Take a guess
2019.04.21
んあーお昼休み。おいしいご飯食べて午後も仕事。
花といえばこの人。
というわけで、いつでもお使いにパシられるにーさん編。
「探しものですか?」
「あー、どんぴしゃ。明日、退職される先生がいるってんで、買ってこいと。でも、注文がイマイチなんだよ。2000円程度で、豪華になりすぎず、かといってショボくないやつ。ある?」
「ふふ。大変ですね」
「ま、いつものことだけど」
つっても、この花屋にくるのは年に何度もどころか先月も2回ほどきていることもあってか、スタッフの彼女とはほぼ顔なじみ。
初対面は半年前。
スーツ姿で、腕組んだまま花を眺めること10分なんて客、ほかにいねーってのもあってか、一度で記憶された。
花を選んでこいって時点で、そもそも間違ってるってことに上司は気づいてないんだろうな。
俺だって別に手が空いてるわけでもなければ、暇なわけでもない。
つーか、ほかの人間にも仕事振れっつーの。
これだから、毎年若手が入ってこない職場はツライ。
「今月退職なんですか?」
「4月なのに、って?まあ思うよな。実際は3月末で退職だったらしいけど、後任が見つからなくて4月にずれ込んだってのが正解。ホントなら、とっくに海外旅行に行ってたらしいぜ」
俺よりも年下なのは、見てわかる。
そのせいか、つい口調が砕けるんだが、彼女は気にもしない様子で手近にある何種類かの花を選んでは手に取った。
「っち……ンだよ」
着信音でスマフォを取ると、表示されているのは仕事中であろうアイツ。
私用電話がバレて困ればいいとは思うが、俺がいないとわかって電話してきてるとすると、そこそこ困ってるってやつか。
「お前な、困ってから俺に電話してくんなよ」
舌打ちとともに告げると、案の定4限目に使いたい書籍がないだのなんだのというセリフ。
言っとくけど、俺は職場の付属物じゃねぇっつーの。
いつでもそこにいる、と思うな。
つか、使う予定があンなら、暇な朝イチ来いよ。
「は? あー、無理。今俺、外だし。あ? ンなすぐ帰んねーっつの。ちが、馬鹿か! 誰がサボりだ! 聞いてみろよじゃあ、館長に! 俺がなんでソコにいねーのか!」
とんでもないセリフを告げられ、公衆ということも忘れてうっかりデカい声で素がでた。
ばっちり彼女と目が合い、乾いた笑いでごまかしつつ背中を向ける。
いや、別にどう思われよーと関係はねーけど。
ただ少なくとも今後多少は絡みのある相手だけに、社会人として一定レベルの対応は必要だよなと思い直しただけ。
「……ったく」
早く帰ってこいって、ンなこと俺だってわかってるっつの。
つか、帰ってきてくださいお願いしますだろ、そこは。
「人気者ですね」
「俺? あー、まあね。そーしといて」
くすくす笑った彼女が、いつの間にか小さなブーケを手にしていた。
かすみ草とピンクのバラは、まだわかる。
が、水色と紫の小ぶりの花の名前までは、さすがに出てこない。
「いかがですか?」
「相変わらず、センスいいよな。花の名前はさっぱりだけど、色の組み合わせなら俺もわかる」
手渡された瞬間、ふわりと甘い香りがした。
おそらくは花束。
だが、風が吹いて長い髪が揺れたこともあり、正直どちらかとは断言できない。
「それと、これは私から」
「え?」
紙袋へ入れてくれたブーケとは別に、2本のチューリップを差し出された。
ピンクと赤のチューリップ。
透明のフィルムに包まれていて、これだけでも十分プレゼント仕様だ。
「俺に?」
「よかったら、受け取ってください」
にっこり微笑まれ、一瞬手を伸ばすのが遅れた。
受け取るって言葉に、他意はないだろう。
が、これまで皆無だった展開に、頭がついてけなかったのもあったかもしれない。
「ガラじゃねーけど」
「ふふ。プレゼントですから」
「へぇ。じゃあもらっとく」
受け取る際、指先だけ触れた。
知ってか知らずか彼女はにこりと笑い、『ありがとうございます』と口にした。
代金を支払い、いつもと同じような挨拶をしながら車へ戻る。
助手席には、御使い物のブーケと、個人的な頂き物となったチューリップ。
花……つか、家に花瓶とかあんのかな。
なんの気なしに受け取ったものの、直後に何を返そうかと考えるあたり、マメだなとは思う。
とはいえ、仕事柄渡せるものなぞ皆無。
だからこそ、好きそうだろうと仮定した近所の洋菓子店が思い浮かんだ。
ーーが、それは束の間。
御使い物を上司へ渡したあと、持っていたチューリップの出所を聞いてきた同僚のセリフで、選択肢の幅がぐっと狭まる。
「そのチューリップの花言葉、知ってますか?」
赤とピンクのチューリップ。
季節柄だろと思ったものの、事実はとんでもなく奇なものらしく、結局仕事中ではないときに足を運ぶハメになった。
花といえばこの人。
というわけで、いつでもお使いにパシられるにーさん編。
「探しものですか?」
「あー、どんぴしゃ。明日、退職される先生がいるってんで、買ってこいと。でも、注文がイマイチなんだよ。2000円程度で、豪華になりすぎず、かといってショボくないやつ。ある?」
「ふふ。大変ですね」
「ま、いつものことだけど」
つっても、この花屋にくるのは年に何度もどころか先月も2回ほどきていることもあってか、スタッフの彼女とはほぼ顔なじみ。
初対面は半年前。
スーツ姿で、腕組んだまま花を眺めること10分なんて客、ほかにいねーってのもあってか、一度で記憶された。
花を選んでこいって時点で、そもそも間違ってるってことに上司は気づいてないんだろうな。
俺だって別に手が空いてるわけでもなければ、暇なわけでもない。
つーか、ほかの人間にも仕事振れっつーの。
これだから、毎年若手が入ってこない職場はツライ。
「今月退職なんですか?」
「4月なのに、って?まあ思うよな。実際は3月末で退職だったらしいけど、後任が見つからなくて4月にずれ込んだってのが正解。ホントなら、とっくに海外旅行に行ってたらしいぜ」
俺よりも年下なのは、見てわかる。
そのせいか、つい口調が砕けるんだが、彼女は気にもしない様子で手近にある何種類かの花を選んでは手に取った。
「っち……ンだよ」
着信音でスマフォを取ると、表示されているのは仕事中であろうアイツ。
私用電話がバレて困ればいいとは思うが、俺がいないとわかって電話してきてるとすると、そこそこ困ってるってやつか。
「お前な、困ってから俺に電話してくんなよ」
舌打ちとともに告げると、案の定4限目に使いたい書籍がないだのなんだのというセリフ。
言っとくけど、俺は職場の付属物じゃねぇっつーの。
いつでもそこにいる、と思うな。
つか、使う予定があンなら、暇な朝イチ来いよ。
「は? あー、無理。今俺、外だし。あ? ンなすぐ帰んねーっつの。ちが、馬鹿か! 誰がサボりだ! 聞いてみろよじゃあ、館長に! 俺がなんでソコにいねーのか!」
とんでもないセリフを告げられ、公衆ということも忘れてうっかりデカい声で素がでた。
ばっちり彼女と目が合い、乾いた笑いでごまかしつつ背中を向ける。
いや、別にどう思われよーと関係はねーけど。
ただ少なくとも今後多少は絡みのある相手だけに、社会人として一定レベルの対応は必要だよなと思い直しただけ。
「……ったく」
早く帰ってこいって、ンなこと俺だってわかってるっつの。
つか、帰ってきてくださいお願いしますだろ、そこは。
「人気者ですね」
「俺? あー、まあね。そーしといて」
くすくす笑った彼女が、いつの間にか小さなブーケを手にしていた。
かすみ草とピンクのバラは、まだわかる。
が、水色と紫の小ぶりの花の名前までは、さすがに出てこない。
「いかがですか?」
「相変わらず、センスいいよな。花の名前はさっぱりだけど、色の組み合わせなら俺もわかる」
手渡された瞬間、ふわりと甘い香りがした。
おそらくは花束。
だが、風が吹いて長い髪が揺れたこともあり、正直どちらかとは断言できない。
「それと、これは私から」
「え?」
紙袋へ入れてくれたブーケとは別に、2本のチューリップを差し出された。
ピンクと赤のチューリップ。
透明のフィルムに包まれていて、これだけでも十分プレゼント仕様だ。
「俺に?」
「よかったら、受け取ってください」
にっこり微笑まれ、一瞬手を伸ばすのが遅れた。
受け取るって言葉に、他意はないだろう。
が、これまで皆無だった展開に、頭がついてけなかったのもあったかもしれない。
「ガラじゃねーけど」
「ふふ。プレゼントですから」
「へぇ。じゃあもらっとく」
受け取る際、指先だけ触れた。
知ってか知らずか彼女はにこりと笑い、『ありがとうございます』と口にした。
代金を支払い、いつもと同じような挨拶をしながら車へ戻る。
助手席には、御使い物のブーケと、個人的な頂き物となったチューリップ。
花……つか、家に花瓶とかあんのかな。
なんの気なしに受け取ったものの、直後に何を返そうかと考えるあたり、マメだなとは思う。
とはいえ、仕事柄渡せるものなぞ皆無。
だからこそ、好きそうだろうと仮定した近所の洋菓子店が思い浮かんだ。
ーーが、それは束の間。
御使い物を上司へ渡したあと、持っていたチューリップの出所を聞いてきた同僚のセリフで、選択肢の幅がぐっと狭まる。
「そのチューリップの花言葉、知ってますか?」
赤とピンクのチューリップ。
季節柄だろと思ったものの、事実はとんでもなく奇なものらしく、結局仕事中ではないときに足を運ぶハメになった。