Let‘s share the pudding?
2019.06.10
「……プリンアラモードフラペチーノ」
買い物でショッピングモールへ出かけたとき、目に入ったかわいらしいポスターで足が止まる。
プリンといえば真っ先に思いうかぶのは、彼。
ううん、彼ら、かな。
ふたりとも、プリン好きなんだよね。
この間も、かぼちゃプリンを作ったら割と早めになくなっていた。
おやつはもう食べない年齢かなと思っていたけれど、特に関係ないらしく、作ったものを食べてもらえるのは素直に嬉しかった。
「あれ。葉月ちゃん」
「え?」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには田代先生がいた。
手には、アイスコーヒーが握られている。
このお店のマークが入っているから、きっと今買ったんだろう。
「こんにちは。お買い物ですか?」
「うん。葉月ちゃんは? ひとり?」
「いえ、たーくんは今、本屋さんへ行っているんです」
そういう田代先生のそばに、絵里ちゃんはいなかった。
でも、女性ブランドのショップバッグを持っているから、一緒なんだろうな。
「甘いの好き?」
「飲みたくなっちゃいますね。田代先生は、甘いものは飲まないですか?」
「そーだなー。基本、飲まないかな。なんか、喉乾くっていうか」
「それはありますね」
これまでも、田代先生が甘い何かを口にしているところを見ることはほとんどなかった。
それを言ったら、瀬尋先生もそうかな。
私のそばにいる彼だけは、なんでも好んでいるとは思うけれど。
「 ……葉月ちゃん、夕飯何にする?」
「今日は、ビーフシチューがいいと言われたので、それにします」
「あー、いいね。それでワインか」
「はい」
エコバッグから見えていたらしく、ワインボトルを見た彼がうなずいた。
そうなの。だから、たーくんは本屋さんへ行くのを後回しにしてくれた。
ひとりで平気だよって言った途端、『お前じゃ酒買えねぇだろ』と言われて、一瞬思い当たらなかったあたりちょっと失格かな。
いくら料理に使うとはいえ、買わせてもらえないもんね。
「田代先生は何にするんですか?」
「新じゃがたくさんもらったんだけどさ、ふたりだとなかなか使いきれないんだよ。そのままバター乗せて塩で食べるのが一番うまいと思うんだけど、どっかのやつは味がないだのなんだのってうるさくて」
「あ。ガーリックバターもおいしいですよ?」
「ガーリックって……トーストなんかにする、あれ?」
「はい。この時期、バターはすぐ柔らかくなるので、にんにくとパセリと合わせたら何にでも使えますよ」
「なるほどねー」
近くにあったベンチへ腰かけながら話すのは、料理について。
いつだったか、田代先生がレシピサイトを見ていたのを知り、それから話すようになった。
共通の、ある意味趣味かもしれない。
この間教えてもらった簡単ローストビーフは、みんなに好評だった。
「あら、かわいい子ナンパしやがってと思ったら、葉月ちゃんだったのね」
「こんにちは。絵里ちゃんは……それおいしいよね」
「よねー! さすが葉月ちゃん、趣味合うわー」
どうやら違うお店に行っていたらしく、彼女が持っていたのはチョコレート専門店のドリンクだった。
粒の大きなチョコレートが溶け込んでいて、絞られているホイップクリームにもチョコレートソースがかかっている。
「たっきゅんは?」
「ふふ。本屋さんにいるよ」
「ほんと、本好きなのね。いやー知的だわー。どっかの人と違うわー」
「…………」
「あれ。聞こえなかった? 本じゃなくて雑誌しか読まない人」
「お前だって教科書しか読まないだろ」
「っさいわね」
「お互い様」
いつからか、絵里ちゃんはたーくんをそう呼ぶようになっていた。
彼自身もそれは知っているけれど、都度、訂正は求めているらしい。
らしい、というのは最近はめっきり聞かなくなったからだけど。
「っ……つめた」
「珍しいとこで会いますね」
「あら、噂をすれば」
ひんやりとしたものが頭の上へ載せられたかと思いきや、たーくんの声も降ってきた。
首をかしげると、彼の手にはーーああ、やっぱり。
すぐそこのポスターにある、プリンアラモードがある。
「噂? 俺の?」
「そーそ。って、本買わなかったんですか?」
「立ち読み」
「……ふ」
「何よ」
「別に」
あっさりたーくんが言い放った瞬間、ずず、と音を立てて田代先生がコーヒーを飲みきった。
ストローを噛んだまま眉を寄せた彼女は、なかば睨んでいたものの、何も言わず。
理由を知らないたーくんだけが、不思議そうにしていた。
「期待を裏切らないでください」
「いや、そう言われても。つか、普段自腹で本買わないんだって。読みたいハードカバーとかは、個人的にリクエストと称して経費購入」
「え、そうなの?」
「バラすなよ」
「言わないけれど、それって……いいの?」
「仕事してンし、今のとこどこからも文句言われねーからな。暗黙のルールなんじゃね?」
肩をすくめた彼に眉を寄せるも、さも当然の顔でさらりと返された。
いいのかなぁ。
どうりで、いろんな本を読んで内容も知ってるのに、実物が家にないと思った。
まあ……たーくんだから、許してもらえてる部分もあるんだろうな。
真面目にお仕事してるもんね。
「あ、うま」
「プリン?」
「がっつり」
ひとくち飲んだたーくんが、まじまじとカップを見つめた。
いかにもプリン色の飲み物。
カラメルと生クリームのコントラストに、ピンク色のさくらんぼがトッピングされていて、見た目もかわいい。
ふふ。たーくん、飲みたいものはきっちり自分で手に入れるもんね。
「いいの?」
「飲むだろ?」
「ん。ありがとう」
ひとくち味見したかったなと思っていたら、通じたのか差し出された。
少し太めのストローに口づけると、まさにプリンの味が広がって頬が緩む。
「おいしい……」
「だろ」
「うん。羽織も好きそうだね」
「かもな」
たーくんへカップを戻すと、『あ』と言って蓋を外した。
何をするのかと思いきや、添えられていたさくらんぼの茎をつまむ。
「え?」
「いや、さすがに俺食わねーし」
「嫌いじゃないでしょう?」
「そーゆー問題じゃねぇんだよ。イメージの問題」
イメージ。
どういうことかピンとは来なかったものの、差し出されて口を開くと、そのまま食べさせられた。
生とは違う、缶詰のさくらんぼの味。
でも、小さいころ食べたプリンアラモードの思い出が蘇るから、これはこれでおいしく感じる。
「ん、ごちそうさま」
カップを包んでいたナフキンを差し出され、茎と一緒に種を包む。
すると、私を見ていたたーくんが、ふいに視線をずらしたかと思いきや、また『あ』と呟いた。
「…………」
「…………」
「いや、これは……なんつーか、うっかり……」
「つい、ってやつ?」
「それそれ」
ちゅー、とドリンクを飲んだままの絵里ちゃんが、まっすぐにたーくんを見つめた。
隣に座っている田代先生は、まるで微笑ましい何かでも見つけたかのように、とても優しい顔をしてしきりに頷いている。
そんなふたりを見てか、たーくんは慌てたように『違う』を連呼していた。
「どう思う? これって無意識よね?」
「当然だろ。じゃなきゃ、俺たちの前でやらない」
「てことは、普段お家でこーゆーやりとりが繰り広げられてるってことね」
「いやー、家じゃもっとがっつり葉月ちゃんにーー」
「うっわ、すっげぇ誤解!」
ひそひそと話し合う絵里ちゃんと田代先生は、まるで秘密の話でもするかのように顔を寄せ合っていた。
なぜかたーくんが慌てているけれど、理由はちょっとわからない。
でもーー。
「え? っ……」
「ふふ。付いてるよ」
絵里ちゃんの頬に付いていたチョコレートシロップをハンカチで拭うと、目を丸くしたかと思いきや、田代先生も同じような顔をした。
彼女にいたっては、ちょっぴり頬が赤くなったかのようにも見える。
「…………」
「…………」
「え?」
「いけない……いけないわ、このカップル! 無意識のたらしよ!!」
「うわ、やばい。気に当てられる」
「え?」
「……どーゆー設定っすか」
がばっとのけぞったふたりは、立ち上がって私たちから逃げるかのように両手を前へ出した。
たーくんだけは意味がわかっているようでため息をついたけれど、ちょっとよく状況が飲み込めない。
でも……あまりにも仲の良さそうなふたりを見て、思わず笑みが浮かんだ。
「ふたりとも、本当に仲いいですね」
「えぇ!? 今のどこを見たらそうなるの!?」
「いやいやいや、俺たちよかよっぽど、葉月ちゃんたちのほうが仲いいと思うけど!」
目を丸くして否定するふたりは、まったく同じタイミングで反応した。
ふふ。そういうところなんだけどな。
顔を見合わせたふたりを見て、私もついたーくんへ視線が向かう。
「……ん」
「緩くなると味薄まるな」
「そうかな? それでも、結構甘めだね」
「まーな」
ストローごと差し出され、最後にひとくち。
飲みたいってつもりじゃなかったんだけど、でも、おいしかった。
「まだ見ンとこあるか?」
「ううん、もう大丈夫」
ちょうど空になった容器をゴミ箱へ入れたところで、田代先生たちも立ち上がった。
ものの、さっきまでと同じようにニヤリとした笑みをそろって浮かべている。
「ごちそーさま、葉月ちゃん」
「え? えっと、私は何も……」
「……純也さん、無言でそのジェスチャー勘弁してください」
ふたりとも、楽しそうだなぁ。
田代先生にいたっては、うんうんとうなずきながら親指を立てており、とても満足げな表情を浮かべていた。
「またね、葉月ちゃん」
「やー、いいもの見たって祐恭君にも伝えとく」
「……はー」
こめかみに手を当てたたーくんは、さておき。
ふたりへ手を振ると、それはそれは楽しそうに笑ってから、違う方向へと歩き始めた。
「ご馳走さま」
「あ? ひとくちだろ」
「でも、飲んでみたいなって思ったから、嬉しかったの」
たーくんへお礼を伝えると、意外そうな顔をしたあとで『お前律儀だよな』と言われた。
そんな自覚はないけれど、そう思ってもらえるならば、まだいいのかな。
無礼じゃないって思ってもらえてるなら。
「次の限定フレーバーはなんだと思う?」
「さー。別に、限定のたび飲んでるわけじゃねぇからな」
「そうなの?」
「今回はたまたま。飲みたい味と、そーでもないやつと差がある」
そうは言うけれど、車のドリンクホルダーに残ったままになってることなかったかな?
ぱっと見てすぐにわかるロゴだけに、印象が強いのかもしれない。
「おいしかったね」
「そーだな。満足した」
にっこり笑うと、彼らしい笑みで頷かれ、それを見れたことが嬉しかった。
こんなふうに、ひとつの飲み物をシェアできる関係になれるなんて、小さいころの……ううん、去年までの私は知らなかったこと。
とっても嬉しい。
やっぱり未来は、私にとってすてきなことばかり待っていてくれそうだ。
歩き始めてすぐ、当たり前のように手を差し出してくれたのが嬉しくて、両手を重ねていた。
買い物でショッピングモールへ出かけたとき、目に入ったかわいらしいポスターで足が止まる。
プリンといえば真っ先に思いうかぶのは、彼。
ううん、彼ら、かな。
ふたりとも、プリン好きなんだよね。
この間も、かぼちゃプリンを作ったら割と早めになくなっていた。
おやつはもう食べない年齢かなと思っていたけれど、特に関係ないらしく、作ったものを食べてもらえるのは素直に嬉しかった。
「あれ。葉月ちゃん」
「え?」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには田代先生がいた。
手には、アイスコーヒーが握られている。
このお店のマークが入っているから、きっと今買ったんだろう。
「こんにちは。お買い物ですか?」
「うん。葉月ちゃんは? ひとり?」
「いえ、たーくんは今、本屋さんへ行っているんです」
そういう田代先生のそばに、絵里ちゃんはいなかった。
でも、女性ブランドのショップバッグを持っているから、一緒なんだろうな。
「甘いの好き?」
「飲みたくなっちゃいますね。田代先生は、甘いものは飲まないですか?」
「そーだなー。基本、飲まないかな。なんか、喉乾くっていうか」
「それはありますね」
これまでも、田代先生が甘い何かを口にしているところを見ることはほとんどなかった。
それを言ったら、瀬尋先生もそうかな。
私のそばにいる彼だけは、なんでも好んでいるとは思うけれど。
「 ……葉月ちゃん、夕飯何にする?」
「今日は、ビーフシチューがいいと言われたので、それにします」
「あー、いいね。それでワインか」
「はい」
エコバッグから見えていたらしく、ワインボトルを見た彼がうなずいた。
そうなの。だから、たーくんは本屋さんへ行くのを後回しにしてくれた。
ひとりで平気だよって言った途端、『お前じゃ酒買えねぇだろ』と言われて、一瞬思い当たらなかったあたりちょっと失格かな。
いくら料理に使うとはいえ、買わせてもらえないもんね。
「田代先生は何にするんですか?」
「新じゃがたくさんもらったんだけどさ、ふたりだとなかなか使いきれないんだよ。そのままバター乗せて塩で食べるのが一番うまいと思うんだけど、どっかのやつは味がないだのなんだのってうるさくて」
「あ。ガーリックバターもおいしいですよ?」
「ガーリックって……トーストなんかにする、あれ?」
「はい。この時期、バターはすぐ柔らかくなるので、にんにくとパセリと合わせたら何にでも使えますよ」
「なるほどねー」
近くにあったベンチへ腰かけながら話すのは、料理について。
いつだったか、田代先生がレシピサイトを見ていたのを知り、それから話すようになった。
共通の、ある意味趣味かもしれない。
この間教えてもらった簡単ローストビーフは、みんなに好評だった。
「あら、かわいい子ナンパしやがってと思ったら、葉月ちゃんだったのね」
「こんにちは。絵里ちゃんは……それおいしいよね」
「よねー! さすが葉月ちゃん、趣味合うわー」
どうやら違うお店に行っていたらしく、彼女が持っていたのはチョコレート専門店のドリンクだった。
粒の大きなチョコレートが溶け込んでいて、絞られているホイップクリームにもチョコレートソースがかかっている。
「たっきゅんは?」
「ふふ。本屋さんにいるよ」
「ほんと、本好きなのね。いやー知的だわー。どっかの人と違うわー」
「…………」
「あれ。聞こえなかった? 本じゃなくて雑誌しか読まない人」
「お前だって教科書しか読まないだろ」
「っさいわね」
「お互い様」
いつからか、絵里ちゃんはたーくんをそう呼ぶようになっていた。
彼自身もそれは知っているけれど、都度、訂正は求めているらしい。
らしい、というのは最近はめっきり聞かなくなったからだけど。
「っ……つめた」
「珍しいとこで会いますね」
「あら、噂をすれば」
ひんやりとしたものが頭の上へ載せられたかと思いきや、たーくんの声も降ってきた。
首をかしげると、彼の手にはーーああ、やっぱり。
すぐそこのポスターにある、プリンアラモードがある。
「噂? 俺の?」
「そーそ。って、本買わなかったんですか?」
「立ち読み」
「……ふ」
「何よ」
「別に」
あっさりたーくんが言い放った瞬間、ずず、と音を立てて田代先生がコーヒーを飲みきった。
ストローを噛んだまま眉を寄せた彼女は、なかば睨んでいたものの、何も言わず。
理由を知らないたーくんだけが、不思議そうにしていた。
「期待を裏切らないでください」
「いや、そう言われても。つか、普段自腹で本買わないんだって。読みたいハードカバーとかは、個人的にリクエストと称して経費購入」
「え、そうなの?」
「バラすなよ」
「言わないけれど、それって……いいの?」
「仕事してンし、今のとこどこからも文句言われねーからな。暗黙のルールなんじゃね?」
肩をすくめた彼に眉を寄せるも、さも当然の顔でさらりと返された。
いいのかなぁ。
どうりで、いろんな本を読んで内容も知ってるのに、実物が家にないと思った。
まあ……たーくんだから、許してもらえてる部分もあるんだろうな。
真面目にお仕事してるもんね。
「あ、うま」
「プリン?」
「がっつり」
ひとくち飲んだたーくんが、まじまじとカップを見つめた。
いかにもプリン色の飲み物。
カラメルと生クリームのコントラストに、ピンク色のさくらんぼがトッピングされていて、見た目もかわいい。
ふふ。たーくん、飲みたいものはきっちり自分で手に入れるもんね。
「いいの?」
「飲むだろ?」
「ん。ありがとう」
ひとくち味見したかったなと思っていたら、通じたのか差し出された。
少し太めのストローに口づけると、まさにプリンの味が広がって頬が緩む。
「おいしい……」
「だろ」
「うん。羽織も好きそうだね」
「かもな」
たーくんへカップを戻すと、『あ』と言って蓋を外した。
何をするのかと思いきや、添えられていたさくらんぼの茎をつまむ。
「え?」
「いや、さすがに俺食わねーし」
「嫌いじゃないでしょう?」
「そーゆー問題じゃねぇんだよ。イメージの問題」
イメージ。
どういうことかピンとは来なかったものの、差し出されて口を開くと、そのまま食べさせられた。
生とは違う、缶詰のさくらんぼの味。
でも、小さいころ食べたプリンアラモードの思い出が蘇るから、これはこれでおいしく感じる。
「ん、ごちそうさま」
カップを包んでいたナフキンを差し出され、茎と一緒に種を包む。
すると、私を見ていたたーくんが、ふいに視線をずらしたかと思いきや、また『あ』と呟いた。
「…………」
「…………」
「いや、これは……なんつーか、うっかり……」
「つい、ってやつ?」
「それそれ」
ちゅー、とドリンクを飲んだままの絵里ちゃんが、まっすぐにたーくんを見つめた。
隣に座っている田代先生は、まるで微笑ましい何かでも見つけたかのように、とても優しい顔をしてしきりに頷いている。
そんなふたりを見てか、たーくんは慌てたように『違う』を連呼していた。
「どう思う? これって無意識よね?」
「当然だろ。じゃなきゃ、俺たちの前でやらない」
「てことは、普段お家でこーゆーやりとりが繰り広げられてるってことね」
「いやー、家じゃもっとがっつり葉月ちゃんにーー」
「うっわ、すっげぇ誤解!」
ひそひそと話し合う絵里ちゃんと田代先生は、まるで秘密の話でもするかのように顔を寄せ合っていた。
なぜかたーくんが慌てているけれど、理由はちょっとわからない。
でもーー。
「え? っ……」
「ふふ。付いてるよ」
絵里ちゃんの頬に付いていたチョコレートシロップをハンカチで拭うと、目を丸くしたかと思いきや、田代先生も同じような顔をした。
彼女にいたっては、ちょっぴり頬が赤くなったかのようにも見える。
「…………」
「…………」
「え?」
「いけない……いけないわ、このカップル! 無意識のたらしよ!!」
「うわ、やばい。気に当てられる」
「え?」
「……どーゆー設定っすか」
がばっとのけぞったふたりは、立ち上がって私たちから逃げるかのように両手を前へ出した。
たーくんだけは意味がわかっているようでため息をついたけれど、ちょっとよく状況が飲み込めない。
でも……あまりにも仲の良さそうなふたりを見て、思わず笑みが浮かんだ。
「ふたりとも、本当に仲いいですね」
「えぇ!? 今のどこを見たらそうなるの!?」
「いやいやいや、俺たちよかよっぽど、葉月ちゃんたちのほうが仲いいと思うけど!」
目を丸くして否定するふたりは、まったく同じタイミングで反応した。
ふふ。そういうところなんだけどな。
顔を見合わせたふたりを見て、私もついたーくんへ視線が向かう。
「……ん」
「緩くなると味薄まるな」
「そうかな? それでも、結構甘めだね」
「まーな」
ストローごと差し出され、最後にひとくち。
飲みたいってつもりじゃなかったんだけど、でも、おいしかった。
「まだ見ンとこあるか?」
「ううん、もう大丈夫」
ちょうど空になった容器をゴミ箱へ入れたところで、田代先生たちも立ち上がった。
ものの、さっきまでと同じようにニヤリとした笑みをそろって浮かべている。
「ごちそーさま、葉月ちゃん」
「え? えっと、私は何も……」
「……純也さん、無言でそのジェスチャー勘弁してください」
ふたりとも、楽しそうだなぁ。
田代先生にいたっては、うんうんとうなずきながら親指を立てており、とても満足げな表情を浮かべていた。
「またね、葉月ちゃん」
「やー、いいもの見たって祐恭君にも伝えとく」
「……はー」
こめかみに手を当てたたーくんは、さておき。
ふたりへ手を振ると、それはそれは楽しそうに笑ってから、違う方向へと歩き始めた。
「ご馳走さま」
「あ? ひとくちだろ」
「でも、飲んでみたいなって思ったから、嬉しかったの」
たーくんへお礼を伝えると、意外そうな顔をしたあとで『お前律儀だよな』と言われた。
そんな自覚はないけれど、そう思ってもらえるならば、まだいいのかな。
無礼じゃないって思ってもらえてるなら。
「次の限定フレーバーはなんだと思う?」
「さー。別に、限定のたび飲んでるわけじゃねぇからな」
「そうなの?」
「今回はたまたま。飲みたい味と、そーでもないやつと差がある」
そうは言うけれど、車のドリンクホルダーに残ったままになってることなかったかな?
ぱっと見てすぐにわかるロゴだけに、印象が強いのかもしれない。
「おいしかったね」
「そーだな。満足した」
にっこり笑うと、彼らしい笑みで頷かれ、それを見れたことが嬉しかった。
こんなふうに、ひとつの飲み物をシェアできる関係になれるなんて、小さいころの……ううん、去年までの私は知らなかったこと。
とっても嬉しい。
やっぱり未来は、私にとってすてきなことばかり待っていてくれそうだ。
歩き始めてすぐ、当たり前のように手を差し出してくれたのが嬉しくて、両手を重ねていた。