解除?
2020.05.28
いよいよ緊急事態宣言が解除になりそうですねー!
だがしかし、だからと言って別にコロナが収束したわけではないってのがみそ。
神奈川は5月後半感染者が増えてしまいましたが、心配なのは、
感染経路不明者が増えたってところなんだよねー。
でも、緊急事態宣言が解除になる前から、街にはすでにたくさんの家族づれやカップルが買い物していて、
マスクもしない人もちらほら出てるんだよね。
怖いのは、うつるだけじゃなくて、うつしてしまうかもしれないってこと。
でも、それ以上に怖いのは「デマ」と「差別」。
人の目って怖いんだよ。
孤立は最大のピンチです。
どうかみなさま、関係のある人と繋がり続けて、そして話してくださいましー!
と、真面目な話はこの辺で。
現在、thinkを改稿真っ只中。
17話まで書いたけど、全然違う話になった。
でも、これはこれでと思っているので、どうせなら最後までつじつま合わせたところで公開したいんだよねー。
首をちょーーーー長くしながら、生暖かい眼差しでお待ちくださいませ。
本職が復活し、日々疲弊。
でも仕事は好きだし、そのためにも自己研鑽あるのみでござるよ。
だがしかし、だからと言って別にコロナが収束したわけではないってのがみそ。
神奈川は5月後半感染者が増えてしまいましたが、心配なのは、
感染経路不明者が増えたってところなんだよねー。
でも、緊急事態宣言が解除になる前から、街にはすでにたくさんの家族づれやカップルが買い物していて、
マスクもしない人もちらほら出てるんだよね。
怖いのは、うつるだけじゃなくて、うつしてしまうかもしれないってこと。
でも、それ以上に怖いのは「デマ」と「差別」。
人の目って怖いんだよ。
孤立は最大のピンチです。
どうかみなさま、関係のある人と繋がり続けて、そして話してくださいましー!
と、真面目な話はこの辺で。
現在、thinkを改稿真っ只中。
17話まで書いたけど、全然違う話になった。
でも、これはこれでと思っているので、どうせなら最後までつじつま合わせたところで公開したいんだよねー。
首をちょーーーー長くしながら、生暖かい眼差しでお待ちくださいませ。
本職が復活し、日々疲弊。
でも仕事は好きだし、そのためにも自己研鑽あるのみでござるよ。
Thanks mother’s day
2020.05.10
もともとは、去年の母の日用に書いていたものです。
1年ごしだぜ……。
あれから1年。
世の中も私自身も大きく環境は変わりましたが、今、生きている。
感謝しつつ、乗り越えられない壁は人類になかったと信じ、明日を待ちましょう!
ってことで、がっつり濃厚接触です。
ソーシャルディスタンスも守られてません。
買い物も、決死の覚悟でひとり! じゃない。
でも、早く戻ろうぜ。こんな感じに。
まぁ、いろんな意味で言えば衛生的ですけどね。マスクして、パン屋さんのパンもすべて袋に入ってて。
嫌いじゃないぜ、そういう配慮は。
てことで、長文。
「だから、それはいらないって言ってるだろ」
「あらなあに? 祐恭ったら、ずいぶんと物を欲しがらなくなったのね」
「……あのさ、ひとつ聞くけど。いつの俺と比較してる?」
「そうねー、これくらい小さかったころ?」
「それじゃ小学生にもなってないだろ」
うちの母は、そこまで背が高くない。
それもあって、今彼女が手で示したサイズは、明らかに幼児だった。
今までの人生の中で、どうしても買ってくれとねだったことがあるのは、多分そんなに多くない。
というのは単純な理由で、俺の下に双子の弟妹がいるから。
母が俺よりもそちらに気を取られていたことはよく覚えているし、聞き分けのよくないふたりということもあって、自然と俺は言わなくなった。
手間をかけさせたくないと思ったのか、兄だから我慢しなければと思ったのかは、俺にもわからないけれど。
「ふふ。じゃあ、何か買ってあげましょうか」
「は?」
「だって珍しいじゃない? こんなふうに、一緒に買い物に行こうって自分から誘うなんて」
それは確かにーーではなく、そこには特に理由なんてない。
母の日ということで実家へ顔を出した際、さも『誰かついてきてくれないかしら』アピールをされたからというのが正しいわけで、物珍しがってくれているらしい母には面倒なので言わないでおく。
そう。今日は母の日。
今回は、俺だけでなく羽織からも贈り物を預かっており、来ないわけにいかなかった。
そんな彼女はなぜか今、俺の妹弟たちと家にいる。
……なんで、一緒に来たのに離れなきゃいけないんだ。理不尽じゃないか。
『お兄ちゃんはいつだって羽織ちゃん独り占めできるんだから、たまにはいいでしょ』などと紗那に言われたが、そもそもその理由がおかしいのにな。
なんで一瞬ひるんだんだ、俺。
「羽織ちゃんからもらったハーバリウム、とってもきれいだったわー! ほんと、いい子ね」
「そりゃどうも」
「あら。祐恭を褒めたわけじゃないわよ?」
「でも、自分の彼女を認められたら嬉しいだろ?」
「確かにそうね。いい息子にいいお嫁さんが来てくれそうで、母さん安心だわ」
にっこり笑われ、どう答えればいいものか悩んだ。
まだ、学生生活をスタートしたばかりの彼女に、結婚生活を期待する言葉をかけはしないだろうが、この母じゃやりかねない。
そこが若干気がかりだが、まあきっと彼女なら喜んではくれるだろうから、その顔を見るという口実で黙っておくのもたまにはいいか。
学生のときも花の1輪程度買ったことがあった気はしなくもないが、社会人になってからはより、意識するようになった。
なんて話をしたら、誰にでも言われるのが『マメだな』と『親孝行』のふたつ。
ただ、残念ながらそこまできちんとした人生を歩んできたからというよりは、世間的な習わしにしたがってというほうが強いかもしれない。
ここまで育ててくれた恩は、人並みに感じている。
学生時代が平穏無事で波を一切立てなかったわけではないというのもあるが、俺が俺として生まれるためには、必要だった人たち。
今、よかったと思える日々が手元にある基礎を作ってくれたのは、紛れもなく彼女がいたから。
来月の父の日は、何をすればいいのか。
きっと、俺の彼女はまめに何か計画してくれるだろうから、俺もそれなりに考えておかなければならない。
「っ……ちょっと待った、いつの間に!」
買い物カゴを乗せたカートに手を置いたまま、ふとそばにいた小学生とおぼしき親子連れを見ていたら、目を離したすきにカゴがてんこ盛りになっていた。
いやいやいやおかしいだろ、この量は。
確かに、昼飯の支度をかねてという名目の買い物らしいから、多少は認めよう。
家には、育ち盛りと言っていいかはわからないが、学生の涼がいる。
しかし、今日は日曜日で、家政婦として長年我が家の衣食住をある意味支えてくれている佳代さんは不在。
ということは、こんな大量の食材を買い込んだところで処理できる人間がいないということ。
……いやまぁ正確には羽織がいるからなんとかしてくれそうだけど、彼女は今日、お客さんなわけで。
この量を冷蔵庫へ突っ込んだら、絶対叱られると思うが……まあいいか。
俺は今日、泊まらず帰るし。
ふと、ダイニングの椅子へ揃って座らされた涼と紗那が、佳代さんにこってり叱られている様が眼に浮かぶ。
「まー、今日はカレー粉が安いのね」
「待った」
「え? なあに?」
「何じゃなくて。うちは何人家族だ?」
「やぁねぇ。7人よ? といっても、祐恭はこっちにいないから6人だけど」
「だろ? じゃあ、いっぺんにカレー粉4箱買う必要はないよな?」
「でも、カレーって一度に結構使うのよ?」
「じゃあこの缶詰はどこにしまうんだよ」
「どこって……カレー粉と同じ場所でしょ?」
「いつからウチのキッチンの棚は、スーパー並みに拡大された?」
「入るわよ?」
「入る入らないの問題じゃないんだって。だから」
はーーーと深いため息をつくも、納得してないどころか不思議そうな顔のお袋を見つつ、軽く頭痛がする。
というか、そもそも今は昼飯の買い出しに来たんじゃなかったのか?
すっかり忘れているようだが、家に帰ってもあるのは炊けた米だけ。
さっき起きたばかりの涼は、納豆すらないとかなんで!? と悲鳴をあげていた気がする。
「…………」
だがしかし、このてんこもりのカゴに、さらに昼飯のことを口にしたら、ふたカゴ目行くな、間違いなく。
普段、自分ひとりの買い物でカートを使うことは皆無なため、ギャップなのか感覚の違いなのかわからないが、妙に疲れる。
羽織と一緒の買い出しでも、ここまでならないはずなのに。
「あら、今日は黒豚が2割引ですって! 夜はしゃぶしゃぶにしようかしら。羽織ちゃんも夕飯食べていけるでしょ?」
「いや、夕飯の前に昼飯をーーって、豚肉ばっかり4パックもいらないだろ!」
「あらやだ、そうね。お昼買いにきたんじゃないの! じゃあお昼はお刺身とかのほうがいいかしら? 昼も夜もお肉じゃ偏るわよね」
「っ、だから、そういう不安定なところに置くなって!」
お徳用と書かれたしゃぶしゃぶ肉をあるだけカゴに積み上げ、きびすを返して鮮魚コーナーへ。
たちまち崩れそうになる豚肉を支えつつ、はるか彼方へ移動した母を見てため息が漏れた。
なんだ、この感覚の違いは。
ああ、久しぶりに体験したけど、やっぱりつらいな。
料理に関しては俺と同じくらいのレベルなはずだけに、お袋があっているかどうか判断つかないのが切ないところだが、多少はましだと思っている。
それもすべては、羽織との学習のおかげ。
だが、今彼女は不在。
となると、管理するのは俺一人なわけで。
「……はー」
買い物に付き合うと言った俺を、奇特な眼差しで見た家族連中の心情が、今ならよくわかる。
だが、今日は母の日。
この母の血が、俺にも流れている。
「……あのさ」
「え? なに?」
「…………なんでもない」
「なぁに? この子ったら。今日はへんな日ね」
やっと追いついたかと思いきや、デザートコーナーへ寄り道らしい。
くすくす笑ったお袋に、とりあえず肩をすくめるだけにしておく。
両手に焼きプリンを持っていたが、まあ、日持ちするならいいんじゃないか。
「俺は食べない」
「羽織ちゃんのぶんよ」
「ほかに誰が食べるんだよ」
「あまったら、持って帰りなさい」
器用に4つ両手で持ったのを見て、思わず手が伸びた。
何個買い込む気なんだ。
これ以上は無理なので、仕方なくすぐそこにあったカゴをひとつカートへ乗せることにする。
「来てくれて、ありがとうね」
「え?」
「だって、ひとりで買い物に来るつもりだったのよ。だから、祐恭が来てくれて助かったわ。ひとりじゃ運べなかったもの」
「まぁそうだろうな」
思わぬところで礼をもらい、目が丸くなった。
まあ、たまには付き合ってやってもいいのかもな。
親に感謝されることなんて、そうないものだし。
と思った矢先に食パンを2斤カゴへ入れそうになったのを見て、慌てて止める。
「……はー」
プリンで思い浮かべたヤツは、今ごろどこで何してるんだか。
ふと、アイツ……いや、あの兄妹が好きそうなプリンだなと思ったあたり、だいぶよくわかってる自分に感心した。
「だから。アンタは買い物に付き合ってるのか、自分の買い物なのか、どっち?」
「付き合ってやってんだから感謝しろって」
「じゃあ今すぐその1パックは戻してきなさいよ」
「手間賃みてーなもんだろ? どーせお袋だって飲むじゃん」
「私はそれは苦くて飲めないって言ってんでしょ」
「じゃ俺が消費しとく」
「だから……はーもーアンタは」
この前、ビールを飲んだのは歓送迎会のとき。
といっても、職場の図書館ではなく大学の事務連中のほうで呼ばれたやつ。
図書館は相変わらず、俺より下の人間が配属されることはなく、今年も学生のバイトが入れ替わった程度。
野上さんの『今年も若いイケメンがこない』ことへの八つ当たりは、そろそろ俺が引き受けなくてもいいんじゃねぇのか。
「……アンタね」
「あ?」
「なんでそこで、当たり前のようにプリン入れるのよ」
「食う?」
「……ルナちゃんと羽織の分も入れて」
ひとつだけ入れたのが気に入らなかったらしく、顎でプリンを指された。
いや、このサイズのプリン食うの俺くらいだと思うけどまあいいや。
俺の金じゃないし。
「アンタ、今日何の日か知ってる?」
「5月の第2日曜日」
「世間一般では?」
「母の日」
「わかってての暴挙?」
「なんで暴挙なんだよ。付き合ってやってんだろ?」
「別に頼んでないでしょ?」
カートを押しながらため息をついたお袋を見ると、それはそれは嫌そうな顔をして牛肉のパックをカゴへ入れた。
そういや今日はすき焼きにするとか言ってたな。
だったら俺は、牛もいいけど豚も食いたいところ。
つーかまあ、ぶっちゃけ肉とえのきと長ネギさえあればいい。
「ビール1ケース買い込むんじゃ重たいだろうなと思って、わざわざ俺が来てやったのに」
「あっそう」
「全然抑揚ねーな」
「だって、私が買いたいものよりアンタが食べたい物のほうが多いんだもの」
多分気のせい。
ま、さっきも言ったけどいわゆる手間賃ってヤツだと思えば、安いんじゃねーの。
母の日という理由じゃないだろうが、食品売り場はかなり混雑していた。
いろんなものにカーネーションを模したシールやら小さな造花やらがついていて、嫌でも目につく。
昔から、とりあえず母の日には何が欲しいか聞いてやっていたが、就職してからは旅行などというやたら値が張るモンを求められるようになり、聞くことをやめている。
今ごろ、家じゃ葉月がいろいろ用意してんだろーよ。
アイツほんとマメだよな。
『こっそり準備したいから買い物へ行ってきてくれる?』と頼まれ、仕方なく出た今。
ついでに買ってきて欲しいと言われたモノは、ついさっきお袋がセールのアナウンスを聞きつけて行方をくらました間に、一応買ってはおいた。
「で? アンタ、恭介くんのお嫁さんに何あげたの?」
「は? なんで俺が」
「……馬鹿なの?」
「なんでだよ。失礼だぞお前」
「お前って言うほうが失礼でしょ、馬鹿息子」
ぽんぽんとお袋が叩いた、いつも飲んでる発泡酒のケースを2つほどカートへ積み込んだとき、それはそれは失礼な言葉をぶつけられた。
つか、なんで俺が恭介さんの嫁さんへ母の日のプレゼント渡すんだよ。
葉月がいそいそと準備していたのは知っているが、まさかの言葉にうっかり素で返事をしていた。
「わかってないわねー。普通、付き合ってる彼女のお母さんを気遣うもんでしょ?」
「いや、あれは祐恭がマメだからだろ?」
「知らないわよ? 恭介君のお小言ちょうだいしても」
「…………」
「まだ間に合うんじゃないのー? 恭介君たち今日、午後からおじいちゃんち行くって言ってたわよ」
今朝、羽織を迎えに来た祐恭は、お袋へラッピングされたカーネーションの花束と、某有名菓子店のチョコレート詰め合わせを届けていた。
マメだなと素直に感心したが、まさかそんな理由からとは考えもせず。
付き合ってる彼女の母を気遣う。
あー……やべぇ。
恭介さん、そこ絶対突っ込んでくるとこじゃねーか。
「あら、こんなところで都合よく母の日フェアやってるわー」
「っ……」
わざとらしい声ながらも、そちらへ意識が引っ張られたことには正直に感謝する。
「アンタもいっちょまえに、動こうって思わざるを得ないちゃんとした彼女ができたのね」
「しょうがねぇだろ。せざるをえない相手なんだし」
カートへ腕を乗せたままにやにやと笑われ、小さく舌打ちが出る。
とはいえ、どれを選べばいいかなんてさっぱり。
この手のことは、同じ性別に聞くのがてっとりばやいか。
「どれがいい?」
「えー? そうねぇ。このブランドは落ち着いた色味が多いから、若い人なら……明るい基調のこっちのほうがいいんじゃない?」
昔から目にする刺繍のハンカチブランド。
それが食品売場のすぐ隣で特設コーナーを開いており、老若男女問わず人が溢れている。
「あら、これもかわいいじゃない。このハンカチ、吸水もいいし生地がしっかりしてるから使い勝手いいのよね」
「へー」
「アンタ、もう少しいろいろ知っといたほうがいいわよ? それこそ、職場のお礼なんかにも使えるんだから、今後のために覚えておきなさい」
「はいはい」
手近にあったハンカチを広げて柄を見ていたお袋に、ひらひら手を振ってオススメされたものを手にレジへ向かう。
普段、礼として使うときは消え物の菓子で済ませることが多い。
だがまぁ、少なくとも確実に迷惑じゃなく喜んでくれると思える相手なら、もうちょっと違ったモンを贈ってもいいのかもな、とは素直に思った。
「ほらよ」
「え?」
ラッピングされたうちのひとつを、受け取ったショップの袋ごと差し出すと、
それと俺とを見比べながら、お袋が笑った。
「コンサル料」
「あらそーお? ルナちゃんに伝えておくわ。かわいい彼女の教育がちゃんと行き届いてる証拠ねー」
「うるせぇな」
思わず舌打ちするも、からから笑ったお袋はいつものごとくあっけらかんと手を伸ばした。
訝しげな顔のあと、まるで思い出し笑いでもするかのように噴き出され、眉が寄る。
「ありがとう」
「おー」
「次は現金でいいわよ」
「素直に喜んどけよ、バチ当たんねぇから」
素直に感謝されたかと思いきやのセリフで、当然のように舌打ちをする。
だが、まあこれはこれでお袋らしいかと思い直し、自身も表情が緩んだ。
「うわーー何これ、すっごいきれい!!」
いつもの、土曜日の女子会。
4月の連休前にうちへきた絵里は、リビングのテーブルに置かれていた瓶を手にすると、光へかざすように持ち上げた。
ほぼ毎日大学で会ってるから、そもそも毎日が女子会みたいなものだけど、やっぱりこうして家でのんびり過ごす時間は違った感じ。
学食ではおおっぴらに話せないことも、ほかに人がいないこの時間はいくらでもできるし。
「これって、去年くらいから流行り始めたわよね」
「ハーバリウムだよね。わぁ、この形の瓶かわいい」
今日はいつもより少し時間が早くて、10時まであと少し。
そのせいか、おやつの甘い香りではなく、お昼用にと葉月が仕込んでいたビーフシチューの香りが漂っている。
「好きな素材で作れるから、贈り物にも喜ばれると思うよ」
「えっ! 作れるの!? これ!」
「ひょっとしてこれ、ハンドメイド!?」
今日はいつもより気温が上がったこともあってか、葉月はいつもの温かい紅茶ではなく、ジンジャエールを出してくれた。
といっても市販のものではなく、葉月がシロップを漬け込んだお手製のまさにジンジャエール。
クローブのいい香りがして、すっごくおいしい。
「もうじき母の日でしょう? 今年はそれにしようと思って、試作してみたの。ふたりも作ってみる?」
「え! やりたい!!」
「私も!」
「じゃあ、材料揃えておくね」
にっこり笑った葉月は、そう言って私たちの前にコースターとグラスを置いた。
「今年は直接渡せる人がたくさんいて、とっても嬉しい」
「そっかぁ。じゃあ、ちょっと忙しいかもね」
「ふふ。楽しい忙しさなら、大歓迎ね」
「ねね、手伝えることがあったら私やるから言ってね! でもさ、きっともらった人は喜んでくれると思う!」
葉月は、うちのお母さんにも渡してくれるつもりらしい。
それはお兄ちゃんの彼女だからという理由だけじゃなくて、小さいころからうちのお母さんを慕ってくれてたから。
葉月にとってはきっと、『お母さん』って響きが特別なんだろうな。
「母の日かぁ。祐恭さん……何渡すんだろう」
そのとき、ふと口にした彼の名前が嬉しかった。
なんかこう、自然と思い浮かんだことがっていうかーー……ううん、彼のそばにもう一度いることが、必然になってくれたことが。
「ふたりはどんな色がいい?」
「色?」
「うん。イメージカラーって言うのかな。ふたりが送りたい人の色のイメージがあったら、教えてね。用意するから」
にっこり笑った葉月の言葉で思い浮かんだ色は、うちのお母さんでも、祐恭さんのお母さんでもなく、彼自身のイメージが強い、バラの濃い赤い色だった。
「……羽織ちゃん?」
「え? あ、すみません。なんですか?」
「ごめんねー、ほんとは一緒に行きたかったでしょ? お兄ちゃんと、買い物」
両手を合わせた紗那さんが、申し訳なさそうに笑う。
でも、そんなつもりではなかったので、慌てて首と手を振っていた。
「でもでも、お母さんすっごく喜んでたんだよー? 今日、羽織ちゃんがきてくれるって聞いて!」
「え、そうなんですか?」
「うんっ! お兄ちゃんが来ることよりも先に、羽織ちゃんがうちに来てくれるんですってーって、すっごく嬉しそうだった」
にっこり笑った紗那さんを見ながら、知らなかった言葉を代わりにもらえて、すごく嬉しくなる。
そんなふうに言ってもらえてたんだ。
受け入れてもらえたことが、ただただ嬉しい。
ううん、もう一度そう思ってくれたことが、何よりも。
「……あ」
「え? あ、帰ってきたねー」
独特のエンジン音と、タイヤが砂利を踏む音で窓を見ると、白いレースのカーテン越しに、真っ赤なRX−8が見えた。
玄関までお出迎えにいくと、ドアが開いたのとほぼ同じタイミングで、お母さんが入ってくる。
「ただいまー。いっぱい買っちゃったわー」
「わ、すごいですね! 重たかったんじゃないですか?」
「そうなのよー。でも、ついついみんないるからと思って、おやつも買ってきちゃった」
「おやつ? 食べるー」
「俺はおやつより、飯……」
お母さんの声で、紗那さんと涼さんもリビングから出てくると、袋ごと食材をダイニングへ運んでいった。
「おかえりなさい」
「ただいま。平気だった?」
「何がですか?」
「いや、俺がいないのに留守番させて、ごめん」
「そんな! 全然大丈夫ですよ。紗那さんがいろんな話してくれました」
「それはそれで気になるね」
玄関の鍵を閉めた彼が、靴を脱ぎながら苦笑する。
もう、まもなくお昼。
せっかくだから、私もお手伝いをーーとそちらへ足を向けたら、ふいに手を引かれた。
「祐恭さん?」
「ちょっとだけ」
「えっと……」
繋いだ右手を引かれ、階段へ促される。
表情はいつもと同じというか、笑みを浮かべてはいるから、もしかしたら見せたい何かがあるとか……なのかな?
それとも、母の日でお母さんへのサプライズの計画とか?
今朝、家を出る前に葉月がお兄ちゃんへそんな話をしていたのを思い出して、ふいに笑みが浮かんだ。
「っ……」
「はー。落ち着く」
階段を上がりきった先にある、彼の部屋。
その手前の少し広くなっているスペースで、振り返りざまに抱きしめられた。
身体越しに彼の言葉が響いて、なんだかくすぐったい。
「一緒に居られる時間が限られてるのに、まさかこんなところで思わぬロスが出るとは思わなかった」
「でも、久しぶりの親子水入らずの時間じゃないですか。母の日ですしね」
「一緒に来てくれたことには感謝するけど、でも、俺にとっても大事な時間だから」
「っ……」
腰に回ったままの片手が外れ、ひたりと頬に触れる。
柔らかな眼差しで見下されたせいか、どきりとしたのももしかしたら気づかれていたかもしれない。
「ありがとう」
「祐恭さ、ん……」
「俺だけじゃなくて、うちの家族まで大事にしてくれて」
顔が近づいて、本当の目の前でささやかれた感謝に、胸の奥が震える。
だって、それはむしろ私のセリフ。
彼のそばにいる私を、ご家族みんなが受け入れてくれて、許してくれて、私はすごくすごく幸せだと思う。
「ん……」
唇が重なる……だけじゃなく、舌が触れる。
ぞくりと背中が震えて、だけど嬉しくて、応えるように唇を開いた。
大好きな人が喜んでくれることは嬉しくて。
まさに、自分の存在意義だと思うから、できることならどんなことでもしたいと思う。
それに……彼の大切なご家族に迎え入れてもらえることは、やっぱり特別で。
ああ、今日ここに来ることができて、みんなに受け入れてもらえて、私は本当に幸せだと思う。
「っ……祐恭さん」
「何?」
「な、にじゃなくて……っ」
口づけたまま、カットソーの裾から彼の指先が入ってきた。
慌ててというか、思わず反射的に胸を押す——ものの、目の前には意地悪そうな笑みがある。
うぅ。なんですかその顔。
私がこういう反応するってわかってて、やりましたね……?
「もぅ。えっち」
「つい勝手に手が動いて」
くすくす笑った彼が、そのまま抱き寄せた。
もぅ……こんなふうにされたら、許しちゃう気持ちになっちゃう。
ずるいなぁ。
私のこと、私以上に祐恭さんはわかってるらしい。
「お兄ちゃんー! お母さんがお昼作るって言ってるんだけど!」
「…………」
「羽織ちゃん、止めて!」
階下から、涼さんと沙那さんの悲痛な叫びが飛んできてか、祐恭さんがため息をついた。
お昼ごはん、なんの予定でどんな食材なんだろう。
一緒に買い物へ行った彼は知ってるはずだけど、今のところなんの情報もない……のがちょっぴり不安。
でもきっと、なんとかなるよね。
だって、調理法はいくらでもあるんだから。
「……ごめん、ちょっとだけ助けて」
「大丈夫ですよ。お手伝いさせてもらいますね」
申し訳なさそうな顔をした祐恭さんに笑って首を振り、階段へ……向かったものの、彼がまた腕を引いた。
「っ……」
「昼飯食べたら帰ろう? せっかくの日曜だし、ウチで過ごしたい」
ちゅ、と重ねるだけのキスをされたうえに、目の前でそんな甘い言葉をささやかれて、顔が赤くなる。
うぅ。みんなの前に行けないじゃないですか。
知ってかしらずかわからないけれど、そんな私を見て祐恭さんはどこか満足げに笑った。
「んまぁ! 何これ、すっごいきれい!」
「よかった……そう言ってもらえて、嬉しいです」
「やだ、ルナちゃんが作ってくれたの!? すっごい。ほんともー……うちの嫁は器用だわ」
「あのな」
先日、羽織と絵里ちゃんと一緒にこっそり作ったハーバリウムを渡すと、伯母さんは本当に嬉しそうに笑ってくれた。
彼女のイメージカラーは、オレンジ。
まさにビタミンカラーそのもので、周りの人も元気にしてくれる活力に溢れる色。
小さいころから笑顔を絶やさない人で、私はいつも元気づけられた。
泣いているときはただ寄り添って、抱きしめてくれて。
幼稚園行事の母の日には、しゅんとしていた私に『母の日は、あなたがここにいることを喜ぶ日よ』と教えてくれ、『ルナちゃんは何が欲しい?』と私と一緒に作品を作ってくれた。
伯母さんは、当時から私にとって大切なお母さんその人でもある。
たーくんを好きになって、そばにいることを認めてもらえるようになった今、より強い想いとともに、本当の意味で『お母さん』になってくれた。
だからこそ、今年の母の日は思いがまるで違う。
「……これも買ってきたぞ」
「伯母さん、このワイン好きでしょう? 私じゃ買えなかったから。たーくん、ありがとう」
とんとん、と肩を叩かれてリビングからダイニングへ呼ばれてみると、お願いしたワインをしっかり買ってきてくれた。
一緒に買い物に行くっていうからお願いしていいものか悩んだけれど、きっと伯母さんには気づかれないうちに買ってきてくれたんだろうなぁ。
私じゃ、こんなにうまくいかない。
「あ。スコーン焼いたから、おやつに食べてね」
「スコーン?」
「うん。生クリームで、クロテッドクリームみたいに作れるんだって。たーくんが
教えてくれたでしょう?」
「あー、あれな」
「コーヒー淹れるから、いつでも言ってね」
つい先日、インターネットで公開されているレシピだと彼が教えてくれた。
クロテッドクリーム、置いてないお店もあるから、そんなふうに作れちゃうなんてすごいなぁと本当に驚いた。
焼き立てのスコーンは、さくさくというより、ほろほろ。
バターの香りがいっぱいに広がって、それだけで十分おいしそうだと感じたから、ジャムはつけなくてもいいかもしれない。
たーくん、あんまり好きじゃないもんね。
「え?」
「コーヒーの前に、ちょっと付き合え」
ワインを冷蔵庫へしまい終えたところで、たーくんが腕を引いた。
そのまま玄関へと足を向ける。
「えっと……どこへ行くの?」
「じーちゃんち」
「どうして?」
「今、恭介さんきてるんだろ? 渡したいもんがある」
意外な場所を口にされ、『あ』と漏れた。
できれば、私も行きたいと思っていた場所。
というか……お父さんたちに、用がある。
「少しだけ待ってくれる? 私も、渡したいものがあるの」
「おー」
今年は、もうひとりの“お母さん”へようやく渡すことができる。
お父さんの大切な人は、私にとっても同じ。
彼女のイメージカラーである、藤色と同じ淡い紫のハーバリウムを取りに、一度部屋へ向かうことにした。
「たーくんも用意してくれたなんて、思わなかった」
茅ヶ崎方面からの、帰り道。
来るときと違って逆方向の道が混んでいるけれど、車列の向こうにはきらきらした海が広がっている。
普段はこっちにあまりこないお父さんたちが、こっちまで足を伸ばしてくれていたことと、たーくんが車を出してくれたおかげで、当日のうちに渡すことができた。
「すげぇ喜んでくれてよかったな」
「たーくんが、お花まで用意してくれたからだよ?」
「いや、どう考えたってお前が『お母さん』って言ったからだろ」
お父さんの伴侶として隣にいてくれる彼女は、私にとってお母さんその人。
よく目にする色合いの服からイメージしたんだけれど、好きな色でもあったことで、とても喜んでくれた。
……ほんの少し、私のほうが泣きそうになっちゃった。
たーくんが渡してくれたハンカチも、白地に紫とピンクの花が刺繍されていて、同じように喜んでくれたことが、私は嬉しかった。
「ほんとは、ハンカチだけでいいかとも思ったんだけどな。恭介さんの手前、もう少し気張っておかねーとまずい気がして」
「お父さん、そんなに言わないと思うよ?」
「わかんねぇじゃん」
「けれど、とっても喜んでくれたね」
彼女だけでなく、お父さんもたーくんのプレゼントには意外そうな顔をして、『よくわかってるじゃないか』と笑った。
まるで、小さいころそうしていたのと同じように、彼の頭を大きな手で撫でていたけれど、あれはきっと本当に嬉しかったからだと思う。
……途中で、なぜか襟首を掴んでいたけれど。
「ありがとう、たーくん」
どうやら、彼にとっては“叔父”から相当気を使う相手に変わったらしく、少しだけ申し訳ない気持ちもあった。
でも……私が伯母さんへ感じたのと同じように、私の父だから、思いが変わったんだろうとはわかる。
大切に思ってくれることがわかるから、嬉しい。
彼女ももちろんだけど、私のこともそう思ってくれてるんだなぁって……幸せな気持ちだ。
「あー……そうだ。忘れてた」
「え? わぁ……きれい」
ちょうど信号が赤に変わったところで、たーくんが後部座席へ手を伸ばした。
目の前に現れたのは、小さなブーケ。
ピンクのカーネーションと、最近見かけるようになった、紫色のカーネーションが添えられている。
「お前にやる」
「え……私に?」
「お袋、相当喜んでたな。サンキュ」
「っ……」
髪を撫でてくれた彼が、柔らかく笑った。
普段と違う……なんて言ったら叱られちゃうけれど、あまりにも優しい顔で笑われて、どきどきしないはずがない。
信号は変わって、ギアを入れる。
その手元へ視線が落ちたまま、なんともいえなくて思わず唇を噛んだ。
「ハーバリウムだっけ? あれだけでもあんな喜んでんのに、夕飯は好きなワインとビーフシチューだろ? またうるせぇだろうな」
「喜んでくれたらいいけれど」
「いや、どう考えたってがっつり喜ぶだろ」
俺も喜ぶぜ。
付け足された言葉の意味で彼を見ると、『どっちもうまいじゃん』と嬉しいセリフを向けられ、思わず苦笑が漏れる。
ワインは伯母さん用だけど、そうだね。たーくん相手に飲むんだろうなぁ。
クリスマスのとき、ふたりでボトルを開けていたのを思い出した。
「あ。ちょっとコンビニ寄っていいか?」
「もちろん。どうぞ」
何かを思い出したかのように、たーくんが口にした。
今日の用事はどれもすでに達成済み。
さすがにまだ夕飯の時間には早いし、なにより、ふたりだけで過ごせる時間が増えることは、当然嬉しいから。
「…………」
手元にある、カーネーションの花束。
きっと、何気ない気持ちからかもしれないけれど、私が花を好きだと知ってくれているからこそのチョイスだろう。
でも……知ってるのかな。
このふたつの色の、カーネーションの花言葉。
もし知らないんだとしたら、私から彼へ贈ってもいいよね。
だって、どちらも私が抱いていることと同じなんだから。
永遠の幸福。そして、感謝。
今、この時間を過ごせていることがまさに幸せそのもので、どうか長く続いてほしい象徴でもある。
だけど、その幸福が得られたことは、まさに見えない力がたくさん働いた上でのこと。
巡り合わせであり、縁であり、たくさんの人のおかげであり。
感謝の上で成り立っている、特別なこと。
だから……どうかこの先も末長く、彼と同じ時間を過ごせますように。
「ありがとう。とっても嬉しい」
「…………」
「たーくん?」
ちょうどお店の真横にある駐車場へ車を停めたところで彼を見ると、まじまじ見たまま口をつぐんだ。
えっと……何か、いけなかった?
両手でそっと花束を包んだままお礼を言ったんだけれど、それとも何か足りなかったのかな。
「……っ、ん」
両手が伸びたかと思いきやふいに口づけられ、思わず目が丸くなる。
手の中の花束が少しだけ音を立てて、今起きていることはもちろん夢じゃないらしい。
「……たーくん……」
「なんだよ」
「もう……外なのに」
「誰も見てねぇだろ」
確かに、前向き駐車で目の前には看板しかないけれど、でも……あのね? 隣には車が停まってるんだよ?
何気なく見られたら、どうするの?
「もう」
「反射だな。ある意味」
肩をすくめたのを見ながらも、当然笑みが浮かぶ。
嬉しくないわけない。
だって、こうして触れてくれることは、私にとっての何よりの幸せ。
「なんだよ。物足りないのか?」
「え?」
「別にいいけど? もう少し、いつもみたいにしてやっても」
「っ……もう。違うの」
まじまじと見つめていたのを、勘違いされたらしい。
……もう。キスのことじゃないの。
ついさっき見せてくれた柔らかい笑みとは違い、あきらかに私の反応をおもしろがるように笑われ、さすがに眉が寄った。
「切手買ってくる。降りるか?」
「あ、ううん。待ってるね」
ひらひら手を振った彼を見送り、改めて花束を見つめる。
今日は、母の日。
……お母さんだけでなく、自分がここに存在していることにも感謝する日。
ありがとう。
私は今、とても幸せ。
花束を見てにまにましていたのがガラス越しにも見えたらしく、運転席へ戻ってきた彼は、『ンな喜んでくれるなら、また買ってやるよ』と笑った。
1年ごしだぜ……。
あれから1年。
世の中も私自身も大きく環境は変わりましたが、今、生きている。
感謝しつつ、乗り越えられない壁は人類になかったと信じ、明日を待ちましょう!
ってことで、がっつり濃厚接触です。
ソーシャルディスタンスも守られてません。
買い物も、決死の覚悟でひとり! じゃない。
でも、早く戻ろうぜ。こんな感じに。
まぁ、いろんな意味で言えば衛生的ですけどね。マスクして、パン屋さんのパンもすべて袋に入ってて。
嫌いじゃないぜ、そういう配慮は。
てことで、長文。
「だから、それはいらないって言ってるだろ」
「あらなあに? 祐恭ったら、ずいぶんと物を欲しがらなくなったのね」
「……あのさ、ひとつ聞くけど。いつの俺と比較してる?」
「そうねー、これくらい小さかったころ?」
「それじゃ小学生にもなってないだろ」
うちの母は、そこまで背が高くない。
それもあって、今彼女が手で示したサイズは、明らかに幼児だった。
今までの人生の中で、どうしても買ってくれとねだったことがあるのは、多分そんなに多くない。
というのは単純な理由で、俺の下に双子の弟妹がいるから。
母が俺よりもそちらに気を取られていたことはよく覚えているし、聞き分けのよくないふたりということもあって、自然と俺は言わなくなった。
手間をかけさせたくないと思ったのか、兄だから我慢しなければと思ったのかは、俺にもわからないけれど。
「ふふ。じゃあ、何か買ってあげましょうか」
「は?」
「だって珍しいじゃない? こんなふうに、一緒に買い物に行こうって自分から誘うなんて」
それは確かにーーではなく、そこには特に理由なんてない。
母の日ということで実家へ顔を出した際、さも『誰かついてきてくれないかしら』アピールをされたからというのが正しいわけで、物珍しがってくれているらしい母には面倒なので言わないでおく。
そう。今日は母の日。
今回は、俺だけでなく羽織からも贈り物を預かっており、来ないわけにいかなかった。
そんな彼女はなぜか今、俺の妹弟たちと家にいる。
……なんで、一緒に来たのに離れなきゃいけないんだ。理不尽じゃないか。
『お兄ちゃんはいつだって羽織ちゃん独り占めできるんだから、たまにはいいでしょ』などと紗那に言われたが、そもそもその理由がおかしいのにな。
なんで一瞬ひるんだんだ、俺。
「羽織ちゃんからもらったハーバリウム、とってもきれいだったわー! ほんと、いい子ね」
「そりゃどうも」
「あら。祐恭を褒めたわけじゃないわよ?」
「でも、自分の彼女を認められたら嬉しいだろ?」
「確かにそうね。いい息子にいいお嫁さんが来てくれそうで、母さん安心だわ」
にっこり笑われ、どう答えればいいものか悩んだ。
まだ、学生生活をスタートしたばかりの彼女に、結婚生活を期待する言葉をかけはしないだろうが、この母じゃやりかねない。
そこが若干気がかりだが、まあきっと彼女なら喜んではくれるだろうから、その顔を見るという口実で黙っておくのもたまにはいいか。
学生のときも花の1輪程度買ったことがあった気はしなくもないが、社会人になってからはより、意識するようになった。
なんて話をしたら、誰にでも言われるのが『マメだな』と『親孝行』のふたつ。
ただ、残念ながらそこまできちんとした人生を歩んできたからというよりは、世間的な習わしにしたがってというほうが強いかもしれない。
ここまで育ててくれた恩は、人並みに感じている。
学生時代が平穏無事で波を一切立てなかったわけではないというのもあるが、俺が俺として生まれるためには、必要だった人たち。
今、よかったと思える日々が手元にある基礎を作ってくれたのは、紛れもなく彼女がいたから。
来月の父の日は、何をすればいいのか。
きっと、俺の彼女はまめに何か計画してくれるだろうから、俺もそれなりに考えておかなければならない。
「っ……ちょっと待った、いつの間に!」
買い物カゴを乗せたカートに手を置いたまま、ふとそばにいた小学生とおぼしき親子連れを見ていたら、目を離したすきにカゴがてんこ盛りになっていた。
いやいやいやおかしいだろ、この量は。
確かに、昼飯の支度をかねてという名目の買い物らしいから、多少は認めよう。
家には、育ち盛りと言っていいかはわからないが、学生の涼がいる。
しかし、今日は日曜日で、家政婦として長年我が家の衣食住をある意味支えてくれている佳代さんは不在。
ということは、こんな大量の食材を買い込んだところで処理できる人間がいないということ。
……いやまぁ正確には羽織がいるからなんとかしてくれそうだけど、彼女は今日、お客さんなわけで。
この量を冷蔵庫へ突っ込んだら、絶対叱られると思うが……まあいいか。
俺は今日、泊まらず帰るし。
ふと、ダイニングの椅子へ揃って座らされた涼と紗那が、佳代さんにこってり叱られている様が眼に浮かぶ。
「まー、今日はカレー粉が安いのね」
「待った」
「え? なあに?」
「何じゃなくて。うちは何人家族だ?」
「やぁねぇ。7人よ? といっても、祐恭はこっちにいないから6人だけど」
「だろ? じゃあ、いっぺんにカレー粉4箱買う必要はないよな?」
「でも、カレーって一度に結構使うのよ?」
「じゃあこの缶詰はどこにしまうんだよ」
「どこって……カレー粉と同じ場所でしょ?」
「いつからウチのキッチンの棚は、スーパー並みに拡大された?」
「入るわよ?」
「入る入らないの問題じゃないんだって。だから」
はーーーと深いため息をつくも、納得してないどころか不思議そうな顔のお袋を見つつ、軽く頭痛がする。
というか、そもそも今は昼飯の買い出しに来たんじゃなかったのか?
すっかり忘れているようだが、家に帰ってもあるのは炊けた米だけ。
さっき起きたばかりの涼は、納豆すらないとかなんで!? と悲鳴をあげていた気がする。
「…………」
だがしかし、このてんこもりのカゴに、さらに昼飯のことを口にしたら、ふたカゴ目行くな、間違いなく。
普段、自分ひとりの買い物でカートを使うことは皆無なため、ギャップなのか感覚の違いなのかわからないが、妙に疲れる。
羽織と一緒の買い出しでも、ここまでならないはずなのに。
「あら、今日は黒豚が2割引ですって! 夜はしゃぶしゃぶにしようかしら。羽織ちゃんも夕飯食べていけるでしょ?」
「いや、夕飯の前に昼飯をーーって、豚肉ばっかり4パックもいらないだろ!」
「あらやだ、そうね。お昼買いにきたんじゃないの! じゃあお昼はお刺身とかのほうがいいかしら? 昼も夜もお肉じゃ偏るわよね」
「っ、だから、そういう不安定なところに置くなって!」
お徳用と書かれたしゃぶしゃぶ肉をあるだけカゴに積み上げ、きびすを返して鮮魚コーナーへ。
たちまち崩れそうになる豚肉を支えつつ、はるか彼方へ移動した母を見てため息が漏れた。
なんだ、この感覚の違いは。
ああ、久しぶりに体験したけど、やっぱりつらいな。
料理に関しては俺と同じくらいのレベルなはずだけに、お袋があっているかどうか判断つかないのが切ないところだが、多少はましだと思っている。
それもすべては、羽織との学習のおかげ。
だが、今彼女は不在。
となると、管理するのは俺一人なわけで。
「……はー」
買い物に付き合うと言った俺を、奇特な眼差しで見た家族連中の心情が、今ならよくわかる。
だが、今日は母の日。
この母の血が、俺にも流れている。
「……あのさ」
「え? なに?」
「…………なんでもない」
「なぁに? この子ったら。今日はへんな日ね」
やっと追いついたかと思いきや、デザートコーナーへ寄り道らしい。
くすくす笑ったお袋に、とりあえず肩をすくめるだけにしておく。
両手に焼きプリンを持っていたが、まあ、日持ちするならいいんじゃないか。
「俺は食べない」
「羽織ちゃんのぶんよ」
「ほかに誰が食べるんだよ」
「あまったら、持って帰りなさい」
器用に4つ両手で持ったのを見て、思わず手が伸びた。
何個買い込む気なんだ。
これ以上は無理なので、仕方なくすぐそこにあったカゴをひとつカートへ乗せることにする。
「来てくれて、ありがとうね」
「え?」
「だって、ひとりで買い物に来るつもりだったのよ。だから、祐恭が来てくれて助かったわ。ひとりじゃ運べなかったもの」
「まぁそうだろうな」
思わぬところで礼をもらい、目が丸くなった。
まあ、たまには付き合ってやってもいいのかもな。
親に感謝されることなんて、そうないものだし。
と思った矢先に食パンを2斤カゴへ入れそうになったのを見て、慌てて止める。
「……はー」
プリンで思い浮かべたヤツは、今ごろどこで何してるんだか。
ふと、アイツ……いや、あの兄妹が好きそうなプリンだなと思ったあたり、だいぶよくわかってる自分に感心した。
「だから。アンタは買い物に付き合ってるのか、自分の買い物なのか、どっち?」
「付き合ってやってんだから感謝しろって」
「じゃあ今すぐその1パックは戻してきなさいよ」
「手間賃みてーなもんだろ? どーせお袋だって飲むじゃん」
「私はそれは苦くて飲めないって言ってんでしょ」
「じゃ俺が消費しとく」
「だから……はーもーアンタは」
この前、ビールを飲んだのは歓送迎会のとき。
といっても、職場の図書館ではなく大学の事務連中のほうで呼ばれたやつ。
図書館は相変わらず、俺より下の人間が配属されることはなく、今年も学生のバイトが入れ替わった程度。
野上さんの『今年も若いイケメンがこない』ことへの八つ当たりは、そろそろ俺が引き受けなくてもいいんじゃねぇのか。
「……アンタね」
「あ?」
「なんでそこで、当たり前のようにプリン入れるのよ」
「食う?」
「……ルナちゃんと羽織の分も入れて」
ひとつだけ入れたのが気に入らなかったらしく、顎でプリンを指された。
いや、このサイズのプリン食うの俺くらいだと思うけどまあいいや。
俺の金じゃないし。
「アンタ、今日何の日か知ってる?」
「5月の第2日曜日」
「世間一般では?」
「母の日」
「わかってての暴挙?」
「なんで暴挙なんだよ。付き合ってやってんだろ?」
「別に頼んでないでしょ?」
カートを押しながらため息をついたお袋を見ると、それはそれは嫌そうな顔をして牛肉のパックをカゴへ入れた。
そういや今日はすき焼きにするとか言ってたな。
だったら俺は、牛もいいけど豚も食いたいところ。
つーかまあ、ぶっちゃけ肉とえのきと長ネギさえあればいい。
「ビール1ケース買い込むんじゃ重たいだろうなと思って、わざわざ俺が来てやったのに」
「あっそう」
「全然抑揚ねーな」
「だって、私が買いたいものよりアンタが食べたい物のほうが多いんだもの」
多分気のせい。
ま、さっきも言ったけどいわゆる手間賃ってヤツだと思えば、安いんじゃねーの。
母の日という理由じゃないだろうが、食品売り場はかなり混雑していた。
いろんなものにカーネーションを模したシールやら小さな造花やらがついていて、嫌でも目につく。
昔から、とりあえず母の日には何が欲しいか聞いてやっていたが、就職してからは旅行などというやたら値が張るモンを求められるようになり、聞くことをやめている。
今ごろ、家じゃ葉月がいろいろ用意してんだろーよ。
アイツほんとマメだよな。
『こっそり準備したいから買い物へ行ってきてくれる?』と頼まれ、仕方なく出た今。
ついでに買ってきて欲しいと言われたモノは、ついさっきお袋がセールのアナウンスを聞きつけて行方をくらました間に、一応買ってはおいた。
「で? アンタ、恭介くんのお嫁さんに何あげたの?」
「は? なんで俺が」
「……馬鹿なの?」
「なんでだよ。失礼だぞお前」
「お前って言うほうが失礼でしょ、馬鹿息子」
ぽんぽんとお袋が叩いた、いつも飲んでる発泡酒のケースを2つほどカートへ積み込んだとき、それはそれは失礼な言葉をぶつけられた。
つか、なんで俺が恭介さんの嫁さんへ母の日のプレゼント渡すんだよ。
葉月がいそいそと準備していたのは知っているが、まさかの言葉にうっかり素で返事をしていた。
「わかってないわねー。普通、付き合ってる彼女のお母さんを気遣うもんでしょ?」
「いや、あれは祐恭がマメだからだろ?」
「知らないわよ? 恭介君のお小言ちょうだいしても」
「…………」
「まだ間に合うんじゃないのー? 恭介君たち今日、午後からおじいちゃんち行くって言ってたわよ」
今朝、羽織を迎えに来た祐恭は、お袋へラッピングされたカーネーションの花束と、某有名菓子店のチョコレート詰め合わせを届けていた。
マメだなと素直に感心したが、まさかそんな理由からとは考えもせず。
付き合ってる彼女の母を気遣う。
あー……やべぇ。
恭介さん、そこ絶対突っ込んでくるとこじゃねーか。
「あら、こんなところで都合よく母の日フェアやってるわー」
「っ……」
わざとらしい声ながらも、そちらへ意識が引っ張られたことには正直に感謝する。
「アンタもいっちょまえに、動こうって思わざるを得ないちゃんとした彼女ができたのね」
「しょうがねぇだろ。せざるをえない相手なんだし」
カートへ腕を乗せたままにやにやと笑われ、小さく舌打ちが出る。
とはいえ、どれを選べばいいかなんてさっぱり。
この手のことは、同じ性別に聞くのがてっとりばやいか。
「どれがいい?」
「えー? そうねぇ。このブランドは落ち着いた色味が多いから、若い人なら……明るい基調のこっちのほうがいいんじゃない?」
昔から目にする刺繍のハンカチブランド。
それが食品売場のすぐ隣で特設コーナーを開いており、老若男女問わず人が溢れている。
「あら、これもかわいいじゃない。このハンカチ、吸水もいいし生地がしっかりしてるから使い勝手いいのよね」
「へー」
「アンタ、もう少しいろいろ知っといたほうがいいわよ? それこそ、職場のお礼なんかにも使えるんだから、今後のために覚えておきなさい」
「はいはい」
手近にあったハンカチを広げて柄を見ていたお袋に、ひらひら手を振ってオススメされたものを手にレジへ向かう。
普段、礼として使うときは消え物の菓子で済ませることが多い。
だがまぁ、少なくとも確実に迷惑じゃなく喜んでくれると思える相手なら、もうちょっと違ったモンを贈ってもいいのかもな、とは素直に思った。
「ほらよ」
「え?」
ラッピングされたうちのひとつを、受け取ったショップの袋ごと差し出すと、
それと俺とを見比べながら、お袋が笑った。
「コンサル料」
「あらそーお? ルナちゃんに伝えておくわ。かわいい彼女の教育がちゃんと行き届いてる証拠ねー」
「うるせぇな」
思わず舌打ちするも、からから笑ったお袋はいつものごとくあっけらかんと手を伸ばした。
訝しげな顔のあと、まるで思い出し笑いでもするかのように噴き出され、眉が寄る。
「ありがとう」
「おー」
「次は現金でいいわよ」
「素直に喜んどけよ、バチ当たんねぇから」
素直に感謝されたかと思いきやのセリフで、当然のように舌打ちをする。
だが、まあこれはこれでお袋らしいかと思い直し、自身も表情が緩んだ。
「うわーー何これ、すっごいきれい!!」
いつもの、土曜日の女子会。
4月の連休前にうちへきた絵里は、リビングのテーブルに置かれていた瓶を手にすると、光へかざすように持ち上げた。
ほぼ毎日大学で会ってるから、そもそも毎日が女子会みたいなものだけど、やっぱりこうして家でのんびり過ごす時間は違った感じ。
学食ではおおっぴらに話せないことも、ほかに人がいないこの時間はいくらでもできるし。
「これって、去年くらいから流行り始めたわよね」
「ハーバリウムだよね。わぁ、この形の瓶かわいい」
今日はいつもより少し時間が早くて、10時まであと少し。
そのせいか、おやつの甘い香りではなく、お昼用にと葉月が仕込んでいたビーフシチューの香りが漂っている。
「好きな素材で作れるから、贈り物にも喜ばれると思うよ」
「えっ! 作れるの!? これ!」
「ひょっとしてこれ、ハンドメイド!?」
今日はいつもより気温が上がったこともあってか、葉月はいつもの温かい紅茶ではなく、ジンジャエールを出してくれた。
といっても市販のものではなく、葉月がシロップを漬け込んだお手製のまさにジンジャエール。
クローブのいい香りがして、すっごくおいしい。
「もうじき母の日でしょう? 今年はそれにしようと思って、試作してみたの。ふたりも作ってみる?」
「え! やりたい!!」
「私も!」
「じゃあ、材料揃えておくね」
にっこり笑った葉月は、そう言って私たちの前にコースターとグラスを置いた。
「今年は直接渡せる人がたくさんいて、とっても嬉しい」
「そっかぁ。じゃあ、ちょっと忙しいかもね」
「ふふ。楽しい忙しさなら、大歓迎ね」
「ねね、手伝えることがあったら私やるから言ってね! でもさ、きっともらった人は喜んでくれると思う!」
葉月は、うちのお母さんにも渡してくれるつもりらしい。
それはお兄ちゃんの彼女だからという理由だけじゃなくて、小さいころからうちのお母さんを慕ってくれてたから。
葉月にとってはきっと、『お母さん』って響きが特別なんだろうな。
「母の日かぁ。祐恭さん……何渡すんだろう」
そのとき、ふと口にした彼の名前が嬉しかった。
なんかこう、自然と思い浮かんだことがっていうかーー……ううん、彼のそばにもう一度いることが、必然になってくれたことが。
「ふたりはどんな色がいい?」
「色?」
「うん。イメージカラーって言うのかな。ふたりが送りたい人の色のイメージがあったら、教えてね。用意するから」
にっこり笑った葉月の言葉で思い浮かんだ色は、うちのお母さんでも、祐恭さんのお母さんでもなく、彼自身のイメージが強い、バラの濃い赤い色だった。
「……羽織ちゃん?」
「え? あ、すみません。なんですか?」
「ごめんねー、ほんとは一緒に行きたかったでしょ? お兄ちゃんと、買い物」
両手を合わせた紗那さんが、申し訳なさそうに笑う。
でも、そんなつもりではなかったので、慌てて首と手を振っていた。
「でもでも、お母さんすっごく喜んでたんだよー? 今日、羽織ちゃんがきてくれるって聞いて!」
「え、そうなんですか?」
「うんっ! お兄ちゃんが来ることよりも先に、羽織ちゃんがうちに来てくれるんですってーって、すっごく嬉しそうだった」
にっこり笑った紗那さんを見ながら、知らなかった言葉を代わりにもらえて、すごく嬉しくなる。
そんなふうに言ってもらえてたんだ。
受け入れてもらえたことが、ただただ嬉しい。
ううん、もう一度そう思ってくれたことが、何よりも。
「……あ」
「え? あ、帰ってきたねー」
独特のエンジン音と、タイヤが砂利を踏む音で窓を見ると、白いレースのカーテン越しに、真っ赤なRX−8が見えた。
玄関までお出迎えにいくと、ドアが開いたのとほぼ同じタイミングで、お母さんが入ってくる。
「ただいまー。いっぱい買っちゃったわー」
「わ、すごいですね! 重たかったんじゃないですか?」
「そうなのよー。でも、ついついみんないるからと思って、おやつも買ってきちゃった」
「おやつ? 食べるー」
「俺はおやつより、飯……」
お母さんの声で、紗那さんと涼さんもリビングから出てくると、袋ごと食材をダイニングへ運んでいった。
「おかえりなさい」
「ただいま。平気だった?」
「何がですか?」
「いや、俺がいないのに留守番させて、ごめん」
「そんな! 全然大丈夫ですよ。紗那さんがいろんな話してくれました」
「それはそれで気になるね」
玄関の鍵を閉めた彼が、靴を脱ぎながら苦笑する。
もう、まもなくお昼。
せっかくだから、私もお手伝いをーーとそちらへ足を向けたら、ふいに手を引かれた。
「祐恭さん?」
「ちょっとだけ」
「えっと……」
繋いだ右手を引かれ、階段へ促される。
表情はいつもと同じというか、笑みを浮かべてはいるから、もしかしたら見せたい何かがあるとか……なのかな?
それとも、母の日でお母さんへのサプライズの計画とか?
今朝、家を出る前に葉月がお兄ちゃんへそんな話をしていたのを思い出して、ふいに笑みが浮かんだ。
「っ……」
「はー。落ち着く」
階段を上がりきった先にある、彼の部屋。
その手前の少し広くなっているスペースで、振り返りざまに抱きしめられた。
身体越しに彼の言葉が響いて、なんだかくすぐったい。
「一緒に居られる時間が限られてるのに、まさかこんなところで思わぬロスが出るとは思わなかった」
「でも、久しぶりの親子水入らずの時間じゃないですか。母の日ですしね」
「一緒に来てくれたことには感謝するけど、でも、俺にとっても大事な時間だから」
「っ……」
腰に回ったままの片手が外れ、ひたりと頬に触れる。
柔らかな眼差しで見下されたせいか、どきりとしたのももしかしたら気づかれていたかもしれない。
「ありがとう」
「祐恭さ、ん……」
「俺だけじゃなくて、うちの家族まで大事にしてくれて」
顔が近づいて、本当の目の前でささやかれた感謝に、胸の奥が震える。
だって、それはむしろ私のセリフ。
彼のそばにいる私を、ご家族みんなが受け入れてくれて、許してくれて、私はすごくすごく幸せだと思う。
「ん……」
唇が重なる……だけじゃなく、舌が触れる。
ぞくりと背中が震えて、だけど嬉しくて、応えるように唇を開いた。
大好きな人が喜んでくれることは嬉しくて。
まさに、自分の存在意義だと思うから、できることならどんなことでもしたいと思う。
それに……彼の大切なご家族に迎え入れてもらえることは、やっぱり特別で。
ああ、今日ここに来ることができて、みんなに受け入れてもらえて、私は本当に幸せだと思う。
「っ……祐恭さん」
「何?」
「な、にじゃなくて……っ」
口づけたまま、カットソーの裾から彼の指先が入ってきた。
慌ててというか、思わず反射的に胸を押す——ものの、目の前には意地悪そうな笑みがある。
うぅ。なんですかその顔。
私がこういう反応するってわかってて、やりましたね……?
「もぅ。えっち」
「つい勝手に手が動いて」
くすくす笑った彼が、そのまま抱き寄せた。
もぅ……こんなふうにされたら、許しちゃう気持ちになっちゃう。
ずるいなぁ。
私のこと、私以上に祐恭さんはわかってるらしい。
「お兄ちゃんー! お母さんがお昼作るって言ってるんだけど!」
「…………」
「羽織ちゃん、止めて!」
階下から、涼さんと沙那さんの悲痛な叫びが飛んできてか、祐恭さんがため息をついた。
お昼ごはん、なんの予定でどんな食材なんだろう。
一緒に買い物へ行った彼は知ってるはずだけど、今のところなんの情報もない……のがちょっぴり不安。
でもきっと、なんとかなるよね。
だって、調理法はいくらでもあるんだから。
「……ごめん、ちょっとだけ助けて」
「大丈夫ですよ。お手伝いさせてもらいますね」
申し訳なさそうな顔をした祐恭さんに笑って首を振り、階段へ……向かったものの、彼がまた腕を引いた。
「っ……」
「昼飯食べたら帰ろう? せっかくの日曜だし、ウチで過ごしたい」
ちゅ、と重ねるだけのキスをされたうえに、目の前でそんな甘い言葉をささやかれて、顔が赤くなる。
うぅ。みんなの前に行けないじゃないですか。
知ってかしらずかわからないけれど、そんな私を見て祐恭さんはどこか満足げに笑った。
「んまぁ! 何これ、すっごいきれい!」
「よかった……そう言ってもらえて、嬉しいです」
「やだ、ルナちゃんが作ってくれたの!? すっごい。ほんともー……うちの嫁は器用だわ」
「あのな」
先日、羽織と絵里ちゃんと一緒にこっそり作ったハーバリウムを渡すと、伯母さんは本当に嬉しそうに笑ってくれた。
彼女のイメージカラーは、オレンジ。
まさにビタミンカラーそのもので、周りの人も元気にしてくれる活力に溢れる色。
小さいころから笑顔を絶やさない人で、私はいつも元気づけられた。
泣いているときはただ寄り添って、抱きしめてくれて。
幼稚園行事の母の日には、しゅんとしていた私に『母の日は、あなたがここにいることを喜ぶ日よ』と教えてくれ、『ルナちゃんは何が欲しい?』と私と一緒に作品を作ってくれた。
伯母さんは、当時から私にとって大切なお母さんその人でもある。
たーくんを好きになって、そばにいることを認めてもらえるようになった今、より強い想いとともに、本当の意味で『お母さん』になってくれた。
だからこそ、今年の母の日は思いがまるで違う。
「……これも買ってきたぞ」
「伯母さん、このワイン好きでしょう? 私じゃ買えなかったから。たーくん、ありがとう」
とんとん、と肩を叩かれてリビングからダイニングへ呼ばれてみると、お願いしたワインをしっかり買ってきてくれた。
一緒に買い物に行くっていうからお願いしていいものか悩んだけれど、きっと伯母さんには気づかれないうちに買ってきてくれたんだろうなぁ。
私じゃ、こんなにうまくいかない。
「あ。スコーン焼いたから、おやつに食べてね」
「スコーン?」
「うん。生クリームで、クロテッドクリームみたいに作れるんだって。たーくんが
教えてくれたでしょう?」
「あー、あれな」
「コーヒー淹れるから、いつでも言ってね」
つい先日、インターネットで公開されているレシピだと彼が教えてくれた。
クロテッドクリーム、置いてないお店もあるから、そんなふうに作れちゃうなんてすごいなぁと本当に驚いた。
焼き立てのスコーンは、さくさくというより、ほろほろ。
バターの香りがいっぱいに広がって、それだけで十分おいしそうだと感じたから、ジャムはつけなくてもいいかもしれない。
たーくん、あんまり好きじゃないもんね。
「え?」
「コーヒーの前に、ちょっと付き合え」
ワインを冷蔵庫へしまい終えたところで、たーくんが腕を引いた。
そのまま玄関へと足を向ける。
「えっと……どこへ行くの?」
「じーちゃんち」
「どうして?」
「今、恭介さんきてるんだろ? 渡したいもんがある」
意外な場所を口にされ、『あ』と漏れた。
できれば、私も行きたいと思っていた場所。
というか……お父さんたちに、用がある。
「少しだけ待ってくれる? 私も、渡したいものがあるの」
「おー」
今年は、もうひとりの“お母さん”へようやく渡すことができる。
お父さんの大切な人は、私にとっても同じ。
彼女のイメージカラーである、藤色と同じ淡い紫のハーバリウムを取りに、一度部屋へ向かうことにした。
「たーくんも用意してくれたなんて、思わなかった」
茅ヶ崎方面からの、帰り道。
来るときと違って逆方向の道が混んでいるけれど、車列の向こうにはきらきらした海が広がっている。
普段はこっちにあまりこないお父さんたちが、こっちまで足を伸ばしてくれていたことと、たーくんが車を出してくれたおかげで、当日のうちに渡すことができた。
「すげぇ喜んでくれてよかったな」
「たーくんが、お花まで用意してくれたからだよ?」
「いや、どう考えたってお前が『お母さん』って言ったからだろ」
お父さんの伴侶として隣にいてくれる彼女は、私にとってお母さんその人。
よく目にする色合いの服からイメージしたんだけれど、好きな色でもあったことで、とても喜んでくれた。
……ほんの少し、私のほうが泣きそうになっちゃった。
たーくんが渡してくれたハンカチも、白地に紫とピンクの花が刺繍されていて、同じように喜んでくれたことが、私は嬉しかった。
「ほんとは、ハンカチだけでいいかとも思ったんだけどな。恭介さんの手前、もう少し気張っておかねーとまずい気がして」
「お父さん、そんなに言わないと思うよ?」
「わかんねぇじゃん」
「けれど、とっても喜んでくれたね」
彼女だけでなく、お父さんもたーくんのプレゼントには意外そうな顔をして、『よくわかってるじゃないか』と笑った。
まるで、小さいころそうしていたのと同じように、彼の頭を大きな手で撫でていたけれど、あれはきっと本当に嬉しかったからだと思う。
……途中で、なぜか襟首を掴んでいたけれど。
「ありがとう、たーくん」
どうやら、彼にとっては“叔父”から相当気を使う相手に変わったらしく、少しだけ申し訳ない気持ちもあった。
でも……私が伯母さんへ感じたのと同じように、私の父だから、思いが変わったんだろうとはわかる。
大切に思ってくれることがわかるから、嬉しい。
彼女ももちろんだけど、私のこともそう思ってくれてるんだなぁって……幸せな気持ちだ。
「あー……そうだ。忘れてた」
「え? わぁ……きれい」
ちょうど信号が赤に変わったところで、たーくんが後部座席へ手を伸ばした。
目の前に現れたのは、小さなブーケ。
ピンクのカーネーションと、最近見かけるようになった、紫色のカーネーションが添えられている。
「お前にやる」
「え……私に?」
「お袋、相当喜んでたな。サンキュ」
「っ……」
髪を撫でてくれた彼が、柔らかく笑った。
普段と違う……なんて言ったら叱られちゃうけれど、あまりにも優しい顔で笑われて、どきどきしないはずがない。
信号は変わって、ギアを入れる。
その手元へ視線が落ちたまま、なんともいえなくて思わず唇を噛んだ。
「ハーバリウムだっけ? あれだけでもあんな喜んでんのに、夕飯は好きなワインとビーフシチューだろ? またうるせぇだろうな」
「喜んでくれたらいいけれど」
「いや、どう考えたってがっつり喜ぶだろ」
俺も喜ぶぜ。
付け足された言葉の意味で彼を見ると、『どっちもうまいじゃん』と嬉しいセリフを向けられ、思わず苦笑が漏れる。
ワインは伯母さん用だけど、そうだね。たーくん相手に飲むんだろうなぁ。
クリスマスのとき、ふたりでボトルを開けていたのを思い出した。
「あ。ちょっとコンビニ寄っていいか?」
「もちろん。どうぞ」
何かを思い出したかのように、たーくんが口にした。
今日の用事はどれもすでに達成済み。
さすがにまだ夕飯の時間には早いし、なにより、ふたりだけで過ごせる時間が増えることは、当然嬉しいから。
「…………」
手元にある、カーネーションの花束。
きっと、何気ない気持ちからかもしれないけれど、私が花を好きだと知ってくれているからこそのチョイスだろう。
でも……知ってるのかな。
このふたつの色の、カーネーションの花言葉。
もし知らないんだとしたら、私から彼へ贈ってもいいよね。
だって、どちらも私が抱いていることと同じなんだから。
永遠の幸福。そして、感謝。
今、この時間を過ごせていることがまさに幸せそのもので、どうか長く続いてほしい象徴でもある。
だけど、その幸福が得られたことは、まさに見えない力がたくさん働いた上でのこと。
巡り合わせであり、縁であり、たくさんの人のおかげであり。
感謝の上で成り立っている、特別なこと。
だから……どうかこの先も末長く、彼と同じ時間を過ごせますように。
「ありがとう。とっても嬉しい」
「…………」
「たーくん?」
ちょうどお店の真横にある駐車場へ車を停めたところで彼を見ると、まじまじ見たまま口をつぐんだ。
えっと……何か、いけなかった?
両手でそっと花束を包んだままお礼を言ったんだけれど、それとも何か足りなかったのかな。
「……っ、ん」
両手が伸びたかと思いきやふいに口づけられ、思わず目が丸くなる。
手の中の花束が少しだけ音を立てて、今起きていることはもちろん夢じゃないらしい。
「……たーくん……」
「なんだよ」
「もう……外なのに」
「誰も見てねぇだろ」
確かに、前向き駐車で目の前には看板しかないけれど、でも……あのね? 隣には車が停まってるんだよ?
何気なく見られたら、どうするの?
「もう」
「反射だな。ある意味」
肩をすくめたのを見ながらも、当然笑みが浮かぶ。
嬉しくないわけない。
だって、こうして触れてくれることは、私にとっての何よりの幸せ。
「なんだよ。物足りないのか?」
「え?」
「別にいいけど? もう少し、いつもみたいにしてやっても」
「っ……もう。違うの」
まじまじと見つめていたのを、勘違いされたらしい。
……もう。キスのことじゃないの。
ついさっき見せてくれた柔らかい笑みとは違い、あきらかに私の反応をおもしろがるように笑われ、さすがに眉が寄った。
「切手買ってくる。降りるか?」
「あ、ううん。待ってるね」
ひらひら手を振った彼を見送り、改めて花束を見つめる。
今日は、母の日。
……お母さんだけでなく、自分がここに存在していることにも感謝する日。
ありがとう。
私は今、とても幸せ。
花束を見てにまにましていたのがガラス越しにも見えたらしく、運転席へ戻ってきた彼は、『ンな喜んでくれるなら、また買ってやるよ』と笑った。
いくつまで?
2020.04.28
ゴールデンウィークだー!
わーい!
アウトレットへ買い物に行って、おいしいお菓子屋さんに寄って、お茶飲んでまったりして、ついでにさわやかのハンバーグ食べて帰ってこよーっと!!
って生活をしたいんじゃぁぁあああ!!!!
おうちこもり生活、2ヶ月突破。
やばいっすよ。筋力もやばいけど、精神がやばい。
あと少し……あと少し、なのよね……。
もはや、ここまできたら5月いっぱい子どもたちが毎日だらけてようと、もう何も言うまい。
緊急事態宣言がどうかはわからないけれど、わたくしは5月からは出勤が確定しましたので、お仕事へ行ってきます。
さらば、ひきこもり瀬那家のみんな。
私は外へ行くー
「……いや、さすがに飾る年じゃなくね?」
「そうかな?」
「お前、俺をいくつだと思ってんだよ」
「でも、ずっとしまわれてたらかわいそうでしょう?」
「…………」
今週は早い企業がゴールデンウィークだと聞いた。
知り合いも数人は在宅勤務からの休みに突入しており、昨日の夜は自宅飲み会を開催したこともあって、近況を聞きはした。
もともとカレンダー通りの休日とは異なるが、土曜は隔週で出勤していたこともあり、もともと連休にはあまり縁もない。
まあ、そのぶん平日休めるからいいんだけど。俺は。
今年は当然ゴールデンウィークもすべて閉館となるが、まぁ、一応は休み。
じゃあどこかに……ってわけにもいかず、ガレージでも片付けるかなって気にはなった。
「お前、マメだな」
「あ、鯉のぼりもあったよ。飾る?」
「飾るな」
丁寧にほこりを払われたあと飾られた兜は、それこそもう何年も見ていないシロモノ。
床の間にはお袋が高校時代までは飾ってた気がするが、まだあったんだなって思う程度には懐かしくもなる。
弓矢とともに飾られた日本刀がホンモノだと知ったのは、小学生のとき。
友達と遊ぶつもりで抜こうとしたものの抜けず、お袋へ文句を言ったら『抜けないようにしてあるのよ』と理由を説明されたときは、さすがに足がすくんだ。
じーちゃんが道場で教えている居合道に興味を持ったのは、もう少し前だったかどうだったか。
最近めっきり顔を出していないが、正月に会ってきっちり小言はもらったから、そろそろ顔を出さないとまずい気もする。
「立派な兜だね」
「初孫だったからな」
親父は5人兄弟の長男とあって、俺が最初の孫だった。
当時は相当かわいがられたらしいが、記憶にはあまり残ってない。
それでも、あまり見かけない数段の飾りであり兜だけでなく鎧一式の五月人形は、迫力がありすぎて小さかったときは正直怖くもあった。
「小せぇときは、恭介さんが一緒じゃないとこの部屋に入れなかったんだよ」
「え?」
「それこそ、ガチの武将っぽいじゃん? 仮面の奥が光ったらどうしようつってな。怖かった」
小さいとはいえ、いかにも人型の甲冑飾りが動き出すんじゃないかと思ったこともあった。
ま、幼稚園ときの話だけど。
「……なんだよ」
意外そうに見られたのはわかったが、柔らかく笑われて居心地が悪い。
普段、ほとんど入ることのない部屋と化した和室にいるってのもあるだろうが、なんとなくテリトリー外な気もして少しだけ声が小さくなった。
「私と同じだなって思ったの」
「お前も?」
「ん。私もね、おばあちゃんに買ってもらったお雛様があるんだけど……7段飾りの、とってもきれいな雛壇なんだよ。小さいころは私の身長よりも高いところにお雛様とお内裏様がいて、お父さんに手伝ってもらいながら飾るんだけど、少しだけどきどきしたの」
意外なセリフに葉月を見ると、苦笑してから立ち上がった。
すでにすべての飾りは終えられていて、あとはまぁ収納されてた箱を片付ければ完了ってとこか。
つか、ひとりで飾りきるとかどんだけだよ。
言えば手伝いくらいはした。多分な。
……もしかしたら、出すって言った時点で反対してたかもしんねぇけど。
「見下ろされているのが、緊張したのかもしれないね。何もいけないことをしてるわけじゃないのに、お雛様の前で遊ぶときは少しだけ背筋が伸びてた気がするの」
「あー、それはあるかもな。なんかこう、夢で説教されそうじゃん」
「ふふ。たーくんもそんなふうに思うんだね」
「いや、むしろそれは俺のセリフ。品行方正っぽいお前がンなこと思ってるなんて意外だ」
「私、そんなにいい子じゃなかったよ?」
「どーだか。少なくとも俺よか、よっぽどいい子だろ」
いい子、の定義ははたして。
だが、恭介さんが躾けてきたと思えば、まぁいい子だったんだろうよ。
俺みたいに、あえて禁止されてることをしようとはしなかっただろ。お前は。
……まぁ興味はあるから、具体的にどのへんがいい子じゃなかったのか、いっぺん聞いてみてもいいけどな。
「鯉のぼり、おじいちゃんちへ持って行ったらどうかな? 併せて飾ってくれるんじゃない?」
「いや、あっちはあっちであンだろ。そんな何匹も泳がせてどーすんだよ」
「複数のほうが、賑やかだよ?」
「まあそうかもしんねーけど」
あ、と口にしてから両手を合わせた葉月が、きらきらした目で俺を見た。
さすがに噴き出し、一応は阻止しておく。
が、もしかしたら恭介さんへも言いそうだなと少し思った。
そーなったら……まあ、考えなくもないけど。
つか、鯉のぼりこそ小学生以来出してないシロモノ。
カビのひとつやふたつありそうだが、とりあえず黙っておく。
「今日のおやつ、柏餅にする?」
「買いに行くのか?」
「柏の葉はないけど、上新粉と小豆はあるよ。たーくんも作る?」
「いや……つか、それじゃただの大福じゃねーか」
そもそも、柏餅を自宅で作る発想がなかった。
小さいころは、ばーちゃんちで食ってたけど、ひょっとしてあれ手作りだったのか……?
あー、そういや柏の木があった気もする。
んで、従兄弟たちと『葉っぱを取っておいで』と言われて行った気が……。
「ばーちゃんちにあるかもな。柏の木」
「え、そうだった?」
「ああ。聞いてみて、今もあるなら……まぁ取り行くか」
別に柏餅が食いたいわけじゃないが、まぁどうせ暇だし、行ってもいいかとは思った程度。
あそこなら間違いなく人はいないだろうし……つか、人ん家の敷地内だし文句も言われねーだろ。
家の中に入るわけじゃなし、今流行りのソーシャルディスタンスにも該当せず。
……しかしまぁ、急に言い出したよな。
なんだよ、ソーシャルディスタンスって。
呪文じゃねーんだから、日本語でよくね?
「お天気いいし、ちょっとしたお散歩にはなるかな?」
「まぁな。ついでにコンビニでコーヒー買ってくか」
うちと違い、本家は庭だけでも十分広い。
そんでもって人もいない。
池の鯉に餌でもやって帰ってくるか。
「あ、羽織も誘ってみる?」
「どっちでもいいけど……あー、アイツもコンビニ行きたいつってたな」
「じゃあ、声かけてくるね」
「おー」
葉月が廊下へ向かい、律儀にも階段を上がっていく音がした。
俺なら間違いなく、のぼらずに声かけて終了。
アイツ、ほんとマメだな。
「…………」
数年ぶりに見た鎧兜は、昔見たときよりもずっと小さく感じた。
葉月と同じく、昔は見上げるしかなかった屏風のてっぺんでさえも、今では見下ろせる高さ。
細々したことはいろいろあったが、それでもここまで何事もなく育ち、就職もして社会人の仲間入り。
そういう意味じゃ、厄は払えていて護られてもいるんだろう。
「羽織も行くって」
「あー。鍵取ってくる」
またもや律儀にも和室の入り口へ姿を見せた葉月は、嬉しそうに笑った。
果たして、帰宅した両親がこの兜を見てなんつーのかは想像もできないが、まぁこんな状況だからこそ、たまには昔から伝わる習わしに触れるのもいいのかもな。
厄払い、ね。
ひとりは小さくても、みんなでやればそれこそチカラになるんじゃねーの。
古来の妖怪も流行ってるらしいし、それに乗じてとっとと日常が戻るなら、げん担ぎの一種と思ってやってみてもいいかもな。
「鯉のぼりも、一応持って行っていい?」
「……ひょっとして、お前見たいのか?」
「ん。だってほら、うちで鯉のぼり飾らなかったから」
少しだけはにかんで笑った様が、いつもと違ってやたら子どもっぽく見え、つい吹き出す。
あーあー、わーったよ。好きにしろ。
無理って言われたら、しょーがねーからベランダから吊るせ。
……って、これ言ったら怒りそうだから言わないでおくけどな。
「とりあえず、ばーちゃんに聞いてみるからちょっと待ってろ」
スマフォを取り出してパネルへ触れると、意外な姿を見たせいか、少しだけおかしかった。
と思ったんじゃよーーー。
うちも、すっかり埃をかぶってしまった、鯉のぼり。
ステイホームで開かずの納戸を片付けたら、出てきた数メートルの鯉のぼり。
飾る……?
それとも、寄付する……?
とりあえず、虫干をかねて物干し竿へくくってみてもいいかなと思いました。
わーい!
アウトレットへ買い物に行って、おいしいお菓子屋さんに寄って、お茶飲んでまったりして、ついでにさわやかのハンバーグ食べて帰ってこよーっと!!
って生活をしたいんじゃぁぁあああ!!!!
おうちこもり生活、2ヶ月突破。
やばいっすよ。筋力もやばいけど、精神がやばい。
あと少し……あと少し、なのよね……。
もはや、ここまできたら5月いっぱい子どもたちが毎日だらけてようと、もう何も言うまい。
緊急事態宣言がどうかはわからないけれど、わたくしは5月からは出勤が確定しましたので、お仕事へ行ってきます。
さらば、ひきこもり瀬那家のみんな。
私は外へ行くー
「……いや、さすがに飾る年じゃなくね?」
「そうかな?」
「お前、俺をいくつだと思ってんだよ」
「でも、ずっとしまわれてたらかわいそうでしょう?」
「…………」
今週は早い企業がゴールデンウィークだと聞いた。
知り合いも数人は在宅勤務からの休みに突入しており、昨日の夜は自宅飲み会を開催したこともあって、近況を聞きはした。
もともとカレンダー通りの休日とは異なるが、土曜は隔週で出勤していたこともあり、もともと連休にはあまり縁もない。
まあ、そのぶん平日休めるからいいんだけど。俺は。
今年は当然ゴールデンウィークもすべて閉館となるが、まぁ、一応は休み。
じゃあどこかに……ってわけにもいかず、ガレージでも片付けるかなって気にはなった。
「お前、マメだな」
「あ、鯉のぼりもあったよ。飾る?」
「飾るな」
丁寧にほこりを払われたあと飾られた兜は、それこそもう何年も見ていないシロモノ。
床の間にはお袋が高校時代までは飾ってた気がするが、まだあったんだなって思う程度には懐かしくもなる。
弓矢とともに飾られた日本刀がホンモノだと知ったのは、小学生のとき。
友達と遊ぶつもりで抜こうとしたものの抜けず、お袋へ文句を言ったら『抜けないようにしてあるのよ』と理由を説明されたときは、さすがに足がすくんだ。
じーちゃんが道場で教えている居合道に興味を持ったのは、もう少し前だったかどうだったか。
最近めっきり顔を出していないが、正月に会ってきっちり小言はもらったから、そろそろ顔を出さないとまずい気もする。
「立派な兜だね」
「初孫だったからな」
親父は5人兄弟の長男とあって、俺が最初の孫だった。
当時は相当かわいがられたらしいが、記憶にはあまり残ってない。
それでも、あまり見かけない数段の飾りであり兜だけでなく鎧一式の五月人形は、迫力がありすぎて小さかったときは正直怖くもあった。
「小せぇときは、恭介さんが一緒じゃないとこの部屋に入れなかったんだよ」
「え?」
「それこそ、ガチの武将っぽいじゃん? 仮面の奥が光ったらどうしようつってな。怖かった」
小さいとはいえ、いかにも人型の甲冑飾りが動き出すんじゃないかと思ったこともあった。
ま、幼稚園ときの話だけど。
「……なんだよ」
意外そうに見られたのはわかったが、柔らかく笑われて居心地が悪い。
普段、ほとんど入ることのない部屋と化した和室にいるってのもあるだろうが、なんとなくテリトリー外な気もして少しだけ声が小さくなった。
「私と同じだなって思ったの」
「お前も?」
「ん。私もね、おばあちゃんに買ってもらったお雛様があるんだけど……7段飾りの、とってもきれいな雛壇なんだよ。小さいころは私の身長よりも高いところにお雛様とお内裏様がいて、お父さんに手伝ってもらいながら飾るんだけど、少しだけどきどきしたの」
意外なセリフに葉月を見ると、苦笑してから立ち上がった。
すでにすべての飾りは終えられていて、あとはまぁ収納されてた箱を片付ければ完了ってとこか。
つか、ひとりで飾りきるとかどんだけだよ。
言えば手伝いくらいはした。多分な。
……もしかしたら、出すって言った時点で反対してたかもしんねぇけど。
「見下ろされているのが、緊張したのかもしれないね。何もいけないことをしてるわけじゃないのに、お雛様の前で遊ぶときは少しだけ背筋が伸びてた気がするの」
「あー、それはあるかもな。なんかこう、夢で説教されそうじゃん」
「ふふ。たーくんもそんなふうに思うんだね」
「いや、むしろそれは俺のセリフ。品行方正っぽいお前がンなこと思ってるなんて意外だ」
「私、そんなにいい子じゃなかったよ?」
「どーだか。少なくとも俺よか、よっぽどいい子だろ」
いい子、の定義ははたして。
だが、恭介さんが躾けてきたと思えば、まぁいい子だったんだろうよ。
俺みたいに、あえて禁止されてることをしようとはしなかっただろ。お前は。
……まぁ興味はあるから、具体的にどのへんがいい子じゃなかったのか、いっぺん聞いてみてもいいけどな。
「鯉のぼり、おじいちゃんちへ持って行ったらどうかな? 併せて飾ってくれるんじゃない?」
「いや、あっちはあっちであンだろ。そんな何匹も泳がせてどーすんだよ」
「複数のほうが、賑やかだよ?」
「まあそうかもしんねーけど」
あ、と口にしてから両手を合わせた葉月が、きらきらした目で俺を見た。
さすがに噴き出し、一応は阻止しておく。
が、もしかしたら恭介さんへも言いそうだなと少し思った。
そーなったら……まあ、考えなくもないけど。
つか、鯉のぼりこそ小学生以来出してないシロモノ。
カビのひとつやふたつありそうだが、とりあえず黙っておく。
「今日のおやつ、柏餅にする?」
「買いに行くのか?」
「柏の葉はないけど、上新粉と小豆はあるよ。たーくんも作る?」
「いや……つか、それじゃただの大福じゃねーか」
そもそも、柏餅を自宅で作る発想がなかった。
小さいころは、ばーちゃんちで食ってたけど、ひょっとしてあれ手作りだったのか……?
あー、そういや柏の木があった気もする。
んで、従兄弟たちと『葉っぱを取っておいで』と言われて行った気が……。
「ばーちゃんちにあるかもな。柏の木」
「え、そうだった?」
「ああ。聞いてみて、今もあるなら……まぁ取り行くか」
別に柏餅が食いたいわけじゃないが、まぁどうせ暇だし、行ってもいいかとは思った程度。
あそこなら間違いなく人はいないだろうし……つか、人ん家の敷地内だし文句も言われねーだろ。
家の中に入るわけじゃなし、今流行りのソーシャルディスタンスにも該当せず。
……しかしまぁ、急に言い出したよな。
なんだよ、ソーシャルディスタンスって。
呪文じゃねーんだから、日本語でよくね?
「お天気いいし、ちょっとしたお散歩にはなるかな?」
「まぁな。ついでにコンビニでコーヒー買ってくか」
うちと違い、本家は庭だけでも十分広い。
そんでもって人もいない。
池の鯉に餌でもやって帰ってくるか。
「あ、羽織も誘ってみる?」
「どっちでもいいけど……あー、アイツもコンビニ行きたいつってたな」
「じゃあ、声かけてくるね」
「おー」
葉月が廊下へ向かい、律儀にも階段を上がっていく音がした。
俺なら間違いなく、のぼらずに声かけて終了。
アイツ、ほんとマメだな。
「…………」
数年ぶりに見た鎧兜は、昔見たときよりもずっと小さく感じた。
葉月と同じく、昔は見上げるしかなかった屏風のてっぺんでさえも、今では見下ろせる高さ。
細々したことはいろいろあったが、それでもここまで何事もなく育ち、就職もして社会人の仲間入り。
そういう意味じゃ、厄は払えていて護られてもいるんだろう。
「羽織も行くって」
「あー。鍵取ってくる」
またもや律儀にも和室の入り口へ姿を見せた葉月は、嬉しそうに笑った。
果たして、帰宅した両親がこの兜を見てなんつーのかは想像もできないが、まぁこんな状況だからこそ、たまには昔から伝わる習わしに触れるのもいいのかもな。
厄払い、ね。
ひとりは小さくても、みんなでやればそれこそチカラになるんじゃねーの。
古来の妖怪も流行ってるらしいし、それに乗じてとっとと日常が戻るなら、げん担ぎの一種と思ってやってみてもいいかもな。
「鯉のぼりも、一応持って行っていい?」
「……ひょっとして、お前見たいのか?」
「ん。だってほら、うちで鯉のぼり飾らなかったから」
少しだけはにかんで笑った様が、いつもと違ってやたら子どもっぽく見え、つい吹き出す。
あーあー、わーったよ。好きにしろ。
無理って言われたら、しょーがねーからベランダから吊るせ。
……って、これ言ったら怒りそうだから言わないでおくけどな。
「とりあえず、ばーちゃんに聞いてみるからちょっと待ってろ」
スマフォを取り出してパネルへ触れると、意外な姿を見たせいか、少しだけおかしかった。
と思ったんじゃよーーー。
うちも、すっかり埃をかぶってしまった、鯉のぼり。
ステイホームで開かずの納戸を片付けたら、出てきた数メートルの鯉のぼり。
飾る……?
それとも、寄付する……?
とりあえず、虫干をかねて物干し竿へくくってみてもいいかなと思いました。
プリン事件
2020.04.24
事件ですよ、事件。
私のプリンが……なくなっていたんや……。
これはもう、大事件。
誰じゃい! 勝手に食べたのは!
きーー!!となりながら書いた、安定の瀬那さんち。
うぅ、長いよぅ。
おうちこもりチャレンジ、2ヶ月目が終わろうとしてるんだぜ……。
毎日家にいたら、おかしくなるわい!
誰かなんとかして……。
お庭チャレンジも、そろそろ限界です神様。
「…………」
「…………」
「あのね? だから、私じゃないってば!」
「何も言ってねーだろ」
「目が言ってる!」
あれから半日程度経過した、現在。
リビングで録りためた番組を見ていたら、ソファへ座ったお兄ちゃんは相変わらず機嫌悪そうに眉を寄せた。
ていうか、今の今まで部屋にいたのに、なんでまた急にリビングに来るかなぁ。
悪いわけじゃもちろんないけど、でも、あのね?
今ここで喧嘩を始めるわけにはいかないの。
なぜなら——葉月が、留守だから。
「はー……」
早く帰ってきて、葉月。お願いだからぜひとも。
ちらりと壁の時計を見ると、葉月が出かけてまだ40分しか経ってないのが見えた。
「あれ?」
ことの発端は、今日の朝ごはんのあと。
珍しくお兄ちゃんが9時前に起きてきたなぁと思ったら、冷蔵庫を覗いて変な声をあげた。
「お前、プリン知らねぇ?」
「プリン? なんの?」
「いや、普通の。こンくらいのサイズのヤツ」
手で示されたのは、割と小さめなプリンだった。
プリン……えぇ? 知らないけど。
というか、最近は買い物にすら出ていないわけで。
基本、お母さんが仕事帰りに買い物をして帰ってくるから、私も葉月もお兄ちゃんも家からはほとんど出ていない。
せいぜい、郵便物を取りに行くくらいかなぁ。
あ、あとは庭に出るとかね。
だから、冷蔵庫にプリンが入っていたことすら私は知らなかった。
「え、いつ買ったの?」
「おととい」
おととい……あぁ、言われてみれば、その日お兄ちゃんだけ郵便局へ行ったんだっけ。
てことは、その帰りに買ってきたのね。
相変わらず、自分のためのものはきちんと把握してるらしい……って、きっとみんなそうだろうけど。
「お前食ったろ」
「えぇ? 食べてないってば!」
ていうか、存在自体知らないって言ったのに、なんでそうなるの?
ひどいなぁもぅ。
昔からそうだけど、基本、冷蔵庫に入ってるものはお母さんに『これ食べていい?』って聞いちゃうんだよね。
だから、お兄ちゃんと違って私は勝手に食べたりしない。
そう……お兄ちゃんと違って。
なのに、そんなふうに真正面から疑われたら、すっごく嫌な気分。
「寝ぼけて食べちゃったの、忘れてるんじゃないの?」
「ンなわけねーだろ。昨日の夜、風呂あがったときまではあったんだから」
「そのとき、食べたんじゃないの?」
「だから、食ってねぇつってんだろ!」
むぅ。ひどい言いよう。
ていうか、私は食べてないどころか、存在自体知らないんだってばもぅ!
イライラしてるのがわかるから、こっちまでイライラしてくる。
ああもぅ、悪循環。でも、悪いのはどう考えたって勝手に疑いをかけてきたお兄ちゃんなんだからね!
「どうしたの?」
2階から降りてきたらしく、葉月がリビングに姿を見せた。
どうやら2回目のお洗濯をしようとしていたらしく、手にはなぜかお兄ちゃんのスウェットを手にしている。
……って、あー絶対あれ、拾ってきてくれたヤツでしょ。
もぅ。いい加減、自分のことは自分ですればいいのに!
「プリンがねぇんだよ」
「プリン?」
「こないだ買ったコンビニの新商品」
この間、葉月は一緒に出ていない。
けれど、“コンビニ”の言葉を聞いて思い当たったらしく、『あ』と言うと珍しく口をつぐんだ。
「買ってこようか?」
「いや、そーじゃねーだろ。つか、なんでお前が買い……食った?」
「ううん」
ありえないとは思ったものの、当然のように否定するのを見て内心安堵する。
だけど、葉月は両手を合わせるとお兄ちゃんを見て小さく苦笑した。
「今日の午後、お父さんと出かける予定なの。だから、おやつの時間でよければ、買ってくるよ」
「……あのな。俺が知りたいのは、買えるかどうかじゃなくて、誰が食ったかってとこだって」
「そうだけど……でも、ないでしょう?」
「ああ」
「だから……代替案じゃだめかな?」
私と違い、葉月はずっと穏やかなまま話していた。
そのせいか、お兄ちゃんは私に向けていたトゲトゲしい言葉にはならず、最後にはいつもと同じようなテンションに戻っている。
ああ、やっぱりどっちがリードするかで違うんだなぁ。
さっきまでの会話は、間違いなく私がお兄ちゃんに引っ張られていた。
「…………」
舌打ちこそしたけれど、お兄ちゃんはそれ以上何も言わずにまた冷蔵庫を開けた。
代わりに取り出したのは、冷茶のポット。
どうやら、諦めたらしい。
……よかった。
こんなときに、またこんな情けないことで喧嘩になったら、外にも出れないし発散できないもん。
思わず葉月に視線をうつすと、お兄ちゃんを見送ったあと私を見てやっぱり苦く笑った。
で、今に戻る。
あのあと、結局お兄ちゃんはなんにも言わなくはなったけれど、どこか機嫌は悪そうなままで。
午前中もお昼ごはんのあとも、葉月いわくパソコンで作業してたみたいだけど、さすがにコーヒーブレイクにしたらしい。
葉月をたよらず入れた、ブラックコーヒーの大きめのマグカップがすぐここに置かれている。
…………。
………………。
あの……あのね?
私、今日はさっきまですごくがんばったの。
レポートも仕上げたし、ずっと読んでいたあの分厚い本だってやっと読み終わったの。
午後は葉月と日課のヨガをやるつもりだったけど、今は恭ちゃんとお出かけしてる関係で葉月は不在。
だからこその録画番組消化だったんだけど……うぅ、ちっとも笑える雰囲気じゃなくなっちゃったじゃない。
別にお兄ちゃんが悪いとはひとことも言ってないけれど、でもだってあのね?
…………。
うぅ。せめて、これだけ出演陣が爆笑してるシーンなんだから、反応くらいしたらいいのになぁ。
さっきまでと打って変わって、けらけら笑えなくなった雰囲気に、もういっそ再生をやめようかなとも思った。
どうせなら、一緒に笑ってくれる葉月と見たほうが何倍も楽しいだろうし。
うん、そうしよう。
私も紅茶入れて、そーっと部屋へ戻ろうっと。
あ、その前にさっき畳んだ洗濯物、片付けてからね。
「……あ」
立ち上がってキッチンへ行こうとしたら、玄関の鍵が開いた。
葉月だけでなく恭ちゃんも一緒らしく、ふたりで話しているのが聞こえる。
「お、珍しいな。ふたりとも下にいたのか」
「うん、まあ……いらっしゃい、恭ちゃん」
「ただいま」
「っ葉月、おかえり……!」
にっこり笑った恭ちゃん……ではなく、彼の陰からひょっこり姿を見せた葉月を見て、情けない声が漏れる。
でもでも、だって!
こんなに待ちわびたの、いつぶりだろう。
ていうか、葉月がいてくれて本当によかった。
私の反応が意外だったらしく……ていうかまぁそうだろうけど。
恭ちゃんと葉月は、顔を見合わせると少しだけおかしそうに笑った。
「たーくん、おやつ食べる?」
「その前に、孝之は俺たちへ言う言葉があるだろう」
「あー……いらっしゃい。おかえり」
「ずいぶん儀礼的だな」
「いや、別に他意はないんだけど」
あーとか、うーとか言いながらだったのが気になったらしく、恭ちゃんは眉を寄せた。
でも、葉月はくすくす笑うと、お兄ちゃんへ袋から取り出した何かを渡した。
「うわ、なんだこれ」
「ふふ。今日からの新発売なんだって」
「え? なになに? ……わ、すごい! なにこれ!」
珍しい反応をしたお兄ちゃんの手元を覗くと、小さめのプリンが3つ入っている大きなプリンアラモードがあった。
え、えー! なにこれ!
デラックスどころか、すっごい食べ応えありそうなものだけに、おいしそうではあるけれど、さすがにちょっとひとりでは……って、や、お兄ちゃんは食べそうだけどね。全然気にせず。
あまりにもなモノを見てあまりにもな反応をしたせいか、葉月は私を見ておかしそうに笑った。
「羽織には、普通サイズのプリン買ってきたよ」
「え、ほんと!? 嬉しい!」
「なんだ。ふたりとも腹が減ってたのか」
「ぅ、そういうわけじゃないんだけど」
「どうりで、珍しく葉月がコンビニへ寄りたいと言うわけだ」
お兄ちゃんの隣へ腰かけた恭ちゃんは、上着を脱ぐと大きな伸びをひとつ。
足を組んだままお兄ちゃんを見て、『お前は本当に甘いものが好きだな』と苦笑する。
「わざわざ寄ってくれたの?」
「んー……ちょっとだけ、ね」
キッチンにある電気ケトルを手にした葉月を見ると、いつものように笑いながらうなずいた。
でも、それって絶対わざわざ、だよね。
もちろん、私のためでもあるだろうけれど……誰よりも、お兄ちゃんのため、に。
「お父さん、何か飲む?」
「コーヒーをもらおうか」
「ん。羽織は?」
「あ、私も手伝うよ」
あとを追い、食器棚からマグカップを取り出す。
すると、シンクへ向かった葉月が私を見て苦笑した。
「たーくんのプリンね、伯母さんが朝食べちゃったの」
「え! そうなの?」
「内緒にしてね」
「お兄ちゃんには内緒にするけど、もぅ……お母さんにはひとこと言うからね。だって、私すっごい疑われたんだよ?」
苦笑した葉月に唇を尖らせると、想像はしていたらしく、笑うだけで何も言わなかった。
むー。
お母さんのせいで、私がひどいめに遭ったんだから、もぅ!
ていうか、普段あんまりそういうの食べないのに、なんでこういうときにかぎって食べちゃうかな。
今日帰ってきたらひとこと言おう。
でも、お母さんのことだから『あー、ごめんごめん』で終わりにしそうだけど。
「……って、はや! もう食べてるの?」
「うまい」
「ふふ。よかった」
葉月といっしょにマグカップを持ちながらリビングへ戻ると、お兄ちゃんはすでに1/2ほど平らげていた。
生クリームたっぷりのプリンアラモード。
そりゃおいしいだろうなぁとは思うけど、そのサイズをひとりで食べたら夕飯食べられなさそう……。
うぅ。さすがに見るだけでお腹いっぱい。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
ソーサーごと恭ちゃんへコーヒーを差し出し、葉月がすぐそこへ座る。
それを見てお兄ちゃんが何か言いたげな顔をしたけれど、口をつぐむと1/4ほどになったプリンを手に冷蔵庫へ向かった。
かと思えば、すっかり冷めたであろうマグを取りに戻ってくる。
「全部食べないの?」
「いや、さすがに多い」
珍しいことを言い出したのが、どうやら葉月も不思議に思ったらしい。
恭ちゃんだけは、普段のお兄ちゃんの物欲……食欲? を知らないからか、無反応。
え、ひょっとして具合悪いとかじゃないよね?
今日のお昼ごはんだったキノコパスタは、いつもと同じようにおかわりしてたし。
「大丈夫?」
「何がだよ。失礼だぞお前」
「む。失礼なのはお兄ちゃんでしょ? 私のこと疑っておいて」
「あ? 蒸し返すのか? お前。まだカタついてねぇんだぞ」
「だから、私が食べたんじゃないってずっと言ってるじゃない!」
「口でだけならどうとでも言えンだろ!」
これでも心配してあげたのに、相変わらずひとこと多いんだよね。お兄ちゃんって。
うぅ、言っちゃいたい。
プリン犯人はお母さんだ、って!
でも……でも、葉月と約束したんだもん、破るわけにもいかない。
これ以上言ったらまた喧嘩になりそうだから閉口したけれど、ちらりと葉月を見るとちょっぴり申し訳なさそうに、『ごめんね』と代わりに謝られてしまった。
……だからもう言わないであげる。
葉月のためにも。
ていうか、もともとは葉月が悪いんじゃなくて、お母さんがよくなかった。
「大きくなっても喧嘩の中身は子どもと同じだな」
「っ……」
「うぅ……お兄ちゃんといっしょにしないでほしい」
「かわいいもんだ」
マグをかたむけた恭ちゃんが、小さく笑った。
どこか呆れているように聞こえなくもない。
もぅ、お兄ちゃんのせいだからね。
でも……そういえば、祐恭さんにもよく言われるんだよね。そのセリフ。
さすがにそろそろ、食べ物で喧嘩しないようにしたい。私だって。
これじゃ、小学生のころとなんにも変わってない感じするし。
からから笑った恭ちゃんに唇を尖らせつつ、一応は反省してみる。
でも……ってだから、堂々巡りになっちゃうから、言わない。
お母さんが帰ってくるだろう時間まで、あと3時間。
少なくとも、恭ちゃんの前では蒸し返さないのが私のためだなと改めて感じた。
ちなみに。
夕食のあと、お兄ちゃんは食べかけのプリンを食べていた。
やっぱり胃がどうかしてると思う。
だって、あれだけフライとサラダもりもり食べてたのにまだ食べられるって……うぅ、お腹いっぱいどころか気持ち悪い。
そんなお兄ちゃんを見て眉を寄せたものの、葉月は『おいしいけど、ひとくちで十分ね』とちょっぴり不思議なことを口にしていた。
ちなみに、私のプリン食べた人はまだ見つかってない……。
誰だよ人の食べたの!ばかぁ!
私のプリンが……なくなっていたんや……。
これはもう、大事件。
誰じゃい! 勝手に食べたのは!
きーー!!となりながら書いた、安定の瀬那さんち。
うぅ、長いよぅ。
おうちこもりチャレンジ、2ヶ月目が終わろうとしてるんだぜ……。
毎日家にいたら、おかしくなるわい!
誰かなんとかして……。
お庭チャレンジも、そろそろ限界です神様。
「…………」
「…………」
「あのね? だから、私じゃないってば!」
「何も言ってねーだろ」
「目が言ってる!」
あれから半日程度経過した、現在。
リビングで録りためた番組を見ていたら、ソファへ座ったお兄ちゃんは相変わらず機嫌悪そうに眉を寄せた。
ていうか、今の今まで部屋にいたのに、なんでまた急にリビングに来るかなぁ。
悪いわけじゃもちろんないけど、でも、あのね?
今ここで喧嘩を始めるわけにはいかないの。
なぜなら——葉月が、留守だから。
「はー……」
早く帰ってきて、葉月。お願いだからぜひとも。
ちらりと壁の時計を見ると、葉月が出かけてまだ40分しか経ってないのが見えた。
「あれ?」
ことの発端は、今日の朝ごはんのあと。
珍しくお兄ちゃんが9時前に起きてきたなぁと思ったら、冷蔵庫を覗いて変な声をあげた。
「お前、プリン知らねぇ?」
「プリン? なんの?」
「いや、普通の。こンくらいのサイズのヤツ」
手で示されたのは、割と小さめなプリンだった。
プリン……えぇ? 知らないけど。
というか、最近は買い物にすら出ていないわけで。
基本、お母さんが仕事帰りに買い物をして帰ってくるから、私も葉月もお兄ちゃんも家からはほとんど出ていない。
せいぜい、郵便物を取りに行くくらいかなぁ。
あ、あとは庭に出るとかね。
だから、冷蔵庫にプリンが入っていたことすら私は知らなかった。
「え、いつ買ったの?」
「おととい」
おととい……あぁ、言われてみれば、その日お兄ちゃんだけ郵便局へ行ったんだっけ。
てことは、その帰りに買ってきたのね。
相変わらず、自分のためのものはきちんと把握してるらしい……って、きっとみんなそうだろうけど。
「お前食ったろ」
「えぇ? 食べてないってば!」
ていうか、存在自体知らないって言ったのに、なんでそうなるの?
ひどいなぁもぅ。
昔からそうだけど、基本、冷蔵庫に入ってるものはお母さんに『これ食べていい?』って聞いちゃうんだよね。
だから、お兄ちゃんと違って私は勝手に食べたりしない。
そう……お兄ちゃんと違って。
なのに、そんなふうに真正面から疑われたら、すっごく嫌な気分。
「寝ぼけて食べちゃったの、忘れてるんじゃないの?」
「ンなわけねーだろ。昨日の夜、風呂あがったときまではあったんだから」
「そのとき、食べたんじゃないの?」
「だから、食ってねぇつってんだろ!」
むぅ。ひどい言いよう。
ていうか、私は食べてないどころか、存在自体知らないんだってばもぅ!
イライラしてるのがわかるから、こっちまでイライラしてくる。
ああもぅ、悪循環。でも、悪いのはどう考えたって勝手に疑いをかけてきたお兄ちゃんなんだからね!
「どうしたの?」
2階から降りてきたらしく、葉月がリビングに姿を見せた。
どうやら2回目のお洗濯をしようとしていたらしく、手にはなぜかお兄ちゃんのスウェットを手にしている。
……って、あー絶対あれ、拾ってきてくれたヤツでしょ。
もぅ。いい加減、自分のことは自分ですればいいのに!
「プリンがねぇんだよ」
「プリン?」
「こないだ買ったコンビニの新商品」
この間、葉月は一緒に出ていない。
けれど、“コンビニ”の言葉を聞いて思い当たったらしく、『あ』と言うと珍しく口をつぐんだ。
「買ってこようか?」
「いや、そーじゃねーだろ。つか、なんでお前が買い……食った?」
「ううん」
ありえないとは思ったものの、当然のように否定するのを見て内心安堵する。
だけど、葉月は両手を合わせるとお兄ちゃんを見て小さく苦笑した。
「今日の午後、お父さんと出かける予定なの。だから、おやつの時間でよければ、買ってくるよ」
「……あのな。俺が知りたいのは、買えるかどうかじゃなくて、誰が食ったかってとこだって」
「そうだけど……でも、ないでしょう?」
「ああ」
「だから……代替案じゃだめかな?」
私と違い、葉月はずっと穏やかなまま話していた。
そのせいか、お兄ちゃんは私に向けていたトゲトゲしい言葉にはならず、最後にはいつもと同じようなテンションに戻っている。
ああ、やっぱりどっちがリードするかで違うんだなぁ。
さっきまでの会話は、間違いなく私がお兄ちゃんに引っ張られていた。
「…………」
舌打ちこそしたけれど、お兄ちゃんはそれ以上何も言わずにまた冷蔵庫を開けた。
代わりに取り出したのは、冷茶のポット。
どうやら、諦めたらしい。
……よかった。
こんなときに、またこんな情けないことで喧嘩になったら、外にも出れないし発散できないもん。
思わず葉月に視線をうつすと、お兄ちゃんを見送ったあと私を見てやっぱり苦く笑った。
で、今に戻る。
あのあと、結局お兄ちゃんはなんにも言わなくはなったけれど、どこか機嫌は悪そうなままで。
午前中もお昼ごはんのあとも、葉月いわくパソコンで作業してたみたいだけど、さすがにコーヒーブレイクにしたらしい。
葉月をたよらず入れた、ブラックコーヒーの大きめのマグカップがすぐここに置かれている。
…………。
………………。
あの……あのね?
私、今日はさっきまですごくがんばったの。
レポートも仕上げたし、ずっと読んでいたあの分厚い本だってやっと読み終わったの。
午後は葉月と日課のヨガをやるつもりだったけど、今は恭ちゃんとお出かけしてる関係で葉月は不在。
だからこその録画番組消化だったんだけど……うぅ、ちっとも笑える雰囲気じゃなくなっちゃったじゃない。
別にお兄ちゃんが悪いとはひとことも言ってないけれど、でもだってあのね?
…………。
うぅ。せめて、これだけ出演陣が爆笑してるシーンなんだから、反応くらいしたらいいのになぁ。
さっきまでと打って変わって、けらけら笑えなくなった雰囲気に、もういっそ再生をやめようかなとも思った。
どうせなら、一緒に笑ってくれる葉月と見たほうが何倍も楽しいだろうし。
うん、そうしよう。
私も紅茶入れて、そーっと部屋へ戻ろうっと。
あ、その前にさっき畳んだ洗濯物、片付けてからね。
「……あ」
立ち上がってキッチンへ行こうとしたら、玄関の鍵が開いた。
葉月だけでなく恭ちゃんも一緒らしく、ふたりで話しているのが聞こえる。
「お、珍しいな。ふたりとも下にいたのか」
「うん、まあ……いらっしゃい、恭ちゃん」
「ただいま」
「っ葉月、おかえり……!」
にっこり笑った恭ちゃん……ではなく、彼の陰からひょっこり姿を見せた葉月を見て、情けない声が漏れる。
でもでも、だって!
こんなに待ちわびたの、いつぶりだろう。
ていうか、葉月がいてくれて本当によかった。
私の反応が意外だったらしく……ていうかまぁそうだろうけど。
恭ちゃんと葉月は、顔を見合わせると少しだけおかしそうに笑った。
「たーくん、おやつ食べる?」
「その前に、孝之は俺たちへ言う言葉があるだろう」
「あー……いらっしゃい。おかえり」
「ずいぶん儀礼的だな」
「いや、別に他意はないんだけど」
あーとか、うーとか言いながらだったのが気になったらしく、恭ちゃんは眉を寄せた。
でも、葉月はくすくす笑うと、お兄ちゃんへ袋から取り出した何かを渡した。
「うわ、なんだこれ」
「ふふ。今日からの新発売なんだって」
「え? なになに? ……わ、すごい! なにこれ!」
珍しい反応をしたお兄ちゃんの手元を覗くと、小さめのプリンが3つ入っている大きなプリンアラモードがあった。
え、えー! なにこれ!
デラックスどころか、すっごい食べ応えありそうなものだけに、おいしそうではあるけれど、さすがにちょっとひとりでは……って、や、お兄ちゃんは食べそうだけどね。全然気にせず。
あまりにもなモノを見てあまりにもな反応をしたせいか、葉月は私を見ておかしそうに笑った。
「羽織には、普通サイズのプリン買ってきたよ」
「え、ほんと!? 嬉しい!」
「なんだ。ふたりとも腹が減ってたのか」
「ぅ、そういうわけじゃないんだけど」
「どうりで、珍しく葉月がコンビニへ寄りたいと言うわけだ」
お兄ちゃんの隣へ腰かけた恭ちゃんは、上着を脱ぐと大きな伸びをひとつ。
足を組んだままお兄ちゃんを見て、『お前は本当に甘いものが好きだな』と苦笑する。
「わざわざ寄ってくれたの?」
「んー……ちょっとだけ、ね」
キッチンにある電気ケトルを手にした葉月を見ると、いつものように笑いながらうなずいた。
でも、それって絶対わざわざ、だよね。
もちろん、私のためでもあるだろうけれど……誰よりも、お兄ちゃんのため、に。
「お父さん、何か飲む?」
「コーヒーをもらおうか」
「ん。羽織は?」
「あ、私も手伝うよ」
あとを追い、食器棚からマグカップを取り出す。
すると、シンクへ向かった葉月が私を見て苦笑した。
「たーくんのプリンね、伯母さんが朝食べちゃったの」
「え! そうなの?」
「内緒にしてね」
「お兄ちゃんには内緒にするけど、もぅ……お母さんにはひとこと言うからね。だって、私すっごい疑われたんだよ?」
苦笑した葉月に唇を尖らせると、想像はしていたらしく、笑うだけで何も言わなかった。
むー。
お母さんのせいで、私がひどいめに遭ったんだから、もぅ!
ていうか、普段あんまりそういうの食べないのに、なんでこういうときにかぎって食べちゃうかな。
今日帰ってきたらひとこと言おう。
でも、お母さんのことだから『あー、ごめんごめん』で終わりにしそうだけど。
「……って、はや! もう食べてるの?」
「うまい」
「ふふ。よかった」
葉月といっしょにマグカップを持ちながらリビングへ戻ると、お兄ちゃんはすでに1/2ほど平らげていた。
生クリームたっぷりのプリンアラモード。
そりゃおいしいだろうなぁとは思うけど、そのサイズをひとりで食べたら夕飯食べられなさそう……。
うぅ。さすがに見るだけでお腹いっぱい。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
ソーサーごと恭ちゃんへコーヒーを差し出し、葉月がすぐそこへ座る。
それを見てお兄ちゃんが何か言いたげな顔をしたけれど、口をつぐむと1/4ほどになったプリンを手に冷蔵庫へ向かった。
かと思えば、すっかり冷めたであろうマグを取りに戻ってくる。
「全部食べないの?」
「いや、さすがに多い」
珍しいことを言い出したのが、どうやら葉月も不思議に思ったらしい。
恭ちゃんだけは、普段のお兄ちゃんの物欲……食欲? を知らないからか、無反応。
え、ひょっとして具合悪いとかじゃないよね?
今日のお昼ごはんだったキノコパスタは、いつもと同じようにおかわりしてたし。
「大丈夫?」
「何がだよ。失礼だぞお前」
「む。失礼なのはお兄ちゃんでしょ? 私のこと疑っておいて」
「あ? 蒸し返すのか? お前。まだカタついてねぇんだぞ」
「だから、私が食べたんじゃないってずっと言ってるじゃない!」
「口でだけならどうとでも言えンだろ!」
これでも心配してあげたのに、相変わらずひとこと多いんだよね。お兄ちゃんって。
うぅ、言っちゃいたい。
プリン犯人はお母さんだ、って!
でも……でも、葉月と約束したんだもん、破るわけにもいかない。
これ以上言ったらまた喧嘩になりそうだから閉口したけれど、ちらりと葉月を見るとちょっぴり申し訳なさそうに、『ごめんね』と代わりに謝られてしまった。
……だからもう言わないであげる。
葉月のためにも。
ていうか、もともとは葉月が悪いんじゃなくて、お母さんがよくなかった。
「大きくなっても喧嘩の中身は子どもと同じだな」
「っ……」
「うぅ……お兄ちゃんといっしょにしないでほしい」
「かわいいもんだ」
マグをかたむけた恭ちゃんが、小さく笑った。
どこか呆れているように聞こえなくもない。
もぅ、お兄ちゃんのせいだからね。
でも……そういえば、祐恭さんにもよく言われるんだよね。そのセリフ。
さすがにそろそろ、食べ物で喧嘩しないようにしたい。私だって。
これじゃ、小学生のころとなんにも変わってない感じするし。
からから笑った恭ちゃんに唇を尖らせつつ、一応は反省してみる。
でも……ってだから、堂々巡りになっちゃうから、言わない。
お母さんが帰ってくるだろう時間まで、あと3時間。
少なくとも、恭ちゃんの前では蒸し返さないのが私のためだなと改めて感じた。
ちなみに。
夕食のあと、お兄ちゃんは食べかけのプリンを食べていた。
やっぱり胃がどうかしてると思う。
だって、あれだけフライとサラダもりもり食べてたのにまだ食べられるって……うぅ、お腹いっぱいどころか気持ち悪い。
そんなお兄ちゃんを見て眉を寄せたものの、葉月は『おいしいけど、ひとくちで十分ね』とちょっぴり不思議なことを口にしていた。
ちなみに、私のプリン食べた人はまだ見つかってない……。
誰だよ人の食べたの!ばかぁ!
愛のバクダン
2020.04.21
あと2週間で果たして落ち着くのか……落ち着かない気がします(*´-`)
がしかし、ゴールデンウィーク明けたら、少しは変わってるといいですよね。
そんでもって、10人諭吉が来るらしいのでそれは期待。
自動車税とかね……住民税とかなんとか税って、5月はただでさえ出費がかさむんや……。
それも消費税と一緒に定減税になったらいいのになーーー。
以上、mushokuのわたくしの戯言でした。
さて。
小話もネタが尽きてきたよ(笑)
健全な精神が宿るためには、健全な肉体が必要なんです。
ということは、それこそそういうことですよ奥さん!
とはいえ、濃厚接触ですからね。みんな、自粛するんよ。
リングフィットでもやって、おうち筋トレタイムを増やしていきましょう。
「ねぇ、葉月。今日のおやつ、何がいい?」
「え? 羽織が作ってくれるの?」
「だって、おうち待機になってから、ずーっと葉月が作ってくれてるでしょ? たまには私が作ろうかなって思って」
おうち待機になって、早2ヶ月が経とうとしている。
うーん、なかなかにお腹のあたりがぷよぷよし始めた気もするけれど、見なかったことに……できないけどね。
うぅ。
大学始まったら、少しは今よりも歩く時間は増えるだろうし、人目にさらされるから、きっと気をつけるはず。
だけど、毎日家で勉強だけしていても、楽しさは……どうなんだろう。え、見出せてないのは私だけなのかな。
同じように分厚い本を読んでいるものの、葉月は付箋をつけたりノートへまとめたり、見ているだけだととても楽しそうにも見える。
んんーこれってやっぱり、普段からどんな学習をしているかがわかっちゃうね。
日中は一緒にリビングで勉強しているものの、どうやら葉月は自室へ戻ったときもそんなふうに過ごしてるみたいで、私とは……基礎的なものが違うんだな、とあらためて感じた。
「プリン、チーズケーキ、シュークリーム、ガトーショコラ、チョコレートケーキ、いちごショート、ロールケーキに……どら焼き、みかんゼリー、マフィン、スコーン、クレープ、ホットケーキ……なんかほかにも……あ、パフェ! 昨日食べたいちごパフェ、すごいおいしかったー」
「ふふ。よかった。一緒に作れるおやつって、楽しくておいしくてお得な感じするよね」
「ほんとそれ!」
これまでに葉月が作ってくれたデザートを挙げてみたけれど、私が忘れてるだけで、もっとあるはず。
さすがに、毎日食べてますってわけじゃないけど、ほぼほぼ毎日のルーティンのようにもなっていて、お兄ちゃんが家にいるようになってからはさらに回数が増えた気がする。
「もうさ、お店出せるよね」
「羽織とたーくんが喜んでくれるから、作りがいがあるんだよ」
「紅茶もおいしいし、ある意味毎日アフタヌーンティー開いてる気分だもん」
そう。葉月は日替わりで紅茶のフレーバーを変えてくれていて、それも特別感が増す。
ああ、幸せだなあ。
おいしいおやつがあるって、こんなにもうきうきするんだね。
……って、そうだけどそうじゃなくて!
いつも私たちのために作ってくれるからこそ、たまには葉月をおもてなししたいって気持ちになった。
できることならというか、むしろお兄ちゃんを積極的に動かしながら!
張本人にはまだ内緒だけど!
「作ってくれるなら、なんでも嬉しいよ?」
「そりゃそうかもしれないけど……食べたいもの、ない?」
「んー……おすすめはなぁに?」
「え!? そ、そうだなぁ……あ、じゃあさフルーツ系とクリーム系どっちがいい?」
「どっちもおいしそうね」
「うぅ、ありがたいけどぉお」
まぁ確かに、決められないっていうのはなんとなくわかる。
だって、私も昨日葉月に『パフェとクリームブリュレどっちがいい?』って聞かれて、結局どっちも一緒に作ることにしたんだもん。
ちなみに、クリームブリュレはお風呂上がりにおいしくいただいた。
……ってああもう。
これだから、葉月を休ませてあげられないんだなぁ……反省。
「うーん、あ、わかった。じゃあさ、とりあえず今日は私が何かしら作っておもてなしするから、葉月は自分の時間ゆっくり過ごしてて。ね?」
「いいの?」
「もちろん! 今日はのんびり好きな本読んでね」
バッチリ任せてほしい! と太鼓判は押せない気もするけれど、でも、どうせなら私がたまには作ったものを『おいしい』って食べてほしかった。
いつもの感謝の気持ちをばっちり込めてね!
「……は?」
「えっと、だからね? たまには、葉月におやつ作ってあげたいなって思うんだけど、何がいいと思う?」
お兄ちゃんの部屋へ行ってみたら、どうやらwebで誰かと話しているらしく、パソコンの画面には複数の人たちの顔があった。
……とと、映るつもりはないので、カメラから外れた位置へ立つ。
っていうか、お兄ちゃんの背景なんかすっごいキレイな海外セレブの部屋みたいになってるけど、こんな機能あるの?
と思いきや、ほかの人に至ってはアニメの世界観だったりドラマのセットみたいだったり、はたまた牢屋だったりとバラエティ豊富すぎでしょ。
今どきの会議っていうか……ああ、これ絶対仕事じゃないやつ。
ヘッドフォンを外したお兄ちゃんを見たら気持ちが表情へ出たらしく、なぜか『ほっとけ』と舌打ちされた。
「なんでもいいんじゃね?」
「だから。そうだろうけど、何かしらおもてなししたいでしょ? 日ごろの感謝を込めて」
「日ごろの、ね。まぁ……そうだな。でも、ほぼほぼなんでも作れるだろ? アイツ」
「う」
「だから、俺たちが作るよかよっぽどアイツの作ったモンのほうが、うまいじゃん」
「それは……わかってる、んだけどさ……」
正論だとは思うけれど、でもだって、だって!
たまには、休んでほしいじゃない!
いつも私たちがお世話になりまくりなんだから!
「まぁ、たまにはって気持ちもわからなくねーけど……あー、わーった。んじゃ、作ればいいんだろ? あとで」
「え? お兄ちゃん作ってくれるの?」
「おー。期待しとけ」
ひらひら手を振った彼が、ヘッドフォンを手にした。
あ、もう戻るつもりね。
どうやらマイクだけをミュートにしてあるようで、ぎゃーぎゃーと悲鳴のような声は私まで聞こえていた。
なんだかんだいって、自由というかある意味謳歌してるんだなぁ。
けらけら笑いながらつっこみを始めたお兄ちゃんを見て、ああこの人はどんな状況下でも生きていけるんだろうなと改めて感じた。
「え? これって……」
「……たこ焼き?」
「そ」
宣言通り、14時を過ぎたあたりからお兄ちゃんがキッチンで何かしてるなと思ったものの、私と葉月が覗こうとしたら『立ち入り禁止』と手のひらを向けられた。
そのとき『密』って言ってたけど、それって絶対アレの真似でしょ。
単純に言いたいだけだろうと思ったけれど、つっこまず葉月とふたりでリビングへ戻ることにはした。
で、改めて呼ばれた今……なんだけど。
ダイニングテーブルの上には、いわゆる電気で作れるタイプのたこ焼き器が置かれていて、じゅうじゅうと丸い物体がおいしそうな……って、あれ。
「ねぇ、これってなんか生地違う?」
「よくわかったな」
「だって、なんか甘い匂いするよね? ホットケーキみたいな」
「ご名答」
見た目はまんまるたこ焼きなんだけど、匂いはホットケーキみたいな甘いもの。
てことは、生地はそれなのね。
お兄ちゃんが作るっていうからどんなものかと思いきや、でもお手軽でいいなぁとも素直に感心した。
「こんだけありゃ、あとは好きにトッピングでもなんでもして食えるだろ」
葉月と一緒に席へつき、配られた小皿と竹串を手にたこ焼きを見つめる。
見た目は一緒。匂いも一緒で、おいしそう。
ちなみに、トッピングとして置かれたのは、昨日のパフェで使ったチョコレートソースとキャラメルソースに、生クリームと大きなカップに入っているバニラアイスだった。
「……あ、このアイスお母さんが食べたいって言って買ったものじゃない?」
「そうは言っても、買ったのだいぶ前だろ? 結局ひとくちしか食ってねーし、よくね?」
バレなきゃいいんだよ、どうせ。
葉月の隣へ腰掛けたお兄ちゃんは、なかなか怖いことを言ってくれる。
うぅ。でも、お母さんこのアイス好きなんだよ……? 知らないからね?
ちょっとお高めのバニラアイス、もちろんおいしいのはよく知ってる。
……。
まぁ……いいか。
何かあったら、お兄ちゃんにまず責任は取ってもらおう。
「どこからでも好きなの食っていいぞ」
「へー。それじゃあ……」
「ふふ。いただきます」
肩をすくめたのを見てから、葉月と一緒に竹串を伸ばす。
このとき、本当は気づけばよかったんだよね。
だって……お兄ちゃんは私たちを見ながらも、腕を組んだままにやにや笑ってたんだから。
「っ……!!?」
熱いだろうなと思って食べたけど、そうじゃない。
や、あの、熱いには熱かったの。
でもそうじゃなくて……そうじゃなくてっ!
「なにこれ!?」
ひとくちで行ったのがまずかったらしく、噛んだ瞬間中からじゅわっと何かがあふれた。
何か。
何かって……これ、みかんでしょ!
あつあつのみかんの果汁があふれて、危うくむせるところだった。
「アタリか。引き強いな、お前」
「そういう問題じゃないでしょ!? えぇえ!? ちょ、なんで!? なんで中身がみかんなの!?」
この間食べたみかんゼリーと同じ感じだから、きっと缶詰のみかん。
うぅ……じゅわっとホットなみかん果汁は……思いのほか、甘ずっぱい。
でも、お兄ちゃんはテーブルへ頬杖をつくと、葉月へ向き直った。
「中身なんだった?」
「……キャンディチーズ?」
「ち。ハズレか」
「え、当たりでしょ!」
「そーか? 期待したリアクションと違ったら、ハズレだろ」
お兄ちゃんの判断基準がまったくわからない。
ていうか……てことは……え、ええ?
もしかしてこれ全部、中身違うの?
じゅうじゅうと音を立てて焼かれているまんまるの物体が、改めてちょっと異様な存在感を示しているように見えた。
「おやつじゃないじゃない!」
「中身がランダムってだけで、どー考えたっておやつだろ。食べられるモンしか入れてねーぞ」
「そういう問題じゃないっ!」
ああもうああもう!
自信満々に言うから信じたのに、まさかこんなことになるなんて!
うぅ。怖いんだけど……。
ぽっかり2個ほど空いた場所を見ながら、当然眉は寄った。
「たーくんは食べないの?」
「いや、俺中身知ってるし。アンパイしか引かねーから、おもしろくねぇじゃん」
「うぅ、不正行為だ」
ていうか、こんなわくわくしないおやつ嫌だぁ。
見た目はおいしそうだったのに、今となっては隠されているものがあるとわかって、恨めしい。
でも……食べ物、粗末にしちゃいけないでしょ。
匂いはおいしそうなのになぁ。
とはいえ、葉月はキャンディチーズを引いたわけでしょ?
てことは、あと……えっと1/17はもしかしたらおいしい何かかもしれない。
うー。心臓悪いなぁ。
ニヤニヤしながら中央のひとつをつまんだお兄ちゃんは、『ウィンナーだと完全にアメリカンドックだな』とつぶやいていた。
「……これっ!」
「あー」
「っ……ねぇやめてそれ! 食べる前に怖い!」
「お前、単純だな」
「もう。たーくん、羽織で遊ばないであげて」
意を決して選んだ瞬間そう言われたら、なんかもう……何を信じればいいの?
葉月が意見してはくれたけれど、お兄ちゃんはまったく気にしない様子で『おすすめはこの辺な』と私が選んだのと逆側を指で示した。
「……葉月どれにする?」
「んー……じゃあ、これ」
「こっちがうまいっつってんだろ」
「おいしいとは言わなかったでしょう?」
「ち。お前、勘いいな」
葉月が選んだものをみて、お兄ちゃんは明らかに舌打ちした。
うぅ。私たちで遊ぶのやめてよー。
葉月が半分ほどかじったそれは、いちごジャムだったらしく、ほっとした顔で生クリームを追加していた。
「…………」
ごくり。
私も……おいしいのがいい。
ていうか、全部の具は何なの?
一覧みたいなのが欲しいんだけど、そういうマメさはなさそうだから諦める。
「えいっ!」
ど真ん中に位置するものを刺し、お兄ちゃんの反応を見ずに……恐る恐る、かじる。
と。
「あ、ウィンナーだ」
「よかったね」
「え、同じ具材ってありなの?」
「そんなに種類ねーからな。さすがに、ヤバイやつは入れてねーし」
「うぅ、心臓に悪いよ……ていうか、違う意味でどきどきするおやつなんてやだぁ」
さっきのみかんが、少しだけトラウマ。
みかんは、みかんとして食べるのが絶対いいと思うんだよね。
それにしても、なんでこんなおやつを考えたのか。
まさにギャンブルそのもので、ああ性格ってこういうときよくわかるよねとある意味納得した。
「てか、ちびちび食ってねーで、ひとくちでいけよ」
「だって怖いんだもん!」
「だから、そんな変なモン入れてな——ッ!!」
からから笑ったお兄ちゃんは、宣言通りひとくちで行った。
瞬間、口へ手を当てて立ち上がり、慌てたように冷蔵庫へ向かう。
え……え、やだ、何? 何食べたの?
げほげほとむせているのが聞こえ、葉月と眉を寄せて見守るしかできなかった。
「たーくん、大丈夫?」
「くっそ……ミスった」
グラスへなみなみと冷茶を注いで戻ってきたお兄ちゃんは、椅子へ座り直すと半分ほど飲みほす。
え、なんの具食べたの?
怖いような聞いてみたいような気持ちで見つめたら、ため息をついて頬杖をついた。
「塩辛」
「えぇえ!? やだっ! 何入れてるの!?」
「しょーがねーじゃん。アタリが多めじゃなきゃおもしろくねぇだろ?」
「やだやだやだっ、絶対おいしくないでしょ! もぅ、なんでそういう珍味を入れようとするわけ!? 信じられない!」
「案外合うかもしんねーだろ」
「合わなかったでしょ!? そういうの自業自得って言うんだからね!」
でも、ほんとまさに自業自得だからね!
うぅう入れた張本人が間違うとか、そんなのやなんだけど!
塩辛もやだけど、きっとほかにもいろんな具材が隠れてるんだ。
うぅ、やだぁ。楽しめない!
だってこれじゃ、まるで闇鍋みたいじゃない!
「とりあえず、これで一巡したな。あとは……よし、じゃんけんで順番決めようぜ」
「え!?」
「しょーがねーじゃん。誰かひとり多く食う権利あるぞ」
「全然嬉しくない!」
たこ焼き器には、あと13個残っている。
ふあぁやだぁ。
ていうか、こんな緊張をしいられたまま4つも食べなきゃいけないことが、そもそもストレスなんだけど。
もぅ! 食べ物で遊んじゃいけないんだよ!
葉月を見ると、中身を当てるかのようにじぃっとたこ焼きを見つめていたものの、小さくため息をついて諦めた様子を見せた。
「ねぇ、たーくん」
「あ?」
「今日の夕飯、餃子にしようと思ったんだけど……いろんな具があったほうが楽しめる?」
おずおずと手を挙げた葉月を見て、けらけら笑っていたお兄ちゃんが動きを止めた。
餃子……そういえば餃子も、中身見えなくなるよね。
え、それってそういうこと?
うぅ、私は絶対普通の餃子がいい!
まじまじと見られているのがわかってか、お兄ちゃんもさすがに口を閉ざした。
「いいか? 食い物ってのは、安心ていう大前提があって然るべきだろ? つまり、おやつだからって遊んじゃいけないんだよ。わかるか?」
「それはこっちのセリフ!」
「餃子はガチでいい。てか、普通じゃない餃子ってなんだよ」
「作ろうか?」
「やめろ」
真面目な顔で何をいうかと思えば、当たり前のことを当たり前のように言われ、つっこむしかなかった。
葉月は、怒ってないと思うけれど、間違いなく呆れてるんだとは思う。
小さくため息をつくと、『こういうのは、一緒のテンションで楽しめる人とやってね』と苦く笑った。
「ごめんね、葉月」
「え?」
「私が作るって言い出したばっかりに、こんなゲテモノおやつになっちゃって」
どれにしようか悩んでいた葉月へ頭を下げると、まばたいてから首を横へ振った。
お兄ちゃんへ見せた苦笑とは違い、いつもと同じ笑顔なのがかえって申し訳ない。
「楽しいは楽しいし、今のところふたつともおいしかったよ」
「でも……」
「こういうおやつもいいんだな、ってちょっとだけ思ったから……次からは中身を変えてみるね」
「いや、だから悪かったって!」
にっこり笑った葉月を見て、お兄ちゃんが慌てたように声をあげた。
ああ、こういう叱り方もあるのね。
正面きって正論をぶつけるよりも、お兄ちゃんの場合はこういうほうが効くらしい。
くすくす笑った葉月へ切々と言い訳をしているのを見ながら、ああやっぱり葉月のほうが一枚上手だなと改めて思った。
そんな、ロシアンたこ焼き。
お子さまと一緒にやってみるのも、ある意味盛り上がるかも……!?
という、そんな1日でございました。
がしかし、ゴールデンウィーク明けたら、少しは変わってるといいですよね。
そんでもって、10人諭吉が来るらしいのでそれは期待。
自動車税とかね……住民税とかなんとか税って、5月はただでさえ出費がかさむんや……。
それも消費税と一緒に定減税になったらいいのになーーー。
以上、mushokuのわたくしの戯言でした。
さて。
小話もネタが尽きてきたよ(笑)
健全な精神が宿るためには、健全な肉体が必要なんです。
ということは、それこそそういうことですよ奥さん!
とはいえ、濃厚接触ですからね。みんな、自粛するんよ。
リングフィットでもやって、おうち筋トレタイムを増やしていきましょう。
「ねぇ、葉月。今日のおやつ、何がいい?」
「え? 羽織が作ってくれるの?」
「だって、おうち待機になってから、ずーっと葉月が作ってくれてるでしょ? たまには私が作ろうかなって思って」
おうち待機になって、早2ヶ月が経とうとしている。
うーん、なかなかにお腹のあたりがぷよぷよし始めた気もするけれど、見なかったことに……できないけどね。
うぅ。
大学始まったら、少しは今よりも歩く時間は増えるだろうし、人目にさらされるから、きっと気をつけるはず。
だけど、毎日家で勉強だけしていても、楽しさは……どうなんだろう。え、見出せてないのは私だけなのかな。
同じように分厚い本を読んでいるものの、葉月は付箋をつけたりノートへまとめたり、見ているだけだととても楽しそうにも見える。
んんーこれってやっぱり、普段からどんな学習をしているかがわかっちゃうね。
日中は一緒にリビングで勉強しているものの、どうやら葉月は自室へ戻ったときもそんなふうに過ごしてるみたいで、私とは……基礎的なものが違うんだな、とあらためて感じた。
「プリン、チーズケーキ、シュークリーム、ガトーショコラ、チョコレートケーキ、いちごショート、ロールケーキに……どら焼き、みかんゼリー、マフィン、スコーン、クレープ、ホットケーキ……なんかほかにも……あ、パフェ! 昨日食べたいちごパフェ、すごいおいしかったー」
「ふふ。よかった。一緒に作れるおやつって、楽しくておいしくてお得な感じするよね」
「ほんとそれ!」
これまでに葉月が作ってくれたデザートを挙げてみたけれど、私が忘れてるだけで、もっとあるはず。
さすがに、毎日食べてますってわけじゃないけど、ほぼほぼ毎日のルーティンのようにもなっていて、お兄ちゃんが家にいるようになってからはさらに回数が増えた気がする。
「もうさ、お店出せるよね」
「羽織とたーくんが喜んでくれるから、作りがいがあるんだよ」
「紅茶もおいしいし、ある意味毎日アフタヌーンティー開いてる気分だもん」
そう。葉月は日替わりで紅茶のフレーバーを変えてくれていて、それも特別感が増す。
ああ、幸せだなあ。
おいしいおやつがあるって、こんなにもうきうきするんだね。
……って、そうだけどそうじゃなくて!
いつも私たちのために作ってくれるからこそ、たまには葉月をおもてなししたいって気持ちになった。
できることならというか、むしろお兄ちゃんを積極的に動かしながら!
張本人にはまだ内緒だけど!
「作ってくれるなら、なんでも嬉しいよ?」
「そりゃそうかもしれないけど……食べたいもの、ない?」
「んー……おすすめはなぁに?」
「え!? そ、そうだなぁ……あ、じゃあさフルーツ系とクリーム系どっちがいい?」
「どっちもおいしそうね」
「うぅ、ありがたいけどぉお」
まぁ確かに、決められないっていうのはなんとなくわかる。
だって、私も昨日葉月に『パフェとクリームブリュレどっちがいい?』って聞かれて、結局どっちも一緒に作ることにしたんだもん。
ちなみに、クリームブリュレはお風呂上がりにおいしくいただいた。
……ってああもう。
これだから、葉月を休ませてあげられないんだなぁ……反省。
「うーん、あ、わかった。じゃあさ、とりあえず今日は私が何かしら作っておもてなしするから、葉月は自分の時間ゆっくり過ごしてて。ね?」
「いいの?」
「もちろん! 今日はのんびり好きな本読んでね」
バッチリ任せてほしい! と太鼓判は押せない気もするけれど、でも、どうせなら私がたまには作ったものを『おいしい』って食べてほしかった。
いつもの感謝の気持ちをばっちり込めてね!
「……は?」
「えっと、だからね? たまには、葉月におやつ作ってあげたいなって思うんだけど、何がいいと思う?」
お兄ちゃんの部屋へ行ってみたら、どうやらwebで誰かと話しているらしく、パソコンの画面には複数の人たちの顔があった。
……とと、映るつもりはないので、カメラから外れた位置へ立つ。
っていうか、お兄ちゃんの背景なんかすっごいキレイな海外セレブの部屋みたいになってるけど、こんな機能あるの?
と思いきや、ほかの人に至ってはアニメの世界観だったりドラマのセットみたいだったり、はたまた牢屋だったりとバラエティ豊富すぎでしょ。
今どきの会議っていうか……ああ、これ絶対仕事じゃないやつ。
ヘッドフォンを外したお兄ちゃんを見たら気持ちが表情へ出たらしく、なぜか『ほっとけ』と舌打ちされた。
「なんでもいいんじゃね?」
「だから。そうだろうけど、何かしらおもてなししたいでしょ? 日ごろの感謝を込めて」
「日ごろの、ね。まぁ……そうだな。でも、ほぼほぼなんでも作れるだろ? アイツ」
「う」
「だから、俺たちが作るよかよっぽどアイツの作ったモンのほうが、うまいじゃん」
「それは……わかってる、んだけどさ……」
正論だとは思うけれど、でもだって、だって!
たまには、休んでほしいじゃない!
いつも私たちがお世話になりまくりなんだから!
「まぁ、たまにはって気持ちもわからなくねーけど……あー、わーった。んじゃ、作ればいいんだろ? あとで」
「え? お兄ちゃん作ってくれるの?」
「おー。期待しとけ」
ひらひら手を振った彼が、ヘッドフォンを手にした。
あ、もう戻るつもりね。
どうやらマイクだけをミュートにしてあるようで、ぎゃーぎゃーと悲鳴のような声は私まで聞こえていた。
なんだかんだいって、自由というかある意味謳歌してるんだなぁ。
けらけら笑いながらつっこみを始めたお兄ちゃんを見て、ああこの人はどんな状況下でも生きていけるんだろうなと改めて感じた。
「え? これって……」
「……たこ焼き?」
「そ」
宣言通り、14時を過ぎたあたりからお兄ちゃんがキッチンで何かしてるなと思ったものの、私と葉月が覗こうとしたら『立ち入り禁止』と手のひらを向けられた。
そのとき『密』って言ってたけど、それって絶対アレの真似でしょ。
単純に言いたいだけだろうと思ったけれど、つっこまず葉月とふたりでリビングへ戻ることにはした。
で、改めて呼ばれた今……なんだけど。
ダイニングテーブルの上には、いわゆる電気で作れるタイプのたこ焼き器が置かれていて、じゅうじゅうと丸い物体がおいしそうな……って、あれ。
「ねぇ、これってなんか生地違う?」
「よくわかったな」
「だって、なんか甘い匂いするよね? ホットケーキみたいな」
「ご名答」
見た目はまんまるたこ焼きなんだけど、匂いはホットケーキみたいな甘いもの。
てことは、生地はそれなのね。
お兄ちゃんが作るっていうからどんなものかと思いきや、でもお手軽でいいなぁとも素直に感心した。
「こんだけありゃ、あとは好きにトッピングでもなんでもして食えるだろ」
葉月と一緒に席へつき、配られた小皿と竹串を手にたこ焼きを見つめる。
見た目は一緒。匂いも一緒で、おいしそう。
ちなみに、トッピングとして置かれたのは、昨日のパフェで使ったチョコレートソースとキャラメルソースに、生クリームと大きなカップに入っているバニラアイスだった。
「……あ、このアイスお母さんが食べたいって言って買ったものじゃない?」
「そうは言っても、買ったのだいぶ前だろ? 結局ひとくちしか食ってねーし、よくね?」
バレなきゃいいんだよ、どうせ。
葉月の隣へ腰掛けたお兄ちゃんは、なかなか怖いことを言ってくれる。
うぅ。でも、お母さんこのアイス好きなんだよ……? 知らないからね?
ちょっとお高めのバニラアイス、もちろんおいしいのはよく知ってる。
……。
まぁ……いいか。
何かあったら、お兄ちゃんにまず責任は取ってもらおう。
「どこからでも好きなの食っていいぞ」
「へー。それじゃあ……」
「ふふ。いただきます」
肩をすくめたのを見てから、葉月と一緒に竹串を伸ばす。
このとき、本当は気づけばよかったんだよね。
だって……お兄ちゃんは私たちを見ながらも、腕を組んだままにやにや笑ってたんだから。
「っ……!!?」
熱いだろうなと思って食べたけど、そうじゃない。
や、あの、熱いには熱かったの。
でもそうじゃなくて……そうじゃなくてっ!
「なにこれ!?」
ひとくちで行ったのがまずかったらしく、噛んだ瞬間中からじゅわっと何かがあふれた。
何か。
何かって……これ、みかんでしょ!
あつあつのみかんの果汁があふれて、危うくむせるところだった。
「アタリか。引き強いな、お前」
「そういう問題じゃないでしょ!? えぇえ!? ちょ、なんで!? なんで中身がみかんなの!?」
この間食べたみかんゼリーと同じ感じだから、きっと缶詰のみかん。
うぅ……じゅわっとホットなみかん果汁は……思いのほか、甘ずっぱい。
でも、お兄ちゃんはテーブルへ頬杖をつくと、葉月へ向き直った。
「中身なんだった?」
「……キャンディチーズ?」
「ち。ハズレか」
「え、当たりでしょ!」
「そーか? 期待したリアクションと違ったら、ハズレだろ」
お兄ちゃんの判断基準がまったくわからない。
ていうか……てことは……え、ええ?
もしかしてこれ全部、中身違うの?
じゅうじゅうと音を立てて焼かれているまんまるの物体が、改めてちょっと異様な存在感を示しているように見えた。
「おやつじゃないじゃない!」
「中身がランダムってだけで、どー考えたっておやつだろ。食べられるモンしか入れてねーぞ」
「そういう問題じゃないっ!」
ああもうああもう!
自信満々に言うから信じたのに、まさかこんなことになるなんて!
うぅ。怖いんだけど……。
ぽっかり2個ほど空いた場所を見ながら、当然眉は寄った。
「たーくんは食べないの?」
「いや、俺中身知ってるし。アンパイしか引かねーから、おもしろくねぇじゃん」
「うぅ、不正行為だ」
ていうか、こんなわくわくしないおやつ嫌だぁ。
見た目はおいしそうだったのに、今となっては隠されているものがあるとわかって、恨めしい。
でも……食べ物、粗末にしちゃいけないでしょ。
匂いはおいしそうなのになぁ。
とはいえ、葉月はキャンディチーズを引いたわけでしょ?
てことは、あと……えっと1/17はもしかしたらおいしい何かかもしれない。
うー。心臓悪いなぁ。
ニヤニヤしながら中央のひとつをつまんだお兄ちゃんは、『ウィンナーだと完全にアメリカンドックだな』とつぶやいていた。
「……これっ!」
「あー」
「っ……ねぇやめてそれ! 食べる前に怖い!」
「お前、単純だな」
「もう。たーくん、羽織で遊ばないであげて」
意を決して選んだ瞬間そう言われたら、なんかもう……何を信じればいいの?
葉月が意見してはくれたけれど、お兄ちゃんはまったく気にしない様子で『おすすめはこの辺な』と私が選んだのと逆側を指で示した。
「……葉月どれにする?」
「んー……じゃあ、これ」
「こっちがうまいっつってんだろ」
「おいしいとは言わなかったでしょう?」
「ち。お前、勘いいな」
葉月が選んだものをみて、お兄ちゃんは明らかに舌打ちした。
うぅ。私たちで遊ぶのやめてよー。
葉月が半分ほどかじったそれは、いちごジャムだったらしく、ほっとした顔で生クリームを追加していた。
「…………」
ごくり。
私も……おいしいのがいい。
ていうか、全部の具は何なの?
一覧みたいなのが欲しいんだけど、そういうマメさはなさそうだから諦める。
「えいっ!」
ど真ん中に位置するものを刺し、お兄ちゃんの反応を見ずに……恐る恐る、かじる。
と。
「あ、ウィンナーだ」
「よかったね」
「え、同じ具材ってありなの?」
「そんなに種類ねーからな。さすがに、ヤバイやつは入れてねーし」
「うぅ、心臓に悪いよ……ていうか、違う意味でどきどきするおやつなんてやだぁ」
さっきのみかんが、少しだけトラウマ。
みかんは、みかんとして食べるのが絶対いいと思うんだよね。
それにしても、なんでこんなおやつを考えたのか。
まさにギャンブルそのもので、ああ性格ってこういうときよくわかるよねとある意味納得した。
「てか、ちびちび食ってねーで、ひとくちでいけよ」
「だって怖いんだもん!」
「だから、そんな変なモン入れてな——ッ!!」
からから笑ったお兄ちゃんは、宣言通りひとくちで行った。
瞬間、口へ手を当てて立ち上がり、慌てたように冷蔵庫へ向かう。
え……え、やだ、何? 何食べたの?
げほげほとむせているのが聞こえ、葉月と眉を寄せて見守るしかできなかった。
「たーくん、大丈夫?」
「くっそ……ミスった」
グラスへなみなみと冷茶を注いで戻ってきたお兄ちゃんは、椅子へ座り直すと半分ほど飲みほす。
え、なんの具食べたの?
怖いような聞いてみたいような気持ちで見つめたら、ため息をついて頬杖をついた。
「塩辛」
「えぇえ!? やだっ! 何入れてるの!?」
「しょーがねーじゃん。アタリが多めじゃなきゃおもしろくねぇだろ?」
「やだやだやだっ、絶対おいしくないでしょ! もぅ、なんでそういう珍味を入れようとするわけ!? 信じられない!」
「案外合うかもしんねーだろ」
「合わなかったでしょ!? そういうの自業自得って言うんだからね!」
でも、ほんとまさに自業自得だからね!
うぅう入れた張本人が間違うとか、そんなのやなんだけど!
塩辛もやだけど、きっとほかにもいろんな具材が隠れてるんだ。
うぅ、やだぁ。楽しめない!
だってこれじゃ、まるで闇鍋みたいじゃない!
「とりあえず、これで一巡したな。あとは……よし、じゃんけんで順番決めようぜ」
「え!?」
「しょーがねーじゃん。誰かひとり多く食う権利あるぞ」
「全然嬉しくない!」
たこ焼き器には、あと13個残っている。
ふあぁやだぁ。
ていうか、こんな緊張をしいられたまま4つも食べなきゃいけないことが、そもそもストレスなんだけど。
もぅ! 食べ物で遊んじゃいけないんだよ!
葉月を見ると、中身を当てるかのようにじぃっとたこ焼きを見つめていたものの、小さくため息をついて諦めた様子を見せた。
「ねぇ、たーくん」
「あ?」
「今日の夕飯、餃子にしようと思ったんだけど……いろんな具があったほうが楽しめる?」
おずおずと手を挙げた葉月を見て、けらけら笑っていたお兄ちゃんが動きを止めた。
餃子……そういえば餃子も、中身見えなくなるよね。
え、それってそういうこと?
うぅ、私は絶対普通の餃子がいい!
まじまじと見られているのがわかってか、お兄ちゃんもさすがに口を閉ざした。
「いいか? 食い物ってのは、安心ていう大前提があって然るべきだろ? つまり、おやつだからって遊んじゃいけないんだよ。わかるか?」
「それはこっちのセリフ!」
「餃子はガチでいい。てか、普通じゃない餃子ってなんだよ」
「作ろうか?」
「やめろ」
真面目な顔で何をいうかと思えば、当たり前のことを当たり前のように言われ、つっこむしかなかった。
葉月は、怒ってないと思うけれど、間違いなく呆れてるんだとは思う。
小さくため息をつくと、『こういうのは、一緒のテンションで楽しめる人とやってね』と苦く笑った。
「ごめんね、葉月」
「え?」
「私が作るって言い出したばっかりに、こんなゲテモノおやつになっちゃって」
どれにしようか悩んでいた葉月へ頭を下げると、まばたいてから首を横へ振った。
お兄ちゃんへ見せた苦笑とは違い、いつもと同じ笑顔なのがかえって申し訳ない。
「楽しいは楽しいし、今のところふたつともおいしかったよ」
「でも……」
「こういうおやつもいいんだな、ってちょっとだけ思ったから……次からは中身を変えてみるね」
「いや、だから悪かったって!」
にっこり笑った葉月を見て、お兄ちゃんが慌てたように声をあげた。
ああ、こういう叱り方もあるのね。
正面きって正論をぶつけるよりも、お兄ちゃんの場合はこういうほうが効くらしい。
くすくす笑った葉月へ切々と言い訳をしているのを見ながら、ああやっぱり葉月のほうが一枚上手だなと改めて思った。
そんな、ロシアンたこ焼き。
お子さまと一緒にやってみるのも、ある意味盛り上がるかも……!?
という、そんな1日でございました。