pudding return
2020.04.09
家にいるので、ええ、暇ですよ。
飯炊きくらいはしてますが、ええ暇ですとも!!
毎日まいにち、「お腹すいた」コールを聞きながら、いや自分で作れやと返しつつ、自分も食べるので結局作る日々。
とりあえず、自分の健康を守るために私は避難するわ……。
ソロキャンしたい。庭でもベランダでもいいから!!(切実)
「あー……眠たい」
「ちょっとお昼寝したら?」
「うぅ……でも、これをやっておかないと、明日きつくなるから……」
「じゃあ、少し何か飲む?」
「……ありがとう」
おやつの時間より、少し前。
リビングのテーブルでレポート作成のための分厚い本を読んでいたら、唐突に眠気が襲った。
昨日遅かったのもある。
でも……どう考えても、この300ページもある『心理学概論』の本の影響だと思うんだよね。
錯視といい、実験名といい、心理学者といい……どうしてみんなカタカナなんだろう。
世界史も苦手だった私にとっては、やっぱりきつい部分なんだと思う。
でも、同じようにお昼を食べて、同じようにリビングで勉強していた葉月は、これっぽっちもそんな様子ないんだよね。
何が違うんだろう。
……うぅ、頭の使い方が違うのは自分でもわかってるから触れられない。
「ん、これおいしいねー」
「そう? よかった」
「ていうか、ちゃんとプリンの味がする!」
糖分とちょうどいいタンパク質の補給ってことで、葉月がくれたのはプリン味の豆乳。
初めて見たけど、ひとくち飲んで『ざ・プリン』の味にあの感想が出た。
「葉月は飲んでないの?」
「たまたま、2本だけ売ってたの。だから、飲もうかなとは思ったんだけど……プリン好きな人が、うちにはもうひとりいるじゃない?」
「うーん……けど、お兄ちゃん豆乳飲まなさそうだよね」
「やっぱりそう思う?」
「うん。どっちかっていうと、豆じゃなくて麦っていうか」
芋っていうか、つまりはお酒。
そういえば、豆からできたお酒って知らないないなぁ、なんてふと思う。
「プリンといえば……来週、プリンシェイクが出るって知ってた?」
「え!? どこで!?」
隣へ腰を下ろした葉月が、スマフォを取り出しながら笑った。
あ、もしかしなくても私の反応が『羽織らしいね』ってことだよね。
うぅ、だってプリンおいしいんだもん。
小さいころお母さんがよく作ってくれたせいか、ついつい食べたくなる。
そういえばこの間、葉月が作ってくれたかぼちゃプリンはどっしりじゅわっとしていて、すごくおいしかったっけ。
「ほら」
「わ! ほんとだ!」
見せてくれた画面には、大きな赤いMが目印の特集。
カラメルソースもついてくるとあって、これは……期待大すぎる。
毎年、季節限定で出る味おいしいんだよね。
ちなみにキャラメルは、私の中の不動の1位だ。
「うーん……自粛中とはいえ、買い物はいいんだよね?」
「大丈夫でしょう? ほら、さっき私も外へ出たし」
確かに午前中、葉月は買い物に出ている。
いつもと比べたらお客さんたちは少なめだったらしいけれど、食料品売り場は閉ざされることなく通常営業だったそう。
ちなみに、暇なお兄ちゃんが付き添っている。
あ。
「それ買ったとき、お兄ちゃん何か言わなかった?」
「そもそもね、売り場に並んでるたくさんのフレーバーを見て感心してたよ。『よく考えるよな』って」
あー、言いそう。
ていうか、多分もっとひどい言い方な気もする。
お兄ちゃんって、なんであんなに口が悪いんだろう。
……育ちのせい……?
だとしたら、咄嗟に私も出るのかな。
それはやだなぁ……気をつけよう。
「うーん」
さて。
例のプリンシェイクの販売は、来週の13日。
うちから一番近い店舗まで、歩いたら……どれくらいかかるかなぁ。
15分はかからないと思うけど、そこそこの距離がある。
車なら3分。
そして、ドライブスルー完備。
……となったら……。
「は?」
「お兄ちゃん知らないの? 13日から出るんだよ」
おやつの時間ぴったりにリビングへ下りてきたところで、スマフォを見せる。
葉月のものではなく、私の。
ちなみに、いちばんおいしそうに写っている写真と、とてもとてもそそられるような文章がつづられているサイトを見つけておいた。
時間にして、20分ちょっとかかった……の。実は。
ああ、この時間を読書に当てていたら、もう少し読めただろうなぁとやったあとで反省。
「…………」
「キャラメルに続いてプリンだよ?」
「…………」
「しかもカラメルソースつき!」
黙ってスマフォを眺めているところへ、にこにこしながら言葉を足してみる。
結局、お父さんもお母さんも仕事が休みになったのは、緊急事態宣言が出された次の日だけ。
今はもう、通常勤務へ戻っている。
ただまあ……ちょっとはいつもより帰ってくる時間が早くはなってるけどね。
「で?」
「あ」
放るようにスマフォを返され、しかも『で?』そのものの顔をされた。
うぅ……何それ。
でって……いやあの、あのね?
飲みたくなったでしょ? 欲しいと思わない?
車で3分だからその……ねえ。
「買って来て」
「ハナっからそれ言えよ」
「だって、面倒くさがりそうなんだもん」
「そりゃな。でも、のってやる」
「すごい! プリンのチカラって偉大だね」
「……あのな。そうじゃねーだろ」
あっさり承諾したのを見て思わず手を叩くと、嫌そうな顔をして小さく舌打ちした。
でも、買ってきてくれることになったんだもん、嬉しい。
来週が待ち遠しいなぁ。
「え?」
「ひとくち」
さっき私が飲んだ豆乳プリンを葉月が手にしているのを見て、お兄ちゃんが左手を伸ばした。
飲むんだ。
豆乳とお兄ちゃんがさっぱり結びつかなかったけど、やっぱり“プリン”って名前のつくものの威力ってすごいんだなぁと改めて実感。
ひとくち飲む様子を、思わず葉月と同じように黙って見つめてしまった。
「……あー」
「どう?」
「プリンだな」
「ね。おいしいよね」
「まあ、味はプリンだけど後味豆乳だな」
「すごい……豆乳の香り、わかるの?」
「たりめーだろ」
紙パックを葉月へ返しながら、お兄ちゃんが眉を寄せた。
別に馬鹿にしたわけじゃなくて、私は豆乳の後味を感じなかっただけ。
……うーん。鼻が詰まってるのかな。
それとも、味覚の問題?
だとしたら、お兄ちゃんって結構繊細なんだね。見た目と違って。
「なんだよ」
「え?」
「お前今、一瞬俺のこと馬鹿にしたろ」
「え!? なんで、そんなことしてないってば」
目を細められて放たれた言葉に、ぎくりとしながら両手を振る。
まさか、そんなことしてないよー。
あはは、と笑いながら続けると、それはそれはいぶかしげに見られ、慌てて心理学の本へ戻ることにした。
プリンシェイク発売まで、あと少し。
家にいながらあの味を体験できるなんて……ああ、いい時期だなぁ。
てことは、お兄ちゃん13日にひとりでお姉さんへ『プリンシェイク3つ』ってオーダーするんだよね。
…………。
それはそれで見てみたい、って絵里が言いそう。
ああ、そういえば絵里ってば今ごろ何してるのかな。
昨日の夜は『暇すぎてDIY始めた』っていうなかなか謎な行動をしてるみたいだけど、どうやら充実はしてるらしい。
ちなみに、送られてきた本棚の写真はなかなか職人的に上手で、お兄ちゃんに見せたら『だいぶ極めてんな』と感想を口にした。
これ、おいしかったー。
また買ってこよーっと思ったときの、こぼれ話。
飯炊きくらいはしてますが、ええ暇ですとも!!
毎日まいにち、「お腹すいた」コールを聞きながら、いや自分で作れやと返しつつ、自分も食べるので結局作る日々。
とりあえず、自分の健康を守るために私は避難するわ……。
ソロキャンしたい。庭でもベランダでもいいから!!(切実)
「あー……眠たい」
「ちょっとお昼寝したら?」
「うぅ……でも、これをやっておかないと、明日きつくなるから……」
「じゃあ、少し何か飲む?」
「……ありがとう」
おやつの時間より、少し前。
リビングのテーブルでレポート作成のための分厚い本を読んでいたら、唐突に眠気が襲った。
昨日遅かったのもある。
でも……どう考えても、この300ページもある『心理学概論』の本の影響だと思うんだよね。
錯視といい、実験名といい、心理学者といい……どうしてみんなカタカナなんだろう。
世界史も苦手だった私にとっては、やっぱりきつい部分なんだと思う。
でも、同じようにお昼を食べて、同じようにリビングで勉強していた葉月は、これっぽっちもそんな様子ないんだよね。
何が違うんだろう。
……うぅ、頭の使い方が違うのは自分でもわかってるから触れられない。
「ん、これおいしいねー」
「そう? よかった」
「ていうか、ちゃんとプリンの味がする!」
糖分とちょうどいいタンパク質の補給ってことで、葉月がくれたのはプリン味の豆乳。
初めて見たけど、ひとくち飲んで『ざ・プリン』の味にあの感想が出た。
「葉月は飲んでないの?」
「たまたま、2本だけ売ってたの。だから、飲もうかなとは思ったんだけど……プリン好きな人が、うちにはもうひとりいるじゃない?」
「うーん……けど、お兄ちゃん豆乳飲まなさそうだよね」
「やっぱりそう思う?」
「うん。どっちかっていうと、豆じゃなくて麦っていうか」
芋っていうか、つまりはお酒。
そういえば、豆からできたお酒って知らないないなぁ、なんてふと思う。
「プリンといえば……来週、プリンシェイクが出るって知ってた?」
「え!? どこで!?」
隣へ腰を下ろした葉月が、スマフォを取り出しながら笑った。
あ、もしかしなくても私の反応が『羽織らしいね』ってことだよね。
うぅ、だってプリンおいしいんだもん。
小さいころお母さんがよく作ってくれたせいか、ついつい食べたくなる。
そういえばこの間、葉月が作ってくれたかぼちゃプリンはどっしりじゅわっとしていて、すごくおいしかったっけ。
「ほら」
「わ! ほんとだ!」
見せてくれた画面には、大きな赤いMが目印の特集。
カラメルソースもついてくるとあって、これは……期待大すぎる。
毎年、季節限定で出る味おいしいんだよね。
ちなみにキャラメルは、私の中の不動の1位だ。
「うーん……自粛中とはいえ、買い物はいいんだよね?」
「大丈夫でしょう? ほら、さっき私も外へ出たし」
確かに午前中、葉月は買い物に出ている。
いつもと比べたらお客さんたちは少なめだったらしいけれど、食料品売り場は閉ざされることなく通常営業だったそう。
ちなみに、暇なお兄ちゃんが付き添っている。
あ。
「それ買ったとき、お兄ちゃん何か言わなかった?」
「そもそもね、売り場に並んでるたくさんのフレーバーを見て感心してたよ。『よく考えるよな』って」
あー、言いそう。
ていうか、多分もっとひどい言い方な気もする。
お兄ちゃんって、なんであんなに口が悪いんだろう。
……育ちのせい……?
だとしたら、咄嗟に私も出るのかな。
それはやだなぁ……気をつけよう。
「うーん」
さて。
例のプリンシェイクの販売は、来週の13日。
うちから一番近い店舗まで、歩いたら……どれくらいかかるかなぁ。
15分はかからないと思うけど、そこそこの距離がある。
車なら3分。
そして、ドライブスルー完備。
……となったら……。
「は?」
「お兄ちゃん知らないの? 13日から出るんだよ」
おやつの時間ぴったりにリビングへ下りてきたところで、スマフォを見せる。
葉月のものではなく、私の。
ちなみに、いちばんおいしそうに写っている写真と、とてもとてもそそられるような文章がつづられているサイトを見つけておいた。
時間にして、20分ちょっとかかった……の。実は。
ああ、この時間を読書に当てていたら、もう少し読めただろうなぁとやったあとで反省。
「…………」
「キャラメルに続いてプリンだよ?」
「…………」
「しかもカラメルソースつき!」
黙ってスマフォを眺めているところへ、にこにこしながら言葉を足してみる。
結局、お父さんもお母さんも仕事が休みになったのは、緊急事態宣言が出された次の日だけ。
今はもう、通常勤務へ戻っている。
ただまあ……ちょっとはいつもより帰ってくる時間が早くはなってるけどね。
「で?」
「あ」
放るようにスマフォを返され、しかも『で?』そのものの顔をされた。
うぅ……何それ。
でって……いやあの、あのね?
飲みたくなったでしょ? 欲しいと思わない?
車で3分だからその……ねえ。
「買って来て」
「ハナっからそれ言えよ」
「だって、面倒くさがりそうなんだもん」
「そりゃな。でも、のってやる」
「すごい! プリンのチカラって偉大だね」
「……あのな。そうじゃねーだろ」
あっさり承諾したのを見て思わず手を叩くと、嫌そうな顔をして小さく舌打ちした。
でも、買ってきてくれることになったんだもん、嬉しい。
来週が待ち遠しいなぁ。
「え?」
「ひとくち」
さっき私が飲んだ豆乳プリンを葉月が手にしているのを見て、お兄ちゃんが左手を伸ばした。
飲むんだ。
豆乳とお兄ちゃんがさっぱり結びつかなかったけど、やっぱり“プリン”って名前のつくものの威力ってすごいんだなぁと改めて実感。
ひとくち飲む様子を、思わず葉月と同じように黙って見つめてしまった。
「……あー」
「どう?」
「プリンだな」
「ね。おいしいよね」
「まあ、味はプリンだけど後味豆乳だな」
「すごい……豆乳の香り、わかるの?」
「たりめーだろ」
紙パックを葉月へ返しながら、お兄ちゃんが眉を寄せた。
別に馬鹿にしたわけじゃなくて、私は豆乳の後味を感じなかっただけ。
……うーん。鼻が詰まってるのかな。
それとも、味覚の問題?
だとしたら、お兄ちゃんって結構繊細なんだね。見た目と違って。
「なんだよ」
「え?」
「お前今、一瞬俺のこと馬鹿にしたろ」
「え!? なんで、そんなことしてないってば」
目を細められて放たれた言葉に、ぎくりとしながら両手を振る。
まさか、そんなことしてないよー。
あはは、と笑いながら続けると、それはそれはいぶかしげに見られ、慌てて心理学の本へ戻ることにした。
プリンシェイク発売まで、あと少し。
家にいながらあの味を体験できるなんて……ああ、いい時期だなぁ。
てことは、お兄ちゃん13日にひとりでお姉さんへ『プリンシェイク3つ』ってオーダーするんだよね。
…………。
それはそれで見てみたい、って絵里が言いそう。
ああ、そういえば絵里ってば今ごろ何してるのかな。
昨日の夜は『暇すぎてDIY始めた』っていうなかなか謎な行動をしてるみたいだけど、どうやら充実はしてるらしい。
ちなみに、送られてきた本棚の写真はなかなか職人的に上手で、お兄ちゃんに見せたら『だいぶ極めてんな』と感想を口にした。
これ、おいしかったー。
また買ってこよーっと思ったときの、こぼれ話。