Meeting new
2020.04.06
自粛自粛で、私にできることは何かなーと思ったんですが、
どう考えても、みなさんの暇つぶしになるようなもんを投稿する程度かなと。
いつまで続くかわかりませんし、きっとおそらくたぶん単発で終わる気がしますが、
ちょっとでも笑ってもらえたら、幸いです!
「さー、今日から新年度! みんな、よろしくねー」
高校3年の4月。
新年度初日を迎え、初めましての出会いがあった。
担任の先生はこれまでと同じ日永先生だったけれど、副担任の先生が……初めましてなうえに、若い男の先生とあって、正直みんなテンションが高かった。
かくいう私も、その先生の教科担当だったこともあって、初日からばっちり話せたわけで。
……絵里にはからかわれたけど、でも、ちょっとだけ嬉しい気持ちはあった。
だって、かっこいい人と話せる機会なんて、日常ではそう多くない。
たまに行くお店の店員さんとか、教育実習で来る大学生とか、バスの中で見かける人がせいぜい。
なのに、これからは副担任とあってほぼ毎日確実に会うことができるし、なんだったら、話だってできちゃうんだよ?
これってすごいことだと思う。
「……えへへ」
明日が楽しみだなぁ、なんてバス停から家まで歩きながら、勝手に頬がゆるんだ。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
いつもより少し早い時間にもかかわらず、リビングのドアを開けるとお母さんとお兄ちゃんが揃っていた。
珍しい。
特に、お兄ちゃんなんていつも帰宅したら部屋へ行っちゃうのに。
ソファへ座ったまま、これまた珍しくスポーツ番組じゃないテレビを見ていて、正直意外だった。
「あ、羽織。担任の先生誰だったの?」
「日永先生だよ」
「あら、じゃあ安心ね。今年はびしばししごいてもらって、きっちりお勉強しなさい」
「ぅ……がんばり、ます」
ほとんど荷物の入ってないリュックだったのに、急にずしりと重たくなった。
勉強。そうだよね、だって今年受験生だもん。
お兄ちゃんはとっくに卒業して、今は卒業した大学で司書をやっている。
昔聞いた夢は国語の先生だったのに、どこがどうなってそこへたどり着いたのかは知らないけれど、でも、私ももしかしたら抱いている夢とは違うものを得ることになるかもしれないんだよね。
そう考えると、人生って不思議だなって思う。
小さいころは、ケーキ屋さんになりたかった。
あんなにおいしくて、ふわふわしてて、見るだけで笑顔になる食べ物はほかにないと思う。
……えっと、もちろんドーナツやアイスやクレープだって、見たら同じように笑顔になるとは思うけどね?
だけど、ケーキって特別なんだもん。
たまーにお母さんがケーキを焼いてくれることがあるけれど、それってすごくスペシャルな気になるし、なんでもない日のおやつにケーキがあると、それだけでテンション上がる。
嫌なことがあっても、その気持ちが吹き飛んじゃう不思議なチカラがある食べ物だから、私もそれを通じてみんなに笑顔になってほしかったし、何より、販売する側の自分もいつも幸せな気持ちになれそうな気がして、ケーキ屋さんになりたかった。
でも、小学校5年生のときに出会った学校の先生が、すごくおもしろくて、優しくて、かっこよくて。
とにかく学校へ通うことが毎日楽しくなったことで、「私も先生みたいな先生になりたい」って思うようになった。
だから、今のところ5年生から夢は変わっていない。
教育学部に行って、小学校の先生になりたいと今も思っている。
でも……お兄ちゃんが途中で夢を変えたように、私も変えたりするのかな。
少し先の未来だけど、来年どころか、正直明日だってどうなるか見通す力は私にない。
きっと、今日と同じ当たり前の日なんだろうなとぼんやりは考えるけれど、それは見通しを立ててるわけじゃなくて、単なる期待。
だろうな、きっと。
そんな推測でしかないから、何年も先の私がどこで何をしているかは、それこそ誰にもわからないことだ。
「まあ、小学校と違ってなかなか若い先生が担任になることはないわよねー」
湯呑みを傾けながら、お母さんがおせんべいの袋を開けた。
ちなみに、テーブルには同じ袋が2つ乗っていて、もうすでに3つめらしいとわかる。
「あ、でも副担任の先生は若い男の先生だよ」
「まああっ! なんですって!?」
リュックをその場へ下ろしてから、シンクへ向かいそこで手を洗う。
本当は洗面所が当たり前なんだろうけれど、今日、水筒持っていくの忘れちゃったんだよね。
喉がかわいたこともあって、冷蔵庫に近いキッチンを選んだ。
「いくつ?」
「何が?」
「年よ、年!」
「えっと……今年24って言ってたかな」
「んまぁぁあああ!! 24!? わかっ! すんごい若いじゃない!!」
「そうだね。あ、でも1年のときの田代先生もその年だったんだよ」
「はぁあああいいわー。いいわねー!! そんな若い男の先生とか、確実にイケメンじゃない!!」
冷蔵庫にあったレモンティーのペットボトルを手に、リビングへ。
すると、比喩でもなんでもなく、お母さんは両手を頬へ当てるときらきらした顔で私を見つめた。
「で? どんな先生?」
「んー……かっこいい先生」
「へぇえええ!! ああもう写真ないの!?」
「な、ないよさすがに! あ、でも広報誌が毎年配られるから、そのとき見れるんじゃない?」
「それじゃ遅いでしょ? ああもぉ、1枚くらいこっそり撮ってきなさいよ」
「えぇ!? そんな、盗撮みたいなことできるわけないってば!」
「まったくもー。気が利かないわね」
「お母さんっ!」
とんでもない発言だけでなく、まるでお兄ちゃんみたいに小さく舌打ちされ、さすがに眉が寄る。
もぅ。お母さんとお兄ちゃんって、本当によく似てるよね。
さすがにあんな乱暴な口はきかないけれど、今の反応お兄ちゃんそっくり。
「教科は何?」
「化学だよ」
「理系ね。あーーこれでかっこよかったらもうホントパーフェクトだわ。三者面談、日永先生だけじゃなくてその先生も同席してくれないかしら」
「えぇ……? ないでしょ」
「あら。それじゃ、ちょっと呼び出されなさいよ。学校行ってくるから」
「もぅ。お兄ちゃんじゃないんだから、呼び出されたりしないってば!」
お母さんの対面へ座りながら、テーブルにあったおせんべい……ではなく、チョコパイを手にする。
えへへ。おいしいよね、これ。
袋を開けた瞬間、チョコレートの甘い香りがして頬がゆるんだ。
「誰が呼び出されたって?」
「え? お兄ちゃん、高校のときしょっちゅう家へ電話かかってきたよね?」
「しょっちゅうってほど親呼ばれてねーだろ。失礼だぞ、お前」
「だって、すっごく記憶に残ってるんだもん。学校で悪いことすると電話くるんだーって」
「してねーっつの」
両手を頭の後ろで組んだまま、お兄ちゃんが足を組み替えた。
いやいやいや、してたでしょ? いろいろ。
お母さん、いつもあれやこれや言ってたもん、間違いじゃないはず。
現に、目の前のお母さんがうんうんうなずいてるんだから、それが何よりの証拠だと思う。
「つか、24って俺と同い年じゃん。息子と同年齢相手にキャーキャー言うとか、もちっと考えたほうがいいぜ」
「あんたと違ってイケメンなんだからしょうがないじゃない」
「見てもいねーのに、よくもまぁ想像でしゃべれんな」
「あんただって見てないでしょ。じゃあ私の代わりに見てきなさいよ」
「遅刻すれすれのコイツを送ってったところで、その副担任がわざわざ出迎えるわけでもなし、俺が会えるかっつの」
「なんかこう、ないの? 地元の高校へ出張ブックトークみたいな」
「あのな。誰が好きこのんで妹の通う学校へ行くんだよ。馬鹿か!」
だいたい、ブックトークなんて小学校メインだろ。
そう言いながらお兄ちゃんが鼻で笑い、テレビの番組を変えた。
ちょうどプロ野球の開幕についてキャスターが熱く語っていてか、姿勢を変えて身を乗り出す。
まあでも確かに、私だってお兄ちゃんが学校へ来るとか嫌だなぁ。
瀬尋先生みたいに、優しくてカッコいい人がお兄ちゃんだったら友達に羨ましがられるだろうから大歓迎だけど、これだけ毒づくお兄ちゃんと兄妹だって知られた日には、なんとなく先生方の私を見る目が変わってしまいそうで怖い。
もしかしたら、当時お兄ちゃんに関わってた先生が、うちの学校へ異動してないとも言えないし。
遠慮したいどころか、ぜひともやめていただきたい。
……あ、でも、その……寝坊というアクシデントの影響でバスのないときには、途中まででいいから乗せてってもらいたいけれど。
ちなみに、過去にも何度か学校のロータリーまで送ってもらったことが実はあって、そこを同級生に見られたことがある。
「ねえ、羽織。高校って家庭訪問なかったっけ?」
「ないよ?」
「はー残念。ぜひとも見てみたかったのに」
大きめのひとくちを頬張ったあと、お母さんは机へ伏せるように腕を伸ばした。
そんなに残念がるなんて思わなかったなぁ。
ああ、でもそういえばついこの間、勤めている保育園に卒業したばかりの男性保育士さんが所属になったって言って、しばらく喜んでたっけ。
……そういうものなのかな。
私も、お母さんくらいの年代になったらわかること?
まあでも……カッコいい人は、見てるだけで楽しいよね。
それだけでもいいけど、個人的なものじゃなくてもお話できるとあったら、やっぱりテンション上がるかもしれない。
……ていうか、正直明日からも楽しみだから、私は私で浮かれてるんだろうけれど。
「そんな言うなら、直接行ってくりゃいいじゃん。どうせ暇だろ?」
「失礼ね。暇じゃないわよ」
「暇じゃなくても見てぇんじゃねーの?」
「それは確かに」
「……もぅ。お母さんっ!」
ていうか、まさかそこうなずいちゃうとか思わないでしょ。
真顔で大きくうなずいたのを見て、さすがに声があがった。
明日はどうなるかなんて、誰にもわからない。
その言葉はまさにそのとおりで、まさかこの数日後に直接家まで噂の先生が来ることになるなんて、このときの私たちは誰も予想できていなかった。
そしてそして……その先生と、私が個人的な関係を結ぶようになることも。
どう考えても、みなさんの暇つぶしになるようなもんを投稿する程度かなと。
いつまで続くかわかりませんし、きっとおそらくたぶん単発で終わる気がしますが、
ちょっとでも笑ってもらえたら、幸いです!
「さー、今日から新年度! みんな、よろしくねー」
高校3年の4月。
新年度初日を迎え、初めましての出会いがあった。
担任の先生はこれまでと同じ日永先生だったけれど、副担任の先生が……初めましてなうえに、若い男の先生とあって、正直みんなテンションが高かった。
かくいう私も、その先生の教科担当だったこともあって、初日からばっちり話せたわけで。
……絵里にはからかわれたけど、でも、ちょっとだけ嬉しい気持ちはあった。
だって、かっこいい人と話せる機会なんて、日常ではそう多くない。
たまに行くお店の店員さんとか、教育実習で来る大学生とか、バスの中で見かける人がせいぜい。
なのに、これからは副担任とあってほぼ毎日確実に会うことができるし、なんだったら、話だってできちゃうんだよ?
これってすごいことだと思う。
「……えへへ」
明日が楽しみだなぁ、なんてバス停から家まで歩きながら、勝手に頬がゆるんだ。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
いつもより少し早い時間にもかかわらず、リビングのドアを開けるとお母さんとお兄ちゃんが揃っていた。
珍しい。
特に、お兄ちゃんなんていつも帰宅したら部屋へ行っちゃうのに。
ソファへ座ったまま、これまた珍しくスポーツ番組じゃないテレビを見ていて、正直意外だった。
「あ、羽織。担任の先生誰だったの?」
「日永先生だよ」
「あら、じゃあ安心ね。今年はびしばししごいてもらって、きっちりお勉強しなさい」
「ぅ……がんばり、ます」
ほとんど荷物の入ってないリュックだったのに、急にずしりと重たくなった。
勉強。そうだよね、だって今年受験生だもん。
お兄ちゃんはとっくに卒業して、今は卒業した大学で司書をやっている。
昔聞いた夢は国語の先生だったのに、どこがどうなってそこへたどり着いたのかは知らないけれど、でも、私ももしかしたら抱いている夢とは違うものを得ることになるかもしれないんだよね。
そう考えると、人生って不思議だなって思う。
小さいころは、ケーキ屋さんになりたかった。
あんなにおいしくて、ふわふわしてて、見るだけで笑顔になる食べ物はほかにないと思う。
……えっと、もちろんドーナツやアイスやクレープだって、見たら同じように笑顔になるとは思うけどね?
だけど、ケーキって特別なんだもん。
たまーにお母さんがケーキを焼いてくれることがあるけれど、それってすごくスペシャルな気になるし、なんでもない日のおやつにケーキがあると、それだけでテンション上がる。
嫌なことがあっても、その気持ちが吹き飛んじゃう不思議なチカラがある食べ物だから、私もそれを通じてみんなに笑顔になってほしかったし、何より、販売する側の自分もいつも幸せな気持ちになれそうな気がして、ケーキ屋さんになりたかった。
でも、小学校5年生のときに出会った学校の先生が、すごくおもしろくて、優しくて、かっこよくて。
とにかく学校へ通うことが毎日楽しくなったことで、「私も先生みたいな先生になりたい」って思うようになった。
だから、今のところ5年生から夢は変わっていない。
教育学部に行って、小学校の先生になりたいと今も思っている。
でも……お兄ちゃんが途中で夢を変えたように、私も変えたりするのかな。
少し先の未来だけど、来年どころか、正直明日だってどうなるか見通す力は私にない。
きっと、今日と同じ当たり前の日なんだろうなとぼんやりは考えるけれど、それは見通しを立ててるわけじゃなくて、単なる期待。
だろうな、きっと。
そんな推測でしかないから、何年も先の私がどこで何をしているかは、それこそ誰にもわからないことだ。
「まあ、小学校と違ってなかなか若い先生が担任になることはないわよねー」
湯呑みを傾けながら、お母さんがおせんべいの袋を開けた。
ちなみに、テーブルには同じ袋が2つ乗っていて、もうすでに3つめらしいとわかる。
「あ、でも副担任の先生は若い男の先生だよ」
「まああっ! なんですって!?」
リュックをその場へ下ろしてから、シンクへ向かいそこで手を洗う。
本当は洗面所が当たり前なんだろうけれど、今日、水筒持っていくの忘れちゃったんだよね。
喉がかわいたこともあって、冷蔵庫に近いキッチンを選んだ。
「いくつ?」
「何が?」
「年よ、年!」
「えっと……今年24って言ってたかな」
「んまぁぁあああ!! 24!? わかっ! すんごい若いじゃない!!」
「そうだね。あ、でも1年のときの田代先生もその年だったんだよ」
「はぁあああいいわー。いいわねー!! そんな若い男の先生とか、確実にイケメンじゃない!!」
冷蔵庫にあったレモンティーのペットボトルを手に、リビングへ。
すると、比喩でもなんでもなく、お母さんは両手を頬へ当てるときらきらした顔で私を見つめた。
「で? どんな先生?」
「んー……かっこいい先生」
「へぇえええ!! ああもう写真ないの!?」
「な、ないよさすがに! あ、でも広報誌が毎年配られるから、そのとき見れるんじゃない?」
「それじゃ遅いでしょ? ああもぉ、1枚くらいこっそり撮ってきなさいよ」
「えぇ!? そんな、盗撮みたいなことできるわけないってば!」
「まったくもー。気が利かないわね」
「お母さんっ!」
とんでもない発言だけでなく、まるでお兄ちゃんみたいに小さく舌打ちされ、さすがに眉が寄る。
もぅ。お母さんとお兄ちゃんって、本当によく似てるよね。
さすがにあんな乱暴な口はきかないけれど、今の反応お兄ちゃんそっくり。
「教科は何?」
「化学だよ」
「理系ね。あーーこれでかっこよかったらもうホントパーフェクトだわ。三者面談、日永先生だけじゃなくてその先生も同席してくれないかしら」
「えぇ……? ないでしょ」
「あら。それじゃ、ちょっと呼び出されなさいよ。学校行ってくるから」
「もぅ。お兄ちゃんじゃないんだから、呼び出されたりしないってば!」
お母さんの対面へ座りながら、テーブルにあったおせんべい……ではなく、チョコパイを手にする。
えへへ。おいしいよね、これ。
袋を開けた瞬間、チョコレートの甘い香りがして頬がゆるんだ。
「誰が呼び出されたって?」
「え? お兄ちゃん、高校のときしょっちゅう家へ電話かかってきたよね?」
「しょっちゅうってほど親呼ばれてねーだろ。失礼だぞ、お前」
「だって、すっごく記憶に残ってるんだもん。学校で悪いことすると電話くるんだーって」
「してねーっつの」
両手を頭の後ろで組んだまま、お兄ちゃんが足を組み替えた。
いやいやいや、してたでしょ? いろいろ。
お母さん、いつもあれやこれや言ってたもん、間違いじゃないはず。
現に、目の前のお母さんがうんうんうなずいてるんだから、それが何よりの証拠だと思う。
「つか、24って俺と同い年じゃん。息子と同年齢相手にキャーキャー言うとか、もちっと考えたほうがいいぜ」
「あんたと違ってイケメンなんだからしょうがないじゃない」
「見てもいねーのに、よくもまぁ想像でしゃべれんな」
「あんただって見てないでしょ。じゃあ私の代わりに見てきなさいよ」
「遅刻すれすれのコイツを送ってったところで、その副担任がわざわざ出迎えるわけでもなし、俺が会えるかっつの」
「なんかこう、ないの? 地元の高校へ出張ブックトークみたいな」
「あのな。誰が好きこのんで妹の通う学校へ行くんだよ。馬鹿か!」
だいたい、ブックトークなんて小学校メインだろ。
そう言いながらお兄ちゃんが鼻で笑い、テレビの番組を変えた。
ちょうどプロ野球の開幕についてキャスターが熱く語っていてか、姿勢を変えて身を乗り出す。
まあでも確かに、私だってお兄ちゃんが学校へ来るとか嫌だなぁ。
瀬尋先生みたいに、優しくてカッコいい人がお兄ちゃんだったら友達に羨ましがられるだろうから大歓迎だけど、これだけ毒づくお兄ちゃんと兄妹だって知られた日には、なんとなく先生方の私を見る目が変わってしまいそうで怖い。
もしかしたら、当時お兄ちゃんに関わってた先生が、うちの学校へ異動してないとも言えないし。
遠慮したいどころか、ぜひともやめていただきたい。
……あ、でも、その……寝坊というアクシデントの影響でバスのないときには、途中まででいいから乗せてってもらいたいけれど。
ちなみに、過去にも何度か学校のロータリーまで送ってもらったことが実はあって、そこを同級生に見られたことがある。
「ねえ、羽織。高校って家庭訪問なかったっけ?」
「ないよ?」
「はー残念。ぜひとも見てみたかったのに」
大きめのひとくちを頬張ったあと、お母さんは机へ伏せるように腕を伸ばした。
そんなに残念がるなんて思わなかったなぁ。
ああ、でもそういえばついこの間、勤めている保育園に卒業したばかりの男性保育士さんが所属になったって言って、しばらく喜んでたっけ。
……そういうものなのかな。
私も、お母さんくらいの年代になったらわかること?
まあでも……カッコいい人は、見てるだけで楽しいよね。
それだけでもいいけど、個人的なものじゃなくてもお話できるとあったら、やっぱりテンション上がるかもしれない。
……ていうか、正直明日からも楽しみだから、私は私で浮かれてるんだろうけれど。
「そんな言うなら、直接行ってくりゃいいじゃん。どうせ暇だろ?」
「失礼ね。暇じゃないわよ」
「暇じゃなくても見てぇんじゃねーの?」
「それは確かに」
「……もぅ。お母さんっ!」
ていうか、まさかそこうなずいちゃうとか思わないでしょ。
真顔で大きくうなずいたのを見て、さすがに声があがった。
明日はどうなるかなんて、誰にもわからない。
その言葉はまさにそのとおりで、まさかこの数日後に直接家まで噂の先生が来ることになるなんて、このときの私たちは誰も予想できていなかった。
そしてそして……その先生と、私が個人的な関係を結ぶようになることも。