GO !
2019.05.01
読みなおしをしまーす。
genuineも、Beもthinkも穂澄たちも鷹塚センセも、なんかそのへん全部。
時代にそった、ミニ修正をします(笑)
車も変えるかなー。どうしようかなー。
そんな、ミニ修正を今年やってみます。
それと、おかしなことになってた、ブログの記事の折りたたみを直しました。
タグの打ち方間違ってた(てへぺろ
あとは、100ちゃれ書いてて気づいたんですが、
think読みなおしたせいで、あっち熱がひどい。
とりあえず、孝之と葉月を出したくなる症候群なので、
thinkも整理しつつ、black honeyみたいに、完結後の小話形式でアップしようかなーと。
ネタ帳見つけて、書きたいのがあった(笑)
あとは、恭介と葉月の出会いとかそのへんを、修正して出そうかなぁと。
だいーーぶ昔、extraを出したときに、thinkのダウンロード版用にと書いたものなんですが、
時代の流れとともに法律も変わってて、変更しないとまずいまずい(笑)
あとは、ダウンロード版を出すつもりがなくなったので、そのまま公開します。
やりたいことやるー。
genuineも、Beもthinkも穂澄たちも鷹塚センセも、なんかそのへん全部。
時代にそった、ミニ修正をします(笑)
車も変えるかなー。どうしようかなー。
そんな、ミニ修正を今年やってみます。
それと、おかしなことになってた、ブログの記事の折りたたみを直しました。
タグの打ち方間違ってた(てへぺろ
あとは、100ちゃれ書いてて気づいたんですが、
think読みなおしたせいで、あっち熱がひどい。
とりあえず、孝之と葉月を出したくなる症候群なので、
thinkも整理しつつ、black honeyみたいに、完結後の小話形式でアップしようかなーと。
ネタ帳見つけて、書きたいのがあった(笑)
あとは、恭介と葉月の出会いとかそのへんを、修正して出そうかなぁと。
だいーーぶ昔、extraを出したときに、thinkのダウンロード版用にと書いたものなんですが、
時代の流れとともに法律も変わってて、変更しないとまずいまずい(笑)
あとは、ダウンロード版を出すつもりがなくなったので、そのまま公開します。
やりたいことやるー。
Be with 0話 公開
2019.05.01
令和元年おめでとうございます!
というわけで、0話公開。
「ーーだから、黒だっつってんだろ」
いつもより遅い時間というよりは、春休みのほぼ定刻となった10時少し過ぎ。
顔を洗ってからリビングへ行こうとしたら、お兄ちゃんの声が階段のほうから聞こえてきた。
と同時に聞こえるのは、複数っぽい足音。
「でもお前、この間白の86見て『白もいいよな』って言ってたじゃないか」
「言ったか? でもま、やっぱ乗るなら黒だろ。せっかくの後継機、ナンバーもベタに86にしてもいいけど、黒だな。黒」
ひとことだけ聞こえた、お兄ちゃんとは違う声に一瞬どきりとした。
女子校ということもあってか、男の人と接するのは先生くらい。
でも、そういえばお兄ちゃんくらいの若い先生って、すごく少ないんだよね。
もしかしたら、そのせいかもしれない。
そういえばお兄ちゃん、普段家に友達とかほとんど連れてこないし。
来るとしても、従兄弟の優くんくらいだもんなぁ。
「あら、あんた今起きたの?」
「おはよ」
「おはよじゃないわよ。何時だと思ってるの、まったく」
どこかへ出かけようとしていたらしき、お母さんがため息をついた。
ダイニングのテーブルには、朝ごはんだったとおぼしき、フレンチトーストのお皿。
いつものように、「適当」を彷彿とする姿そのもので、どーんとお皿にカットされないままの食パンフレンチトーストが乗っている。
「お客さん?」
「ああ、祐恭君でしょ。律儀にお土産持ってきてくれたのよ。おいしかったわよー、あれ」
ああ、なるほど。祐恭君という名前は、家でもよく聞くことはある。
お兄ちゃんの高校時代からの友達で、お父さんの教え子なんだよね。
でも、顔を見たことはないから、どんな人なのかは実は知らない。
お母さんが言うには、お兄ちゃんが高校時代には会ってるはずよって言われたけど、うーん、どうかなぁ。覚えてないんだよね。
だって、お兄ちゃんが高校生のころってことは、私は小学生なわけで。
そんな昔のことを覚えていられるほど、実は記憶力に自信がない。
「明日から3年生でしょ? 受験よ? 受験。もうちょっときちっとした生活リズムにしとかないと、あとあとつらいわよ?」
「う。わかってるもん」
「わかってない顔でしょ、それは」
「もぅ、お母さん朝から厳しい」
「朝じゃないでしょうが」
うぅ……それはそうなんだけど、だからってちょっと言い過ぎだと思うよ?
キッチンの冷蔵庫前へ逃げるように移動して、昨日買ってもらったレモンティーのペットボトルを取り出す。
この色、元気でるんだよね。
すでに日が高くなっているせいか、日差しを受けてきらりと光る。
「お母さん、出かけるんじゃないの?」
「あ、そうだったわ。今日、昼過ぎから天気悪くなるって言ってたから、洗濯物取り込んでおいてちょうだい」
「えぇ!? 私も、絵里と出かける約束……」
「いーじゃないの。もうとっくに乾いてるから、行く前に取り込みなさい」
「だったらお母さんがーー」
「つべこべ言わない。暇なんだから」
「うぅ……はっきりと……」
ずびし、とお兄ちゃんがやるみたいに人差し指を向けられ、ぐさりと心にダメージを負う。
暇っていうけど、休みの日に暇なのは、お兄ちゃんもお母さんもひょっとしたらお父さんもじゃないの?
すでに姿が見えないけれど、お父さんはお父さんできっと休日を満喫してるはず。多分。わかんないけど。
「で? 絵里ちゃんとどこ行くの?」
「え? モールとカラオケだよ?」
「………………」
「う、お、お母さんっ! 早く出かけないと、雨降るって!」
「……あんた、ほんとに……」
「あ! あー、私、夕飯いらないと思うから、気にしないでゆっくりしてきてねっ!」
「お風呂洗っておきなさいね」
「喜んでやっておきます」
一瞬『え!』と言いかけたけれど、飲み込んでこくこくとうなずく。
冷ややかな眼差しは、寝起きにはつらい。
うぅ、でもだって、春休み最終日なんだもん。
今年の春休みはまさかの宿題が出て、ひーひー言いながら今まで(というか正確には夜中まで)やってたんだもん、許してほしい。
まだまだ女子高生、楽しいことはしておきたい。
……ううん。
今年が、最後の女子高生だもん。
楽しいこと、めいっぱい経験して、次のステップへ進みたいと思うのは自然じゃないのかな。
「まったく。彼氏の一人でもいれば、さらに青春謳歌できるでしょーけどね」
「ごほ! お、おかあさっ……ごほごほ!」
レモンティーを飲んだ瞬間ため息をつかれ、気管に入ったせいで大きく咳き込む。
知ってるよ? そりゃあ、お母さんが何歳でお父さんと付き合ったのかってことは。
そしてそして、まさかの私と同じ学校が母校で、当時出会ったことは。
でも、若い先生なんていないし、いたとしても恋愛対象になるわけがない。
そりゃあーー絵里の場合は別だけど。
えへへ。仲いいんだよね、絵里。
みんなには内緒だけど、絵里の彼氏さんは特別な人。
私も何年もーーと言ったら言い過ぎだけど、2年ほど前からお世話になってる方だ。
とっても優しくて、明るくて、ユーモアもあって、そしてそして炊事洗濯裁縫までこなすエリート。
『アイツがなんでもかんでもやるから、私の出番がないだけよ』と絵里はよく言うけれど、そうじゃないことも知ってる。
「ま、いい出会いがあるといいわね。せめてこの最終学年くらいは」
「それは……私だって、あったらいいなとは思うけど」
「それじゃ努力しなさいね。寝癖ついてるような子じゃ、誰も振り返ってくれないわよ」
「え!? うそ!」
「うそ。それじゃ、行ってきまーす」
「っ……もぅ、お母さん!」
さっき洗面所で確認したはずなのに、と慌てたのがよほどおかしかったらしい。
けらけらと笑ったお母さんは、肩をすくめると玄関へ向かった。
もぅ、みんなで私をからかわなくてもいいのに。
おかしいなぁ。
私、別にそういうキャラじゃないはずなんだけど。
「……3年生かぁ」
ちょっぴり冷たいフレンチトーストを食べながら、カレンダーに目がいく。
今年で最後。
1年後の今日、私はどこで何をしているんだろう。
周りの子たちが進学するというのもあって、大学へ行こうとは思っている。
学部は教育学部。
でも理由は何かと言われると、小学5、6年生のときの担任の先生がすっごく面白い人で、楽しかったからというシンプルなものが理由。
私も、小学生と一緒に遊びたい。
って言ったら、違うって怒られちゃいそうだけど。
でも、大きな影響を受けたといえばそれで。
お父さんが高校の先生だからとか、お母さんが保育士さんだからとか、お兄ちゃんが中学の先生を目指してたからとか、理由を考えようとすればたくさんあるんだろうけれど、これ! というものは正直ないまま。
ただ、幸いなことに我が家には教育関係者が多くいる。
その点は、メリットもデメリットも聞くことができるって意味では、恵まれた環境なんだろうけれど。
そういえば、お兄ちゃんが先生をやめて司書さんになったのは、なんでなんだろう。
「………………」
中学生だった当時、まさかの教育実習でこられたときは、なんで私のクラスなのかと心底先生方を恨んだ。
あからさまに馬鹿にされた私は、かわいそうだと思う。
絵里は散々、『やー、孝之さんの授業受けられるだけじゃなくて、あの顔見てられるとかホント最高ね』って言ってたけど、私には試練というかある意味いじめでしかなかった。
「……ん?」
物音がしたと思ったら、階段を降りてくる音が聞こえ始めた。
話し声もするから、どうやらお兄ちゃんが降りてきたらしい。
えっと……あと、お兄ちゃんのお友達も。
「え?」
「お前、今起きたのか? だっせぇ」
「む。お兄ちゃんに言われたくない」
リビングを覗いたお兄ちゃんと目が合い、むっとして眉を寄せる。
ていうか、お兄ちゃんこそ普段私より遅いことだってあるじゃない。
……てまあ確かに、最近は私のほうがよっぽど遅いみたいだけど。
「お袋は?」
「お母さんなら、出かけたよ」
「あ、そ。多分、メシ食わねーから。伝えとけ」
「えーやだ。私も絵里と出かけちゃうもん。連絡しとけばいいでしょ?」
「ンだよ、使えねぇな。ならいい」
あからさまに舌打ちされ、もやもやした気持ちでいっぱいになる。
ーーけれど。
「お前、普段からそんな言葉遣いなのか?」
「あ? なんだよ。説教か? 俺に」
「説教じゃなくて、意見だろ? 年下の子相手に、そんなふうに言わなくてもいいのに」
「じゃあお前、紗那ちゃんにこーゆークチきかねーの?」
「…………」
「だろ?」
姿は見えないけれど、どうやら私を気遣ってくれたようなセリフが聞こえ、思わぬ展開にどきりとした。
きっと、あいさつされることはない。
でもーーうわわ、どうしよう。今覗かれたら、まだパジャマなんですけど!
うぅ、今日に限ってちゃんと着替えておくんだった。
慌てて手櫛で髪を直しーーたところで、玄関の開く音が聞こえた。
と同時に、『お邪魔しました』の声も。
「あ、はぁい」
なんと言っていいものか、間の抜けたセリフしか出せなかった。
うぅ。だって、『どういたしまして』も、『また来てくださいね』も、私が言うのはあってない気がするんだもん。
お母さんはしょっちゅう言ってるセリフだし、なんなら玄関まで姿を見せて、そこでひとことふたことおしゃべりをする。
でも、さすがにそんな関係じゃないし、どう言っていいのかわからなかった。
「…………」
接触と言っていいほどのものじゃない。
でも、すごくどきどきした。
……お兄ちゃんの友達、かぁ。
きっと同い年だろうから、6歳年上の男の人。
お兄ちゃんとは違う性格なんだろうけれど、イメージは湧かない。
「言い忘れた」
「わぁっ!?」
「……ンだよ」
「び、びっくりさせないでよ! 出かけたんじゃないの?」
ぬっとリビングを覗いたお兄ちゃんに、思わぬ声が出た。
心臓がばくばくして、すごく苦しい。
うぅ、なんて日なの。本当に。
でも、顔が赤くなっていたのはこれで誤魔化されたかもしれない。
「冷蔵庫に入ってるロールケーキ、勝手に食うなよ」
「ロールケーキ? え、食べていいの?」
「話聞いてたか? お前。食うなっつってんだろ」
「え、でもお母さんが『おいしかった』って言ってたよ」
「ッち、アイツ……!」
あからさまに嫌そうな顔をしたお兄ちゃんに肩をすくめ、とりあえずフレンチトーストを口へ運ぶ。
でも、口の中はロールケーキを歓迎していて、メープルシロップはちょっと違うかなと思った。
「あ? 今行くって!」
玄関へ顔を向けたお兄ちゃんは、それ以上なにかを言うことはなく、姿を消した。
鍵の閉まった音のあと、ほどなくしてエンジン音が聞こえてくる。
今度こそお出かけしたらしい。
でも、ロールケーキかぁ。ちょっぴりなら食べても怒られないかなぁ?
だって、お兄ちゃんが食べるとなると、ほんっっっっとうにくれないんだもん。
そりゃあ、お兄ちゃんのお友達がくれたものなんだから、権限はお兄ちゃんにあるのかもしれないけど。
「ちょっとだけーーって、わわっ! 遅刻!!」
立ち上がった拍子に壁時計が目に入り、絵里との約束まで30分を切ってるのに気づいた。
うわぁ怒られる!
待ち合わせは、近くのショッピングセンター。
絵里の家からは近いけれど、うちからはバス停まで歩いたあと、バスを待たなければならない。
って、今の時間バスあったよね?
何分だっけ……って、着替えるのが先!
「っ……!」
食べた食器を片付けて、慌てて階段へ向かう。
そのとき、一瞬だけお兄ちゃんとは違う香りがした気がして、ふいにどきりとした。
『彼氏の一人でもいればーー』
お母さんのセリフが蘇る。
そりゃあ、彼氏がいればきっと楽しいだろうなとも思うし、どきどきもするんだろうなとは思う。
でも、まだ自分にはいいかなって思うのも正直なところ。
彼氏ができたら、自分がどんなふうに変わるのかわからなくて、ちょっぴり怖い気もする。
でも、見てみたい気もする。
……今年、そんなチャンスができたらいいのになぁ。
階段の窓から空を見上げると、予想以上に青くて晴れやかな日だった。
というわけで、0話公開。
「ーーだから、黒だっつってんだろ」
いつもより遅い時間というよりは、春休みのほぼ定刻となった10時少し過ぎ。
顔を洗ってからリビングへ行こうとしたら、お兄ちゃんの声が階段のほうから聞こえてきた。
と同時に聞こえるのは、複数っぽい足音。
「でもお前、この間白の86見て『白もいいよな』って言ってたじゃないか」
「言ったか? でもま、やっぱ乗るなら黒だろ。せっかくの後継機、ナンバーもベタに86にしてもいいけど、黒だな。黒」
ひとことだけ聞こえた、お兄ちゃんとは違う声に一瞬どきりとした。
女子校ということもあってか、男の人と接するのは先生くらい。
でも、そういえばお兄ちゃんくらいの若い先生って、すごく少ないんだよね。
もしかしたら、そのせいかもしれない。
そういえばお兄ちゃん、普段家に友達とかほとんど連れてこないし。
来るとしても、従兄弟の優くんくらいだもんなぁ。
「あら、あんた今起きたの?」
「おはよ」
「おはよじゃないわよ。何時だと思ってるの、まったく」
どこかへ出かけようとしていたらしき、お母さんがため息をついた。
ダイニングのテーブルには、朝ごはんだったとおぼしき、フレンチトーストのお皿。
いつものように、「適当」を彷彿とする姿そのもので、どーんとお皿にカットされないままの食パンフレンチトーストが乗っている。
「お客さん?」
「ああ、祐恭君でしょ。律儀にお土産持ってきてくれたのよ。おいしかったわよー、あれ」
ああ、なるほど。祐恭君という名前は、家でもよく聞くことはある。
お兄ちゃんの高校時代からの友達で、お父さんの教え子なんだよね。
でも、顔を見たことはないから、どんな人なのかは実は知らない。
お母さんが言うには、お兄ちゃんが高校時代には会ってるはずよって言われたけど、うーん、どうかなぁ。覚えてないんだよね。
だって、お兄ちゃんが高校生のころってことは、私は小学生なわけで。
そんな昔のことを覚えていられるほど、実は記憶力に自信がない。
「明日から3年生でしょ? 受験よ? 受験。もうちょっときちっとした生活リズムにしとかないと、あとあとつらいわよ?」
「う。わかってるもん」
「わかってない顔でしょ、それは」
「もぅ、お母さん朝から厳しい」
「朝じゃないでしょうが」
うぅ……それはそうなんだけど、だからってちょっと言い過ぎだと思うよ?
キッチンの冷蔵庫前へ逃げるように移動して、昨日買ってもらったレモンティーのペットボトルを取り出す。
この色、元気でるんだよね。
すでに日が高くなっているせいか、日差しを受けてきらりと光る。
「お母さん、出かけるんじゃないの?」
「あ、そうだったわ。今日、昼過ぎから天気悪くなるって言ってたから、洗濯物取り込んでおいてちょうだい」
「えぇ!? 私も、絵里と出かける約束……」
「いーじゃないの。もうとっくに乾いてるから、行く前に取り込みなさい」
「だったらお母さんがーー」
「つべこべ言わない。暇なんだから」
「うぅ……はっきりと……」
ずびし、とお兄ちゃんがやるみたいに人差し指を向けられ、ぐさりと心にダメージを負う。
暇っていうけど、休みの日に暇なのは、お兄ちゃんもお母さんもひょっとしたらお父さんもじゃないの?
すでに姿が見えないけれど、お父さんはお父さんできっと休日を満喫してるはず。多分。わかんないけど。
「で? 絵里ちゃんとどこ行くの?」
「え? モールとカラオケだよ?」
「………………」
「う、お、お母さんっ! 早く出かけないと、雨降るって!」
「……あんた、ほんとに……」
「あ! あー、私、夕飯いらないと思うから、気にしないでゆっくりしてきてねっ!」
「お風呂洗っておきなさいね」
「喜んでやっておきます」
一瞬『え!』と言いかけたけれど、飲み込んでこくこくとうなずく。
冷ややかな眼差しは、寝起きにはつらい。
うぅ、でもだって、春休み最終日なんだもん。
今年の春休みはまさかの宿題が出て、ひーひー言いながら今まで(というか正確には夜中まで)やってたんだもん、許してほしい。
まだまだ女子高生、楽しいことはしておきたい。
……ううん。
今年が、最後の女子高生だもん。
楽しいこと、めいっぱい経験して、次のステップへ進みたいと思うのは自然じゃないのかな。
「まったく。彼氏の一人でもいれば、さらに青春謳歌できるでしょーけどね」
「ごほ! お、おかあさっ……ごほごほ!」
レモンティーを飲んだ瞬間ため息をつかれ、気管に入ったせいで大きく咳き込む。
知ってるよ? そりゃあ、お母さんが何歳でお父さんと付き合ったのかってことは。
そしてそして、まさかの私と同じ学校が母校で、当時出会ったことは。
でも、若い先生なんていないし、いたとしても恋愛対象になるわけがない。
そりゃあーー絵里の場合は別だけど。
えへへ。仲いいんだよね、絵里。
みんなには内緒だけど、絵里の彼氏さんは特別な人。
私も何年もーーと言ったら言い過ぎだけど、2年ほど前からお世話になってる方だ。
とっても優しくて、明るくて、ユーモアもあって、そしてそして炊事洗濯裁縫までこなすエリート。
『アイツがなんでもかんでもやるから、私の出番がないだけよ』と絵里はよく言うけれど、そうじゃないことも知ってる。
「ま、いい出会いがあるといいわね。せめてこの最終学年くらいは」
「それは……私だって、あったらいいなとは思うけど」
「それじゃ努力しなさいね。寝癖ついてるような子じゃ、誰も振り返ってくれないわよ」
「え!? うそ!」
「うそ。それじゃ、行ってきまーす」
「っ……もぅ、お母さん!」
さっき洗面所で確認したはずなのに、と慌てたのがよほどおかしかったらしい。
けらけらと笑ったお母さんは、肩をすくめると玄関へ向かった。
もぅ、みんなで私をからかわなくてもいいのに。
おかしいなぁ。
私、別にそういうキャラじゃないはずなんだけど。
「……3年生かぁ」
ちょっぴり冷たいフレンチトーストを食べながら、カレンダーに目がいく。
今年で最後。
1年後の今日、私はどこで何をしているんだろう。
周りの子たちが進学するというのもあって、大学へ行こうとは思っている。
学部は教育学部。
でも理由は何かと言われると、小学5、6年生のときの担任の先生がすっごく面白い人で、楽しかったからというシンプルなものが理由。
私も、小学生と一緒に遊びたい。
って言ったら、違うって怒られちゃいそうだけど。
でも、大きな影響を受けたといえばそれで。
お父さんが高校の先生だからとか、お母さんが保育士さんだからとか、お兄ちゃんが中学の先生を目指してたからとか、理由を考えようとすればたくさんあるんだろうけれど、これ! というものは正直ないまま。
ただ、幸いなことに我が家には教育関係者が多くいる。
その点は、メリットもデメリットも聞くことができるって意味では、恵まれた環境なんだろうけれど。
そういえば、お兄ちゃんが先生をやめて司書さんになったのは、なんでなんだろう。
「………………」
中学生だった当時、まさかの教育実習でこられたときは、なんで私のクラスなのかと心底先生方を恨んだ。
あからさまに馬鹿にされた私は、かわいそうだと思う。
絵里は散々、『やー、孝之さんの授業受けられるだけじゃなくて、あの顔見てられるとかホント最高ね』って言ってたけど、私には試練というかある意味いじめでしかなかった。
「……ん?」
物音がしたと思ったら、階段を降りてくる音が聞こえ始めた。
話し声もするから、どうやらお兄ちゃんが降りてきたらしい。
えっと……あと、お兄ちゃんのお友達も。
「え?」
「お前、今起きたのか? だっせぇ」
「む。お兄ちゃんに言われたくない」
リビングを覗いたお兄ちゃんと目が合い、むっとして眉を寄せる。
ていうか、お兄ちゃんこそ普段私より遅いことだってあるじゃない。
……てまあ確かに、最近は私のほうがよっぽど遅いみたいだけど。
「お袋は?」
「お母さんなら、出かけたよ」
「あ、そ。多分、メシ食わねーから。伝えとけ」
「えーやだ。私も絵里と出かけちゃうもん。連絡しとけばいいでしょ?」
「ンだよ、使えねぇな。ならいい」
あからさまに舌打ちされ、もやもやした気持ちでいっぱいになる。
ーーけれど。
「お前、普段からそんな言葉遣いなのか?」
「あ? なんだよ。説教か? 俺に」
「説教じゃなくて、意見だろ? 年下の子相手に、そんなふうに言わなくてもいいのに」
「じゃあお前、紗那ちゃんにこーゆークチきかねーの?」
「…………」
「だろ?」
姿は見えないけれど、どうやら私を気遣ってくれたようなセリフが聞こえ、思わぬ展開にどきりとした。
きっと、あいさつされることはない。
でもーーうわわ、どうしよう。今覗かれたら、まだパジャマなんですけど!
うぅ、今日に限ってちゃんと着替えておくんだった。
慌てて手櫛で髪を直しーーたところで、玄関の開く音が聞こえた。
と同時に、『お邪魔しました』の声も。
「あ、はぁい」
なんと言っていいものか、間の抜けたセリフしか出せなかった。
うぅ。だって、『どういたしまして』も、『また来てくださいね』も、私が言うのはあってない気がするんだもん。
お母さんはしょっちゅう言ってるセリフだし、なんなら玄関まで姿を見せて、そこでひとことふたことおしゃべりをする。
でも、さすがにそんな関係じゃないし、どう言っていいのかわからなかった。
「…………」
接触と言っていいほどのものじゃない。
でも、すごくどきどきした。
……お兄ちゃんの友達、かぁ。
きっと同い年だろうから、6歳年上の男の人。
お兄ちゃんとは違う性格なんだろうけれど、イメージは湧かない。
「言い忘れた」
「わぁっ!?」
「……ンだよ」
「び、びっくりさせないでよ! 出かけたんじゃないの?」
ぬっとリビングを覗いたお兄ちゃんに、思わぬ声が出た。
心臓がばくばくして、すごく苦しい。
うぅ、なんて日なの。本当に。
でも、顔が赤くなっていたのはこれで誤魔化されたかもしれない。
「冷蔵庫に入ってるロールケーキ、勝手に食うなよ」
「ロールケーキ? え、食べていいの?」
「話聞いてたか? お前。食うなっつってんだろ」
「え、でもお母さんが『おいしかった』って言ってたよ」
「ッち、アイツ……!」
あからさまに嫌そうな顔をしたお兄ちゃんに肩をすくめ、とりあえずフレンチトーストを口へ運ぶ。
でも、口の中はロールケーキを歓迎していて、メープルシロップはちょっと違うかなと思った。
「あ? 今行くって!」
玄関へ顔を向けたお兄ちゃんは、それ以上なにかを言うことはなく、姿を消した。
鍵の閉まった音のあと、ほどなくしてエンジン音が聞こえてくる。
今度こそお出かけしたらしい。
でも、ロールケーキかぁ。ちょっぴりなら食べても怒られないかなぁ?
だって、お兄ちゃんが食べるとなると、ほんっっっっとうにくれないんだもん。
そりゃあ、お兄ちゃんのお友達がくれたものなんだから、権限はお兄ちゃんにあるのかもしれないけど。
「ちょっとだけーーって、わわっ! 遅刻!!」
立ち上がった拍子に壁時計が目に入り、絵里との約束まで30分を切ってるのに気づいた。
うわぁ怒られる!
待ち合わせは、近くのショッピングセンター。
絵里の家からは近いけれど、うちからはバス停まで歩いたあと、バスを待たなければならない。
って、今の時間バスあったよね?
何分だっけ……って、着替えるのが先!
「っ……!」
食べた食器を片付けて、慌てて階段へ向かう。
そのとき、一瞬だけお兄ちゃんとは違う香りがした気がして、ふいにどきりとした。
『彼氏の一人でもいればーー』
お母さんのセリフが蘇る。
そりゃあ、彼氏がいればきっと楽しいだろうなとも思うし、どきどきもするんだろうなとは思う。
でも、まだ自分にはいいかなって思うのも正直なところ。
彼氏ができたら、自分がどんなふうに変わるのかわからなくて、ちょっぴり怖い気もする。
でも、見てみたい気もする。
……今年、そんなチャンスができたらいいのになぁ。
階段の窓から空を見上げると、予想以上に青くて晴れやかな日だった。