゃうじゃない」
「したら、俺に買い物言いつけなくなるだろ? ある意味都合いい」
思ったことを口にしたまでだったが、葉月は少しだけ呆れたような顔をした。
うわ、お前腹立つぞそれ。
つか、だんだんお袋に似てきてねぇ?
「あ。ついでに俺の買い物も付き合えよ」
「え? たーくん、何か買いたいものあったの?」
「ひょっとして、増税前セールとかやってんかもしんねーじゃん」
ふと思いついたことをそのまま口にしたら、葉月は一転してくすくす笑った。
ンだよ失礼だなお前。
とひとこと言ってやろうと思ったものの、先に口を開かれ、結局言うことはできなかった。
「たーくん、今朝の伯母さんと同じこと言ってる」
「っ……な……!」
「ふふ。似てるね、ふたりとも」
「違う!」
断固として拒否したものの、葉月はしばらくの間思い出すかのようにくすくす笑っていた。
間に合わなかったけど、増税小話。
……って、どんななんだか。
うぅ。本編書きます……。
「……それ、必要か?」
日曜の午後。
昨日の広告をまじまじ見ていたお袋へ告げると、すごい顔で睨まれた。
「アンタはいいわね、生活のことこれっぽっちも考えなくて済むんだから」
「失礼だぞ。俺だってちったぁ考えてる」
「あらそう。これっぽっちは考えてるのね。ふーん」
「……腹立つ」
冷茶のグラスを持ったままソファへ座ったのが、そもそも間違いだったらしい。
いつもみたいに、冷蔵庫から注いですぐ飲みきってくりゃよかったな。
そうしたら、こんな目に遭わなかっただろーに。
「つか、8%が10%になるだけって……たかが2%上がるだけだろ? デカい買い物するわけじゃねーし」
車や家の購入を検討してるなら、かなりデカいだろうけどな。
1000万ならそれこそ80万か100万の差だから、そりゃ今月までに契約すんだろーけど、たかが400円のトイレットペーパーだぜ?
32円と40円の違いって、そんなにデカくねーじゃん。
「だいたい、つい先週も同じこと言って買い溜めしてなかったか? どこに置くんだよ、紙ばっか。納戸いっぱいじゃねーの」
「あーやだやだ。これだから生活観念のない独り者は嫌なのよ。あのね、チリも積もればって言葉知らないの? たかが8円、されど8円よ? トイレットペーパーなんて、絶対使う必需品なんだから、安いうちにまとめて買っておいたらいいじゃない。腐るもんじゃないんだから」
「けど、置き場がなかったら邪魔でしかねーだろ? 今すぐ売り切れるようなもんでもねぇし、都度買いに行けよ」
「……あのね。買いに行けってアンタ、そもそもそのセリフが間違えてるってなんで気づかないの? 暇じゃないのよ私は!」
「なんでそーなんだよ。ンなこと言ってねーじゃん」
「買いに行けじゃなくて、買ってきなさいよじゃあ! アンタが! 帰りにドラッグストアのひとつやふたつ、あるでしょ!?」
ダン、とテーブルへ勢いよく湯呑みを置いたお袋が、あからさまに舌打ちをした。
うわ、やだやだ。
そーゆー反射すんから、俺がこーゆーふうに育ったってのに。
「買えたら買ってきてやるっつの」
「そのセリフじゃ、する気ゼロね」
「なんでだよ」
「行けたら行くってのと同レベルじゃない。絶対買ってこないわね、アンタ」
「……あのな」
つか、たかがトイレットペーパーごときでなんでここまで怒られなきゃなんねーんだよ。
それこそ、とばっちりでしかねーだろ。増税に対する。
しょーがねーじゃん。上がるもんは上がるんだから。
「…………」
ふとテレビを見ると、そこを流れるワイドショーでも『増税前の大量購入!』と題した内容を流していた。
トイレットペーパーに箱ティッシュ。紙おむつに洗剤……とまぁ、今しがたお袋が口にした『腐らないけどかさばるモノ』ばかり。
つか、こーやってテレビで煽るから余計買わなきゃって気になるのもねーか?
ある意味、暗示みたいなもんで。
「どうせなら新車購入に踏み切る連中取材しろよ。そのほうがよっぽどおもしろい」
「そーゆー高いものはいいのよ。生活必需品だから大変なんじゃない」
「けど、食品は据え置きなんだろ?」
「だから買ってないでしょ」
「……あ、そ」
けろりと言われ、まあそうなんだけど……なんだ。まあいいや。
どうせ、お袋としては『増税前に買わなくちゃ』より、『買うのが楽しいから買わなくちゃ』のほうが近い気もするしな。
好きにしてくれ。どーでもいい。
俺としては、有意義な休みを大事にするだけ。
「あ、ちょっと。はいこれ」
「は?」
「メモ作ったから、買ってきて」
「……はァ? なんで俺が。断るに決まってんだろ」
「暇なんでしょ? 行ってきなさいよ。そんでもって、いかに生活を支える主婦たちが忙しいか身をもって知ってきなさい」
「なんで俺が」
「暇でしょ。そして、主婦を馬鹿にしたでしょ」
「いつ俺がンなことしたよ。してねーだろ」
「言ったじゃない、買ってきてやるって。いつだってね、誰かのために自分の時間削ってまでやってくれてる人がいることに感謝するものよ。だから今日は、アンタが行ってきなさい。私はこれから、ドラマのまとめ再放送見るから」
「すっげぇ暇じゃん」
「暇じゃないって言ってるでしょ! 見逃したドラマ見るのに忙しい!」
「ち。うるせーな」
まさかの展開に眉を寄せるも……つか、ひょっとして最初からその気だったか?
だとしたら、乗せられた感ハンパない。
……くそ。やっぱリビングに来たのが間違いだった。
ここはひとつ、なかったことにするか。
「あ、そうそう。発泡酒もうないからね」
「……何?」
「昨日、私が飲みきったので終わったから。欲しけりゃ買いに行きなさい」
「ンで買い置きしてねーんだよ! 腐るモンじゃねぇんだから、まとめて買ってきとけよ!」
部屋へ戻ろうといたところで告げられ、大きな声が出た。
ちょうど洗濯物を取り込んできたらしい葉月が、出ようとしたリビングのドアから入ってくる。
「あらやだ、アンタ自分で今言ったばかりでしょ?」
「は!? 何を!」
「あいにく買い置きするとかさばるのよね。段ボールって」
「っ……」
「それに、アレって重たいのよね。だから、せいぜい2箱までしかまとめ買いなんてできないし」
「…………」
「ま、たかが何十円の差だし? 私はこの間もらったワインがあるから、それでちびちびするわー。これからの時期、発泡酒飲むと身体も冷えちゃうしね」
「……くそが」
「あら何? 何か言った?」
「言ってねーよ」
しっかり毒づいた上で反応はしたが、からから笑ったお袋は、宣言通り始まったドラマらしきものを見ると俺を振り返ることはなかった。
腹立つ。
つか、せっかく今日はダラダラしようと思ったのに。
読みたい本もあったし、なんなら洗車とパーツの下見にって思ってたのに……めんどくせーのが増えた。
「お前、ひま?」
「え?」
「ルナちゃんを巻き込まないでちょーだい。忙しいわよ」
「お袋には聞いてねーだろ!」
振り返らずに反応され、腹は立つ。
だが、葉月は小さく笑うと首をかしげた。
「買い物へ行くの?」
「しょーがねーだろ。酒がない」
「たまには禁酒したらいいのに」
「ンな、言うほど家で飲まねーだろ」
俺と違って、ガバガバ空けるそいつのほうがよっぽど飲んでるっつの。
「本屋さんへ行ってもいい? ずっと読みたかった本を買っておきたいの」
「何読むんだ?」
「えっと……言わなきゃだめかな?」
「いや、別にいーけど」
まあ、どうせ本屋行きゃわかるし。
葉月の口ぶりからして、恐らくは俺がひとことふたこと言いそうなやつなんだろ。
増税前の……ね。
いや、そもそもコイツも同じ考えかどーかは知らないが、まあ……そりゃま、いいんじゃねーの。経済回すって意味ではな。
「金」
「アンタ、チンピラかなんか?」
「いや、メモだけじゃなくて渡せよ。買ってきてやるから」
「レシートと交換で払ってあげるわよ。じゃなきゃアンタ、余計なもんまで買ってくるでしょ」
「買わねぇっつの」
「そう言って、先週新しいルアーとテグス買ってきたのどこの誰? 馬鹿じゃないの?」
「あーわかったわかった」
これ以上張り合っても、俺の労力になるだけなのがわかったから、せめて大人しく行くとするか。
レシートと交換、ね。
んじゃ、食品売り場にあるもんなら買ってもバレねだーだろ。
「今日の飯は寿司にしよーぜ」
「もう。どうしてそうなるの?」
「買い出し手数料」
葉月の背を押してリビングから脱出し、財布を取りに行くべく階段へ向かう。
すると、俺を振り返りながら葉月が苦笑した。
「伯母さん、きっと明細もチェックすると思うよ?」
「そこはテキトーにごまかしとけって」
「もう。そんなことしたら、叱られちゃうじゃない」
「したら、俺に買い物言いつけなくなるだろ? ある意味都合いい」
思ったことを口にしたまでだったが、葉月は少しだけ呆れたような顔をした。
うわ、お前腹立つぞそれ。
つか、だんだんお袋に似てきてねぇ?
「あ。ついでに俺の買い物も付き合えよ」
「え? たーくん、何か買いたいものあったの?」
「ひょっとして、増税前セールとかやってんかもしんねーじゃん」
ふと思いついたことをそのまま口にしたら、葉月は一転してくすくす笑った。
ンだよ失礼だなお前。
とひとこと言ってやろうと思ったものの、先に口を開かれ、結局言うことはできなかった。
「たーくん、今朝の伯母さんと同じこと言ってる」
「っ……な……!」
「ふふ。似てるね、ふたりとも」
「違う!」
断固として拒否したものの、葉月はしばらくの間思い出すかのようにくすくす笑っていた。