「じゃ、遠慮なく」
「っ!? や、ちょっ……待って……!」
「待てない」
「だ、だって……」
「もう、いろいろ限界なんだよ」
「ん……っ!」
抵抗を示した彼女の耳元で囁くと、さすがに大人しくなって抱きついてきた。
そのままの格好で財布を手繰り寄せ、取り出したモノの封を切る。
「っ!?」
一瞬、瞳を閉じたところで彼女を布団に寝かせ、自身に纏わせてから彼女を組み敷くように―ー……一気に這入る。
「やぁっんっ!」
「……は……欲しいなら、欲しいって言えばいいのに……」
「だっ、て……あっん……!」
「……1回じゃ済ませないかもよ……?」
「っ!? な……んぁっ! や、ぁうっ」
瞳を丸くした彼女に構わず動き出すと、途端に締めつけられた。
「……っ……く」
「あ、んっ……んっ! ……く、ぅ」
思わず、倒れそうになるくらいの快感。
吐息が漏れ、力が抜けそうになる。
……だが、そのままでいられるわけがない。
自分の女を悦ばせなくして、何が男だと言えよう。
「っ……んぁ!」
弱い部分を探り当てて擦るように責め上げると、悩ましげに眉を寄せて唇を噛んだ。
と同時に、胸に手を這わせて先端を弄るように撫で、軽く揉み始めると、同時に秘部の締めつけが強くなる。
……感じてる証拠。
だからこそ、嬉しくてたまらない。
「初めてのとき……イヤじゃなかった……?」
「っ……え……?」
うっすらと開いた瞳を捉え、じぃっと見つめる。
……あのとき。
あの、初めて彼女を――……抱けたとき。
もしかしたら、そう思っていたんじゃないか。
急すぎる展開だったとはいえ、俺自身はやはり待ち望んでいたから……それこそ本望だったが。
でも、彼女にしてみれば、それは違う。
あのとき彼女は恐らく何も準備できてなかったはずだから。
――……だが。
「ちょっと……怖かったですけど……でも、祐恭さんだから……」
「っ……」
彼女は、俺の想像に反して、ゆるゆると首を横に振った。
「それに…………私、嬉しかった……んです」
まるで、幸せをめいっぱい示してくれているような。
そんな、ひどく嬉しそうでかつ、はにかむように笑ってくれたのを見て、こちらも表情が緩んだ。
屈託なく笑ってくれること。
彼女がそうしてくれるのが、どれほど俺にとっての誇りか。
……嬉しい以上の感情だな。
自分に対してこれ程の感情を見せてくれる彼女が、本当に特別だ。
「いろいろ、聞くじゃないですか。痛いとか、怖いとか……。でも……」
「……でも?」
「優しかったし……祐恭さんが、私をそんなふうに見ててくれたってわかって……幸せだったもん」
眉尻を下げて微笑まれ、つい喉が鳴った。
後悔どころか、むしろ自分に抱かれたことを喜んでくれている彼女。
初めてで怖いはずなのに、自分ならばと許してくれたこと。
……そして、幸せな顔を見せてくれている姿。
そのどれもが、胸の奥を刺激する。
純粋にそう思ってくれているということがわかるからこそ、どうしても……離したくなくなるワケで。
「……ありがとう」
「え……?」
「でも俺は、羽織ちゃんだから、抱きたいと思ったんだよ?」
「……っ……」
1箇所だけ。
さっきの彼女の言葉で、引っかかったところ。
そこをしっかりと否定して彼女だけだと限定を伝えてやると、少しだけ瞳を丸くしてから――……。
「……ありがとう……」
照れたように頬を緩ませ、ひたりと胸元に手のひらを寄せた。
……そう。
その顔が、俺は見たかった。
瞳を細めてから彼女の頬に手のひらを当てれば、それはそれは幸せそうに笑ってくれる。
この関係こそ、彼女とじゃなければ築けない理想形だ。
「羽織」
「っ……祐恭、さん……」
にっと笑みを見せて名前を呼ぶと、少しだけ驚いたように首をかしげた。
そんな彼女ににっこりと笑ってから、同じように少しだけ首をかしげる。
「もっと気持ちよくしてあげる」
「っ……!」
「……あのときみたいに」
「もぅ……えっち……」
驚いたように瞳を丸くしたあたり、しっかりと覚えているらしい言葉。
……満足。
俺だけじゃない、彼女だって同じ気持ちだとわかった今、何に遠慮することもない。
「あんっ……ん!」
ぐいっと奥まで這入り直してから足を開かせ、背中に手を回して軽く持ち上げるようにしてやる。
「ん、っく……ぁ、ダメっ……」
すると、それだけでさらに奥まで刺激されるらしく、悩ましげなイイ顔を見せた。
「……気持ち……いいんじゃないのか?」
「それはっ……ん、あ……ぁ、そうだけどっ……」
「じゃあ……ダメとか言わない……!」
「んん、ぁ、や……っくぅんっ……!」
さすがに、1度果てかけた彼女の身体はそう簡単に静まるはずもなく、動きを速めるにつれてぐいぐいと締め付けられた。
……ヤバい。
度重ねて迫りくる快感に果てそうになりながら彼女を抱きしめると、耳元で甘く息を漏らした。
「やっ、あ、もぅっ……ダメっ……ん、やぁっ……ん!!」
「っく……!」
つらそうに息をついた途端、びくびくと奥からの締め付けが襲った。
たまらず身体を折り、何度も締め上げられながら、荒く息を漏らす。
と、彼女もまた気だるそうに声を漏らした。
「はぁっ……ん……もぉ、やぁっ……」
「……まだ」
「え……っ!?」
だるそうな身体を抱きしめてから起こし、繋がったまま彼女を膝に乗せる。
「な……っな……!?」
どうやらその意味がわかっていないらしく、彼女は相変わらず赤い顔のまま……瞳を丸くした。
「……いい眺め」
「! ……えっち……」
「嬉しいクセに」
「……けどっ! んっ……ぁ、だめっ……」
下から突き上げるようにすると、まるで泣きそうな声とともに、腕を首に絡めてきた。
すがりつくようにもたれられ、耳元に甘い声と喘ぎがかかる。
「……いい声」
「だって……はぁ、もぉ……無理っ」
「無理じゃないだろ?」
「んんっ……も、ホントに……! ……あ、やっ……」
「……もっと」
「ん……ぁ……おかしくなっちゃう……ぅっ!」
悩ましげに眉を寄せた彼女の腰に腕を回してから、再び胸に舌を這わせる。
すると、途端にびくっと身体全体で反応を見せてから、きゅっと自身を締め付けた。
「っ! あ、ダメっ……ん!! や、やぁっ……ん!」
ゆるゆると首を振って抵抗を見せられるが、今さら止められるはずもなく。
余韻の残る胎内。
そこに、新たに生まれる悦による締め付けが、いろいろとマズいくらい気持ちよかった。
「……はぁ……ちょ、ヤバいかも」
「ん、もぉ……ダメっ……ぇ! んぁ、や……またっ……!」
「いいよ……狂って」
「……あ、あっ……あ、祐恭さんっ……祐恭さっ……あ、あんっ、もぅっ……ダメぇ……え!!」
ちゅ、と吸い付くように胸の先端を含んだ途端、びくんと身体を反らせて強烈に締め上げられた。
「……っく……」
律動を早めて彼女を突き、最後に大きな悦を得る。
ほどなくして果てたそのとき、無意識の内に強く強く抱きしめていた。
「……ん……っ、ぅ」
力ない身体で抱きついてきた彼女が、珍しく唇を求めてきた。
それに応えるようにしっかりと舐めてから舌を絡め、もっと深くまで口づけてやる。
耳に届く、淫らな濡れた音。
お互い繋がったままでびくびくとした締め付けの余韻に浸っていると、気付いたように彼女が肩から手を離す。
「……ん?」
「っ……ごめんなさい……! 痛かったでしょ……?」
いきなり、慌てたように肩口を見つめ、眉を寄せて申し訳なさそうな顔を見せた。
……?
「ここ……赤くなって……」
「つ……っ」
「ご、ごめんなさいっ!」
彼女が肩に指を這わせた途端、小さく痛みが走った。
……いつの間に。
まったく気付かなかっただけに、正直、いつ食らったのかすら覚えていない。
――……が。
「それじゃ、慰謝料貰わないと」
「っ……ごめんなさい……」
にやっと意地悪く彼女を見ると、申し訳なさそうに瞳を伏せた。
まぁもちろん口だけで、そんなつもりは毛頭無いのだが。
それでも、彼女にとってはそうじゃないらしい。
ひどく申し訳なさそうなまま見つめられ、思わず苦笑が浮かぶ。
「……なんか、ヤラシィな。その格好は」
「え?」
彼女から離れて処理を済ませると、浴衣を簡単に羽織って布団に足を崩している彼女と目が合った。
「……そう……ですか?」
「うん。ひょっとして、もう1度欲しいって意味?」
「っ……! ち、違いますよ!!」
いたずらっぽい笑みを見せると、眉を寄せて照れたように肩を抱いた。
そんな姿でも、当然胸というか……鎖骨というか。
そのあたりの白い肌はばっちり見えているので、色っぽいことに変わりはないが。
「ん?」
小さく笑ってから彼女に背を向けると、温かい手のひらが触れた。
反射的にそちらを振り返るように首だけを回し、彼女を見ると、なぜだかはわからないが嬉しそうに柔らかく笑っていた。
「……広い背中」
「そう? ……まぁ、羽織ちゃんに比べれば広いだろうけど」
「うん。男の人って感じですね」
「……いや、男だし」
「あはは。そうですね」
顔を戻してから苦笑を浮かべると、くすっと小さく笑ったのが聞こえた。
……が、その途端。
「っ……!」
肩口に、濡れた感触。
動きといい、温かさといい……ゆっくりと這うのは、紛れもなく彼女の舌だ。
「……な……」
「…………消毒」
「食われたいの?」
「え!? そ、ういうワケじゃなくて……!」
両肩に手を添えたまま、顔のすぐ隣で首を振る彼女の頬は、若干赤みが差していた。
……ったく。
ときどき珍しいことするんだから。
これじゃ、落ち着くべき衝動も落ち着かなくなるじゃないか。
……かえって、無意識下のことだからこそ……困るというのに。
「まぁ……勲章ってところか」
「勲章? なんのですか?」
「誰かさんをイかせた」
「っ……えっち!」
ニヤっと笑って彼女を見ると、途端に俯いてから、ずりずりと姿勢を崩して背中に額を当てた。
恐らく、さっきよりもっと赤い顔をしているはず。
それがわかるからか、つい笑みが漏れた。
「ほら。しっかりメシ食わないと酔うだろ?」
「……もぅ。祐恭さんの運転なら、平気なんですってば」
翌朝の、モーニングビュッフェ。
夜と同じ店ながらも、和食洋食を取り揃えられているせいか、違う店のようにも感じた。
眠そうに欠伸を繰り返す彼女に、とりあえず焼きたてのクロワッサンが乗った皿を差し出す。
……まぁ、ぺろっと食べるとは思えないけどな。
なんせ、ここに来る前も、部屋である種の格闘をしたんだから。
…………眠い子を起こすのは大変だな。
ふと、妹たちで苦労していた母親の姿が思い浮かんで、いろいろ納得した。
「お行儀悪いんじゃないですか?」
「ぅ。……で、でも……おいしいですよ?」
「……ったく」
箸を持ったまま、持っていたパンを彼女がどうするのかと見ていたら、半分に割って、中だけをつまんで食べ始めた。
……そのまま食えばいいものを……。
とも思うが――……まぁ、昨晩は結局あれこれ意地悪したからな。
強くは出れないというのもある。
とはいえ、彼女が俺のせいにするはずはないのだが。
「……でも、珍しいですね。和食なんて」
「そう? 別に普通になんでも食べるよ」
「んー……朝の代表って感じ……そういう食事のほうがいいですか?」
「ん? あー、たまに食べたくなるんだよ。朝練があったときは飯食ってたから」
パンを食べながら、寝ている頭を無理矢理起こそうとがんばっているらしき彼女。
何を考えているのかは大方予想できるが、別に、パン食が嫌いとかそういうわけじゃなくて。
たまに食べたくなる程度だから、気にしないでほしいが……まぁ、彼女じゃ仕方ないのかもしれない。
「……どう? 少しは目、覚めた?」
「え? あ、はい。このパンおいしいですよ」
「だろうね。あちこちに卸してるだけあるよ」
ホテルの名前でよくパンを売っているのを目にするのだが、こうして本家本元で食べるのは初めてだと思う。
……ま、俺は違う店のデニッシュのほうが好きだけど。
なんて、彼女が聞いてきたらうっかり言ってしまいそうだが。
「朝練って、やっぱりみんな早かったんですか?」
「まぁね。じゃなきゃ、朝練にならないだろ?」
「……そうなんですけど……。でも、お父さんが朝早く出て行くところなんて、ほとんど記憶にないから……」
「当然だよ。朝は先生来ないから」
「あ、そうなんですか?」
「そ。……まぁ、だからこそいろいろあるワケだよ」
味噌汁を箸で混ぜながら苦笑をすると、怪訝そうに眉を寄せた。
……あー、気にしてる気にしてる。
言い方にクセがある俺も俺だとは思うが、見事なまでに食いついてくれる彼女も彼女か。
「なんですか? いろいろって」
「ま、いろいろだよ」
「……気になる……」
「そのうちね。……気が向いたら教えてあげる」
くすくす笑って肩をすくめてから、箸を舐める。
クセっちゃクセなんだが、こう、メシに味は付けたくないんだよ。
そんな、変なルールみたいな。
「……?」
ふいに彼女と目が合った。
――……と思ったら、すぐに逸らされる。
……なんだよ。
「お行儀悪いですよ?」
「…………。今、何を想像した?」
「っな……何も……」
「そう? 顔に『嘘』ってばっちり出てるけど」
「う。……なんでもないもん」
ここぞとばかりに言ったようだが、むしろ逆効果と言うべきか。
目線を合わせようともせずにパンをほおばり、紅茶をひとくち。
……ま、何を考えたくらいわかるけど。
だが、敢えて顔にはまったく出さず、箸を動かす。
「朝から欲情しないでもらいたいね」
「っ……ごほっ!? や、ちがっ……ごほごほっ!」
涼しい顔でため息混じりに呟くと、むせながらと手を振った。
……あーあ。
何も、そこまで露骨に表さなくても。
箸を置いて紅茶を差し出してやると、しばらくしてからようやくそれに口をつけた。
「そんなに動揺しなくてもいいのに」
「……ど、うようしてませんっ!」
赤い顔で息を整えるべく口元に手を当てた彼女に、軽く睨まれた。
が、その顔で何を言われても迫力は欠落中。
痛くも痒くもない……なんて言ったら、口を利いてくれないかもしれないから、やめておく。
「そんな顔で睨まれても、迫力なんてないけど?」
「……いじわる」
というわけで、ちくりとひとことだけ。
ついつい意地悪く瞳を細まったのを見られ、案の定ぷいっと顔を背けられた。
……楽しい。
朝からこういうやりとりは、結構重要だと思う。
昨日はいろいろしてあげたから、もしかしたらそのせいでつっかかってくるのかもしれないけど。
ま、楽しそうだからそれでいい。
「………………」
今日は、これから帰ってすぐ彼女のご両親へ買った土産を持っていくつもりだ。
……が。
やはり、彼女を抱いた日というのは、どうしたってご両親に会いにくいワケで。
その……なぁ。
いろいろと苛めるに近いような申し訳ないことをしてしまっているワケだし。
…………まぁ、だからといって今さら手を出さないなんてお預け状態に戻れるはずもないんだが。
「…………」
我侭、か。
確かに、そうだろう。
否定はしない。
「……もぅ。何考えてるんですか?」
「え?」
「顔がニヤけてますよ」
渋い顔で指摘され、そこでやっと自分が笑ってるのに気付いた。
「……まぁ……なんだ」
「なんですか?」
「いろいろと、ね」
眉を寄せた彼女に、にっこりと笑ってうなずく。
……彼女にはわからないだろうな。
でもま、いいんだよ。
俺は、十分わかってると思うから。
1度ウマいものを知れば、人間、どうしたって欲が出て当然。
「……やっぱイイな」
今回の旅行も、そして彼女とのやり取りも。
帰りの車内が容易に想像ついて、再び顔が緩んだのは言うまでもない。
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